日本経団連タイムス No.3017 (2010年10月21日)
連載記事

解説ISO26000〜社会的責任に関する国際規格<最終回>

−規格の普及促進および今後の課題


解説ISO26000
〜社会的責任に関する国際規格〜
  1. ISO26000入門
  2. 序文、第1章〜第3章の概要
  3. 第4章の概要
  4. 第6章の概要(上)
  5. 第6章の概要(中)
  6. 第6章の概要(下)
  7. 第5章、第7章の概要
  8. 規格の普及促進および今後の課題

ISO26000のFDIS(最終国際規格案)に対する国際投票が、9月12日に実施され、93%の賛成票を得て承認された。現在、FDISに編集上の修文を行っており、11月1日にISO26000が英文で発行(出版)されることとなった。

ウェブ上では公表されないため、使用者が実際にISO26000を入手するには、ISO(国際標準化機構)からハードコピーを購入することになる。

ISO26000の作業部会では、同規格は他の認証規格とは異なるガイダンス文書であり、世界中の幅広い組織に実際に使用されなければ意味がないので、無償もしくは廉価で、できればウェブ上で公表することを、昨年5月のケベック総会でISOに要請した。

昨年9月のISO理事会において、国際規格をハードコピーで販売することがISOのビジネスモデルであり、本規格も例外扱いしない旨を決定した。ISOの規格の値段はページ数に応じて決まり、本規格は100ページを超えていることから、販売価格は2万円を超えることが見込まれる。

■ 日本国内の動き

このままでは、多くの組織への普及促進を図ることは困難であり、認証コンサルティングビジネスなどの、同規格の“misuse”(誤用)が蔓延することも予想される。そこで、少なくとも日本語訳については、ISO/SR国内委員会監修のもと、廉価での出版が可能となるよう、将来のJIS規格化を含め対応を検討しているところである。

これにより国内の関係者は、日本語訳を、グローバル・スタンダードからみた、自社の強み・弱みを判断するためのセルフチェック・ツールとして活用できることになると考えられる。

■ アジアを中心とする途上国への普及

サプライ・チェーン・マネジメントの観点からは、アジアなどの途上国のサプライヤーがISO26000を活用して社会的責任を果たすよう、この規格が普及することが重要である。そのためには、わが国産業界としても、途上国の政府機関や関連団体などとの情報共有および連携強化により、本規格の普及促進に協力していくことが大切である。

■ 日本経団連の対応

本規格の普及促進のため、日本経団連では7月5日、東京で「ISO26000説明会」を、9月30日に大阪で「ISO26000関西説明会」を開催した。同時に、ISO26000の内容を踏まえて、「企業行動憲章」および同「実行の手引き」を改定した。憲章と実行の手引きのそれぞれの項目には、ISO26000のポイントである、ステークホルダー・エンゲージメント、サプライ・チェーン・マネジメント、人権を含む各種国際行動規範の尊重などの概念が盛り込まれており、それに対応する具体的なアクションが述べられている。また、憲章で取り上げている10項目は、ISO26000の7つの中核主題とほぼ重なっている。企業は、「企業行動憲章」および「実行の手引き」を参考にCSRに取り組むことにより、ISO26000のエッセンスをカバーすることができる。

「企業行動憲章」および「実行の手引き」の英訳も、年内には公表する予定である。これにより、日本国内のみならず、海外の子会社やサプライヤーなどにも活用いただけるものと考えている。

なお、ISO26000では、国連グローバル・コンパクト等、75の民間の社会的責任に関するイニシアチブ・ツールを附属書に掲載している。経団連では、ISO26000の作業部会総会で、毎回「企業行動憲章」と「実行の手引き」を、産業界独自で策定した包括的な社会的責任に関するイニシアチブとして紹介してきた。あわせて、附属書への掲載を申請したが、(1)全文が英訳されていない(2)海外での普及実績がわからない――などの理由で、今回は見送られた。年内に完成予定の英訳を、世界中の多くの組織に活用していただければ、ISO26000の3年後の見直しの際には、「企業行動憲章」が附属書に掲載されるものと考えている。

【政治社会本部】
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