日本経団連タイムス No.2813 (2006年5月18日)

新たな時代の企業内コミュニケーションの構築へ提言発表

−課題を提示し重要性を強調


日本経団連は16日、「新たな時代の企業内コミュニケーションの構築に向けて」と題する提言を発表した。近年、集団的労使関係を中心としたコミュニケーションだけでなく、経営者と従業員、職場の上司と部下の間など、さまざまなチャンネルを通じた企業内コミュニケーションの構築が求められている。そこで、労使関係委員会(加藤丈夫共同委員長、鈴木正一郎共同委員長)は、企業内コミュニケーションに関する会員企業へのアンケート調査やヒアリングを実施。同提言は、それらの結果から現状を分析して課題を提示するとともに、企業内コミュニケーション構築の重要性をあらためて強調している。同提言の主な内容は次のとおり。

■従業員とのコミュニケーション制度の設置状況

企業は、経営方針を伝えていくためにも、また、従業員の声を吸い上げて適切な対応をとるためにも、企業内コミュニケーションのチャンネルをさまざまなレベルで、しかも多様な形で設定しておく必要がある。
アンケートによれば、多くの企業が表彰制度や社内報・ホームページ、相談・苦情処理窓口、個人面談、労使協議制度、職場懇談会などを採用している。

■労使協議制度の現状

労使の代表が意見交換する、制度化されたという意味での「労使協議制度」は従来、労働組合を基本とする仕組みが中心であったが、近年は労働組合のない企業の中で結成された従業員組織を相手として労使協議を行う方法も増えている。
労使協議制度の形態は、(1)自社内を中心としたもの、(2)グループ企業を含めたもの、(3)持株会社を中心としたもの、(4)有期雇用従業員を含めたもの、(5)労働組合を主たる代表としないもの――の5つに分類できる。
労使協議制度の成果としては、「労使間の情報共有化」「労使間の意思疎通の円滑化」「安定した労使関係の構築」などが、また、過去5年間で協議の頻度が増したテーマとしては、「人事・賃金制度の改定」「賃金、賞与・一時金」「退職金・年金制度」「労働時間、休日・休暇」などが、アンケートの回答で多く寄せられている。

■職場レベルでの企業内コミュニケーション

職場内でのさまざまなコミュニケーションの形をみると、まず、職場の上司と従業員から成る「職場懇談会」では、社長をはじめとする経営者が出席するなど、職場懇談会を重視している経営者も少なくない。集団的労使関係の基盤として職場懇談会を活性化する場合は、経営者や管理職がその重要性を繰り返し強調し、定期的な開催を促していくような仕掛けが求められる。
個人的な悩みや苦情などを吸い上げる機関としての「相談・苦情窓口」は、個別労働紛争の未然防止のためにも、その充実が重要である。
このほか、もっとも基本的かつ個別である上司・部下間の面談を通じた個別コミュニケーションの充実は、職場の労使関係、さらには企業全体の労使関係の安定に寄与すると指摘されている。

■企業内コミュニケーションの課題

従来、労使間の主たる課題は賃金など労働条件であったが、より幅広い事柄が近年取り上げられている。企業としては、多様化する労使の課題について、多様なチャンネルと問題解決のルートを構築・活用する必要がある。
また、多様な価値観や雇用形態の人材が企業内で働いていることから、一体感の醸成や求心力の維持が困難になっている。そこで、職場の管理職・上司は、多様な人材を活用するとともに、職場・企業内の一体感を醸成する、いわば「コミュニケーションによる異文化の融合」に注力しなければならない。
さらに、経営トップが職場と従業員に常々関心をもち、自ら積極的に自社のビジョンやメッセージを語っていくことも求められる。

■競争力の源泉としての企業内コミュニケーション

労使関係にとって重要なことは職場の人間関係であり、そのためには企業内における経営者と従業員とのよきコミュニケーションが必要である。
企業経営は、企業内のコミュニケーションを日々積み重ねていくプロセスである。労使間、経営者・従業員間、上司・部下間など、さまざまなレベルでの対話の積み重ねが信頼関係を築き、それが企業の競争力の基盤となる。

【労働政策本部労政・企画担当】
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