御手洗会長
月刊・経済Trend 2008年6月号
巻頭対談

洞爺湖サミットに向けて

福田総理
日本経団連会長
御手洗冨士夫
みたらい ふじお
内閣総理大臣
福田康夫
ふくだ やすお

G8サミットがいよいよ来月、北海道の洞爺湖で開催される。G8議長国としてどういった議論を主導していくのか、福田総理に抱負や意気込みを伺うとともに、今後のわが国のさらなる発展に向けた課題について、福田総理、御手洗会長が対談した。

●洞爺湖サミットに向けての抱負

御手洗

来る7月、北海道洞爺湖サミットがいよいよ開催されます。日本は議長国として議題を取りまとめていく立場にありますが、福田総理に会議に臨まれる抱負をお伺いしたいと存じます。

目指すは「全員参加型の国際協力」

福田

G8サミットは、民主主義、資本主義経済といった基本的価値と責任を共有する主要国の首脳が一堂に会し、その時々の喫緊の世界的課題について率直な意見交換を行い、リーダーシップを発揮していく場です。今年は第34回目のサミットであり、日本は今年1月より5回目の議長国を務めています。
国際化と相互依存が進む世界では、もはや一国だけではいかなる地球規模の問題も解決することはできません。地球温暖化や開発問題、テロ対策や不拡散などといった地球規模の課題に、われわれは待ったなしの解決を迫られています。日本は、G8議長国として、これらの問題の解決に向けた処方箋を求める国際社会の期待に応えなくてはなりません。
その中で、洞爺湖サミットにおいて日本が目指すのは、一言で言えば、21世紀型の国際協力、「全員参加型の国際協力」です。主要国同士の連携を強化していくことはもちろん、新興経済国をはじめとする各国政府、経済界、学界、NGOなどとも問題意識を共有して、それぞれの持てる力を合わせて協力を進めていきたい。そうした過程において、日本は、G8議長国としての指導力を発揮したいと考えています。
サミットの会場となる洞爺湖は、10万年前の火山活動でできたカルデラ湖であり、周辺には豊かな自然が残っています。美しい環境に恵まれた洞爺湖において、G8として世界に向けて力強いメッセージを打ち出せるよう、主要国の首脳との議論を深めていきたいと思います。

洞爺湖サミットでは地球規模の課題解決に向けて議論を

共同声明を福田総理に手渡す御手洗会長
(4月17日、官邸にて)
御手洗

経済界では、その洞爺湖サミットに先駆けて、4月17日に東京でビジネス・サミットを開催しました。G8各国・地域から11の経済団体代表が、限られた時間ではありましたが、世界経済の持続的成長のために取り組むべき課題に関し、活発な意見交換を行いました。その成果は、「世界経済の安定と成長の確保」「イノベーションの促進と保護」「地球温暖化への対応」「貿易・投資の自由化促進」「経済成長を通じた開発問題の解決」の五つの課題ごとに取りまとめ、共同声明として発表しています。
この共同声明はビジネス・サミット当日、参加者全員で福田総理にお渡しし、洞爺湖サミットでは、ぜひ、われわれ経済界のメッセージを、優先的に検討していただきたいとお願いいたしました。改めて感謝申し上げます。グローバル化がかつてない規模と速度で進んでいる中で、各国政府が協力して、企業のグローバルな事業展開を支える基盤づくりの推進や地球規模の課題解決に向け、活発にご議論いただきたいと思います。

ビジネス・サミットでの議論、メッセージはとても意義がある

福田

世界経済の安定も地球温暖化問題への対応も、経済界に直接影響のある課題です。そうした課題について、経済界のリーダーである皆さんが世界各国から集まって主体的に議論し、一致したメッセージを発信されたことは大変に有意義であったと思います。政治のリーダーであるわれわれがそうした声をしっかりと受け止め、手を携えて未来に向かって進んでいけるように、今度は洞爺湖サミットで方向性を示さなければならないと考えています。

●地球温暖化問題に対する日本の取り組み

御手洗

気候変動問題、つまり地球温暖化については世界共通の課題であり、洞爺湖サミットの議題の中でも大きな注目を集めていますが、この議題に対して総理はどのようなことを提唱されるお考えでしょうか。

