月刊・経済Trend 2011年12月号別冊 特別寄稿

大震災からの復興に向けて

岩沙副会長 岩沙弘道
(いわさ ひろみち)

経団連副会長・震災復興特別委員会共同委員長
三井不動産会長

東日本大震災は被災地に甚大な人的・物的被害を与えると同時に、わが国経済社会にさまざまな影響をもたらしている。

被害状況については、震災発生から半年を経過した時点で、1万5000人を超える死者と4000名を超える行方不明者を出しており、この数はいまだ確定していない。また、建物などのストックの被害額は16.9兆円である。これらは阪神・淡路大震災(死者約6400名、被害額9.9兆円)を大きく上回り、東日本大震災がいかに広範囲に及んだ、かつてない大規模な災害だったか、あらためて思い知らされる。さらには、地震、津波と複合的に発生した福島第一原子力発電所の事故は、いまもって収束に向けた懸命な作業が続けられている。

経済界も極めて大きな影響を受けた。供給面では、生産設備の毀損、サプライチェーンの寸断、電力供給問題による生産制約などがあげられる。こうした問題は日本の外にも波及し、世界の生産活動にも余波が広がった。一方、需要面では、被災地における雇用の喪失、自粛ムードによる消費の減退に加えて、原発事故が観光や農林水産業などにおける需要減退をもたらした。実質GDP成長率は4月から6月にかけて、2.1%低下している。

しかし、企業の懸命な努力により、サプライチェーンは当初の予想を上回るペースで回復し、自動車業界など多くの企業ではすでに生産活動は平常レベルに戻っている。さらに、物資提供や企業人ボランティアの派遣等の被災地支援、節電への取り組みなど、震災後の企業の一連の対応を通じて、日本企業の底力、現場の強さ、意識の高さをあらためて実感した。

経団連でも震災復興に向けて、さまざまな対応を行っている。3月14日には東日本大震災対策本部を立ち上げ、被災者・被災地支援に会員企業の総力をあげて取り組んできた。さらに、3月24日には、震災復興特別委員会を設置し、早期復興に向けた緊急提言を取りまとめるなどオール経団連での取り組みを進めてきた。そして、5月27日は、復興に向けた包括的な考えを「復興・創生マスタープラン」として取りまとめたのである。

6月24日施行の「東日本大震災復興基本法」および7月29日公表の「東日本大震災からの復興の基本方針」では、概ね経団連の考え方が反映されている。今後は、施策の迅速な実施と復興庁および復興特区の具体化が必要となるため、与野党一丸となって実現に向けて取り組むべきである。

本マスタープランでも示しているとおり、経団連の考える復興とは、被災地を単に元どおりの姿に戻すことではなく、安心・安全で強靭な新生日本を創生することである。今、わが国は幕末、戦後にも匹敵するような危機的状況に直面しているといっても過言ではない。国全体でこの危機感を共有し、震災からの復興を国のかたちを変える、新たな国づくりへとつなげていかなくてはならない。

わが国は震災以前より、人口減少や少子高齢化、進展するグローバル化への対応、国、地方における財政赤字などさまざまな構造的な課題に直面していた。東北地方においては、これらの問題がとりわけ深刻化していたのである。震災復興とあわせて、これらの解決を進めることで、新しい日本の創生につなげていかなくてはならない。

また、震災復興において、重視すべきはそのスピードである。阪神・淡路大震災からの復興の過程で、神戸港の国際的な地位は大きく低下した。港湾施設が回復しても、一度、他の港に流れた貨物が再び戻ってはこない。この経験を教訓にできるだけ早く復興を実現することが重要である。

復興に向けた具体的な道筋については、まずはできるだけ早く復興計画を示すことが重要である。意欲を持つ自治体、地元企業、住民、研究機関等と経済界が連携し、農業、漁業、産業、まちづくり等の分野において、復興計画をふまえ、復興・創生モデルを早期に構築しなければならない。被災した地域の自治体・住民が中心となって、それぞれの地域の現状や特性に応じた青写真を描くことが大切である。まずは創生への意欲を持つ地域で復興モデルを構築し、応用可能なモデルやノウハウを他の被災地で活用していくことで、被災地全体で復興を加速することが可能となる。

さらに、今回のような未曾有の災害に対しては、民間によるイノベーティブな経済活動を後押しするよう、大胆に規制を緩和するなどの施策が重要である。具体的には、被災地全体を復興特区として指定し、税・財政・金融・規制緩和等の特例措置を機動的かつ大胆に講じるとともに、地域固有の資源や特性を活かした戦略的な取り組みについては、さらなる特例措置を適用する二段構えの設計が有効だろう。また、国家財政に余裕がないなかにあっては、PFI(注1)を含め、従来の発想を超えた新たなかたちでのPPP(注2)を進め、民間の知恵や活力をこれまで以上に活用することが不可欠である。

経団連では、震災前から、「未来都市モデルプロジェクト」に取り組んでいる。全国11プロジェクトを通じて実証された、最先端の製品・技術・ノウハウなどを地域のニーズに合わせて提供し、被災地の復興および日本の創生に貢献していくことも考えている。

今、わが国は大きな岐路に立たされている。ますます加速するグローバル競争において、日本経済が名目3%の経済成長を達成するためには、TPP(環太平洋経済連携協定)、日中韓FTA(自由貿易協定)など一層の経済連携を推進すると同時に、農業など内需型産業におけるイノベーティブな構造改革が重要となる。また、社会保障と税・財政の一体改革、中長期的な視点からの新たなエネルギー政策の構築などを通じて、安全・安心でサスティナブルな社会を実現しなければならない。経済界としても、この国難を乗り越え、明治維新、戦後復興に次ぐ、第三の奇跡と呼ばれるような創造的変革を成し遂げるべく、全力をあげて取り組んでいく。

(10月5日記)
  1. (注1)PFI(Private Finance Initiative):公共施設等の建設、維持管理、運営に民間の資金やノウハウを活用することにより、公共サービスの提供を行う事業手法
  2. (注2)PPP(Public Private Partnership):PFIの概念を拡大し、公共サービスに市場メカニズムを導入することを旨に、サービスの属性に応じて包括的民間委託、指定管理者制度、市場化テスト、PFI等の方策を通じて、公共サービスの効率化と質の向上を図ること

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