第5回東富士夏季フォーラム<第2日>/第3セッション
アジア諸国は、通貨危機によって1997、98年と打撃を受けたが、その後順調に回復し、今後も高成長が見込まれている。そうした中、世界中の企業が成長センターである中国やインドなどに集まってくる。当面は、中国がその主戦場になると思われるが、戦略を誤れば、大企業といえども脱落する可能性があり、一方、自己の強みを生かして成長を遂げ、国際的な企業になる可能性もある。
中国では今後、(1)エネルギー・資源需要が急拡大(2)中間層の拡大により価値観が多様化(3)沿海部と内陸、都市と農村の格差拡大(4)過剰ナショナリズムが台頭(5)市場調整が効かないことから生産過多が起こり、国際ダンピングによる摩擦リスクが発生――などの問題が起こってくるだろう。これにより、政治的変革もあり得ることを視野に入れておく必要がある。
日本経済は回復したが、アジア地域でのプレゼンスは低い。アジアの人々は経済回復を歓迎してはいるが、その原動力となったハイブリッド型の日本の経営モデルは理解されていない。それ以上に中国やインドへの関心が高くなってしまった。日本の強さが、中間製品や工作機械など、外から見えにくい製品にある点も、プレゼンスの低さにつながっている。また、(1)外国人受け入れに消極的(2)政府債務の対GDP比の高さ(3)物流面でのプレゼンスの低さ(4)ODAへのイメージの変化――なども要因であろう。
日本と東アジアとの貿易は、米欧との貿易の伸びを大きく凌駕するなど、アジアは日本にとって重要であり、EPA・FTA戦略でも有意義なものとすべく、投資分野での協力なども含めて進めているが、交渉状況は厳しい。しかし、EPAは水準の高いものでなければ意味がないので、焦らず1つずつ問題を解決していくことが重要である。
現在、中国やインドでは、人材の奪い合いが起こっている。欧米企業は、中国やインドをターゲットに戦略的投資を行ってきた。中国・インドは今や、世界的なR&D拠点になると目されており、それを狙って企業も進出してきている。もともと日本企業と欧米企業では人材戦略、マネジメント方法が異なっている。欧米企業が高レベルの人材を高給で採用し、積極的に登用してリーダーとするという方法をとるのに対して、日本企業は日本での方法を少しずつ修正していくというものである。中国などでは、欧米企業と日本企業が人材市場でもすみ分けされていたが、これが変容しつつあり、高度な人材を採用することがより困難になってくる。日本企業も大胆な現地化の加速、PR投資拡大、産学協同などを考えなければならない。
アジアとの共生は困難であるが前に進むしかない。21世紀は、アジアにポテンシャルとともにリスクもある「挑戦の世紀」である。日本と中国、インドが併走、欧米も参入してくる。日本にとっても、他の国々にとっても厳しい競争となる。大事なことは新たな仕組みづくりであり、将来へのビジョンを持ち、グローバルかつローカルに対応することである。個別製品の競争だけでは生き残れない。日本の強さはものづくりだが、相手の得意分野も評価し、育てて一緒に成長していくという姿勢が大事である。また、環境や省エネルギー、省資源分野での協力や金融協力は日本の強みである。さらに、政治的には米国と連携しつつアジアと共生するという方策をとり、これを強くアピールすべきである。東アジア共同体については、EUのような共通基盤がこの地域にはないため、すぐに実現するとは考えられない。日本企業は、異文化経営を前提としながら、人材確保とネットワークづくりに努めるべきである。