経団連タイムス No.3049 (2011年7月14日)

東日本大震災「企業人ボランティアプログラム」現地ルポ

−参加者は何を感じ、何を得たか(体験談から)


1%クラブ(佐藤正敏会長)では、「災害ボランティア活動支援プロジェクト会議(支援P)」と連携し、4月末から「企業人ボランティアプログラム」を実施している。現地での活動を通じて、参加者は何を感じ、何を得たのだろうか。470名余りに上る企業人ボランティアの体験談から、そのエッセンスを紹介する。

■ 五感で感じる

被災地の惨状は毎日繰り返しテレビや新聞、雑誌で目にしてきたはずである。しかし、現場を訪れた企業人ボランティアは、被害の甚大さに圧倒され言葉を失う。「陸前高田の高台に立つと、あまりにも美しい三陸の青い海、緑の山々が見える。少し目線をずらすと人の営みすら感じられないがれきが高台からはるか海の彼方まで続く」「道一本隔てて天国と地獄を見た。片方は家がほぼ無傷で、もう片方は津波にすべてをのみ込まれ一面がれきの山」という被災地の現実を目の当たりにする。津波以来手つかずのかまぼこ工場や飼料工場が発する臭い、ヘドロが乾いてまき上がる粉塵、泥の中からかきだした衣服や生活用品、どのような思いで身を守り、どのように身近な人を失ったかという被災者の津波体験談、大量の重い泥をかき出した後の筋肉疲労…。五感のすべてをフル稼働させて被災地で活動した企業人は長く険しい復興への道のりを実感し、自らができることで被災地に関わり続けることを誓い、企業活動のなかでもできることを模索し、継続的な支援の大切さを周囲の人々に伝えている。

被災地でのがれき撤去作業

■ 泥を見ないで人を見る

がれきの撤去、床下や側溝の泥かき、家財道具の運び出しなどの「作業」を前に、企業で働く人々は「効率化」や「成果」を求める。企業人の応用力、適応力、問題解決力、チーム力、改善や安全への意識の高さによって着実に成果は上がる。一方、作業の手を止めて被災者の方々のお話を聞き、その方の気持ちやペースにあわせて作業することの大切さも学ぶ。例えば、水没した家財道具を運び出す際には、やみくもに廃棄するのではなく、依頼主に一つずつ確認しながら作業を進める。ご本人が望んでいらっしゃる物を発見することはできなくても、ボランティアによる丁寧な活動は被災者が次の一歩を踏み出す力になれる。泥の中から出てくる子どもの靴や玩具、写真や位牌に心が動かされ、「がれきなど一つもない。どんなに汚れたものでも家族にとっては大事なもの、思い出の詰まったものが形を変えただけ」という被災地の人々の感情を共有して被災物を扱う。「ボランティアによる活動で、被災地が完全に片付くことはない。しかし、自分の家や田畑がきれいになると、そこには希望が生まれる。他人がここまでやってくれたことで、初めて前向きになれる人もいる。そして、その小さな希望は、隣の人に伝播していく」というコーディネーターの言葉のとおり、重機を使ったがれきの撤去では生み出せない価値がボランティア活動にはある。

被災者の“思い出の品”を探す

■ バトンを次の人につなぐ

東日本大震災の被害は甚大であり、解決すべき課題は際限なく噴出する。例えば、梅雨前は側溝を整備して雨水が流れるようにしておくことが喫緊の課題となっていた。都会で働く多くの企業人にとって側溝整備は初めての経験であり、戸惑いながらも皆で力を合わせてがれきを撤去し、重たい泥をかき出して土嚢袋に詰めることを繰り返していく。活動終盤で突然の雨に見舞われ、作業区域で水が流れることを目撃して感動したグループもある。しかし、ゴーグルに防塵マスクで装備したうえでの炎天下の作業は肉体的にも厳しく、小まめな休憩と水分補給が必要になる。そのため、実働時間は予想以上に短く、未着手の側溝が残ってしまい、達成感が得られないこともある。また、志を同じくする企業人でも、一人ひとりの体力やペースは異なる。大事なのは、地道な作業に「全員ができる限りを精一杯」することであり、被災者からの信頼を得て、依頼しやすい環境をつくり、後続のボランティアに活動を引き継いでいくことである。復興すべき範囲は広く、人手は圧倒的に不足している。一人ひとりの泥の一かきはわずかだが、その積み重ねが被災者の方々に元気を与え、復興の礎となっていく。

災害ボランティアセンターで震災当日の様子を聞く

■ 被災者の力強さに勇気付けられる

大震災で大切な人を失い、帰る家を失って、人は簡単には気持ちを切り替えられない。それでも地元の人々は復興に向かって着実に歩み出している。「役に立ちたい」と被災地を訪れるボランティアは、自分たちが提供する労力以上に、被災地から無形の財産を受けとって帰る。不便な生活のなか一切愚痴を言わず、笑顔で迎えてくださる高齢のご夫婦。わざわざご飯を炊いて、おにぎりをたくさんボランティアセンターへ届けてくださる依頼主のおばあさん。別れ際に何のお礼もできないのでと「故郷」を歌ってくださるご婦人。津波に襲われた家の片付けを一緒にしながらホームレスの若者を思いやるおじいさん…。悲惨な状況のなかでも前向きに明るく感謝しながら生きる人々の姿は、ボランティアの心に深く沁み込んでいる。「ボランティア活動をしてみて、自分の力の弱さ、限界にくじけそうになり、むなしさを感じた時間もあった。しかし、陸前高田の人たちが1週間後小中学校で運動会を開催するという話を聞いて、どんな状況でも復興しようという現地の人たちの力強さ、逞しさに、支援する立場の自分が励まされた」という企業人もいる。「被災地で活動させてもらえてよかった」という感謝の気持ちを持つことは、被災地の人々への継続的な支援へとつながっていくことだろう。

【政治社会本部】
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