日EU経済連携協定に関する共同研究の開始を求める

2007年6月12日
(社)日本経済団体連合会

日EU経済連携協定に関する共同研究の開始を求める(概要) <PDF>


1.新たな日EU関係の構築と経済連携協定(EPA)

  1. (1) 日本経団連では、昨年4月、「欧州統合と日欧経済関係についての基本的考え方」 i を取りまとめた。同提言では、現在、良好な状態にある日欧経済関係が相互の無関心につながらないよう、日欧貿易の拡大やグローバルな課題の解決に向けた連携・協力の推進など新たな日欧経済関係の構築の必要性を強調した。昨秋に日本経団連会長を団長とするミッションを欧州に派遣し、EU主要国・欧州委員会、経済団体の首脳と懇談したのも、そのような考えに基づくものである。

  2. (2) 他方、日本経団連では、昨年10月、「経済連携協定の『拡大』と『深化』を求める」と題する提言 ii を取りまとめ、東アジアに重点を置きながら、ASEAN等との多国間EPAと、戦略的に重要な国との二国間EPAとを、同時並行的かつ迅速に推進することなどを政府・与党等関係方面に働きかけてきた。政府においても精力的に交渉を進めた結果、ここ半年の間でASEAN各国との二国間のEPAについては概ね形が整ってきた。
    しかしながら、ASEAN以外の国も含めて、これまで日本がEPAを締結済みか、大筋合意に達している国との貿易額は全体の14%に過ぎず、交渉中の国を加えても1/3程度というのが現状である。諸外国の動向を踏まえれば、引き続きEPAの締結を強力に推進していく必要がある。
    その際、従来、日本経団連として主張してきた東アジア諸国および資源・エネルギー、食料の供給国に加えて、次のような国・地域も優先的に交渉すべき相手先として勘案する必要がある。
    第一に、わが国にとって重要な輸出先、投資先となっている、あるいはわが国からの輸出や投資に対し高い障壁を設けているなど、EPAの締結によって貿易・投資の拡大・円滑化が期待できる国・地域である。
    第二に、特にわが国と競争関係にある産業分野を多く有する国が既に自由貿易協定(FTA)を締結済みか、締結に向けて交渉中の国・地域である。わが国が経済的不利益を被ることのないよう、一刻も早い交渉の開始が求められる。
    第三に、わが国と共通の価値観を有している、あるいは、わが国の総合的な安全保障を確保する上で重要な国・地域など政治・安全保障上の配慮から関係の維持・強化が求められる国・地域である。

  3. (3) EUは、統合の拡大によって今や総人口約5億人、GDPにして13.6兆ドルと世界最大の単一市場を形成するとともに、国際社会での存在感を高めている。わが国にとって、EUは米国に次ぐ輸出先、直接投資先 iii であるばかりでなく、EUは、民主主義、法の支配、市場経済といった基本的な価値観をわが国と共有している。他方、EUには、後述するように家電、乗用車などに対し他の先進国では見られない高関税等が依然として残っている。
    このような折、わが国と競争関係にある産業分野を多く有する韓国が、4月初旬の米国とのFTA妥結に続き、5月よりEUともFTA交渉を開始した。したがって、上述のEPAの優先相手国としての三条件のいずれをも満たすEUは、わが国がEPAを結ぶべきパートナーとして当然視野に入れなければならない。
    これまでの東アジアを舞台とする「FTA・EPA競争」が欧米にも広がりつつある中、わが国としても、これに後れをとることのないよう、EUとのEPAについて、産学官の共同研究を早急に開始すべきである。その際、できる限り速やかに結論を得るため、日・EU規制改革対話など既存の枠組みにおける成果を有効に活用する必要がある。

2.EUとのEPAに期待される効果

世界経済において主要な地位を占める、わが国とEUが締結するEPAは、他の模範となるような包括的で質の高いものでなければならない。わが国経済界としては、特に以下の事項について高い関心・ニーズを有しており、EUとの交渉を通じて、これらが協定に反映されることを期待するものである。また、以下にとどまらず、経済活動に関わる日・EUそれぞれのルール・制度の整備・改善やそれらの日・EU間での調和を進めることが重要である。そうすることによって、事業の予見可能性が増し、競争条件も公平なものとなり、経済関係の一層の発展につながることが期待される。

