G8ビジネス・サミット共同声明

〔仮訳(英文正文)〕
2008年4月17日
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輸送・通信技術の飛躍的な発展、金融市場の近代化、貿易・投資の促進につながる各国における規制緩和などを背景に経済のグローバル化がかつてない規模と速度で進行している。同時に、エネルギー、原材料や食料に対する需要の増大が経済社会に大きな圧力となっており、依然として課題は残っている。地球温暖化問題は緊迫の度を増している。さらに、不安定な金融市場の動きは政策担当者、投資家、消費者に新たな問題をもたらしている。

このような中、ボーダーレスに事業を展開する企業にとって、ヒト、モノ、資本、サービス、知識の自由な移動が確保され、繁栄を享受できるような信頼性の高い枠組みを提供するシームレスな経済環境の実現が求められる。そのため、われわれは、各国政府に対し、G8各国間だけではなく、より広範に地球的規模での協力を要請するものである。このような協力の一環として、WTOドーハ・ラウンドについて年内に野心的な合意に達することが重要であり、この機会を逃してはならない。

以上のような背景の下、2008年4月17日、われわれG8各国の主要経済団体首脳は、昨年のベルリンに続いて東京で第2回G8ビジネス・サミットを開催し、「イノベーションを通じた競争力の強化」、「地球温暖化への対応」、「世界の成長センター アジアとの連携」について意見を交換した。

以下は、それらを含む世界経済が直面する課題について、われわれの考え方を取りまとめたものである。来る7月、北海道洞爺湖に集結するG8政府首脳が、われわれの提言を優先的に検討するよう求めるものである。グローバルな課題の解決にますます重要な役割を担うことが期待される新興国に対しても、以下に掲げる考え方、方向に沿って行動するよう要請するものである。われわれ経済界としても、これらの目標を達成すべく、自らの役割を果たしていく所存である。

1.世界経済の安定と成長の確保

われわれが1年前にベルリンで第1回のG8ビジネス・サミットを開催した時に比べ、世界経済の見通しはより不透明となっている。国際金融市場の混乱が、原油や一次産品の価格高騰や為替レートの急激な変動と相俟って下振れリスクをもたらしている。好調な新興国経済もこれらの影響から免れることはできない。
われわれは、世界経済の運営において指導的な地位を占めるG8諸国が従来以上に緊密に協調することによって、世界経済の安定に寄与し、力強い成長に向けて努力するよう要請する。各国政府首脳には、とりわけ次の点に配意願いたい。

2008年、2009年と世界経済は減速する見通しであり、不透明感は増しつつあるが、長期的には回復力を有している。以下に示す課題にG8各国が協力して取り組めば、各国経済は成長を続けるであろう。

2.イノベーションの促進と保護

環境、エネルギー、医療、貧困などの地球規模の課題を解決しながら世界の持続的成長を実現するためには、イノベーションの推進・強化が不可欠である。こうしたイノベーションの主たる担い手は企業であり、ブレークスルーをもたらすイノベーションへの投資リスクを安心して負えるような環境整備が必要である。また、イノベーションを創出する上では、国、地方における省庁の枠を超えた支援と、産・学・官・市民社会の国際的な連携も重要となる。
各国はイノベーションの創出プロセスの強化に向け、科学技術予算の拡充、産学連携の促進、研究開発税制の拡充、高等教育に対する支援を含む人材育成の強化等を更に推進していくべきである。また、社会がイノベーションの成果を享受するためには、規制改革、公共部門の改革、公共調達など科学技術以外の分野の政策も併せて推進すべきである。
同時に、オープン・イノベーションの時代においては、人材の交流、ネットワーク化等によって知・技術の融合を促すことが重要である。しかもこうした協働は組織・国を超えて行われる必要がある。G8諸国は、そのための協力を強化するとともに、途上国がオープン・イノベーションの一翼を担うことができるようキャパシティ・ビルディングへの支援を進めるべきである。
また、イノベーションを促進させるためには、知的財産権の保護と執行が重要である。知的財産権に係る実効性の高い枠組がなければ、自主的な技術移転を促進することはできない。G8諸国は、模倣品・海賊版に対抗すべく世界的な知的財産権の保護と執行の強化とともに、途上国におけるキャパシティ・ビルディングへの協力を推進すべきである。
模倣品・海賊版対策のための強固な国際的な枠組みを構築すべく、模倣品・海賊版拡散防止条約を入念に制度設計し、正式交渉を開始するとともに、産業界との緊密な協議を行いつつ、早期成立を目指すよう求めるものである。また、特許のハーモナイゼーションに向けたG8諸国のこれまでの努力を歓迎するとともに、進歩性、新規性など特許付与の要件や先願主義、グレースピリオドの調和に関する議論の進展を求める。

