経済自立化の基本政策並びに
当面の緊要政策に関する声明

− 第三回定時総会決議 −

昭和23年9月17日
経済団体連合会

連合軍の多大の援助により、敗戦後の荒廃からようやく立直りに向ったわが国は、いまや経済復興計画を樹立し、単一為替レート設定、インフレーションの処理等を目指していよいよ自立化の途を急ぐ必要に迫られている。欧洲その他世界各国の戦後政策から見ても、ある程度まで外国の援助に俟つことはやむを得ないが、一方また確乎たる方針を樹てて経済の正常化を極力急ぐはわれわれの当然の責務である。

思うに、講和会議の時期さえ不明である現国際情勢の下において、わが国内諸般の事情を冷静に考えるとき、国際経済の荒浪に突入するは実に容易ならぬ難事である。しかしわが国民はこの際挙って大勇猛心をふるい、外国の好意ある援助が続いている間に、この難関を突破しなければ悔を永遠に残すおそれがある。党派や階級や一会社、一家の狭い利害から超脱して、大局上必然視されるただ一つの目標に向って自主的に邁進することが、われわれに課せられた現下最大の責務であることを自覚しなければならない。しかしてこれがためには、何人もが承認する如き正しい政策を、綜合的に、しかも具体的に検討樹立し、これを実行することが肝要である。もとよりこの事たる、国会、政府、経営者、勤労者その他各方面の協力に俟たねば、到底達成し難いところであるが、われわれ経済界は、兎も角この精神をもって、経済界としての所信を要約してここに卒直に披瀝し、もって理想達成の一端に資したいと考える。

第一、基本政策に関する事項

(一) 経済復興長期計画の樹立を必要とすることについて、われわれは既に昨年六月、新憲法に基く最初の内閣ができた時これを要望した。今それが経済安定本部を中心として本格的に立案せられつつあることは、その遅きをうらむとはいえ、なおわれわれが多大の賛意と期待とをもって迎えるところである。しかして経済復興計画の策定につきわれわれの特に希望する一事は、確乎たる雇傭計画とインフレ処理策とをこれに織込むことであるが、いずれにせよ、この計画は国会においても十分審議し、一旦決定した上は将来如何なる内閣が出現しようとも、一政党的な立場に左右されぬよう強く要望する。

(二) 経済の正常化をはかるためには、戦時以来強化せられ来った諸般の経済統制をこの際大巾に、緩和する必要あること言うまでもない。したがって官民共これが具体的検討に十分の意を用うる必要がある。もっとも統制の緩和は、物資の供給が豊富になり、経済の実体が安定を得ることによって始めてその基礎を与えられるものであり、かかる基礎の有無を度外視して、漫然と統制の弊害のみを指摘しその撤廃を叫ぶときは、本末が顛倒して、真の経済安定を阻害するおそれもある。されば生産の全体的関連性をよく考慮した上、統制整理の計画を概定しこれを逐次実行に移すことが極めて望ましい。なお統制の必要が認められるものについても、過去における官僚統制の幾多の弊害にかんがみ、今後の統制方式については再検討を要するものが少くないと考える。

(三) 経済の復興を図る為には、企業の基礎を健全化することが一大要件である。しかしてこれが為には、企業の整備合理化によって生産費を国際的水準に合致せしめることが極めて重要であるが、また政府は物価政策その他諸般の政策において企業の採算を十分に尊重し、経理上前途に不安なからしめることが最も肝要と考える。

(四) 社会不安が経済復興の重大な妨げとなる危険あるは、改めていうを要しない。しかも企業の整備合理化、統制の整理、行政整理等を行おうとすれば、一時失業者の相当量発生するは必然であるから、これに関し万全の対策をたてる必要がある。

(五) 日本経済の自立化と経済復興とは国民の総力を結集してこれにあたる必要があるので、この際いやしくも破壊的行動または反復興的、非建設的行動は之を厳に防止抑制する何等かの措置を切望する。

第二、当面の措置に関する事項

(一) 単一為替レートの設定は、理想としては早い程よい。しかし十分の準備なしにこれを行うことは固より危険である。しかして単一レートを実施する場合には、生産を阻害しないよう、実情に即した過渡的措置を用意する必要ありと考えられる。

