日本経団連タイムス No.2944 (2009年3月26日)

「わが国の財政運営の課題」聴く

−岩本・東京大学大学院教授から/財政制度委員会


日本経団連の財政制度委員会(氏家純一委員長、秦喜秋共同委員長)は12日、都内で会合を開催し、東京大学大学院経済学研究科の岩本康志教授から、「わが国の財政運営の課題」について説明を聴くとともに懇談した。
岩本教授の説明の概要は以下のとおり。

■ 適切な景気対策としての財政改革の条件

「適切な景気対策」というためには、「景気が良いときにやらない」「政府の失敗を避ける」という2つの条件がある。
財政政策は機動的に発動できないので、不況が深刻で長期化すると判断される場合にしか適さない。
恒久的な政策は、景気回復後に財政赤字累積の要因となるため、素早く発動して素早く打ち切る一時的な政策が望ましい。他方で、一時的な減税や給付金は、合理的な消費者は増えた所得を長期に分散して消費するため、効果が期待できない。従って、一時的な財政支出の拡大が景気対策として最も適している。
短期間で巨額の支出を決めることで、無駄な事業を行う可能性がある。穴を掘って埋めるような事業でも乗数効果を得られるという考えもあるが、そのような税金の使い方は納税者の理解を得にくい。しかし、賢明にお金を使おうとして実績のない新規事業に支出することで、結果的に政府の失敗を招く危険性もある。そこで、既に執行中の事業の前倒しが景気対策には適切である。
また、執行の時期を裁量で選べる事業が景気対策としてふさわしい。例えば、社会保障給付は給付時期が決まっているため、政策のタイミングを選択することができない。この点、公共事業は執行時期を選ぶことができるため、景気対策に適している。
ただし、日本の公共事業費は、既に諸外国と比較して高水準にある。当初予算で社会保障関係費を削りつつ、補正予算で公共事業費を増やすのは、国民の支持を得られないだろう。そこで、出発点として公共投資を減らして社会保障費を増やし、景気が後退したときは公共投資を増加させ、景気回復後は再び公共投資を削減すれば、最終的に支出が元に戻ることになり、適切な景気対策となるのではないか。

■ 財政健全化目標のあり方

景気対策を行うにしても、財政の持続可能性(国債の償還可能性に対する市場の信認)を確保することが前提である。そのためにも、債務残高対GDP比の発散を抑制することが重要である。
財政健全化は長期にわたるため、その時々の歳出圧力を抑えるためにも、コミットメントに一定の硬直性を持たせる必要がある。それと同時に、財政収支が景気状況で変動しても対応できる柔軟性が必要である。「基本方針2006」では目標達成の時期を固定してしまったため、達成時期の延期が方針変更のような印象を与えかねない。そこで、景気変動の影響を受けない構造的財政収支(経済が潜在GDPの水準にあった時の財政収支)を指標とすることが本来は望ましいと考える。

◇◇◇

当日は岩本教授の説明に続き、提言案「今後の財政運営のあり方」3月19日号既報)の審議が行われ、委員会として了承した。

【経済第一本部経済政策担当】
Copyright © Nippon Keidanren