3.地球温暖化への対応

地球温暖化は、今日の世界が直面する最も深刻な課題のひとつである。温暖化は、原因、影響の両面において地球規模の問題であり、温室効果ガスの排出削減のため、全世界の協調した行動が求められる。すべての国が、排出削減のための効果的な対策を長期にわたって講じる必要がある。この分野における国際協力は、経済発展と、信頼でき十分な量を確実に確保できるエネルギー供給へのアクセスを保障し、先進国および途上国における温暖化の影響への適応という課題にも対応しつつ、意味ある排出削減を達成するものでなければならない。
地球規模での参加と、各国の事情に応じた多様なアプローチでのすべての主要排出国による気候変動問題へのコミットを求めたハイリンゲンダム・サミット同様、G8は、気候変動の国際交渉において、主導的な役割を果たすことができる。われわれは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議第13回会合(COP13)において、「バリ・アクション・プラン」が採択され、2013年以降の気候変動問題へ前向きに対応するため、すべての主要排出国が参加する枠組を検討する目的で作業部会(条約下の長期協力の行動に関するAd hoc Working Group)が設置されたことを歓迎する。また、排出削減のためのブレークスルーと長期にわたる改善を達成するための極めて重要な前提条件として、技術に関する行動を促進することについて明確な意思表示がなされたことに満足している。
G8ビジネス・サミットは、ポスト京都議定書の国際枠組において、以下の点を求める。

  1. 1) すべての主要排出国の参加
  2. 2) 地球規模の長期削減目標を含む長期的な協調行動のための共有できるビジョンの検討
  3. 3) 温室効果ガスの削減方法について各国に適した柔軟性と多様性の確保
  4. 4) 環境、エネルギー安全保障、経済の適切なバランスの確保
  5. 5) 削減措置に関する主要排出国間の公平性の確保

北海道洞爺湖サミットでは、このような観点から、バリ・アクション・プランやバンコク会合での議論の進展を踏まえた国際交渉を促進させる重要な契機となるような結論が得られるべきである。
具体的には、洞爺湖サミットにおいて、以下の点について、前向きな合意形成がなされることを期待する。

  1. 1) セクター毎の事情や経済状況への配慮、各セクターや経済への影響、優れた科学的知見、各国の事情を踏まえた透明で測定・検証可能な方法で、かつ、費用対効果の良いエネルギー効率改善方法に基づく公平で比較可能な排出削減の検討
  2. 2) ポスト京都議定書の国際枠組に対する途上国の参加に資する、データの収集・共有を含むアジア太平洋パートナーシップ(APP)のような協力的セクトラル・アプローチの更なる進展の促進
  3. 3) 国際的連携ならびに海外での直接投資や事業活動を促進するための改善された枠組の下での革新的な低炭素技術の開発・普及の促進
  4. 4) 途上国における排出抑制・省エネ・気候変動の影響への適応への努力を支援することができる二国間・多国間の資金メカニズムの確立
  5. 5) 技術の普及や協力を促進する知的財産権の保護・法の支配の確立
  6. 6) 環境に優しい財・サービスに対する障壁の無差別な撤廃
  7. 7) 適切なインセンティブによる途上国への自発的な技術移転の促進

