日本経団連タイムス No.2824 (2006年8月3日)

第5回東富士夏季フォーラム開催

−日本の原点を見直し、新たな社会の構築に向けて意見交換


日本経団連(御手洗冨士夫会長)は7月27、28の両日、静岡・小山町の経団連ゲストハウスで「第5回東富士夏季フォーラム」(議長=三木繁光副会長)を開催した。同フォーラムには、御手洗会長、西室泰三評議員会議長はじめ、副会長、評議員会副議長、関係委員長ら35名が参加。「日本の原点を見直す―新たな社会の構築に向けて」を統一テーマに、歴史に学ぶ今後の日本への教訓、日本の国のかたち、日本の外交、日本のものづくり、新たな日本社会の構築に向けた諸課題などについて、活発な意見交換を行った。

開会あいさつで御手洗会長は、「経済が明るさを取り戻してきたいま、われわれは次の目標に向かって力強く邁進していかなければならない」と発言。めざすべき目標とは、日本を希望に満ち溢れた国にすることであると指摘し、そのためには新しい技術革新によるイノベーションや、平等な社会から公平な社会への転換など、経済、社会の両面にわたる大改革が必要であると述べた。また御手洗会長は、新たな改革を実現し、新しい日本を作り上げていくためには日本が備えている魅力や特徴を改めて考え直すことが不可欠であることを強調、「日本の原点を理解し、それを活かしてこそ魅力ある経済社会を構築する構想も生まれてくると思う」と語った。

第1セッションでは、「パックス・ロマーナとパックス・ヤポニカ」と題し、国立西洋美術館長の青柳正規氏が講演。ローマ帝国と現代日本の比較を行った上で、日本の社会構造は均質的で平均的なレベルが高い、いわゆる「高原」モデルであるが、今後は平均を越えた高さを持つ「丘陵つき」モデルに変え、世界水準を上回る層を創り出すようにすべきではないかとの問題提起を行った。

第2セッション「『坂の上の雲』と司馬遼太郎」では、作家・評論家の関川夏央氏が、日本人が司馬作品に勇気づけられるのは、司馬氏が描いた日本近代の明るさのためであると説明。また、司馬氏は日本が大陸から直接影響を受けなかったために、自由な文明とアイデンティティーを形成し得たという考えを持っていたと指摘した。

第3セッションでは「21世紀のアジアと日本」と題して木下俊彦・早稲田大学国際教養学部教授が講演した。教授は、競争が激化するアジア市場の中で生き残るために、日本は個別商品競争の合計で勝負するのではなく、産学官を挙げて新たな仕組みを構築すべきであると提案。また日本はアメリカとの連携、アジアとの共生を両立すべきであり、アジア諸国とは環境・エネルギー分野で協力を続け、信頼関係の構築を図るべきだと述べた。

第4セッション「モノ作りは環業革命へ向かう」では、ノンフィクション作家の山根一眞氏が、日本はものづくりにおける強さを活かして、これからは、特に環境に配慮した産業革命=環業革命を起こすべきだと主張。そのために民間は、全力を挙げて新たな技術を作り出すためのイノベーションに取り組まなければならないと指摘した。

第5セッションは、八代尚宏・国際基督教大学教授が「健全な市場社会を目指した経済構造改革」と題して講演。日本の現状分析を踏まえつつ、日本が今後さらに発展していくためには「官から民へ」などといった構造改革が必要であることや、個々の企業が生産性を向上していくためには、これまでの社会構造に適合するように作られている企業の諸制度を見直さねばならないことなどを提示した。

最後に行った非公開セッションでは、今秋に公表予定の2006年の政党の政策評価などについて議論した。

閉会に当たり、議長を務めた三木副会長は、2日間の議論について、日本が固有の良さや強みをさらに伸ばし、豊かな、開かれた、世界から尊敬される国になるには、なお一層の改革が必要であることを痛感したと総括。日本の良さに磨きをかけ、希望の国にするために、さまざまな改革を推進していくことが、今後の日本経団連の使命ではないかと述べた。
御手洗会長は閉会あいさつで、アジアに軸足を置き持続的経済成長を図るためのイノベーションを図ること、高付加価値産業を維持拡大すること、環境技術・省エネ技術など日本の得意とする技術をさらに高め世界のリーダーであり続けること、構造改革を推進してさらに成長の余力を生み出していくことなどが必要であると提言。夏季フォーラムでの議論を、日本経団連において策定中の「新ビジョン」に活かしていきたいと語った。

閉会後の夕食会には、小泉純一郎総理大臣が来賓として参加した。あいさつの中で小泉総理は、経済回復に果たした経済界の役割を高く評価した。

【社会第一本部、社会第二本部】
Copyright © Nippon Keidanren