日本経団連タイムス No.3021 (2010年11月18日)

生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)
〜企業活動との関連からみた成果と課題(上)

−新戦略計画「愛知ターゲット」を採択


生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)
〜企業活動との関連からみた成果と課題〜
  1. 上.新戦略計画「愛知ターゲット」を採択
    • 生物多様性条約
    • 新戦略計画(愛知ターゲット)について
    • 戦略計画・20の個別目標(要約)
  2. 中.「名古屋議定書」の概要と課題
    • 議論の経緯
    • 主要な論点と日本経団連の主張
    • 評価と課題
  3. 下.資金動員戦略とビジネスの参画
    • 資金動員戦略
    • ビジネスの参画・関与

10月18日から29日、愛知県名古屋市で、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催された。日本経団連では、大久保尚武自然保護協議会会長を中心に政府間協議をフォローするとともに、産業界の意見や取り組みに関する情報発信などを行った。その概要を3回にわたって報告する。

■ 生物多様性条約

生物多様性条約は、1992年の国連地球サミットで「気候変動枠組条約」「砂漠化対処条約」とともに署名が開始された。現在、192の国とEUが加盟しているが、米国は、遺伝資源利用に対する制約の検討等から批准していない。

条約の目的は、(1)生物多様性の保全だけでなく(2)生物資源の持続可能な利用(3)遺伝資源の利用から生じる利益の衡平かつ公正な配分を含んでおり、経済条約的側面をあわせ持っている。最高議決機関としての締約国会議は隔年開催され、決議には全会一致が必要とされる。

今回のCOP10において、特に経済界に関連が深い議題としては、(1)2011年以降の目標設定(2)遺伝資源に関する利益配分に関する国際枠組(3)ビジネスの参画促進策(4)資金動員戦略(特に民間資金の導入のための仕組み)――が挙げられる。

■ 新戦略計画(愛知ターゲット)について

COP6(2002年)では「2010年までに、生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」とする「戦略計画」(2010年目標)が合意された。しかし今年5月公表の「地球規模生物多様性概況第3版」は、「生物多様性の損失は現在も続いており、目標は達成できていない」との評価を下した。

今回合意された2011年以降の世界目標は、ビジョン、ミッション20項目の個別目標から成り、「愛知ターゲット」と名付けられた。ビジョンは、2050年における「自然と共生する世界」の実現である。ミッションについては、2020年までに「生物多様性の損失を止める」という野心的な目標を強く主張するEUと、現実的な目標を目指す途上国とが対立していた。最終的に、生物多様性の損失を止めるために、「実効的かつ緊急の行動を起こす」という途上国の主張に近いかたちで決着した。

個別目標については、保護地域の面積や失われた自然の回復に関する項目に数値目標が設定された。ビジネス関連では、「持続可能な生産と消費」のための行動を開始すること、「自然資源利用の影響」を生態学的に十分に安全な範囲に抑制することが盛り込まれた。資金動員に関する目標については、途上国は数値目標を主張したが、「現状より顕著に増加」という表現となった(図表参照)。全体として、「国や地域によって異なる生態系の現状を踏まえて対応できるよう、柔軟で現実的な目標を設定」という経団連の主張と合致した内容となっている。

愛知ターゲットは世界全体の目標であるため、環境省は、愛知ターゲットの達成に向けた国内目標の設定を含む、生物多様性国家戦略の改訂を計画している。今後の政府の動向を注視していく必要がある。

戦略計画・20の個別目標(要約)

戦略目標A.生物多様性の主流化

戦略目標B.生物多様性への直接的な圧力の減少、持続可能な利用促進

戦略目標C.生態系、種および遺伝子の多様性の保護

戦略目標D.生物多様性、生態系サービスから得られる恩恵を強化

戦略目標E.参加型計画立案、知識管理と能力開発

【自然保護協議会】
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