UNFCCCの場での交渉や、G8、APEC、米国主催の主要経済国会合といった重要な会合で行われる交渉において、より高い頻度で実質的に行われる政府と経済界の間での対話が、重要な部分となり通常の構成要素とならなければならない。
経済界からの直接のインプットを伴う十分な情報に基づいて包括的な検討を行うことは、地球規模の気候変動の影響に対する懸念やそれらの影響に適応するための効果的で長期にわたる世界的で、かつ、現実的なアプローチに関し、政策担当者が合意に達するのに不可欠なものである。
気候変動に関する研究は、特効薬のような単一の技術によって気候変動問題が解決できるのではなく、既存の、あるいは、確立されつつある技術の幅広い普及が重要であることを示している。G8政府は、経済界と協力し、低炭素技術への投資とともに、一層求められる研究開発を促進・推奨するよう政策協調を行うことが極めて重要である。
経済界は、気候変動問題に対し、引き続き以下の通り取り組んでいく。

  1. 1) 温室効果ガスの削減
  2. 2) 省エネ製品・革新的技術の研究開発・普及
  3. 3) 通常の商業取引を通じた途上国への技術移転
  4. 4) 土地利用・土地利用の変更・植林への取組みの支援
  5. 5) セクトラル・アプローチに関する取組みへの自主的な協力とセクトラル・アプローチの利益と役割に対する理解の増進の支援
  6. 6) 可能な範囲における気候変動への影響を最小化する調達・投融資慣行の促進
  7. 7) 気候変動分野における経済界の取組みに資する原則に関する検討
    付属文書「低炭素社会の構築に向けた経済界の取組みのための原則に関する考え方(一次的整理)」参照)

経済界が上記のような取組みを行うため、われわれは、G8政府に対し、イノベーションのための投資資源を別に流用させるようなバランスを失した政策措置を講じることにより産業に不当な負担を課すのではなく、産業の競争力が確実に維持されるような環境を整備するよう求めるものである。

4.貿易・投資の自由化促進

開かれた貿易・投資体制を維持することは、世界経済の成長と繁栄にとって引き続き重要である。各国政府は高まる保護主義の政治的圧力と闘う決意を新たにすべきである。
WTOドーハ開発アジェンダ(DDA)交渉が成功裡に妥結することは、世界経済にとって、また、ルールに基づく多角的な体制の強化にとって死活的に重要である。G8およびWTO主要加盟国の指導者は、DDA交渉の年内妥結に向けて指導力を発揮し、政治的決断をしなければならない。年内に妥結するためには、農業および鉱工業品のモダリティならびにサービス貿易の自由化、について、できる限り早期に合意し、これら3分野において大幅な市場アクセスの改善を実現するとともに、ルールの強化および貿易の円滑化についても合意しなければならない。交渉が失敗に終われば、すべてのプレーヤーが敗者となる。われわれは、ロシアのWTO早期加盟を支持する。
自由貿易協定は、その内容が包括的で実質的にすべての貿易をカバーするものであれば、多角的な貿易自由化に資するものであり、その障害とはならない。世界経済の発展にとって、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ等の持続的な成長は不可欠である。これらの地域において、世界に開かれた形で経済統合を深化させていくことは、これら地域の潜在力を引き出す基盤となる。
投資の自由も持続的成長と長期の繁栄を確保にするにあたって不可欠である。海外直接投資は、競争とイノベーションを促進するものであり、世界の多くの地域の経済発展に重要な役割を果たしてきたし、そうあり続けるであろう。
近年、ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)は数、規模の両面で拡大している。SWFには、多数の投資家から集めた資金を運用するプライベートファンドとは異なる性格を持つものがあるが、関係者すべてを平等に取り扱うため、世界的規模の投資機関に相応しいリスク管理体制を持つべきであり、説明責任と透明性をもって民間と公正に競争することが求められる。IMFは、SWFの透明性と説明責任を高めるためにベストプラクティスと自主行動規範の策定に取り組んでおり、OECDは、投資受入国における開放性に関するベストプラクティスの策定に取り組んでいる。G8諸国は、外国からの投資に対し新たな障壁を築くのではなく、これら多国間の努力を支持、促進すべきである。

