直嶋民主党副代表
月刊・経済Trend 2011年5月・6月合併号
鼎談

未来都市モデルプロジェクトが
日本の力を引き出す

米倉経団連会長
民主党副代表
成長戦略・経済対策PT座長
両院議員総会会長
直嶋正行
なおしま まさゆき
経団連会長
米倉弘昌
よねくら ひろまさ

経団連では、昨年12月、わが国の産業競争力強化に向けて「サンライズ・レポート」を取りまとめ、そのなかで、民主導による自律的成長の実現に向けた具体的方策として「未来都市モデルプロジェクト」を提案した。先の東日本大震災により未曾有の被害と混乱が発生するなか、被災地の復興を視野に入れつつ、あらためて「未来都市モデルプロジェクト」をテーマに議論いただいた。

中村経団連広報委員長
〈司会〉
経団連広報委員長
中村芳夫
なかむら よしお

東日本大震災への支援、復旧・復興への取り組み

中村

今回の特集テーマである「未来都市モデルプロジェクト」に関してお話しを伺う前に、先の東日本大震災について少し触れさせていただきたいと思います。
このたびの大地震により、大変大きな被害が生じています。経団連としても、米倉会長を本部長とする「東北地方太平洋沖地震対策本部」(注1)を3月14日に立ち上げて、会員企業・団体に対し被災地への支援を行うよう要請するなど、具体的な取り組みを進めているところです。
被災地では、いまだ救援活動が続いている状況ですが、同時に行われている被災者の方々への支援活動、さらには今後の復旧・復興の進め方などにつきまして、ご意見を伺いたいと思います。

(注1)政府が震災名を「東日本大震災」に閣議決定したことを受け、4月1日付で「東日本大震災対策本部」に改称

被災地の復興には第一次産業の立て直しが重要

直嶋

まず、震災で亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族の方に対し、お悔やみ申しあげます。また、被災者の方々には、心からお見舞い申しあげます。
われわれの想像を絶する規模の大地震、大津波に襲われた、未曾有の大震災であったと思います。あわせて、原子力施設における災害も発生したことで、より深刻な事態が生じていると認識しています。
1995年の阪神・淡路大震災と比較して、被災地域が青森から千葉までと広範囲にわたっています。市町村の集落がその広いエリアに点在しており、市町村役場や職員も被災したため、行政が事態を把握できず、機能していないところもあります。そのため、避難生活もある程度長期化する可能性があり、その前提に立って、生活再建支援を行うことが重要だと考えています。復旧・復興にあたっては、国や都道府県が積極的に関与していく必要があるでしょう。
津波の被害が大きかったことも考えなければなりません。災害廃棄物が大量に発生しており、水没した市街地・農地も広範囲にわたります。特に、農業・水産業の被害は甚大であり、第一次産業の立て直しが、この地域の復興にあたっては重要だと考えています。
また、福島第一原子力発電所については、災害をいかに抑え込むかが急務です。そのために全力を投じておりますが、これにめどが立たなければ、被災地全体の復旧・復興にも支障を来します。
さらに、日本経済全体に対するマイナスの影響も大きいといわざるを得ません。今後、電力供給不足など、経済に対し大きなマイナス要因となります。日本経済に明るい兆しがみえてきて、皆が先行きを期待していたときだけに非常に残念なことではありますが、なんとか乗り越えていかなければならないと思っています。

