第5回東富士夏季フォーラム<第2日>/第5セッション
日本の景気は回復してきたが、多くのリスクを伴っている。2005年の経済成長率は実質で3%台となったが、名目成長率とのギャップであるデフレが続いている。今後の成長見通しでも、米国経済の減速に伴い成長の鈍化が予測されている。日米間の経常収支の不均衡も拡大しており、この不均衡を安定化させるようにしなければならない。
日本の経常収支が増え続けている要因は、家計、企業、政府、海外の各部門の貯蓄と投資バランスが崩れていることにある。これらは、1990年代初めにはある程度バランスしていたが、その後企業の貯蓄が急速に増えている。不良債権の処理中であれば理解できるが、処理が終わった後も貯蓄が多いのは、投資機会が不足していることを意味する。企業の投資機会はまだまだ存在するが、それを規制が阻んでいる。例えば、病院経営や農地取得(一部可)、学校経営、保育所運営などが規制されており、それが潜在的な需要機会を失わせている。また、官民が対等な立場で競争できるようにする必要がある。7月に施行された市場化テスト(公共サービス改革法)を活用することで、政府の財政赤字と企業の過剰貯蓄双方の解消が図られる。
政府は歳出入一体改革を進めようとしているが、歳出削減だけでは不十分である。現行制度を変えなければ、財政再建は果たせない。少子化対策についても、政府はさまざまな対策を講じているが、一向に出生率低下に歯止めがかからない。従来の雇用慣行は、女性の社会進出を前提としていない。今後は、多様な働き方を可能にするような労働法制、雇用の仕組みづくりを行う必要がある。また、保育は現在「社会福祉」ととらえられているが、これを「サービス」として育成していく必要がある。これまでの諸制度は人口増加を前提につくられていたが、今後は人口減少を前提とした社会・諸制度に変革していかなければならない。
社会保障制度改革については、年金目的税としての消費税が改革の切り札とされている。課税が逆進的であるとの批判もあるが、これは給付面での相殺が可能である。徴収コストも抑えられ、第三号被保険者(専業主婦)問題も解消される。何より国民の給付と負担との選択が可能である。この場合、基礎年金の財源そのものも消費税とすべきである。また、高齢者の定義を弾力的にすべきである。元気に働いている限り、高齢者ではない。
医療制度改革のポイントは、混合診療の容認である。混合診療は一律に認めるのではなく、質の高い医療にのみ認めるようにすれば良い。質の向上に報いるような仕組みを医療・病院の分野にも導入すべきである。
最近、構造改革で格差が拡大したという議論があるが、全くおかしな理屈である。これは年齢構成の変化でほぼ説明することができ、構造改革によるものではない。確かに、30歳未満では拡大しているが、これは労働市場の問題である。また、ライブドアや村上ファンドの問題は、事後規制改革の遅れによるもので、これについてはさらなる改革を行う必要がある。
先日、総務省が中心となり、「日本21世紀ビジョン」が取りまとめられた。これは人口減少下の構造改革後の社会像を示した画期的な報告書である。国はもっぱら国際問題に対応し、国内問題は地方が対応すべきということである。また、健康でアクティブでいられる寿命を「健康寿命」と定義している。今後は、健康を維持するための投資にシフトする必要がある。そのためにも「健全な市場社会」を通じて生産性の向上と機会の公平性をめざすべきである。