日本経団連タイムス No.2947 (2009年4月16日)

官民連携を梃子に国際協力の戦略的・機動的展開求め提言

−世界同時不況への対応など、麻生首相ら政府首脳に建議
/アジアの成長戦略に関する懇談会開催


日本経団連(御手洗冨士夫会長)は8日、東アジアの成長戦略に関する日本政府首脳との懇談会を開催し、国際協力委員会(槍田松瑩委員長、矢野薫共同委員長)において取りまとめた提言「官民連携を梃子に国際協力の戦略的・機動的な展開を求める」を麻生太郎総理大臣ならびに二階俊博経済産業大臣、伊藤信太郎外務副大臣ほか政府首脳に建議した。同提言の概要は次のとおり。

■ 問題意識

世界同時不況の中、国際協力の当面の課題は新興国や開発途上国での流動性供給と、併せて急速に収縮する先進国市場の需要を補うための有効需要の拡大である。わが国としては国際的なリーダーシップを発揮し、東アジア地域内に有効需要を創造すべく、官民連携を梃子に政府開発援助(ODA)を活用して、国境を越える大規模インフラや社会的セーフティネットの整備支援を行うべきである。
また、近年、日本政府は第4回アフリカ開発会議(TICAD4)など一連の国際会議においてODA等の国際協力の拡大について公約を行っており、国際的にも高い期待と評価を得ている。これらの公約を着実に履行していくためには、ODA予算の拡充とともに、官民連携の推進、国際協力機構(JICA)の機能拡充等が不可欠である。提言における具体的要望は次のとおり。

■ 世界同時不況への対応

現下の経済情勢への対応として、まず、流動性の供給と即効性のあるプロジェクトを推進するため、国際協力銀行と日本貿易保険による日本企業の現地法人や海外事業に対する支援の量的拡大と期限の延長、円借款に比べて実行が早い無償資金協力の枠の拡充、既存インフラの増強など即効性のある案件への充当などを求めている。
次に、有効需要を拡大する具体的なプロジェクトとして、メコン河流域やインド亜大陸を含む包括的開発計画である東アジア産業大動脈構想など、国境を越えた広域インフラ開発とともに、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA=エリア)を活用した域内の社会的セーフティネットの整備や教育の拡充を求めている。社会的セーフティネットの整備等は、低所得者層の底上げや域内格差の縮小を進め、中長期的に域内の消費拡大に貢献するものと期待できる。なお、ODA予算の拡充に関連して、納税者の理解を得るための積極的な広報が必要であると指摘している。

■ 官民連携の推進

官民連携では民間企業の資源開発等、開発効果の高い事業権の取得とその周辺インフラ整備のためのODA供与をパッケージ化する制度の構築を要望している。併せて、被援助国政府を含む官民関係者間で情報を共有できるよう、JICAなどが全体工程表を設定するよう求めている。また、案件形成において、ODAを民間投資と組み合わせて実施する制度の創設を求めている。さらに、公的インフラの整備を事業として成り立たせるため、事業採算性支援措置(バイアビリティ・ギャップ・ファンディング)を創設すべきこと、また、その早期実現のため試験的プロジェクトを先行的に実施することを求めている。

■ 新JICAの機能拡充

昨年10月1日に発足した新JICAについては、金融危機や資源ナショナリズムの台頭で、リスク負担での政府の役割が増大していることから、海外投融資の再開が不可欠であると提言している。また、円借款を迅速化するために、被援助国における円借款手続きの迅速化支援や複数事業に対する融資枠の設定を要望している。さらに、日本の技術・ノウハウを活用するSTEP(本邦技術活用条件)円借款の拡充のため、適用対象分野の拡大に向けた試験的プロジェクトをODAで実施すべきことを求めている。最後に、わが国民間企業のODA離れがますます顕著となっている中、個別案件の大型化や民間の負担するリスクの軽減を通じて、ODAへの参加意欲を高めるべきであると要望している。

■ 国際機関とわが国民間企業の連携促進

日本が国際機関に拠出している基金を有効に活用するため、案件選定過程に日本企業が競争力を有する分野が適切に取り上げられるよう日本政府が働きかけるべきであると指摘している。また、前述の広域インフラプロジェクトの円滑な実施のためには、世界銀行、アジア開発銀行、さらには、日本政府の提案で昨年立ち上げられたジャカルタのERIA等の国際機関を活用することが不可欠であると提言している。

【国際第二本部国際協力担当】
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