日本経団連タイムス No.3027 (2011年1月20日)

米倉チーフアドバイザーが日本経団連フォーラム21拡大講座で講演

−「私の経営哲学」


講演する米倉チーフアドバイザー

次代の経営リーダー育成を目的とする「日本経団連フォーラム21」(チーフアドバイザー=米倉弘昌日本経団連会長)の2010年度拡大講座が12月14日、東京・大手町の経団連会館で開かれた。同講座には、同フォーラムの今期メンバーと修了生、若手中心の講座である「日本経団連グリーンフォーラム」のメンバーと修了生も合わせて、約100名が参加。米倉チーフアドバイザーが「私の経営哲学」をテーマに自身の経験をもとに語ったほか、「どうなる日本の政治」と題した橋本五郎・読売新聞特別編集委員の講演や、同フォーラム修了論文優秀者の表彰などが行われた。米倉チーフアドバイザーの講演要旨は次のとおり。

事業を通じた社会への貢献

経営においては、事業を通じて社会とWin‐Winの関係を築いていくことが重要である。

住友化学は、世界最大の石油会社であるサウジ・アラムコと共同でサウジアラビア西岸のラービグに石油精製と石油化学の統合コンプレックスを建設し、2009年、操業を開始した。このコンプレックスは世界トップレベルのコスト競争力を有し、日本・シンガポールの拠点とあわせて、当社にとってグローバルな事業展開に向けた戦略的意義を持つ。

住友化学はこのプロジェクトを通じてサウジアラビアの社会や経済の発展に貢献していきたいと考えている。サウジアラビアでの雇用の創出と産業の高度化・多角化に貢献するため、現地従業員の雇用、隣接地に開発された工業団地の運営への協力、技術研修所の建設などを行っている。

住友グループに400年以上前から伝わる事業精神の一つに、「自利利他公私一如」というものがある。その精神を具現化したのが、マラリア防除用の蚊帳「オリセットネット」の事業である。タンザニアの蚊帳メーカーへ無償で技術を供与し、糸をつくる工程から蚊帳の縫製までの一貫生産を03年にスタートさせた。タンザニアでオリセットネットの製造に携わる従業員は約7千人に増えている。「工場で働くようになって定期的な収入を得ることができ、家族を養えるようになった」との声を聞き、このプロジェクトの成功を実感した。事業活動に加え、事業の収益の一部をアフリカ諸国に還元するため、タンザニア、ケニア等5カ国で学校建設を進めている。

国際競争力の強化に向けた挑戦を

グローバル化が加速するなかで、企業の国際競争力の強化は、わが国の経済の立て直しと持続的な成長を実現するうえで喫緊の重要課題となっている。企業が国際競争力を高めるためには、技術革新、イノベーションの加速が欠かせない。新しい発想と斬新な技術によって、他の国の企業が容易にまねのできないような事業をスピーディーに展開する必要がある。今年(2010年)は、根岸栄一氏、鈴木章氏のノーベル化学賞受賞、小惑星探査機「はやぶさ」の帰還も世界の注目を集めた。経営者は、いま一度、技術力という日本の強みを認識し、攻めの経営に転じていかなければならない。

経団連は、日本企業の国際競争力を高めるために、民間として取り組むべきアクションプランを示した「サンライズ・レポート」を取りまとめ発表した。その目玉である未来都市モデルプロジェクトは、都市における実証実験を通じて得られた成果をパッケージ化し、国内外に展開することで、新しい内需を創出し、中長期的に新しい成長産業をつくり上げていくことを目指している。こうした取り組みが、起業家精神を呼び覚まし、新たな技術の開発、事業の創出を加速させることを願っている。

「人材」が最大の経営資源

日本の企業経営者は、天然資源に乏しいこの国では、技術力と並んで「『人材』こそが最大の経営資源だ」と強く意識すべきである。グローバル化のなか、広い視野で世界を見つめ、世界でいま何が起きているのか、世界の人々が何を考えているのかを感じ取ることができる感受性に秀でた人材が必要になっている。事業が地球規模で展開されるようになれば、異なる文化や価値観を持つさまざまな国や地域の人とともに仕事をする能力が欠かせない。企業としても、海外留学や海外赴任の機会の提供はもちろん、政府や教育機関との協力により、グローバル時代に必要な人材を育成していく必要がある。

日本の産業界の将来を担う皆さんも、自信を持って積極果敢に新しい事業に挑戦し、企業の持続的な成長の実現に向けて力を発揮されることを願っている。

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