日本経団連タイムス No.2732 (2004年7月29日)

日本経団連、今後の防衛力整備のあり方で提言を発表

−安全保障基盤確立の課題など/産業界の考え方を示す


日本経団連は20日、日本の安全保障政策の検討に際して、防衛産業の視点から基本的な考え方を示した提言「今後の防衛力整備のあり方について」を発表した。同提言は、政府が昨年末に、日本の中長期的な防衛力整備の方針を定めた防衛計画の大綱(防衛大綱)と、中期防衛力整備計画(2001〜2005年度、中期防)の2004年中の見直しを閣議決定したことを受け、今後の中長期的な防衛力整備のあり方について、防衛装備を開発・生産面で支えている産業界としての基本的な考え方を示したもの。同提言の概要は次のとおり。

1.わが国安全保障を取り巻く状況

近年、世界はテロや大量破壊兵器の拡散、さらにサイバーテロ、大規模災害など、多様で予測困難な脅威にさらされている。わが国周辺でも、朝鮮半島におけるミサイル、核開発などの脅威が顕著となり、安全保障に対する国民の関心が高まっている。
このような環境変化を背景として、自衛隊の活動内容も、従来の国家防衛活動に加え、国際協力や災害派遣、感染症対策など多様化している。また、米国を中心として、精密誘導兵器、センサ、無人機など、防衛関連技術は飛躍的な進歩を遂げている。このような技術の高度化と多国間の共同運用の増加を背景に、欧米では、多国間の共同開発・生産の動きが強まっているが、わが国では輸出管理政策により、他国との連携が制限され、世界的な流れから取り残されている。

2.安全保障基盤の強化に向けた考え方

(1)安全保障基本方針と防衛産業政策の明確化

広範な脅威から国民を守るためには、地政学的な脅威への対応に加え、情報収集、危機管理、災害対策など、多面的な対応が不可欠となっている。
政府は、国民の安心・安全を守るため、国家の安全保障に関する総合的な基本方針を打ち立てるとともに、これを技術面や生産面で支えている防衛産業のかかわり方についても、中長期的な観点からの産業政策を明示する必要がある。

(2)基幹技術としての防衛技術基盤の強化

今後の多様な脅威に柔軟に対応するためには、何よりも技術水準の維持・強化が欠かせない。従来、わが国では科学技術政策においても、防衛と民生とを区分して扱っていたが、今後は、その垣根を越えて、広く「安心・安全」に関する技術開発の推進を図ることが重要である。

(3)防衛産業の変革の必要性

防衛産業自体も、一層のコスト低減や技術力強化による体質強化と新規参入を含めた企業間競争を通じて、国際競争力を高めていくことにより、国の安全保証基盤の強化に資する必要がある。

3.新時代の安全保障基盤の確立に向けた課題

(1)安全保障基盤の確立に資する予算の確保と有効活用

多様な脅威への対応のためには、広く「安心・安全」に関わる省庁が連携し、予算を有効活用することにより、国全体として安全保障基盤の強化を図ることが重要である。

(2)先端技術の育成・強化と安全保障への活用

今後、政府総合科学技術会議等において、2006年度以降の第3期科学技術基本計画の策定に向けた検討が進められていく予定である。政府は、広く国家の基幹技術としての安全保障に関する技術の育成強化を図る必要がある。

(3)装備の選択と集中

厳しい国家財政状況の中、安全保障上必要な装備・技術の整備を図るためには、装備の選択と集中は避けられない。その際、わが国の固有性、民生分野への波及、発展性など幅広い見地からの判断と防衛産業の将来展望が必要である。

(4)輸出管理政策

現在、わが国では、武器輸出三原則等の輸出管理政策により、防衛関連製品の輸出や技術交流、投資が厳しく制限されている。
防衛技術開発、生産の国際的な連携、分業の流れが強まる中、わが国だけが、世界に取り残されつつあり、現行の輸出管理政策が、中長期的な視点からも、わが国の安全保障上・国益上、適切なものであるか検討すべきである。

(5)宇宙の平和利用原則

宇宙は、安全保障に不可欠な情報の収集・分析のための有効な手段である。国際的に、侵略や攻撃を目的としない防衛目的での利用は、安全保障上、むしろ有用である観点から、広く宇宙が活用されている。

反面、わが国では、「宇宙の平和利用原則」によって利用が一般化しない限り、安全保障目的で宇宙の先端技術を用いることはできない。国民の安全を守るため、平和利用原則の見直しが必要である。
日本経団連としても、今年度新設した「国の基本問題検討委員会」(7月22日号既報)において、安全保障問題も含めた基本的枠組みについて、引き続き検討を進めていく予定である。

【環境・技術本部技術・エネルギー担当】
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