わが国は、高度経済成長期に経験した公害問題と2次にわたる石油危機を貴重な教訓として積極的な努力を重ね、今日、産業公害の防止や安全衛生、産業部門の省エネルギー、省資源の面で世界最先端の技術・システム体系を構築するに至っている。
しかし、今日の環境問題は産業公害の防止対策のみでは十分な解決は望めない。都市における廃棄物処理問題や生活排水による水質汚濁問題を取り上げてみても、都市構造や交通体系等を幅広く見直し、生活基盤の整備や国民意識の変革など、社会全体での本格的な取り組みが求められている。
一方、温暖化問題や熱帯林の減少、砂漠化、酸性雨、海洋汚染など、いわゆる地球的規模の環境問題が国際的な課題となっている。とくに地球温暖化は、その対策が国民生活や経済活動のあらゆる局面にかかわる問題であるだけに、総合的な対策、とりわけ技術によるブレークスルーが必要であり、また一国のみの対策では解決が困難な課題である。
われわれは、大量消費文化に裏付けられた「豊かさ」の追求がもたらす諸問題を見直し、地球上に存在する貧困と人口問題を解決し、世界的規模で持続的発展を可能とする健全な環境を次代に引き継いでいかなければならない。そのためには、各国政府、企業、国民が自らの役割を認識するとともに、国際協力を通じて人類の福祉の向上と地球的規模での環境保全に努めなければならない。
わが国は自国のみの環境保全の達成に満足することなく、産業界、学界、官界挙げて環境保全、省エネルギー、省資源の分野において革新的な技術開発に努めるとともに、環境保全と経済発展を両立させた経験を踏まえ、国際的な環境対策にも積極的に参加することが求められている。地球温暖化問題についても、国際協力を通じて科学的な究明の努力を継続することはもちろん、可能な対策から直ちに実行に移していかなければならない。
環境問題の解決に真剣に取り組むことは、企業が社会からの信頼と共感を得、消費者や社会との新たな共生関係を築くことを意味し、わが国経済の健全な発展を促すことにもなろう。経団連は、このような認識に基づき、各会員に対して、行政、消費者はじめ社会各層との対話と相互理解・協力の下に、以下の理念と指針に基づく行動をとることを強く期待する。
企業の存在は、それ自体が地域社会はもちろん、地球環境そのものと深く絡み合っている。その活動は、人間性の尊厳を維持し、全地球的規模で環境保全が達成される未来社会を実現することにつながるものでなければならない。
われわれは、環境問題に対して社会の構成員すべてが連携し、地球的規模で持続的発展が可能な社会、企業と地域住民・消費者とが相互信頼のもとに共生する社会、環境保全を図りながら自由で活力ある企業活動が展開される社会の実現を目指す。企業も、世界の「良き企業市民」たることを旨とし、また環境問題への取り組みが自らの存在と活動に必須の要件であることを認識する。
持続的発展の可能な環境保全型社会の実現に向かう新たな経済社会システムの構築に資するため、以下により事業活動を営むものとする。
すべての事業活動において、(1)全地球的な環境の保全と地域生活環境の向上、(2)生態系および資源保護への配慮、(3)製品の環境保全性の確保、(4)従業員および市民の健康と安全の確保、に努める。
地球環境問題解決のために、省エネルギー、省資源環境保全を同時に達成することを可能とする革新的な技術と製品・サービスを開発し、社会に提供するよう努める。
海外事業の展開に当っては、経団連「地球環境問題に対する基本的見解」(平成2年4月作成)に指摘した10の環境配慮事項を遵守する(別添参照)。
経団連をはじめとする関係経済団体は、わが国企業が1960年代後半から発展途上国に対する海外投資を中心に海外投資活動を多面的に展開することになったことを踏まえて、1973年に受入国に歓迎される投資と長期的観点からの企業の発展と受入国の開発・発展が両立することを目指して「発展途上国における投資行動の指針」を策定した。しかし、その後わが国企業の海外投資が先進国でも多様に展開されるようになったのを背景に、1987年に「海外投資行動指針」を策定した。しかし、この両指針とも環境配慮については、わずかに投資先国社会との協調、融和のために「投資先国の生活・自然環境の保全に十分に努めること」という一行を設けたにすぎない。
しかし、昨今の日本企業の国際的展開および発展途上国の経済開発に伴う公害問題の発生などに鑑みると、上記一項目をさらに具体的にブレークダウンして、進出企業の参考に供することが必要になってきた。
もとより、途上国に進出する場合、(1)途上国政府の政策的な面もあり現地企業との提携・合弁会社となる場合が多く、経営の主体が現地途上国企業側にあり、環境保全への投資より生産設備への投資が優先される、(2)環境規制値はあるものの技術面、監視組織面で管理が十分でない場合がある、(3)事前に進出国の環境状況関連情報を入手して対策を講じる必要があっても、基礎的データの不備や入手の困難性等、日本企業だけで解決出来ない問題も多い。しかし、こうした問題はあるものの進出先国の環境保全に万全の策を講じることは、進出企業の良き企業市民としての責務であり、各企業がこの配慮事項を参考にして具体的方針等を策定することを期待する。
進出先社会における良き企業市民という観点から、環境保全について最新の知見と適切な技術により積極的に対応する旨を明示するとともに、環境保全の重要性について提携先等進出先国関係者にも十分に理解が得られるように努めること。
大気、水質、廃棄物等の環境対策においては、最低限進出先国の環境基準・目標等を遵守することは当然であるが、進出先国の基準がわが国よりゆるやかな場合、あるいは基準がない場合には進出先国の自然社会環境を勘案し、わが国の法令や対策実態をも考慮し、進出先国関係者とも協議の上で進出先国の地域の状況に応じて、適切な環境保全に努めること。なお、有害物質の管理については日本国内並の基準を適用すべきである。
企業進出に当たっては、環境アセスメントを十分に行って、適切な対応策を講ずるとともに、企業活動開始後においても活動実績とデータ等の蓄積を踏まえて、必要に応じて環境状況の事後評価を行い、対応策に万全を期す。
わが国の進んだ環境管理、測定及び分析などに係わる技術・ノウハウを進出先に移転することが、進出先国のみならず地球的規模での環境保全に貢献するとの認識のもとで、進出先国の関係者と相談し、その技術・ノウハウの移転促進・定着化に出来うる限り協力するよう努めること。
わが国企業の環境配慮に対する積極的姿勢を示し、環境管理を適切に行うために、環境管理の担当セクションおよび責任者をおき、環境管理に対する責任の明確化等により環境管理体制の整備を行うとともに、環境管理に関する人材育成に努めること。
進出先社会との摩擦を避け、協調融和を図るためには、進出先の従業員、住民、地域社会との日頃からの交流が重要であり、環境対策に関しても適切な形で情報を流すなどして、常日頃から理解を得るように努めること。
トラブルが発生した場合には、進出先国関係者の協力を得て、社会・文化的摩擦になる前に科学的合理的な議論の場で対応出来るように努めること。
進出先国の環境保全対策推進の上で、科学的かつ合理的な環境対策に資する諸活動には出来うる限り協力するように努めること。
海外におけるわが国企業活動の実態が、内外において十分に理解されていない現状に鑑み、企業はデータ等を示すなどして環境配慮に関する諸活動を積極的に広報し、情報不足や誤解に基づく非難は避けるように努めること。
日本の本社等は海外における企業の環境配慮に対する取組みの重要性を理解し、必要に応じて技術・情報・専門家等の提供・派遣により支援するよう社内体制等の整備に努めること。