日本経団連タイムス No.2939 (2009年2月19日)

アピシット・タイ首相と懇談

−世界的金融危機克服へ日タイ経済協力の方策など意見交換



アピシット首相(左)と握手する御手洗会長

日本経団連は6日、東京・大手町の経団連会館で、タイ王国のアピシット・ウェチャチワ首相との昼食懇談会を開催した。日本経団連からは、御手洗冨士夫会長をはじめ幹部10数名が出席した。同懇談会は、昨年12月のアピシット氏の首相就任後、初めて日本を訪問した機会をとらえて行われたもの。アピシット首相の今回の訪日は、タイの国際的な信頼回復に向けた取り組みの一環である。懇談会では、日タイ両国がどのように協力して、世界的な金融危機を克服できるかなど、活発な意見交換が行われた。

■ 日タイ経済連携協定(EPA)を通じた2国間経済関係の緊密化

まず御手洗会長は、両国間の貿易・投資の自由化・円滑化のほか、各種の協力を含む日タイEPAが2007年11月に発効したことを受け、両国の経済関係はいまや新たな時代を迎えていると述べ、アピシット首相をはじめタイ政府の2国間関係強化に対する一層の尽力を求めた。また、日本経団連が東アジア経済統合の推進を主要政策課題の一つに掲げ、積極的な取り組みを展開していることを紹介した。特に、現下の経済情勢においては、東アジアが経済統合を進め、足腰の強い経済社会を実現することが、世界経済の回復、発展に寄与することになると指摘。その際、東南アジア諸国連合(ASEAN)の要であるタイの役割に大きな期待を表明した。

これに対し、アピシット首相は、日タイEPAは、世界的な金融危機の悪影響を緩和する上で、最も重要な制度の一つであると述べた。また、同EPAは、タイが今年6月に批准予定の日ASEAN包括的経済連携協定と併せて、両国の経済を活性化し協力を推進する重要な柱になるとの認識を示した。

■ 信頼回復に向けたタイ政府の短期的・中長期的施策

アピシット首相はまた、スピーチの中で、タイにおける最近の混乱の原因は国民の根本的な分裂ではなく、民主化の過程に対する見解の相違に起因するものであると指摘した。その上で、タイ政府は、現下の政治危機を収束させ、公正や法の支配、民主主義をベースとした平和と安定を取り戻すことができると強調した。

他方、経済面では、国民・民間セクターにおける投資・消費を促進するとともに、国民の所得を増大させる観点から、タイ政府が最近発表した景気刺激策を紹介した。また、長期的に財政・金融政策を組み合わせ、安定的な経済成長を達成するとの決意を述べた。

さらに、アピシット首相は「タイ投資年」である今年、既存の投資優遇政策・スキームを改善する意向を表明、対外直接投資を円滑化するため講じている査証発給手続きの簡素化や税制上の優遇措置などの施策を紹介した。首相はまた、代替エネルギーなどの新産業に新たなチャンスを見いだせるとして、エネルギーの効率的利用の促進のみならず、クリーン・エネルギーの創出にもつながることに期待を表明した。

■ アジア通貨危機の経験を踏まえ、日タイ両国が一致協力して経済危機を乗り越えるべき

アピシット首相は最後に、現下の厳しい状況を直視しつつ、1997年、日タイ両国が協力して共に金融危機を乗り越えた経験を踏まえ、今回も両国が力を合わせ克服しなければならないとの強い決意を表明した。

なお、懇談においては、日本経団連の1月20日公表の提言「東アジア経済統合のあり方に関する考え方」1月22日号既報)をめぐり、タイからの看護・介護人材の受け入れの可能性について意見交換が行われた。また、日本経団連側から要望したタイの外資出資比率規制の撤廃・緩和については、本国に持ち帰って検討するとの回答があった。

さらに、アピシット首相は、懸念される保護主義の動きに対しては、日タイ両国が共に、国際社会の場で自由貿易の重要性を強調していくべきであると述べた。

【国際第二本部経済連携担当】
Copyright © Nippon Keidanren