経団連タイムス No.3048 (2011年7月7日)

震災を踏まえたわが国の経済成長戦略について聞き意見交換

−経済政策委員会企画部会


経団連の経済政策委員会企画部会(村岡富美雄部会長)では、わが国経済の持続的成長の実現に向けた検討を行っている。6月23日の同部会では、東京大学大学院経済学研究科の柳川範之准教授から、「震災を踏まえた、わが国経済成長戦略」についての講演を聞くとともに、意見交換を行った。柳川氏の講演の概要は次のとおり。

■ 被災地復興の課題−歯止めのきかない財政支出

東日本大震災による被害総額は、内閣府の当初試算では16兆〜25兆円に及ぶとされていたが、復旧、復興に要する政府支出の規模はさらに膨らむ可能性が高い。加えて、復興予算の議論が財源問題に終始している点も問題である。歯止めのきかない政府支出はさらなる財政赤字の拡大を招きかねず、財政の持続可能性をより困難なものとする。市場の関心は、政府の財政健全化のスタンスに移っている。

■ 民間資金の活用

財政負担を軽減していくうえで考慮すべきは、民間資金の活用である。民間資金を活用すれば、財政支出の抑制につながることに加え、民間のアイデアと創意工夫を復興に活かせるメリットがある。かつて民間では事業採算が合わないと考えられてきた公共事業も、近年、民間でかなりの部分ができることがわかってきた。民間資金を活用する施策として、政府保証をつけてリスク回避を制度的に図ったうえで、民間から人材と資金を集める官民ファンドがある。その前提条件は、あくまで民間の人材によるプランニングとマネジメントである。

■ 「被災地の復興」と「日本の復興」

被災地の復興に特区制度は有効だが、それ以外の地域においても経済成長が期待できるならば、被災地に限らず特区を設けていくべきである。被災地以外では、成長戦略として取り組むべき内容は変わっていないと考えるため、特区制度を活用して、これらを着実に実施することにより、日本経済全体を成長させることができれば、被災地の復興を加速させることも可能となる。このように、「被災地の復興」と「日本の復興」との連動性をより重視した対応が真の復興に役立つ。

■ 「日本の復興」の王道はスピード感を持った成長戦略の実施

経済成長はスピードが命である。変化のスピードが速いことは、すなわち成長率が高まることと同義である。こうした考え方のもと、成長戦略は時間軸で区切った対応が好ましい。短期的には、成長が見込まれる産業(先端的な製造分野や、人々に安心をもたらし消費拡大が期待できる分野)に対して資金を投入できるよう、戦略的な税の活用が必要となる。また、アジアを「内需」にする標準化戦略や、新たな成長の芽となるベンチャービジネスの育成、支援も急がれる。中長期的には、異質なモノやヒトの融合がイノベーションを生み出すことを踏まえれば、海外も含めた多様な人材が集まる「場」を作り上げることが重要な戦略となる。

【経済政策本部】
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