国民が一丸となって立ち向かえば必ず乗り越えられる

米倉

はじめに、今回の震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈り申しあげますとともに、被災された地域の皆様に心からお見舞いを申しあげます。そして、さまざまな現場で懸命に働いておられる自衛隊、警察や消防、自治体の方々、企業やボランティアをはじめとする民間の方々に、あらためて深い敬意を表します。
行方不明となっている方々の捜索、避難されている被災地の皆様の住居の手当て、がれきの撤去、道路や電気、ガス、水道等のライフラインの完全復旧など、復興に向けた道のりのなかで、解決しなければならない課題が山積しています。また、被災地とその周辺地域にある、自動車や家電、情報通信機器などの製品の重要な部品の生産拠点が大きな被害を受け、国内の他の地域や海外において完成品の生産がストップするという事態も生じることとなりました。復興をしっかりと進めていくためには、一次産業はもとより、工業生産や物流・流通機能を早急に立て直し、力強い経済活動を一日も早く取り戻さなければなりません。
福島第一原子力発電所については、依然として困難な状況が続いていますが、政府、官民が団結し、諸外国の協力も得ながら、わが国の総力を投入することにより、事態が早期に収束することを強く期待しています。
今回の大震災はまさに国難というべき事態です。全国民が力を合わせて、この難局を克服していかなければなりません。
経団連では、震災発生後いち早く対策本部を立ち上げ、被災地支援への協力を呼びかけるとともに、各県とのホットラインを設置して現地のニーズの把握に努めました。そして、日本郵船や全日本空輸の協力を得て、救援物資を届けるルートを海路と空路の両方で構築し、企業のサポートのもとで、被災地への支援物資の提供を行うなど、被災者救援に力を尽くしてきました。震災後、被災地でガソリンや灯油などが極端に不足する状況が続いていましたが、調査の結果、車両通行の許可取得の煩雑な手続きがその一因となっていることがわかりました。早速、手続きを簡単にするよう、警察庁に申し入れましたところ、例えばタンクローリーについてはインターチェンジ等の検問所で即時交付が可能となるなど、緊急通行車両確認標章(通行許可証)の交付申請がかなり簡素化され、支援物資の運搬の改善につながりました。今後も、復旧や復興にあたり必要な施策があれば、関係各所に申し入れを行っていきたいと考えています。
企業や団体が表明した義援金や寄付金は、すでに非常に大きな額になっています(1000億円、5月末日)。諸外国からは、義援金をはじめ、不明者の捜索、技術協力など、さまざまな支援が寄せられています。本当にありがたいことだと思います。こうした国を超えた温かい励ましや支援をいただきながら、私たち国民が力を合わせ一丸となって立ち向かえば、日本は必ずやこの危機を乗り越えて、復活を遂げることができると私は確信しています。

直嶋

義援金のこと、また、米倉会長にはいろいろとアドバイスを頂戴し、大変感謝しています。政府としては、民間の皆様の力を活用させていただき、早期の復旧・復興を目指したいと考えています。

中村

今後、被災地の復旧、そして復興に向けて、長い道のりとなると思われます。経済界としても、それぞれの段階において、被災者のニーズを踏まえて、きめ細かな支援を行っていきたいと考えています。そうした観点から、経団連では総合的な対応を行うべく、米倉会長を委員長とする「震災復興特別委員会」(注2)を新設し、関係委員会と連携しながら、政府・与野党をはじめとする関係方面への提言や働きかけを行ってまいりたいと考えております。直嶋先生には、一層のご指導をお願いしたいと思います。

(注2)同委員会は3月24日に設立。同31日に「震災復興に向けた緊急提言」を取りまとめ、公表した。

「新成長戦略」と「サンライズ・レポート」

中村

今回の大震災から立ち直り、国民生活の安定化を図るには、短期的な施策のみならず、中長期的に日本社会の姿を描き、目標を定めて具体的に取り組んでいく必要があります。
政府は、わが国の今後の中長期にわたる成長に向けて、昨年6月に「新成長戦略」を策定し、その実現に向けた取り組みを進めています。
経済界としても、政府の取り組みと連携しながら、自ら成長の担い手として行動を起こさなければならないと考え、それを具体化するためのプロジェクトとして「未来都市モデルプロジェクト」を実施することにいたしました。「未来都市モデルプロジェクト」では、政府の「総合特区制度」や「環境未来都市構想」も活用しながら、今後のわが国の成長を牽引するような先進的な取り組みを進めていきたいと考えています。
そこで、直嶋先生より、民主党の「成長戦略・経済対策プロジェクトチーム」の座長として、「新成長戦略」のねらい、そしてその実現に向けた状況につきまして、まずお話しいただけますでしょうか。

