日本経団連タイムス No.2897 (2008年3月13日)

駐欧州大使と懇談

−各地域・国の現状と課題、今後の展望など説明聴取


日本経団連は2月25日、東京・大手町の経団連会館で駐欧州大使との懇談会を開催、各国大使から「日・EUの経済連携の展望」「新大統領下のロシアの展望」「中・東欧の現状と課題」「ドーハ・ラウンドの見通し」「わが国経済外交の中での対EU関係」などについて説明を聴取した。日本経団連からは、御手洗冨士夫会長、西室泰三評議員会議長、米倉弘昌副会長、渡文明副会長、大橋洋治評議員会副議長、安西邦夫日本ロシア経済委員長・日本NIS経済委員長、土橋昭夫アジア・大洋州地域委員会共同委員長らが出席した。

冒頭あいさつに立った御手洗会長は、EUがわが国にとって最も重要な経済パートナーの一つであることを強調、日本経団連として昨年6月に、EUとの間の経済連携協定(EPA)締結に向けて、産学官の共同研究を進めるべきとの提言を取りまとめたことなどEUとの良好な関係をさらに強化すべく取り組んでいることを紹介した。またポーランド、ハンガリー、チェコなど中・東欧諸国への製造業投資が増えていることや、ロシアとのビジネスへの関心が急速に高まっていることなどを指摘した。

続いて、各大使が、それら地域・国の現状と課題、今後の展望などについて説明した。説明の概要は、次のとおり。

■ 河村武和 EU日本政府代表部特命全権大使

日本政府は、これまで規制改革対話、相互承認協定などを通してEUとの経済関係の強化に努めてきた。科学技術の進歩に伴って生まれる新しい製品・システムに関する各種基準の策定や相互承認を積極的に検討するなどルールづくりの面で日・EU間の連携を進めていくことが今後は重要である。日本とのEPAについて、欧州委員会の中には、WTO体制にマイナスの影響を与えるおそれがある、個別の問題を実務的に解決することを優先すべきであるといった考え方がある。

■ 齋藤泰雄 駐ロシア特命全権大使

好調なロシア経済にとって、極東・東シベリアの開発と経済の高付加価値化が課題であり、これら課題への取り組みにあたって、日本への期待が高まっている。前者については、ウラジオストクで2012年にAPEC首脳会議が開催されることもあり、従来に比して本腰が入っている。後者については、原子力、石油精製、環境など、日本企業が優れた技術力を有する分野での協力が期待されている。日本企業にとっての新しいビジネスチャンスという点では、遅れている道路、高速鉄道、港湾などのインフラの整備が挙げられる。また、ナノテクなど産業の高付加価値化、新大統領が掲げる、教育、保健、住宅、農業の四つの優先的国家プロジェクトなどがある。さらに、ロシアの各地方の日本への関心が高まっており、在ロシア大使館としても地方との経済関係の強化に取り組んでいる。

■ 田邊隆一 駐ポーランド特命全権大使

ポーランド経済は、近年、6%台の成長を遂げており、今年は5.5%程度が見込まれている。失業率は約12%で低下傾向にあるが、地域によって格差がある。労働者の西欧への流出に伴って労働力の確保が難しくなりつつあり、賃金が上昇している。昨秋に誕生した新政権は、行政手続きの簡素化、民営化の加速等に取り組むとともに、EU基金も活用しインフラ整備を進めることとしている。ユーロ導入は早くても12年以降の見込みである。EU加盟を契機にポーランドへの企業進出が増えているが、インフラが整備されれば物流拠点としても発展が期待される。

■ 鍋倉眞一 駐ハンガリー特命全権大使

ハンガリー経済は1.3%成長と停滞気味である。現政権は、付加価値税の引き上げ等の歳入増、補助金の削減等の歳出抑制をめざした改革を実行している。90年代まで日本から進出している製造業数では中・東欧の中でトップであったが、今世紀に入り、チェコ、ポーランドに後れをとりつつある。2国に比べ劣っていた直接投資優遇措置を拡充するとともに、高速道路網を整備し物流拠点として発展を図るなど、政府も積極姿勢に転じている。ハンガリーは自動車、情報、バイオ等の分野で優れた技術を有しており、世界の主要企業も研究開発拠点を置いている。

■ 熊澤英昭 駐チェコ特命全権大使

チェコ経済は6%台の成長を続けており、失業率も継続的に低下しているが、急激な物価上昇、ユーロ圏経済の減速などから、08年は経済成長が鈍化すると見られている。中長期的な課題としては、財政赤字の削減、労働力の確保、高付加価値分野への投資誘致が挙げられる。日系企業の進出は製造業を中心に200社超で毎年20社程度増えている。主な進出理由としては、高度な大学教育、東西欧州の中心という地理的位置、整備の行き届いた交通インフラと工業団地、西欧に比べて低い労働コスト等が挙げられる。当面の課題は、先般日本との間で署名した社会保障協定の着実な施行と労働力不足に対応した外国人労働者の受け入れ促進である。

■ 藤崎一郎 ジュネーブ国際機関日本政府代表部特命全権大使

WTOのドーハ・ラウンド交渉が進展しない理由の一つに、分野ごとに意見対立の構図が異なり、交渉が複雑になっていることがある。また、貿易の自由化が自国の産業を衰退させかねないとの強い危機感を持つ国も多い。

米国の政治動向はWTO交渉の行方に大きな影響がある。新大統領が来年誕生するまでにはドーハ・ラウンド妥結に向け何らかの形を整えておく必要がある。日本経団連には、ミッションの派遣などを通し、経済界の要望を交渉当事者に直接伝えていただくようお願いしたい。

■ 小田部陽一 外務省経済局長

政府系ファンド等の透明性やガバナンスの向上、気候変動への対応に関するポスト京都の国際枠組のあり方、アフリカ・開発の問題、WTOドーハ・ラウンドなど、各国が協調して取り組まなければならない課題は多い。EUとも連携し、これら国際的課題に対応していきたい。なお、EUとの経済連携については、先般、民間の立場から、国境措置に留まらない、幅広い分野におけるEUとの協力について示唆に富む意見をいただいたが、それらも取り入れながら推進していきたい。

【国際第一本部欧州・ロシア担当】
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