地球を Low Carbon Planet にする先導役を果たしていきたい

福田

気候変動問題は、洞爺湖サミットにおいて最大のテーマとなる見通しです。この問題の解決には、世界全体としての排出削減を実現する実効性のある国際的枠組を構築することが急務です。私は「クールアース推進構想」の中でそうした枠組構築に向けた議論を主導すべく、本年1月に三つの重要な提案「ポスト京都フレームワーク」「国際環境協力」および「イノベーション」を行いました。
まずは、世界の温室効果ガス排出を今後10〜20年にピークアウトし、2050年までに少なくとも半減しなければならないとIPCC(注)が警告しており、国連にその方策を検討するように要請しました。そして、主要排出国とともに今後の温室効果ガスの排出削減について、「国別総量目標」を掲げて取り組む姿勢を初めて明らかにしました。この目標策定に当たり、削減負担の公平さを確保するため、エネルギー効率などをセクター別に割り出し、今後活用される技術を基礎として削減可能量を積み上げることを提案しています。
次に、世界全体で2020年までに30%のエネルギー効率の改善を世界が共有する目標とすることを提案しました。わが国は第一次石油危機に直面して以来省エネに取り組み、成長と環境の両立を実現してきており、提案はこの経験に根ざした政策です。
さらに、気候の安定化に貢献しようとする途上国に対する支援として、100億ドル規模の新たな資金メカニズム(クールアース・パートナーシップ)を構築することを表明しました。今後とも、クールアース・パートナーを増やすべく努力していきます。
また、革新技術の開発と低炭素社会への転換を加速するため、今後5年間で300億ドル程度の資金を投入することとしました。まずは日本自身のあらゆる制度を根本から見直すための検討に着手し、地球を Low Carbon Planet にする先導役を果たしていきたいと考えています。
日本はこの構想への理解を得るべく、各国への精力的な働きかけを行っています。洞爺湖サミットでは、すべての主要排出国がより責任ある形で参加する実効性のある枠組づくりに向けて、すでに開始されている国連での交渉プロセスを後押しするような成果を目指すべく、リーダーシップを発揮していく考えです。

(注)IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル):
国際的な専門家で組織され、地球温暖化についての科学的な研究の収集、整理等を行う政府間機構

ポスト京都議定書に向けた経済界の期待
〜すべての主要排出国の参加、セクトラル・アプローチ、公平な国別総量目標、イノベーションの推進

御手洗

ポスト京都議定書の国際枠組について、政府からは、すべての主要排出国の参加、各国の事情に応じた柔軟性と多様性の確保、環境と経済成長の両立、公平な国別総量目標の設定等を提案いただいており、日本経団連といたしましても、こうした日本政府の方針を全面的に支持いたします。
温暖化問題は地球規模の課題であり、また、京都議定書において削減義務を負う国のCO2排出量は世界全体の排出量の3割に過ぎず、その割合は年々減少していく見通しであることを考えると、ポスト京都議定書の国際枠組には、すべての主要排出国の参加が何より大切です。
そのためには、現在わが国産業界がアジア太平洋パートナーシップ(APP)で行っているような、ベンチマークを設定し、途上国の技術支援を行うセクトラル・アプローチは有効な手段です。この点、G8ビジネス・サミットでも、先進国の経済団体首脳の合意を得たところです。
また、多くの国の参加を得るためには、公平な国別目標が設定される必要があります。そうでなければ、多くの国が長期に協力して取り組むことは不可能です。公平さを確保するためには、総理がダボスで提唱された、セクター別の積み上げ方式が有効であると考えております。京都議定書では、「積み上げ方式」ではなく、政治的な妥協によって削減のための方策に言及がないままトップダウンで削減率が決められました。その結果、主要な排出国が批准しないとか、目標達成をあきらめるなど、実効性に欠けるものとなったのです。ポスト京都議定書ではこうした失敗を繰り返すことがあってはなりません。
一方で、長期的にみてもっとも重要なのはイノベーションの推進です。総理のお話にもありました、温室効果ガスの「2050年世界半減」の実現ですが、たとえ先進国の排出量をゼロとしたとしても、途上国においても60%の削減が必要との試算があります。このような大幅な削減は、現在の技術だけでは達成不可能であり、革新的技術を開発し、それを普及させていく必要があります。
洞爺湖サミットでは、すべての主要国の参加を得るために、セクトラル・アプローチの重要性や公平な国別目標の設定方法について合意が形成され、また、イノベーション推進のための具体的方策について、意見の一致が見られることを期待しております。