日本の弱みを強みに変えて経済成長を目指す

直嶋

過去20年、日本経済は停滞を続けています。少子高齢化が進行するなかで、社会保障の財源を確保し、国民生活の安定を図るためにも、停滞を続けるわけにはいきません。「新成長戦略」では、2020年までに、年率で名目3%、実質2%の経済成長を目標に掲げています。
ポイントは二つあります。一つは、世界の成長センターとなっているアジア各国の成長を後押しするなかで、その成果を日本経済に取り込んでいくということです。これについては、インフラ輸出、交易のさらなる振興、環境を中心とした日本の優れた技術の活用などの方策が考えられます。
もう一つは、日本の弱みを強みに変えるという視点です。例えば、環境問題です。経済的にみると大きなコストになるわけですが、コストとしてだけではなく、チャンスとしてとらえるならば、環境技術、省エネ技術に優れた日本の産業が活躍する可能性は大いにあります。環境分野に積極的に投資することにより、新しい産業が生まれ、雇用の創出にもつながります。
また、少子高齢化は難しい課題ではありますが、一方で、日本の介護制度、医療技術は、アジア諸国のなかでは最も進んでいるといっていいと思います。中国、韓国なども近い将来、少子高齢化が想定されているなかで、競争力のある日本の新しい産業として伸びていく可能性は大いにあります。
農業についても、グローバル化のなかで競争力が弱いと思われていますが、一概にそうとはいえません。「クール・ジャパン」といわれるように、日本の食文化に対する世界的な評価は高く、野菜や果物も安全やおいしさの面で評価されています。もっと産業として見直していけば、高い競争力を発揮できるでしょう。
さらに、観光振興によって、地域の潜在力を活性化させれば、十分経済成長に寄与すると考えています。
「新成長戦略」では、(1)環境・エネルギー、(2)健康(医療・介護)、(3)アジア、(4)観光・地域活性化、を重点四分野と位置付けていますが、これらを支える三つのプラットホームとして、科学・技術・情報通信の開発、雇用や人材育成、インフラ輸出などを支援する金融といったところを強化する戦略も掲げています。
この2011年度から、いよいよ実行段階に入ります。米倉会長にもメンバーに加わっていただいている「新成長戦略実現会議」において、産学官が連携をとって、具体的に政策展開していきます。特に、前半の四年間は重点期間として、急ピッチで政策を展開していきたいと考えています。すでに、予算だけでなく、法案も提出しております。震災の関係で後ろにずれることがあるかもしれませんが、できるだけ早期にこれを国会で通過させ、実行に移していきたいと思います。

中村

政府の「新成長戦略」に対応して、経団連におきましても、昨年12月に「サンライズ・レポート」を取りまとめました。米倉会長から、簡単にご紹介いただければと思います。

民間版成長戦略としての「サンライズ・レポート」

米倉

私は、企業が元気を出し、経済が成長して初めて、国民生活の向上や雇用の創出、持続可能な社会保障制度の確立や財政の健全化を実現できると考えています。バブル崩壊後の「失われた20年」ともいうべき状況の間に、経営者が「守りの姿勢」に入ってしまったことも、日本がこの閉塞感から抜け出せない要因の一つだと思っています。グローバル化が一段と進展するなか、日本が持続的に成長していくためには、経済界自らが知恵を絞り、新しいアイデアを次々に打ち出し、自信を持って果敢に行動を起こしていかなければならないと思います。
こうした思いから、経団連の副会長をはじめ関係委員会の皆様と議論を重ね、昨年12月に民間主導の競争力強化のアクションプラン、いわば民間版成長戦略として取りまとめたのが、「サンライズ・レポート」です。
天然資源に乏しい日本は、これまで「技術立国」を国家戦略として掲げ、高度成長を果たし、豊かな生活をつくりあげてきました。ますます熾烈さを増す世界の競争のなかで、日本が「日昇る国」として、力強い、持続的な成長を実現していくためには、自らの強みである優れた「技術力」と「人材力」に磨きをかけ、世界に先駆けてイノベーションを創出し続けていくことが欠かせません。
経団連では、地球温暖化をはじめ、エネルギー・資源の問題、人口減少や少子高齢化、安全・安心の確保といった、日本が直面している重要課題を革新的な技術によって解決していくことを通じて経済成長を実現するという「課題解決型イノベーションモデル」こそが、これからの日本にふさわしい、新しい成長戦略だと考えました。世界の多くの国々が近い将来抱えることになるであろう共通の課題に日本が先駆けて挑み、その解決モデルを確立して世界に展開することによって、自国のみならず国際社会全体に大きな貢献を果たす。同時に、課題解決への取り組みによってイノベーションを加速させ、さらなる経済成長を実現していく。こうした「課題解決型イノベーション」の創造サイクルが回るように、官民あげて取り組みを進めていく必要があると考えています。
こうした視点を踏まえて、「サンライズ・レポート」では、「未来都市モデルプロジェクト」「資源確保プロジェクト」「人材の育成・活用プロジェクト」の三つを柱に掲げ、22の具体的なプロジェクトを推進することにしています。
先ほど申しあげた「課題解決型イノベーション」を、実際にみえるかたちで実行していくのが「未来都市モデルプロジェクト」です。このプロジェクトでは、全国12の都市や地域で、環境・エネルギー、ICT、医療、交通、農業などの今後の成長分野において、さまざまな企業が持っている高度な技術やサービスの実証実験を行い、革新的な技術やシステムを開発するとともに、教育・子育て支援、観光振興などの取り組みも含めて、安心で安全な生活の実現を目指していきます。
一方、資源の多くを輸入に依存する日本は、世界的な需給の逼迫によって、経済活動が深刻な影響を受けるおそれがあります。「資源確保プロジェクト」では、経済社会システムの持続可能性を確保するため、次世代バイオ燃料の実用化やレアアースのリサイクルといった資源確保策に取り組んでいくこととしています。
さらに、日本の国際競争力を強化するうえで、イノベーションの担い手となる人材や、グローバルなビジネスの現場で活躍する高度人材の育成は不可欠です。「イノベーション立国」の推進を支え、国際的に活躍できる人材を企業と教育現場が連携し、育成していくとともに、多様性に富む経済社会の実現を目指して、企業における外国人留学生や高度外国人材の活用を推進していきたいと考えています。

