経団連タイムス No.3045 (2011年6月16日)

「震災からの復興」

−阪神大震災の教訓を踏まえて/五百旗頭防衛大学校長が常任理事会で講演


講演する五百旗頭氏

経団連が1日に開催した常任理事会で、防衛大学校長で東日本大震災復興構想会議の議長も務める五百旗頭真氏が、「震災からの復興」をテーマに講演した。講演の概要は次のとおり。

震災への企業の対応

震災に対する被災者の振る舞いの立派さが国際的な称賛を集めたが、企業も組織的に素晴らしい対応をしたと思う。地震発生当時、東北新幹線では27本が走行中であったが、全列車が無事であった。また、大打撃を受けた企業のサプライチェーン(部品の調達・供給網)が夏までに9割回復すると聞いて驚いたが、回復ペースはさらに速まっているようだ。被災地域では安全なまちづくりと産業復興が重要だ。

震災への社会の対応

阪神大震災の際には、社会党党首の村山総理の下、連立を組む自民党の大物を含む政治家や官僚が必死に働いたが、今回の大震災では、政府全体の組織的な対応がうまくいかなかった。ただし、ねじれ国会の下でも、一時的には政治的に休戦し、4兆円を超える第1次補正予算を組めたのはよかった。国家的危機には超党派での対応が不可欠である。被災者を前に政争を繰り広げていたら、日本は国の体をなさない。1次補正はあくまで応急措置であり、本格的な復興についてはこれから取り組まなければならない。

阪神大震災では、自衛隊の初動が遅く、発災当日は救助に十分な人員を出すこともできなかったので、自衛隊による生存救出は165名にすぎなかった。その後、自衛隊は改革を行い、どのような事態が起きても即応できる体制を構築した。今回、自衛隊は10万7千人を投入し、約1万9千人余りを救出できた。

なお、今回はアメリカをはじめとする海外からの支援を早期に受け入れたが、これは安全保障の面での意義も大きかった。世界最大の軍事大国であるアメリカから2万人の大軍が来ていることが、安全保障上の大きなメッセージとなった。

ボランティアについては、残念ながら阪神大震災での規模を大きく下回っており、現場での細やかなケアが足りていない。

復興に向けた検討課題

過去に大津波で被害を受けた三陸沿岸では、多くの住民が高台に移住したが、漁場がある海岸沿いの方が便利なため、後から移住してきた人達が平地に住むようになり、大きな被害を出した。道路さえ整備すれば、高台から港まで車で10分で移動できるので、学校、病院、老人ホーム、スーパー等は高台に集めたい。海岸沿いの建物も1〜3階は事務所とし、住居は4階以上とすることで、安全なまちをつくりたい。

阪神大震災の復興の際には、「焼け太り」を避けるとの考えから、神戸港は震災前の施設の復旧にとどまって国際競争力ある港湾をつくらなかったため、シンガポールや釜山に後れを取った。今回はこのような失敗を避けたい。主要港は、遠洋漁業に出る大きな船も入港できるよう整備し、国際競争力を付けなければならない。アワビ、カキ等の高級品をしっかり生産することも重要である。

また、被災地を特区として安全なまちづくりを行い、成功例を全国的に展開できれば、いずれ起こると言われている東南海大地震や南海大地震にも対応できるだろう。

なお、復興財源に関しては、(1)全国民で支える(2)将来世代へ負担を後回しにすることを避ける(3)経済に大きな打撃を与えないように留意する――という3点を踏まえて考えなければならない。

今後、被災地の復興に向け、どのようなインセンティブがあれば企業が進出し、復興を勢いづけられるかについて、広く意見をうかがいたい。

【総務本部】
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