技術開発は気候変動対策の鍵

福田

技術は気候変動対策の鍵ですね。サミットでは、各国独自の取り組みを集約し、技術開発に必要なロードマップの作成に向け、国際協力イニシアティブの立ち上げを目指したいと思います。

御手洗

洞爺湖サミットが実り多いものとなることを期待しております。

●日本のさらなる発展を実現するために政治と経済界が取り組むべき課題

御手洗

さて、ねじれ国会の困難な政治状況の中で、総理も何とか改革を推進しようとご苦労なさっていますが、日本のさらなる発展に向けた方針・政策についてお聞かせ下さい。

「自立と共生」を基本理念に「国民一人一人の目線」に立って改革を推進

福田

わが国の経済制度や構造は、戦後の持続的な人口増加と高い経済成長を前提としたものとなっており、高齢化や急速なグローバル化などの状況に対応しておりません。また、人々が変化やリスクを回避し、成長分野にヒト、モノ、カネが円滑に移動せず、先端分野への投資も活発でないために、わが国は、世界経済の変化に取り残され、競争力を失いつつあるという状況にあります。
これらの課題を乗り越え、「希望と安心」の国をつくっていくためには、日本の将来を見据えた改革を、「自立と共生」の考えを基本理念とし、「国民一人一人の目線」に立って進めていかなければなりません。そこで、国民生活に真に必要な分野の財源を確保するために、ムダ・ゼロの政府を目指した公益法人の集中点検の実施等や、2011年度までの国・地方の基礎的財政収支黒字化の確実な達成など徹底した行財政改革の断行、将来にわたり持続可能で皆が安心できる社会保障制度の整備に向けた社会保障国民会議等における議論が必要です。また、他国の追随を許さない技術を持ち続けることを目指す「革新的技術創造戦略」、日本を世界により開かれた国とし、アジア、世界との間のヒト・モノ・カネ・情報の流れを拡大する「グローバル戦略」、雇用拡大と生産性向上を同時に実現し、すべての人が成長を実感できるようにする「全員参加の経済戦略」からなる経済成長戦略の実施等に取り組んでまいります。
なお、これらを「基本方針2008」に盛り込み、内閣として着実に進めてまいる所存です。

改革のスピードアップを

御手洗

今後とも国民が豊かな生活を維持していくためには、やはり経済が成長し、全体が拡大していかなければなりません。海外では、国を挙げて各国が経済を強化し、高成長につなげていこうと懸命に取り組んでいます。諸外国との熾烈な競争に打ち勝つためにも、改革は必須です。その改革により世界をリードする高度な技術力や、優れた人的資本など、わが国が持つ「強み」を最大限に強化していくべきではないでしょうか。
このような観点から、本年1月に日本経団連は「成長創造〜躍動の10年へ〜」を発表し、躍動する日本経済を築き上げるために、イノベーションの促進やEPA・FTA(経済連携協定・自由貿易協定)の締結促進、道州制の導入などを重要政策課題として掲げました。すでに成果は結実しつつあり、アジア諸国を中心とするEPAの拡大や、道州制導入の気運も全国レベルで盛り上がっています。また、減価償却制度の大改正やイノベーションの促進に資する研究開発税制の拡充も実現に至りました。
私も日本経団連の会長として二期目となります。喫緊の課題である税財制・社会保障制度改革はもちろん、民間や地域の活力を最大限に引き出して持続的な経済成長を確保するために、世界最先端の電子政府・電子社会の構築のみならず、国際的な技術連携でイノベーションを加速したり、主要国とのEPA締結を通じてグローバル化のメリットを活かすなど、改革の実現に全力を挙げて取り組みたいと考えております。課題は山積しており、国民が希望溢れる未来を見据え、安心・安全な生活を送ることができるよう、改革のスピードを上げることが不可欠です。明確な目標を国民と共有しつつ、自らが行動して改革の牽引役となるという気概を持って、責務を全うする所存です。
福田総理には、日本経済の持つ潜在力を最大限引き出して国際競争力を強化するためにも、ぜひ改革を断行し、経済環境の整備を進めていただきたいと存じます。また、日本経済、国民一人一人の将来のために、今後とも引き続き、リーダーシップを発揮されますよう、ご期待申し上げております。


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