(二) 近き将来可能と言われる主食の加配および増配等を機会として、強い政治力による直接的賃金統制を実行することが是非共必要と考える。

(三) 外資の導入、国際経済への参加、証券の円滑な消化、新しい企業計画等を助けるために、諸般の障害除去策を必要とするが、なかんずく独占禁止法の改正を行うことは、いまや不可避の要請と考えられる。

(四) 輸出貿易が政府間取引から漸次民間取引に移されることは、最も歓迎するところであるが、これについて特に注意を要するは、輸出産業金融の確保と民間人海外渡航の許可とである。

(五) 国内の経済安定をもたらすための当面の第一要件は、企業再建整備法および集中排除法による企業の再編成が、実情によく即して行われることである。しかしてこれについては、新勘定赤字処理問題、新勘定借入金の返済問題、旧会社借入金の株式による代物弁済問題等、なお未解決の問題が少くないから、それらの懸案を速かに解決する必要がある。なお企業再建整備計画の実行に当っては、旧会社の整理促進に十分の意を注ぐべきである。

(六) 今後巨額の供給を予想される証券処理調整協議会の放出株、再建整備による新会牡株式の発行、旧会社保有株式の売出の円滑な消化を期するためには、投資者の株式に対する不安を取り除き、また金融操作に特に留意する必要があるが、それらの施策と平行して強力にして実情に即した、株式の売出調整を行う機関および一時それらの売出証券を買取り保有する機関を設けることが必要ではないかと考える。

なおこの際、会社資産の評価替に関する方策を確立することが必要と考える。

(七) 生産資金ならびに健全なる商業資金の逼迫は今日早急の解決を要する重要問題であるが、この問題をインフレ対策と矛盾しないように解決するためには、健全な資金需要者の要求がよく反映するような、強力にして実情に即した融資斡旋機関ならびに信用調査機関を設置することが、ぜひとも必要であると考える。

(八) 中小企業の特殊性とそのわが国経済に占める比重ならびに現下の緊迫せる情勢にかんがみ、独占禁止法の適用、労働法規の運用、資材の配分、租税政策および金融政策等において早急に特殊の考慮を払うことが、このさいとくにひつようである。

第三、特に政党の政策に関する事項

(一) 国民経済的に見ても、私企業的に見ても、現在わが国の最大の問題は、労働不安を速かに解決して企業の生産性を昂揚するにあるといってよい。この意味で、各政党はそれぞれの立場において、労働運動の健全化をはかることに万全の努力を傾注されたい。

(二) 企業の安定感ならびに通貨、預金等への信頼感を増すことが、今日経済復興の第一要件たるにかんがみ、軍事公債の利払停止問題は、今日としては撤回するのが至当であると考える。

(三) 富の再分配を思わすが如き通貨処理案の流布されることは、人心を著しく不安なからしめ、貯蓄を阻害し、経済の運行に悪影響を及ぼす弊害が多大である。本問題の取扱いには特に慎重を期されたい。

(四) 政党幹部の発言ないし政策提唱は、片言隻句と雖も国民の心理に影響するところ多大であるから、常に細心の注意をもってせられたい。

以上われわれは極めて率直の言を述べたが、ここに連ねた各種の提案については、われわれも亦十分の責任と熱意とをもってこれにあたる覚悟を有するものなる事を、ここに重ねて闡明する。

半年前の当会第二回総会決議において、われわれは、自立日本経済建設への新段階を迎えて、われら経済人また相提携し、奮起精進するであろうことを、公衆の前に誓った。しかして特に「政党各位は、党勢本位に偏して政局を不必要に動揺せしめたり、政治の空白を生じたりすることを極力避け、真に民主主義国家の代表となり、模範となって新日本の建設に努力せられたい。」と要望した。しかるにいま当会第三回の総会を開くにあたり、あわせて評議員会を開催して各政党代表との懇談を行うことに決定したについては、過去半年におけるわれわれの努力を跡付ける意味をも含めて、日本経済自立化の諸政策に関するわれわれの見解を前記のごとく要約し、もって経済界一層の自奮の具に供するとともに、あわせて国会・政府その他一般の参考に資することと致した次第である。

以上