経団連タイムス No.3051 (2011年7月28日)

大震災後のエネルギー政策のあり方を聞く

−豊田・日本エネルギー経済研究所理事長から/資源・エネルギー対策委員会


経団連は14日、東京・大手町の経団連会館で、資源・エネルギー対策委員会(井手明彦委員長)を開催した。当日は、日本エネルギー経済研究所の豊田正和理事長から、大震災後のエネルギー政策のあり方について説明を聞くとともに意見交換を行った。豊田理事長の説明概要は次のとおり。

■ 短期的な課題

現在停止中および今後定期検査入りする原子力発電が再稼働しない場合、2012年夏季の電力需給は極めて難しくなる。一定の発電予備率の確保が必要とすると、全国規模で12.4%の大幅な節電が必要になる。

この電力不足に対し、火力発電の高稼働で対応すると、燃料費(石炭・LNG・石油の合計)は、対2010年比3.5兆円増加する見通しである。その結果、標準的家庭の電力料金は、18.2%(1049円/月)増加し、産業用の電力料金は、36%上昇すると見られる。

また、エネルギー起源CO2排出量も大幅に増加する。化石燃料の消費により、2012年のCO2排出量は、1990年比で18.7%増加すると考えられる。

■ 中長期的な課題

中長期的なエネルギー政策を考える際、まず、日本はエネルギー小国であると認識する必要がある。

そのうえで、総合的視点からエネルギー政策を検討することが肝要である。つまり、(1)安全保障(2)温暖化(3)コスト(4)利用可能性・エネルギー密度――の4つの視点から、原子力発電、省エネルギー、再生可能エネルギー、化石燃料のそれぞれの政策を考える必要がある。

原子力発電は、(1)から(4)のすべてに優れているが、安全性の点が問題である。そこで、福島第一原子力発電所の事故原因を明らかにする必要がある。また、国際的な協力により、原子力発電の安全基準の国際標準化とベストプラクティスの共有が不可欠である。

省エネルギーは、(4)のエネルギー密度の点で優れている。日本の製造業は、すでに世界最高水準のエネルギー消費効率を達成しているが、家庭・業務では、まだ大きな省エネ余地が残されている。なお、10%の省電力は、原子力発電約13基分(1350万キロワット)に相当する。

太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーについては、最大限導入していく必要がある。しかし、(3)のコスト、(4)のエネルギー密度の点が課題である。そこで、蓄電池等の導入を積極的に進める必要がある。

化石燃料は、(1)から(3)に課題がある。(2)の温暖化問題を克服するためには、CCS(二酸化炭素回収貯留)の加速的開発が必要である。しかし、日本国内には、CCSの適地が存在せず、船による国外輸送が不可欠である。

このように、原子力を代替する完璧なエネルギー源は見当たらない。そのため、安全性を基本前提とした、エネルギー源の多様化と技術開発推進が必要である。そして、より安全な原子力、より安価な再生エネルギー、よりクリーンな化石燃料、より一層の省エネルギー等を、組み合わせていくことが重要である。

現在、エネルギー政策の議論は嵐に突入しつつある。嵐の海を航行するためには、目的地を明確にし、客観的なコンパス(データ)を用いて、道筋を冷静に判断する必要がある。

【環境本部】
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