経団連タイムス No.3067 (2011年12月13日)
シリーズ記事

昼食講演会シリーズ<第13回>

−「東アジアの時代と日米同盟〜2012年の大統領選挙を前に」
/外交ジャーナリスト・作家 手嶋龍一氏


経団連は11月16日、東京・大手町の経団連会館で第13回昼食講演会を開催し、144名の参加のもと、外交ジャーナリスト・作家の手嶋龍一氏から「東アジアの時代と日米同盟〜2012年の大統領選挙を前に」と題した講演を聞いた。講演概要は次のとおり。

■ アジア・太平洋地域を重視するアメリカ

アメリカは、9.11同時多発テロ事件をきっかけに「ブッシュの戦争」、すなわちアフガニスタン戦争とイラク戦争にすべての力を注いだ。それゆえアメリカは東アジアという巨大な戦略地図の要衝に力の空白を生じさせてしまった。このためオバマ大統領は、2009年11月に東京で、「東アジアの地でアメリカのリーダーシップを取り戻す」と演説し、このほどオーストラリア議会でも、「安全保障の重点をアジア・太平洋に移す」と初めて明確に表明した。超大国アメリカの東アジアへの回帰といっていい。

また、クリントン国務長官は翌10年9月に尖閣諸島問題が発生した時に、「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用範囲と考えている」と表明。いち早く日本の領土である尖閣諸島を日米同盟の守備範囲だと言い切った。さらに、クリントン長官は今年11月のForeign Policy誌に「America's Pacific Century」と題する論文を投稿し、「今後の国際政治はアジアが担う。過去10年、アメリカはアフガニスタンとイラクにすべての力を注いできた。アメリカのリーダーシップを維持し、国益を守るため、次の10年はアジア太平洋地域に外交・経済・戦略上の重点を置く」と表明している。

アジア重視を打ち出すアメリカにとって、本来、日本は最重要の要石となるべきだ。しかし、日本は普天間基地の移設問題などでつまずき、同盟の信頼性を損なってしまった。アメリカは、アジア・太平洋地域の大切なパートナーを日本からオーストラリアに切り替えつつある――。少なくとも日本側はそう受け取っておいた方がいい。

■ TPPの意義

アメリカが推進役を果たしているTPP(環太平洋経済連携協定)に関しては、中国が「招待されていない」と発言し、これにアメリカ通商代表部のカーク代表は、「招待状を待つ必要はない」と切り返している。

中国は、当面はTPPに参加しないだろう。その一方で、中国を扇の要に見立てて、「ASEAN+6」を新たな自由貿易のよりどころにしようとしている。21世紀の半ばには、貿易決済を元建てでと構想しているのだろう。

北朝鮮が日本にミサイルを発射したら、アメリカは迷わず日米同盟に基づいて海兵隊を急派するだろう。これほどに安全保障面でアメリカの傘に頼りながら、TPPではアメリカと行動を共にしないという選択肢など現実にあり得るだろうか。日本が置かれた冷厳な環境を直視すべき時だ。

【総務本部】
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