経団連タイムス No.3048 (2011年7月7日)

世界経済の見通しと震災復興に向けた日本経済の課題を聞く

−委員会規約改正等の承認も/OECD諮問委員会2011年度総会


経団連のOECD諮問委員会(斎藤勝利委員長)は6月22日、東京・大手町の経団連会館で2011年度総会を開催し、委員会規約の改正等を原案どおり承認した。当日は、議案審議等に先立って、岩田一政日本経済研究センター理事長から、世界経済の見通しと震災復興に向けた日本経済の課題について説明を聞いた。岩田理事長の説明概要は次のとおり。

■ 世界経済の3つのリスク

世界経済には、ここへ来て陰りが見えている。その理由として3つのリスクが挙げられる。第一は、中東、北アフリカの政変による原油・食料品価格の高騰である。原油価格高騰により、米国ではGDP成長率が低下、一時的な成長鈍化局面に入っている。

第二は、欧州における財政金融危機である。ギリシャについては、追加支援が行われることになろうが、民間債権者の自発的関与が必要である。市場は、いずれ債務再編は不可避と見ており、その場合は、流動性危機がギリシャのみならずその他の欧州の金融機関にも波及、第二の金融危機に発展するおそれがある。

第三は、東日本大震災の影響である。グローバル・サプライチェーン(部品の供給・調達網)の寸断が米国、アジアにおける自動車生産等にマイナスの影響を与え、景気押し下げ要因となっている。日本の2011年度のGDP成長率は震災前の予測に比べ2%程度低下する可能性がある。その場合、世界経済の成長率を0.2%程度押し下げることになり、サプライチェーン寸断の影響がこれに加わる。

なお、先進国はいずれも政府債務危機に直面しており、解決のめどが立っていない。

■ 震災復興に向けた日本経済の課題

電力不足が中長期的に経済の下押し要因として働く可能性が高い。定期検査後も原子力発電所の運転を再開できない状態が続けば、来年5月にはすべての原発が稼働停止に追い込まれ、新規建設がなければ、2050年には原発ゼロとなる。地域的には、関東、関西で深刻な電力不足が発生し、火力発電、自家発電への振り替えを進めてもなお不足する見込みである。振り替えに伴う化石燃料輸入費用の増加等から、貿易収支は赤字となり、2017年度には経常収支も赤字になる。

電力不足解消には原発の運転再開が望ましいが、そのためには、(1)事故原因の徹底的な究明と報告書の作成(2)報告書を踏まえた新たな安全基準の作成、国際的にも整合性のある基準の設定(3)「新たな規制当局」による「新たな安全基準」に基づく運転再開の判定――が必要である。同時に、再生可能エネルギー促進のためにどの程度の費用がかかるのか精査が必要である。

原発の処理費用が仮にチェルノブイリの際の20兆円を上回ることになれば、支払い能力が不足し、社債市場にも大きな影響を与える。50兆円にも及ばんとする復興費用については、基金を設立し民間資金も活用すべきである。

■ 公的年金改革とその効果

公的年金について、基礎年金部分を段階的な消費税引き上げ(15年間で20%にする)で賄い、年金保険料を廃止、報酬比例部分を積み立て方式とし民営化すると同時に、法人税率を10年間で10%引き下げるとの改革を提案している。これにより、(1)民間設備投資と民間消費が拡大し、実質GDPを引き上げる(2)失業率が低下する結果、名目賃金が上昇、消費者物価は2%程度で安定的に推移する(3)貯蓄率も高まり、潜在GDPも高まる――といった経済効果が期待できる。

【国際経済本部】
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