日本経団連タイムス No.2838 (2006年11月23日)

提言「日米経済連携協定に向けての共同研究開始を求める」公表

−メリット・デメリットの分析を


日本経団連は21日、提言「日米経済連携協定に向けての共同研究の開始を求める」を公表した。日米関係はかつてなく良好な状態が続いている。しかし、関係が良い時期にこそ長期的に安定した関係を維持・発展させるための制度的な枠組みを固めておく必要がある。日本経団連では、こうした観点から、日米経済連携協定(EPA)の可能性を検討し、今回の提言を取りまとめた。

日米EPAには、(1)同盟関係重視の証という政治的メッセージ(2)東アジアにおいて拡大・深化が進む経済連携のネットワークと東アジアの経済発展に不可欠な米国との橋渡し(3)米国と第三国、特に韓国との自由貿易協定(FTA)により日本企業が不利な競争条件に置かれないための手段――といった意義がある。これまで日米間では「成長のための日米経済パートナーシップ」の枠組みの下で政府間協議が行われてきたが、毎年互いに同じ要望を繰り返し、大きな成果がみられない。新たな枠組みとして、従来のEPAの枠にとらわれない、包括的かつ高水準な日米EPAの検討は有意義と考えられる。

提言では、日米EPAに期待される効果として、(1)ビザの更新手続等の領事手続の簡素化、円滑化(2)物流面の規制における日米間の優良事業者の相互承認等(3)米国の輸入関税(商用車、乗用車、ベアリング、薄型テレビ等)の撤廃(4)両国間の特許の相互承認等、知的財産権制度の調和、特許関連訴訟の弊害等に関する協議枠組み、および中国等の第三国での知的財産権保護の強化に関する協力(5)WTO政府調達協定対象外の19万ドル以下の政府調達、および米国の13州の州政府調達の自由化(6)アンチダンピング発動に対する何らかの制限規定(7)有害物質規制やリサイクル規制等、米国の州別の環境規制の整合化に向けた協議の枠組み(8)移転価格税制に関する税務当局間の連携の強化による事前確認制度や相互協議の迅速化・円滑化――の8項目を挙げている。

他方、配慮すべき問題もある。第1に、農業分野の取り扱いが問題となる。実際には米国からの輸入の上位品目は工業製品だが、農業輸入も絶対額が大きいため、国内農業への影響は甚大であり、十分な配慮と適切な対策が必要となる。加えてEPAにより米国への食料依存がさらに高まる可能性があることを踏まえ、輸出制限の禁止規定の創設も検討に値する。
第2に、米国の関心分野のうち、法律、教育、医療、航空、エネルギー等については、各分野固有の事情や社会的要請等もあり、慎重な対応が求められる。

産学官による早期開始要望

なお、日米という二大経済大国間のEPAはWTO交渉に悪影響を与えかねないとの懸念が聞かれるが、両国とも他の国々との経済関係なしには存立し得ず、日米のブロック化は考えられないため、そのような懸念に明確な根拠はない。むしろ高水準の協定の締結は、他国のFTAやWTO交渉のモデルとなると期待される。
以上の見地から、提言の結論として、日米EPAのメリット・デメリットを分析するために、両国政府が産学官による共同研究を速やかに開始することを要望している。

【国際第一本部北米・オセアニア担当】
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