経団連タイムス No.3053 (2011年9月1日)

「わが国経済の持続的成長のための政策について」

−東京大学・戸堂教授から聞く/経済政策委員会企画部会


経団連の経済政策委員会企画部会(村岡富美雄部会長)は8月4日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、戸堂康之・東京大学教授から、「わが国経済の持続的成長のための政策について」をテーマに講演を聞いた。
概要は次のとおり。

■ 大震災と日本経済

東日本大震災は甚大な被害をもたらした。しかし、自然災害は長期的な成長を阻害しないことが、実証研究によって明らかになっている。自然災害によって短期的に成長率が落ち込んだとしても、やがて被災以前の長期的な成長経路に復するのである。

ただし、単なる復興にとどまる場合には、日本経済は没落に向かう。そもそも現在の日本経済の長期的な成長経路が低成長であるためだ。購買力で調整した1人当たり実質GDPをみると、バブル崩壊を機に、アメリカとの差が開く一方、新興国には追い抜かれようとしている。まさに、日本は「途上国化」しつつある状況だ。こうした状況を打開し、日本経済が復興を超えた飛躍的成長を果たすよう制度の転換が必要である。

■ 制度と経済成長

経済、社会のルールである制度は、いったん導入されると長期的な経済成長を大きく左右する。制度は粘着的であるとともに、さまざまな制度が相互依存の関係をなすため、その転換は非常に困難である。しかし、日本は開国、明治維新、戦後と大きな制度転換を行い、過去の成長トレンドを大きく上回る飛躍的成長を遂げてきた経験を持つ。復興を超えた飛躍的成長を成し遂げるために、いま求められるのは、グローバル化と産業集積の2つである。

■ グローバル化による成長

経済成長の源泉は技術進歩である。技術進歩は国内の技術革新とともに、海外からの知識や技術の流入によっても加速する。これは、国境を越えて知識・技術が融合することによって、さらなる知識・技術が創出されるという、「三人寄れば文殊の知恵」の効果によるものである。世界とつながり、世界の知恵を取り込むことが成長のカギとなる。

事実、企業のグローバル化が輸出・投資を通じて外国技術の流入を促し、生産性を拡大させることを示す研究は多い。ただし、日本には諸外国と異なり、高い生産性を持ちながらもグローバル化していない企業、いわゆる「臥龍企業」が数多く存在する。経済連携協定などのマクロ政策や、ネットワークの構築、情報・金融面などの個別企業への支援によって、「臥龍企業」のグローバル化を促せば、飛躍的成長は可能となる。

■ 産業集積と経済成長

産業集積のメリットは、企業間の距離が縮まることによって、知識や情報の伝達が容易となり、つながりが強化され、技術進歩が加速されるところにある。グローバル化と同様、「三人寄れば文殊の知恵」の効果である。

今回の震災によって東北地方は大きな被害を受けたが、過去におけるわが国の災害からの立ち直りの歴史をみても、災害は必ずしも成長・集積を破壊するとは言えない。ただし、下降気味の集積は災害の影響を受けやすい。東北地方は震災以前から集積によって成長が加速するには至っていなかったことを考慮すれば、特区をはじめとした政策が不可欠である。

特区の設計には、税制と、つながりの強化を組み込まなければならない。法人に対する税制優遇措置とともに、中小企業と大企業の連携、産学官の連携、グローバル人材の育成を通じたつながりによる技術進歩も図っていくべきである。

さらに、こうした取り組みを東北だけにとどめず、地方分権によって各地の特色を生かした産業集積を創出することにより、日本全体の成長へとつなげるべきだ。

【経済政策本部】
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