目下産業界においては、軍需補償の打切による企業の再建整備、財閥解体、独占禁止、過度経済力集中排除等による企業の分割合理化が進行中であるが、戦後における市場の変動、傾斜生産資材・動力・燃料の不足等による操業度の低下、材料費人件費を始めとする諸経費の昂騰、融資の不円滑等による経営難からしても、企業の整備合理化は避け難いところである。また外資の導入、貿易の再開、国際市場への復帰に際しても、企業を健全合理化し、コストを引下げ、品質の向上をはかることが必要である。
もちろん現下の政治経済情勢からして、企業の整備合理化に伴う過剰従業員の整理に当っては、合理的な配置の転換を第一とし、同時に他方において失業を可及的に防止し、雇傭の量を出来るだけ多くすべく、国内市場の開拓、製品の転換、新技術の採用新資源の開発等あらゆる努力が払われねばならぬことは当然のことであるが、これらの諸施策を実施しても、なお且つわが国経済の健全なる再建、国際経済への参加に際しては、最少限度の人員の整理は止み難い実情にある。
しかるに企業の整備合理化に当っては、退職金の支払、失業者の生活補償問題、清算所得税問題、余剰設備の転換・保有・廃棄問題等幾多の困難な課題が山積しており、これらに対してあらかじめ適切な対策を準備することなくしてはその円滑なる実施は到底不可能である。
もちろん、企業の整備合理化のためには、資本家、経営者、従業者ともにその犠牲を分担すべきであって、これが実施に当っては従業員の協力納得のもとに、もっとも適切妥当な生産再建方策を講ずることを前提とすべきであることはいうまでもないが、個々の企業の力のみをもってしては、如何とも解決しがたい諸問題に対しては、国の施策をもってこれを補う必要のあることを痛感する。
かかる観点から、企業の合理的整備を円滑に促進し、もってわが国経済の健全なる再建をはかるために、当面必要なる次の諸点について、業界の自覚を促すとともに、国会並に政府の注意を喚起し、至急解決の手段を講ぜられんことを要望する次第である。特に政府に対しては、この際進んで行政機構の簡素化、官営事業の合理化、過剰ならびに不適当な従業員の配置転換と整理を行い、もってわが国経済の合理的再建のために率先その範を示さんことを期待する次第である。
(イ) 現在多くの企業においては、過剰人員を整理し、企業経営の健全化をはかろうとしても、退職金額が莫大に上るためこれを実施出来ず企業をして徒らに整理を遷延させ、事態を悪化せしめている場合が尠くない。よって過剰人員の整理に必要な退職金の金額ならびにその支払は、昨年七月十五日経済団体連合会の建議になる「企業再建に伴う退職金支給基準に関する意見」の趣旨にそってこれを実施することとし、その支払に対しては、政府において特別融資の道を講ぜられたきこと。
(ロ) 前述の退職金の支給時期は、次の「失業者の生活補償について」の項で述べる生活補償金を停止する時期とすること。
(イ) 止むを得ず過剰人員の整理を行う場合にあっても、退職者をして路頭に迷わしめることなく、つぎの就職の機会を得しめるよう、能う限りの措置が講ぜられなくてはならない。このため整理される従業員に対しては、整理後一年間は失業保険法で定めるところの賃金の日額を、当該企業の負担において、公共職業安定所を通じて支給することとする。ただし退職金の支払に関し経団連建議の支給基準を著しく超えた金額の支給をなす場合には、右の生活補償金の支給期間を適当に短縮することとする。
右生活補償金の受給要件としては失業保険法に定める受給要件を準用するほか、闇行為等の不正行為を常業とせざることを條件とし、勤続年限三ヵ年未満の者に対しては適宜支給期間を短縮することとする。
(ロ) なお政府はこの期間に失業保険法の一層の整備充実をはかられたきこと。
(イ) 過剰人員の配置転換を円滑ならしめるため、政府は就業斡旋機関の整備拡充、業務運用の改善をはかるほか、雇傭の増大若くは新規雇傭を可能とする事業の開発振興について、一層積極的な施策を講ぜられたきこと。右の事業としては、例えば電源・新炭坑・金坑の開発、農地の開墾ならびに改良(暗渠排水工事等)、治山、治水・港湾の復興、荷役の改善、道路の開設・改修等、できる限り産業再建の基礎を培養するが如きものを選ぶとともに、要すれば外資導入による促進策を講ぜられたきこと。とりわけ植林ならびに港湾の浚渫のもたらす効果を重視し、その達成については格段の努力を払われたきこと。
(ロ) わが国経済の再建のために有用でありながら、採算悪しきため沈滞している事業であって、少額の補助金をもってすれば、その事業の運営を可能とするものに対しては、進んで補助金政策を採用し、当該事業の維持をはかるとともに、併せて失業の防止救済に役立てられたきこと。
(ハ) 技術者、事務職員等は筋肉労働者に比して、一度失職した場合概して生活力が薄弱であるから、例えば学校教職員への再教育、経済統制官吏、経済警察官への採用、非能率官吏との交替等その受入体制にいては一段の工夫を払われたきこと。
それとともに、これらの人々をして自ら進んで筋肉労働に従事する意欲を起さしめるような教育指導の方策を講ぜられたきこと。
(イ) 産業再建の目標と年次計画は、民間に対しても可及的速かにこれを公示し、業界の自主的な整理合理化に資せられたきこと。
(ロ) 資材資金等の効率的割当の実施の結果として企業整備の推進をみることは、この際止むを得ないとしても、その実施に当っては、将来の産業計画に留意し、綜合的計画的視野においてこれが運用をはかられたきこと。
それとともに、個別企業の成績の判定についても、机上判断に陥る弊を避けるため、例えば資材の割当、資金の融通等については、諮問委員会制度の如き方法をもって、事情に精通せる関係業界人の知識経験の遺憾なき活用をはかられたきこと。
この際政府の整備計画によって整理を強制される企業、ならびに政府の方針に従い、進んで整理を行う企業にして特に事情あるものに対しては、政府において補助金を支給しうる道を講ずるとともに、同様の理由によって解散を行う企業に対しては、補助金を支給しうる道を講ずるほか清算所得税を減免する措置をも講ぜられたきこと。
整理企業、温存企業に対して残存企業が共助を行うことが適当な場合には、価格面において適当な考慮を加えられたきこと。
将来操業を予想される遊休企業、遊休設備にして同業者の手によって共助を行い難きものの維持保有、ならびに過剰設備の転換廃棄を円滑に行うため産業復興公団を能率的に活用して適切な積極的措置を講ぜられたきこと。
企業許可令を撤廃し、新規事業の開始を自由にしたことは、既存企業の独占の弊を排除するために、もとより必要な措置ではあるが、一方において原料資材の極度の欠乏のため、操業率が極めて低く、企業の整理を余儀なくしているときに、他方において同種事業の営業開始を自由にしておくことの不合理なことはいうまでもない。よって企業の整理を必要とする業種にあっては、業種の軽重に応じて一定の年限を附し、新たなる営業の開始を制限するよう適当な措置を講ぜられたきこと。