日本経団連タイムス No.3042 (2011年5月26日)

「震災後の日本経済」テーマに説明聞く

−第一生命経済研究所・熊野首席エコノミストから/経済政策委員会


日本経団連の経済政策委員会(奥田務共同委員長、畔柳信雄共同委員長)は13日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、熊野英生・第一生命経済研究所首席エコノミストから、「震災後の日本経済」をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ 今後の景気動向

震災直後は、情報が不足するなかで先行きへの不安が大きく強まったが、時間の経過とともに不透明感は徐々に解消されており、日本経済全体として予想よりも早く回復している。

今後の動向を考えるうえでは、製造業の供給制約解消と生産回復に、どの程度の時間が必要となるかが重要である。この点について、震災後に行われた経済産業省のアンケート調査や経済統計の動きなどからみて、夏の節電が終わる10月以降には、供給面の制約が和らぎ、生産水準も徐々に回復していくと思われる。

需要動向については、海外経済、特に米国経済によるところが大きいが、(1)不安定な為替(2)世界的な金融引き締め(3)原油価格高騰――の3つがダウンサイド・リスク(下振れリスク)として考えられる。このうち為替については、ドル安のトレンドが予想以上に強く、ユーロにも不安があるため、年内は円高継続のリスクが拭えないと考えられる。

■ 当面の課題

日本経済は今年後半から徐々に回復していく見通しだが、節電の行き過ぎや自粛ムードの広がり、風評被害などにより需要が低下すれば、経済活動の水準はなかなか元に戻らない可能性がある。当面重要なことは、こうした二次被害の影響を極力緩和し、経済を下支えすることである。

二次被害の影響が大きくなれば、企業収益の悪化を通じて、雇用や設備投資の抑制として表面化することになるが、現時点で、リーマンショック時のような派遣切りは起こっていない。また、今回の震災による潜在的な雇用調整圧力を試算したところ、雇用統計に反映されない潜在的失業者数は70万人とリーマンショック時(150万人)の約半分にとどまっている。雇用調整助成金がセーフティーネットとして機能し、失業圧力を吸収しているほか、企業の資金繰り支援など、リーマンショック後に整備されたスキームがセーフティーネットとして有効に機能している。

■ 今後目指すべきシナリオ

今後は、一次補正予算の執行・二次以降の補正予算編成により、復興需要を盛り上げるとともに、成長戦略を実行して、持続的な成長につなげていくことが必要である。

震災後の取り組みを復旧と復興に分けると、がれき処理などの復旧は全額公費で行えるが、民間設備投資など復興に向けた取り組みは、基本的に公費で負担することができない。復興は民間が主体となって進めることが必要であり、産業全体の底力が問われる。

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なお、当日は提言案「公的統計の活用による的確な現状分析と政策決定に向けて」の審議が行われ、了承された。

【経済政策本部】
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