成長戦略としての「未来都市モデルプロジェクト」

中村

「未来都市モデルプロジェクト」は、「サンライズ・レポート」の中核に位置付けられるものですが、これまでの検討成果を取りまとめるかたちで、3月7日に最終報告を公表いたしました。ここで、未来都市モデルプロジェクトとはどのようなプロジェクトなのか、そのねらいやポイントにつきまして、米倉会長からもう少し詳しくご説明をお願いいたします。

先端技術の融合で課題解決を通じた成長を実現

米倉

「未来都市モデルプロジェクト」では、それぞれ概ね2年から5年の期間で実証実験を行います。「低炭素・環境共生」「先端医療・介護」「次世代交通・物流システム」「先端研究開発」「次世代電子行政・電子社会」「国際観光拠点」「先進農業」「子育て支援・先進教育」の8分野のなかから複数のメニューを組み合わせて、全国各地で取り組んでまいります。
例えば、愛媛県西条市では、住友化学や西条市などが連携して先進農業、先進教育の取り組みを実施していきます。具体的には、GPS(全地球測位システム)を使って、農機や無人ヘリコプターの自動運転を行うほか、農薬や肥料の精密散布を進めていきます。さらにICTを使った農作物の生産や、トレーサビリティー(追跡可能性)や工程管理のシステム化による農産物流通の革新を目指します。TPP(環太平洋経済連携協定)をはじめとする経済連携協定の推進に向けて国内農業の構造改革と強化が求められるなかで、このプロジェクトが、日本の農業の成長につながることを期待しています。
また、千葉県柏市では、三井不動産、日立製作所、柏市などが連携して、日本の未来を先取りする先進的なまちづくりを行っていきます。具体的には、最先端の省エネ技術を使って、低炭素コミュニティーの形成を図るとともに、健康管理の「見える化」や在宅医療・介護の連携などにより、安心と健康を実現する居住システムをつくっていきます。さらに、地域住民の資金や知恵を活用してまちづくりを地域で自立的に行うとともに、地域発のベンチャー企業を育成する仕組みを構築します。
このほか、福島県南会津地域では、高齢化が進む過疎地域において、NTT東日本や檜枝岐村(ひのえまたむら)、医療機関などが連携して、ICTを活用した医療ケアサービスを進めていきます。遠隔診療などにもつながるこうした取り組みは、今回の震災のような非常時にも、大きな力を発揮することになると思います。また、愛知県豊田市では、トヨタ自動車や豊田市が中心となって、最先端の「創エネ」「省エネ」「蓄エネ」機器やシステムを装備した住宅を実際に分譲して効果を検証するとともに、ITS(高度道路交通システム)や次世代自動車を活用した次世代交通システムの導入、プラグインハイブリッド車や電気自動車に蓄電した電気を災害時などに商業施設や公共施設で利用する実証も行う予定にしています。
こうした実証で得られた成果をパッケージ化して、より付加価値を高め、広く国内外に展開できればと考えています。日本が得意とする最先端の技術やシステムを活用することで課題の解決を図りながら、その解決モデルを国内はもとよりアジアをはじめとする海外市場にも積極的に展開して、新たな内需を創造し、外需も取り込んでいく。そうしたかたちで、このプロジェクトが日本の新たな経済成長の実現につながっていくことを期待しています。

「新成長戦略」と「未来都市モデルプロジェクト」の連携を

直嶋

日本が成長していくためには、民間の経済活動が活発でなければなりません。民間主導で、例えば、低炭素社会の実現などの新しいテーマに取り組まれていることは、時宜を得たものであり、大変期待しております。
成長戦略を検討した際も、日本をどういう国家にしていくのかという議論がベースにありました。一つの目標として、日本社会が抱えるさまざまな課題の解決を目指すなかで、新たな需要と産業、雇用等を創出する「課題解決型国家」があります。
例えば、環境、少子高齢化といった課題を克服するために、技術、制度、サービスなどの面で新しいまちづくりを行い、一つの地域を活性化させ、さらにその地域全体を輸出パッケージとして各国政府との連携を図る、という構想も持っています。その意味で、経団連の「未来都市モデルプロジェクト」は、非常に重要なケースになるだろうと注目しています。
国としても、「総合特区制度」あるいは「環境未来都市構想」などの議論を進めてきており、すでに準備段階に入っていますが、これらと「未来都市モデルプロジェクト」がうまくリンクし、統合されていくと、さらに良いものになっていくのではないでしょうか。
特に、民間が新しいことをやろうとする場合、税制などでインセンティブも必要になってくるでしょう。そうした部分で、国が果たす役割があると考えています。

