日本経団連タイムス No.3039 (2011年4月21日)

日本経済・産業の課題と解決策聞く

−吉川・東京大学教授と意見交換/産業問題委員会


日本経団連は7日、都内のホテルで産業問題委員会(西田厚聰委員長、原良也共同委員長)を開催し、東京大学大学院の吉川洋教授から、「日本の経済・産業が抱える課題とその解決策について」と題して説明を聞くとともに、意見交換を行った。概要は次のとおり。

吉川教授はまず、東日本大震災が与えるわが国経済への影響に触れ、内閣府が示す15〜25兆円と言われる被害額は今後、時間とともに拡大、消費の冷え込みや節電、サプライチェーンの寸断などによる経済成長への下押し圧力も強まるとの見通しを示した。その一方で、わが国は1200兆円に上る国内金融資産や270兆円もの対外純資産を有しており、震災復興という新たな負荷に耐え得るだけの余力は十分にあるとも述べた。さらに、震災復興が最大の課題ではあるが、少子高齢化や財政赤字など長期的な課題への対応も同時に進める必要性を指摘した。

次いで、民間消費支出と輸出のGDPへの寄与度について、高度経済成長期では民間消費支出が6割程度、輸出が1割弱と内需主導の成長であったが、その後は一貫して民間消費支出の寄与度が低下する一方、輸出の寄与度が大きくなり、現在では6割に達していると指摘。問題は、輸出による収益が国内に還流していないことにあると述べた。少子高齢化については、日本が高齢化社会に応える産業や商品を率先して生み出すことで、今後、諸外国が直面する問題への解決策を示せれば、強力な輸出競争力を手に入れられると述べた。さらに人口と経済成長の推移を長期的に見ると両者の間には相関性が見られないと指摘したうえで、経済成長を牽引するのはイノベーションであり、それを支える人材の競争力は十分に備わっていると述べた。また、財政赤字については、一般歳出の半分を占める社会保障関係の歳出に対して、消費税率の引き上げが不可避であると述べた。

■ 意見交換

意見交換では、「イノベーションがなかなか進展しない理由は何か」との質問に対し、吉川教授は、日本人のDNAの問題なのか、組織の問題なのか、日本人は重要なことが実行できないと述べ、組織における意思決定のスピードに対する意識の差もその一因であろうと述べた。これに関連して、トルストイの娘が日本への亡命中、日本人は優秀だが、重要な決定ができないのが唯一の欠点と記したことを紹介。また、幼保一元化の事例も取り上げ、10年前から検討を始めながら、結論を得るまでにさらに10年かかることを指摘した。次に、「震災復興に係る財源も含め、わが国の税・財政・社会保障一体改革を時間軸で見てどのように考えるか」という質問に対しては、社会保障改革などの重要課題が震災復興の過程で忘れ去られ、結果として赤字国債でファイナンスされるということは非常に不健全であると述べた。そのうえで、例えば消費税の引き上げにコミットだけはしておき、時限措置として、復興期間中は税率を据え置くという方法も考える必要があると述べた。また、金融面では、不良債権の発生が懸念されるとして、基金創設も視野に入れるべきとの考えを示した。

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当日は、産業問題委員会の伊東千秋産業政策部会長から、報告書「日本の産業競争力」(案)が報告され、了承された。

【産業政策本部】
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