(1) 関税の撤廃等

EUは、乗用車(10%)、家電(最高14%)などに対して、他の先進国では見られない高関税を依然として維持している。また、技術進歩による製品の多機能化や関税分類の改訂に伴い、複合機能プリンタ(複写機として6%を賦課済み)、パソコン用液晶モニター(ビデオモニターとして関税率14%の対象となるが、19インチ以下のものについては、2008年末まで暫定的に0%)、動画機能付デジタルカメラ(ビデオカメラとして4.9%を賦課するものと、ITA対象製品として無税となるデジタルカメラとの分類の基準について検討中)について、関税がゼロとなるITA(情報技術協定)の対象から外し、関税を賦課する動きが見られる iv
EPAの締結によって、これらの関税が撤廃等されれば、わが国からの輸出増につながることが期待される。逆に自動車、家電等においてわが国と競争関係にある韓国がEUとのFTAを締結し、わが国がこれに大きく後れをとることになれば、その影響は甚大である。

(2) 投資・ビジネス環境の整備

多くのEU加盟国において、査証、労働許可、滞在許可の取得や更新手続きにかなりの日数を要するため、当該国に進出している日系企業にとって、従業員の円滑で計画的な採用や配置転換に支障を来たしている。例えば企業内転勤について、手続きの簡素化・迅速化などの措置を講ずることによって改善が図られることが期待される。
また、EPA締結・発効後も民間の意見が継続的に反映され、官民が協力して協定やビジネス環境の改善に取り組むことができるよう、日EU双方の制度等について官民合同で協議する枠組みを確立しておくことは有益と考えられる。

(3) 知的財産権の保護

模倣品・海賊版の取締りや罰則強化など実効的なエンフォースメントを確保するための条項を盛り込むとともに、第三国における模倣品・海賊版対策に関する協力など質の高い知的財産権保護に関する規定が盛り込まれることが期待される v

(4) 電子商取引の推進

わが国がこれまで締結したEPAにおいて、電子商取引に関する規定は極めて限定的である。他方、米国や豪州が締結しているFTAにおいては、電子商取引に関する章が設けられている。わが国としても、EPAを通じて国境を越える電子商取引の自由化やルールの策定に取り組むことによってコンテンツ・ビジネス等の振興を図っていく必要がある。具体的には、デジタル・コンテンツ(ソフトウェア、音声、映像等)への関税不賦課 vi、サービスの電子的提供へのサービス章等の規定の適用などを電子商取引に関する章に盛り込むことが考えられる。

(5) EU指令に関する紛争解決の仕組みの確立

EU指令が加盟国法に十分に反映されていない、あるいは両者の関係が曖昧である場合、事業活動に負担がかかり、ひいては日EU間の経済交流を阻害する要因になる。そこで、各加盟国の国内法がEU指令を適切に反映していないことが原因で生じる紛争等を解決するための仕組みを予め確立しておくことが期待される vii

3.EUとのEPAを推進する上で配慮すべき事項

(1) WTOを基軸とする多角的自由貿易体制の維持・強化

WTOを基軸とする多角的な自由貿易体制は、貿易の自由化・ルール化等をグローバルな規模で推進するものであり、その体制を維持・強化するためには、ドーハ・ラウンドの年内妥結が必要不可欠である。それに向け、わが国としてもイニシアチブを発揮することが求められている。
EPAは、そのようなWTO交渉を上回るレベルの貿易の自由化と規律の強化を特定の国・地域との間で追求するものであり、多角的な自由貿易体制を補完するものであって、それを弱体化させるものではない。しかしながら、世界経済の4割を占める日EUがEPAを締結することのマイナスの影響を懸念する指摘もあることから、わが国としては、先に述べたとおり、EUとの間で先進国同士に相応しい包括的かつ質の高いEPAを締結することが重要である。そうすることによって、グローバルなレベルにおいても自由化が加速され、多角的自由貿易体制が強化されることが期待される viii

