日本経団連タイムス No.3040 (2011年4月28日)

「日本の開放政策−世界経済の構造変化を踏まえて」

−伊藤・東京大学大学院教授が常任理事会で講演


講演する伊藤・東京大学大学院教授

日本経団連が6日に開催した常任理事会で、東京大学大学院経済学研究科の伊藤元重教授が、「日本の開放政策」をテーマに講演した。
講演の概要は次のとおり。

■ 大震災によって開放路線はどう変わるか

先日の震災は日本の経済・社会に大きな影響を与えた。こうした事象が起きた後には、何が変わって何が変わっていないかを見極めたうえで、新しい政策を立案しなければならない。大きな断絶を機に、物事が前に進むことがある。

昨年、新成長戦略実現会議の初回の会合で、私は政府に「ど真ん中の直球」を投げるようにと言い、具体的には法人税率の引き下げとTPP(環太平洋経済連携協定)等の経済連携の推進を求めた。しかし、大震災によって状況が大きく変わったので、成長戦略を修正しなければならない。観光客や留学生は日本から離れ、農産品は風評被害を受けている。国内では電気使用量が制限されることで生産コストが上昇する可能性がある。その一方で、競合する韓国はアメリカやヨーロッパとFTA(自由貿易協定)を署名しているので、日本企業はさらに厳しい競争にさらされている。

日本経済は内向きになっていると言われているが、この状況を放置すれば、ますます内向きになってしまう。

■ 世界経済の軸の変化

2つの要因によって、経済の軸が先進国から新興国へと移るという大きな構造変化が起きている。

1つ目の要因は、人口構造である。先進国では少子化と高齢化が進んでいるが、新興国では若年人口が増加しており、不動産や資源のバブルが生じている。2つ目の要因は、IT化の進展である。IT化によってすべての情報を容易に集計して分析できるようになり、グローバル化とも相まって、新興国に大きなチャンスをもたらしている。

この20年で中国のドル建てGDPは12倍となったが、日本のそれは1.6倍にとどまっている。将来的には、中国、インド、ASEANという3つの大きな経済圏が日本の近くにできるので、日本とこれらの3極との間の貿易は輸出も輸入も増えていくことになる。そうなれば、国内市場と海外市場の区別がなくなり、産業構造や企業の戦略も変化せざるを得ないだろう。

このように日本を取り巻く状況が変化しても、過去のパワーバランスの結果である国内制度を内側から変えることは難しい。GATTやWTOのような多国間交渉では、全体の交渉が前進するのにあわせて、政治は農業等に対策費を手当てしつつ、全体の流れに従えばよかった。世界のルールが、TPPをはじめ関係国間の経済連携が中心に変わると、全体に従うだけでは前に進めなくなった。逆に、自らTPP交渉に参加すれば、すべての国内制度をグローバルな視点から見直す契機とすることができる。厳しい環境のなかではあるが、できるだけ早くTPP交渉に参加し、これを通じて内なる国際化を進め、開かれた制度を構築しなければならない。震災復興を果たすためにも、供給サイドの開放・自由化の実現が不可欠である。

【総務本部】
Copyright © Nippon Keidanren