日本経団連タイムス No.2825 (2006年8月10日)

第5回東富士夏季フォーラム<第2日>/第4セッション

「モノ作りは環業革命へ向かう」

−ノンフィクション作家・山根一眞氏/対策の取捨選択と集中が必要


現在、環境問題は極めて深刻な状況にある。1972年に初めてアマゾンに行って以来、これまで十数回訪問しているが、その都度、自然環境の崩壊を目の当たりにしてきた。
農業のための大規模森林伐採などは、地球規模の環境問題である。ここ数年、猛暑や水害、ハリケーンの被害などが頻繁に報道されている。イグアスの滝の水量も減ってしまったという。また、オゾン層の破壊による紫外線被害で1年間に6万人が死亡しているとの報道もあった。オーストラリアの南極に近い地方の学校では、帽子をかぶること、日焼け止めを塗ることについて教育し、屋外の遊具の上には日よけをつけるなどの対策を講じているほどだ。われわれが、環境問題にどれほど真剣に取り組まねばならないかについては、これらの報道が教えてくれている。
地球温暖化が進むと、雨の降る地域が変わってしまう。ここ数年でこうしたことに関する科学的なデータが得られるようになり、地球温暖化が気象に与える悪影響が、想像していたよりも速く進んでいることがわかるようになった。

日本では、昨年から今年にかけて大雪が降っており、ロシアでは、マイナス57度という大寒波に見舞われた。フランスでは、2004年に続き、今年も熱波によって多数の死者が出ている。これら一連の気象異常は、温暖化で偏西風の流れが変わったことによって起こった。偏西風が北極の上空まで押し上げられて温度が下がり、それが降りてきたためにロシアの大寒波が起き、日本海で海水温が上昇していたために日本では大雪が降った。
ハリケーン・カトリーナの場合、大西洋の水温がごくわずか上昇していたために巨大化した。もともとニューオーリンズ周辺は石油・天然ガスの工業地帯であり、地下水を大量にくみ上げたために地盤沈下が起きていた。これに高潮と、風向きにより内陸の湖の水があふれ出るという事態が組み合わさって、あれほどの被害を生んだ。なお、大西洋の水温上昇は続いており、これからも巨大なハリケーンの発生が続くといわれている。そのうちニューヨークにも被害が及ぶ可能性がある。
東京でも、台風により同じことが起こり得る。山手線内の東半分までが水没し、90兆円の損失が出るという試算もある。実際、台風の数も規模も増えており、04年以来、ニュースでは、「記録的な」被害ばかりが報道されている。04年の福井県の豪雨による洪水では、村が1つ崩壊寸前の被害を受けた。地球温暖化が進むと、海水温度が上がり、より多くの水蒸気を発生させるため、雨が多く降る。日本が打ち上げた熱帯降雨観測衛星の観測結果によると、福井上空で降った雨の高さは13キロメートルもあった。これは、赤道で降るような熱帯性の豪雨並みのものであり、文字通り記録的な雨であった。

これらの異常気象の原因は、地球温暖化であり、その原因は二酸化炭素の排出量増加である。地球は平均気温15度という快適な温度を保ってきたが、これは空気中の二酸化炭素が絶妙な温度のバランスを保っていたおかげである。そのバランスが崩れようとしている。
ものづくりは大切にしなければいけないが、環境問題は喫緊の課題だ。産業革命は人類の豊かな文明生活を築いてきた。それと同じくらいのパワーをもって新たに環境のための産業革命を起こせば、人類の大きな利益となる。それが、環業革命(eco-industry revolution)である。
日本のものづくりはすばらしい。環業革命を起こし、これからの時代を乗り切っていけるものと確信している。しかし、そのためには、どういう政策支援が必要なのか。例えば製鉄業はたくさんの二酸化炭素を排出するが、他の産業のために絶対必要な事業である。そうであるならば、他での二酸化炭素排出量を減らすとか、植林をするなどの対策が考えられる。各社でいろいろな取り組みが進んでいるが、その取捨選択と集中が必要である。日本の企業には、それができると信じている。

質疑応答・意見交換

日本経団連側
日本は、大気汚染や水質汚濁などを克服してきた環境先進国である。消費者の意識は高く、政府も状況に対応してきた。日本に対する外国の評価はどうか。京都議定書を守ると、温暖化問題はどの程度解決するか。
山根氏
循環型社会基本法までつくった国は、日本以外ないと思う。日本では、モノのごみに対する取り組みは進んでいるが、ガスのごみに対する取り組みは、欧州に遅れた。京都議定書の目標が達成されても、温暖化は解決されない。日本で、経済規模が小さな国と同じことはできない。代わりに日本が何をするかといえば、植林や新エネルギーの開発などだろう。
日本経団連側
北京では砂漠化が起こっていて、上海では公害が加速している。中国とインドでは、これからが「産業革命」の時代である。
山根氏
中国とインドは輸出指向型経済での成長を狙っている。しかし、日本の環境関連商品が競争力をもてば、両国とも、そのまねをしてくるはずだ。これからは環境評価でものを選ぶ時代がくる。
(文責記者)
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