5.経済成長を通じた開発問題の解決

貧困削減のためには、途上国自身の持続的な経済成長が前提となる。経済成長の主な原動力は民間の経済活動である。民間部門の活動なくして、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成は覚束ない。
アフリカを含むいくつかの途上国は成長を遂げているものの、それ以外の国々は、経済インフラの未整備、教育や医療の不足、政府のガバナンス不足、汚職、貧困層の存在などを原因とする深刻な課題に引き続き直面している。これらの国々に対しては、引き続き直接的な公的支援が必要である一方、官民パートナーシップ実施のための枠組の整備・拡充や途上国への投資に関するインセンティブの付与などによって、民間部門の経済活動を促進することが極めて重要である。また、これら途上国の官民の人材育成についても、民間部門が貢献できる余地は大きい。
われわれは、民間部門の力を活用することが、開発問題を解決し、貧困を削減するための最も有効かつ実現可能な手段のひとつであると確信する。
また、われわれは、G8各国政府に対し、新興国と開発問題に関する対話と協力を積極的に進めるよう要請するとともに、人権、法の支配、腐敗防止、環境保護などに関する国際的に認められた規準を浸透させるよう求めるものである。

以上

付属文書:低炭素社会の構築に向けた経済界の取組みのための原則に関する考え方(一次的整理)

気候変動は、今日の世界が直面する最も深刻な課題のひとつであり、緊急の取組みが求められている。
G8ビジネス・サミットは、気候変動問題に対応する努力の一環として、低炭素社会の構築に向けた経済界の取組みのための原則について、一次的な意見交換を行った。

1.事業活動における努力

  1. (1)省エネ技術・プログラムの積極的な導入により、事業活動における温室効果ガスを削減する。
  2. (2)グループ会社との輸送の共同化や低公害車の使用、最も適切な輸送手段の選択などによって低環境負荷の輸送体制を確立するよう努力する。
  3. (3)省エネのための数値目標の設定や高エネルギー効率の建物へのグレードアップなどを通じたオフィスにおける気候変動対策に積極的に取り組む。

2.報告・記録による取組みの前進

  1. (1)排出削減やエネルギー効率の向上における改善の測定・報告を推進する。
  2. (2)排出削減等の気候変動対策の開示を促進する。
  3. (3)セクターや企業の状況に応じた気候変動問題に対応する取組みや目標の設定を奨励する。
  4. (4)気候変動への取組みの度合いや目的に応じて行われているかどうかをチェックするために社内の各部門と協力する責任と権限を有する全社的な気候変動担当者を状況や必要に応じて設置する。

3.技術の活用

  1. (1)気候変動に対する産業界の役割を自覚し、省エネや気候変動分野における革新的な技術開発のための積極的な技術開発を行うよう努力する。
  2. (2)省エネ・気候変動防止技術や関連のノウハウについて、商業取引を通じて適切な形で内外に移転する。
  3. (3)省エネ製品・サービスを提供することにより、業務・家庭部門における温室効果ガスの削減に貢献する。

4.各種ステークホルダーとのパートナーシップ

  1. (1)調達や投融資に関する企業のニーズや関心を十分尊重したうえで、気候変動への影響が少ない調達慣行を検討し、環境負荷の少ない製品やサービスを提供する企業の成長を促進する投融資慣行を考慮する。
  2. (2)森林管理プロジェクトの実施などの気候変動問題に関連する社会貢献活動を実施する。
  3. (3)適切な自主的な排出削減プログラムや省エネプログラムに参加する。
  4. (4)二酸化炭素排出量を減らす活動や省エネに対する従業員の家庭における意識の向上に取り組む。
  5. (5)国際エネルギー機関(IEA)をはじめとする国際機関による研究や活動等、気候変動の因果関係に関する科学的研究や様々な対策の経済的分析に対して協力を行う。
以上

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