「総合特区制度」や「環境未来都市構想」との連携

実りある「総合特区制度」実現に政治のリーダーシップを

米倉

「総合特区制度」は、特区指定された地域に対して、規制緩和、税制、財政、金融上の措置をいわば“フルパッケージ”で実施する、これまでにない斬新な施策です。わが国の産業の国際競争力を強化するための有効な手段として大いに期待しています。
「未来都市モデルプロジェクト」では、全体として、50の規制・制度改革、28の税制措置、32の予算措置、9の金融措置を提示しています。12のプロジェクトのうち7つが、2011年度に「総合特区制度」への申請を予定しています。
しかし、特区に指定されても、関係する規制についての特例が認められなければ、事業の推進自体が難しくなります。現在、総合特区法案で掲げられている規制緩和措置は限定的で、対象の拡大が不可欠だと考えています。特区に指定された区域においては、事業の推進に必要不可欠な規制の特例措置が確実に講じられることを、制度上担保していただきたいと思います。例えば、「未来都市モデルプロジェクト」のなかでは、遠隔での医療・介護サービスの実施や処方箋の薬局への電子送付、薬剤の宅配サービスなどを検討しております。こうした仕組みや試みは、医師が不足している被災地においても、有効な方策だと思いますが、いずれも現状では規制によって実現が難しい状況にあります。今後、ぜひともこうした規制の緩和を早急に進めていただくようお願いしたいと思います。
また、「未来都市モデルプロジェクト」のなかには、特区申請を行うまでにいましばらく時間を要するものもありますので、第二次、第三次といった追加の募集もできるようにしていただきたいと思います。あわせて、特区指定の後も、効果についてのフォローアップを行い、運用の結果やニーズを検証したうえで、追加的な規制緩和の措置を認めるような、柔軟な制度設計もお願いします。
私は、制度改革や規制緩和はお金のかからない経済刺激策として、これに勝るものはないと考えています。「総合特区制度」のような従来にはない大胆な発想に基づく制度の実現には、政治のリーダーシップが欠かせません。直嶋先生をはじめとする政府や関係者の皆様におかれましては、この制度の実現に向け、引き続きご尽力をいただきますよう、何とぞよろしくお願い申しあげます。

被災地の復興のためにも「総合特区制度」を活用すべき

直嶋

米倉会長からご指摘のあった規制の特例措置については、民間にも参加いただきながら、政府と地方で協議して、意見を吸い上げ、きちんと実行していく必要があります。
総合特区法案では、通訳案内士の特例や工業地域の用途規制の緩和など10項目の規制緩和項目を入れています。これだけでは不十分ですので、総合特区法の成立後、制定する予定の政省令においてもさらなる規制の特例措置を講じることにしています。さらに、政府と、特区指定された地元自治体との間で協議会を設置し、特区で講じる規制・制度、税・財政・金融上の支援措置などについて協議することにしていますが、この場で合意したものについては、着実に実行に移す決意です。このように、「総合特区制度」はいままでの特区制度と比べてかなり踏み込んだ内容になっています。
あとは、米倉会長のおっしゃるとおり、いわゆるPDCAサイクルを回していくことで、よりよい制度へとバージョンアップしていくことが必要だと考えています。

中村

総合特区法は、震災後の復興にあたっても、有効に活用できるだろうと思います。ぜひ、今国会での成立を目指していただきたいところですが、見通しはいかがでしょうか。

直嶋

「総合特区制度」そのものについては、野党も異論はないだろうと思いますので、国会での話し合いで成立させられるとみています。震災が発生したことで、予算関連法案の議論を先にやらなければならないでしょうが、特区法についても、成立に向けて、積極的に働きかけていくことにしています。
また、震災で打撃を受けた地域の復興、地域力を復活させるという観点からも、「総合特区制度」をはじめ、「新成長戦略」に掲げられたアイデアを活用することは、非常に重要だと考えています。

中村

本日は貴重なお話を伺いました。どうもありがとうございました。

(2011年3月22日、経団連会館にて)

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