日本経団連タイムス No.3033 (2011年3月3日)

「再生の政治」−適応から刷新へ

−藤原・東京大学教授が常任理事会で講演


講演する藤原教授

日本経団連が2月3日に開催した常任理事会で、東京大学法学部の藤原帰一教授が、「再生の政治」をテーマに講演した。
講演の概要は次のとおり。

■ これからの政策課題

日本の安全保障上の課題は、台頭しつつある中国に対する対応の仕方である。経済財政上の課題は、デフレから脱却して成長を遂げることと財政再建を両立することである。また、若年層では「日本はもう駄目だ」という負け組のイメージを強く持っているという問題もある。

これまでの日本は、海外の変化に適応することしかしてこなかった。今後は、課題を解決して自分たちに有利な条件をつくるために、前向きなスクラップ・アンド・ビルドを伴う刷新を行わなければならない。

■ 日本外交の選択肢

2009年以降、中国は硬直的な路線を取るようになっており、今後しばらく、この硬直路線は続くかもしれない。このような中国に対して日本はアメとムチの両方を使い、中国をけん制しつつも共に栄えていかなければならない。

従来の外交の議論は「日米同盟か自主防衛か」という議論であったが、今後は日米同盟の枠組みを活かしながら、西側諸国とのネットワークを強化するために行動すべきだ。日本、韓国、オーストラリア等は、アメリカと二国間で軍事的な協力を行っている。この二国間の「線」を「面」に広げ、対象国も増やせば、中国が海上の覇権を握ろうとする動きにも対抗できる。そして、そのネットワークで主導権を握ることができれば、日本は勝者ネットワークのなかで重要な役割を果たすことができる。なお、NATOが旧ソ連に対して行ったように、中国がこのネットワークに協力できる余地を残しておくべきだ。

■ 国際化と内政

いずれの国でも、自由化を進めるためには、常に国内の利害関係者、特に従来は保護されてきた部門との調整が必要になる。日本も例外ではなく、交渉は緩やかにしか進まないだろう。

TPP(環太平洋経済連携協定)に関する実効性を高めるためには、どこかの国がこれまでよりも一歩踏み込んで「これまではこの部門を自由化したことはなかったがTPPでは自由化する」と名乗り出て交渉のアクセルを踏む必要がある。日本の全体でみれば、自由化を通じて大きな利益を上げることができる。企業活動が国際化すると、企業は経営や資金調達を海外で行うことができるようになる。労働市場の開放も将来的には必要となる。農業部門も含め、大胆な取り組みが必要だ。

韓国は、李明博大統領のもとで、閣僚や官僚も通商政策の重要性を理解しており、通商立国となるための施策を強力に進めている。韓国の勢いを目の当たりにすると、非常に悔しく感じる。自由化を進めることは日本の国益にもつながる。日本も韓国に学ばなければならない。

【総務本部】
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