経団連タイムス No.3052 (2011年8月4日)

これからの自治体経営のあり方を議論

−21世紀政策研究所が第82回シンポジウム開催


これからの自治体経営のあり方を議論した
21世紀政策研究所のシンポジウム

経団連の21世紀政策研究所(米倉弘昌会長、森田富治郎理事長)は7月27日、東京・大手町の経団連会館で第82回シンポジウム「自治体の経営の自立と『地域金融主義』の確立に向けて」を開催した。同研究所では3年前から、公的部門の「生産性」向上という観点から自治体経営のあり方を検討してきたが、今回のシンポジウムはこれまでの検討の成果を踏まえ、地方行財政ならびに地域再生に関し、政策議論を深めることをねらいとしたものである。

まず、森田理事長が開会あいさつで、「自治体財政の逼迫は、国民生活に密接な行政サービスの維持に大きな不安を投げかけている。自治体はこれまで主に事業予算や人件費の削減などフロー面の改革に取り組んできたが、これからは膨大な資産の有効活用や資金調達方法などストック面の改革も必要とされる」と問題提起し、今回の研究を始めた背景を紹介した。

続いて、大庫直樹研究副主幹(プライスウォーターハウスクーパース常務執行役員)が「自治体ファイナンス革新を通じた金融システム活性化の可能性」と題して第一部報告を行い、「銀行の貸し出しは1990年代半ば以降低迷している。しかも、企業収益が低い年ほど貸出残高が大きくなるなど、リスクに合わない状況にある」と現状を分析。「自治体の資金調達市場は銀行の中小企業貸出規模より大きく、もし資金調達手段の多様化などにより合理的な市場として開放されれば、銀行にとっても大きな成長余地となるはず」と指摘した。

第二部では、上山信一研究主幹(慶應義塾大学教授)と大庫副主幹から「これからの自治体の経営の自立と改革」と題して報告があり、それに対して池尾和人慶應義塾大学教授、尾崎昌利三井不動産グループ上席執行役員、佐藤主光一橋大学大学院教授がコメンテーターとして意見を述べた。報告では、「日本の大都市の資産規模は市民1人当たりでみて欧米と比較して2〜3倍と大きく、巨大企業にも匹敵。一方、地方債残高も巨額で、償還期間が中期に偏重するなど硬直的。多くの県では預貸率が50%台で、預金の半分近くが地元外に投資されるなど地域内に資金が還流していない」として、「資産の稼働率の向上や価値の維持、地元の個人や金融機関から直接資金調達しやすい制度の構築、CFO機能の導入による統合的な財務体制の確立など、資産負債の双方を視野に入れた財務戦略の導入が生産性の向上に不可欠」などと具体的な提言が行われた。

これに対し、「各自治体が財務センスを磨き、適切な地方債政策を取るのは確かに望ましい。しかし現状では、種々の面で国の手当てがあり自治体に行動を促す誘因が欠如している。自治体にも権限に見合った責任を負わせる制度(例えば破綻制度など)が必要」(池尾氏)、「自治体も総合的な戦略のもとに、保有する不動産の流動化や有効活用を図るべき。そのため、税制を含め投資家に誘因を与えることも必要」(尾崎氏)、「資産は負担ではなく『宝の山』になる可能性があり、そのためにも公と民の異文化交流の促進が必要。護送船団方式から一国多制度に転換し、財政的に自立できる自治体から自立すべき」(佐藤氏)などのコメントがなされるなど、活発な議論が展開された。

シンポジウムの詳細については、後日、21世紀政策研究所新書として刊行予定である。

【21世紀政策研究所】
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