日本経団連タイムス No.3034 (2011年3月10日)

「SNA統計の現状と課題」

−深尾・一橋大学経済研究所教授から聞く/経済政策委員会統計部会


日本経団連の経済政策委員会統計部会(竹原功部会長)は2月18日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、内閣府統計委員会の委員長代理を務める一橋大学経済研究所の深尾京司教授から、GDPをはじめとするSNA(国民経済計算)統計の現状と課題について説明を聞き、意見交換を行った。
深尾教授の説明の概要は次のとおり。

◆ SNA統計の問題点

リーマン・ショック後の経済が激しく変動した時期、GDP統計に大きな改定があった。例えば、2009年7‐9月期の実質GDP一次速報値は前期比年率で4.8%増であったが、二次速報値では1.3%増と、3.5%ポイントもの大幅な下方修正が行われた。それ以外にも、年率2%程度の改定はしばしば行われている。また、二次速報と確報(翌年末に公表)との乖離も近年大きくなっている。GDP速報を作成する際に利用できる一次統計の種類が限られているため、ある程度の誤差が出るのは仕方がないが、米国における改定幅の2倍以上の誤差が生じている点は問題である。民間エコノミストからは、「GDP統計は、日本の経済統計ひいては政府の対外的な信頼を損なっている」という厳しい声が上がっている。

GDPは支出・生産・所得の三面からとらえることができ、理論的には三者は必ず等しくなる(三面等価の原則)。

支出側の数値は、それぞれの財の供給から需要までの流れを把握し、用途を特定するコモディティ・フロー法(コモ法)と呼ばれる方法で推計される。一方、生産側の数値は、各産業における生産額から中間投入額を引くことで推計される。詳細な産業連関表を毎年つくり、支出側と生産側データを突き合わせて補正すれば、両者は必ず一致するはずだが、実際は5年に1度しか行われていないため、08年は支出側と生産側との間に9・5兆円もの誤差が生じていた。

また、所得側も支出側の数値と一致せず、現実のGDP統計は三面等価の原則に基づく年次推計が行われていないのが現状である。

◆ 改善に向けて必要な施策

これらGDP統計などの問題の解決に向けたメニューは、政府が09年3月に閣議決定した「公的統計の整備に関する基本的な計画」のなかで包括的に提示されたが、改善を阻む最大の原因は、マンパワーの絶対的な不足である。米国では100人以上、カナダでは200人以上の人員がSNA統計の作成に携わる一方で、日本の内閣府国民経済計算部は50人程度と非常に少ない。人員の拡充が第一に求められる。

また、米国で統計作成に当たるセンサス局では、基礎統計に異常な数値が見つかると、インタビューや個票データを使って問題点を発見・解決するが、日本の国民経済計算部はそのようなチェック機能も弱いように思われる。さらに、一次統計の側でも、調査対象のサンプル数拡充や迅速な集計などによって、質と速度を改善していくことが必要である。

【経済政策本部】
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