月刊 keidanren 1999年 2月号 巻頭言

消費者心理の活性化に向けて

鈴木副会長 鈴木敏文
(すずき としふみ)

経団連副会長
イトーヨーカ堂社長

現在、日本が直面しているリセッションは、個人消費の分野においても、かつての経験とはまったく異なる状況をもたらした。

日本経済は、過去20年を振り返っても幾たびかの景気後退に見舞われたが、個人消費の代表的な指標である百貨店、スーパーの売上げが揃って前年を下回ることはなかった。しかし、バブル崩壊後の92年以降、それらの売上げは前年を下回り続けている。

それでは、消費者の家計がかつてないほど逼迫した状況にあるかといえば、実は家計のキャッシュフローから見ればその多くは一貫して余力を保持しており、潜在的な購買力は十分にあるといえよう。にもかかわらず、かくも消費が長期間にわたり抑制されてきたのは、「先行きに対する不安」といった心理的要因に負うところが大きいといわざるを得ない。

潜在的な購買力が十分にあり、消費を抑制しているのが心理的要因であるなら、消費者が魅力を感じる商品、あるいはサービス等、消費心理を刺激する契機さえあれば、消費者は敏感に反応する。もはや、消費は経済学ではなく心理学で読むべき時代にきている。

その意味では、消費心理を刺激し、個人消費活性化の一助となるような対応策は、民間においても確実に存在すると私は考えている。しかし、もとより企業の自助努力だけで、本当の意味での消費回復を図るのは困難である。何よりも、「先行きに対する不安」を解消させる金融システムの安定化、セイフティネットの拡充、年金改革等に代表される根本的な施策が喫緊の課題である。

これらは、単に現下の景気対策として必要というだけではない。世界の先進諸国の間にも前例のない、急激な少子高齢化社会を迎え、激変する経済社会環境の中で、あるべき社会の姿や枠組みを明確に打ち出すことが強く求められているのである。今こそわれわれは、過去の経済理論や経験を超えて現状を素直に見つめ直し、そこから新たな社会的合意を確立していくことが必要である。


日本語のホームページへ