(2) 健全な国内農業の確立と農産品の取扱い

わが国としてEPAの締結を推進するにあたって、競争力を持った健全な国内農業の確立との両立が最大の課題である。この点、国内における農業構造改革を着実に進めるとともに、その加速化が求められる。他方、EPA交渉における農産品の取扱いについては、緒についたばかりの国内改革を実効あるものとするためにも配慮が必要である旨、EU側にも理解を求めていく必要がある。特にEU側の輸出関心品目である食品加工品については、国内業界が低価格の輸入原料の調達を制約される一方、割高な国産原料の購入を余儀なくされていることから、その関税の一層の引下げ等には国内の食品加工業が原料調達面で輸入製品と対等に競争できる条件を整備することが前提となる。
なお、産学官の共同研究においては、わが国がEUから輸入している農林水産品 ix に関する国境措置によって消費者が負担しているコストやそれらを撤廃・削減した場合の産業調整コストを試算、明示することによって、国民的なコンセンサスの形成に資することが重要である。

以上

  1. http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/017.html 参照
  2. http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/072/index.html 参照
  3. 2006年のわが国の対EU(25カ国)輸出額は10兆9,117億円(総額に占める割合は14.5%)。対米輸出額は16兆9,336億円(同22.5%)〔財務省「貿易統計」〕。2005年末のわが国の対EU直接投資残高は10兆8,247億円(総額に占める割合は23.7%)。対米直接投資残高は17兆6,399億円(同38.7%)〔財務省「国際収支統計」〕
  4. 日本経団連提言「WTO新ラウンド交渉の成功を望む」(2006年6月20日)の別添1「NAMA交渉における関心国・地域、品目-2006年4〜5月実施アンケート結果より」では、EUについて、自動車、家電とも高関税が支障となっているとの声が強いとして、カラーのテレビ・ビデオモニター、多機能液晶ディスプレイモニター(14%)のほか、乗用車(10.0%)、DVDレコーダー(14.0%)、自動車用CDプレーヤー付ラジオ(RDS付)(14.0%)、カムコーダ(4.9%もしくは12.5%)、ラジオ受像機付のオーディオアンプ(9.0%)、レンズ(6.7%)、インクカートリッジ(6.5%)、トナー(6.0%)、磁器碍子(4.7%)、合成樹脂原料(6.5%) を挙げている。
    http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/039/index.html 参照
    日本経団連提言「欧州統合と日欧経済関係についての基本的考え方」(2006年4月18日)においても同様の指摘を行っている。
    http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/017.html 参照
    なお、ITAは、1996年12月のWTOシンガポール閣僚会議で合意された協定で、日米欧を含む69カ国の参加により、IT製品の世界貿易の97%をカバーしている。
  5. 日本経団連提言「経済連携協定の『拡大』と『深化』を求める」(2006年10月17日)、「日米経済連携協定に向けての共同研究開始を求める」(2006年11月21日)、「日・スイス経済連携協定の早期締結を求める」(2007年2月20日)、「『知的財産推進計画2007』の策定に向けて」 <PDF>(2007年3月20日)でも同様の指摘を行っている。
    http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/072/index.html
    http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/082.html
    http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/013.html
    http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/019.pdf
  6. 日本経団連提言「WTO新ラウンド交渉の成功を望む」(2006年6月20日)では、WTOドーハ・ラウンドに関連して、関税不賦課の恒久化を求めている。
    http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/039/index.html 参照
  7. 日本経団連提言「欧州統合と日欧経済関係についての基本的考え方」(2006年4月18日)
    http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/017.html 参照
  8. 欧州委員会も、EU理事会、欧州議会等に対する文書 "Global Europe: Competing in the World-A Contribution to the EU's Growth and Jobs Strategy" {COM(2006)567} の中で同様の認識を示している。同文書に関する記者会見において、マンデルソン欧州委員は「WTOドーハ・ラウンドは最優先課題であるが、それはドーハ・ラウンドだけで良いということを意味しない」("Doha first has never meant Doha alone")と発言している。
  9. わが国のEUからの総輸入額(2006年)に占める有税の農林水産品の割合は10.46%。

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