[経団連] [意見書]
経団連 新産業・新事業委員会 企画部会報告書
「医療・福祉分野の市場創造・拡大へ向けて」

【 総 論 】


  1. 基本的考え方
  2. 経団連では、96年10月に発表した「社会保障制度改革の必要性と高齢者介護に関するわれわれの考え方」において、社会保障に関する公の責任をシビルミニマムに限定する一方、自己選択・自己責任に基づいて、民間企業の知恵と活力を最大限に活用し、利用者本位の多様な社会保障サービスの供給体制を確立すべきことを強調した。
    なぜならば、従来、社会保障は官の役割と考えられ、全ての社会保障に関するサービスを官が提供するとの考え方を基本に進められてきたが、現在、官と民との役割を見直す時期に直面しているからである。また、わが国は、324兆円もの国債残高(99年9月末現在)を抱え、一般会計予算における公債依存度も99年度は37.9%に達する財政事情の中で、一般歳出に占める社会保障関係費の割合は、99年度予算で34.3%と、概ね固定的な比率で推移しており、今後の急速な高齢化に伴って、財政を一層圧迫することも懸念される。現在のこのような役割分担や財政負担のままで、社会保障サービスを続けていくことは困難な状況にある。
    さらに、高齢者に提供される福祉サービスは、質・量ともに不足し、国民のニーズに対応できていないとの批判が強い。例えば、絶対的な供給不足と措置制度のため、国民は事実上サービス事業者や内容を選択できず、サービス選択のための情報も不十分である。また、福祉サービスの提供者は行政部門または行政が強く関与しているセクターが中心であり、サービス提供者間で、利用者から選択されるようコスト、品質面で創意工夫を競い合うという市場原理が働いておらず、必ずしも福祉サービスは効率的に提供されていない。医療サービスについても、原価の把握や効率的提供に対するインセンティブが不十分であり、また、国民が、自らのニーズに合ったサービスを選択できる環境が整備されているとは言い難い。
    今後、医療・福祉分野において、利用者の満足度を向上させるために、サービスの利用手続きの弾力化・自由化を図るとともに多様な主体の参入を促進することにより、サービスの利便性の向上・選択肢の拡大が必要である。また、医療・福祉サービスを質・量ともに拡充させる必要もある。企業活力を活用するための条件整備を推進することも重要である。さらに、社会保障関係費を抑制する観点から、被保険者の立場に立って適切かつ効率的なサービスを確保することが期待されている保険者の機能を強化することや、疾病にかかる前での予防や寝たきりの防止により要介護者をつくり出さないことなどに努める必要がある。

  3. 民間企業の役割
  4. 競争原理が働く市場で、よりニーズにマッチした、より質の高いサービスを、より効率よく提供することに凌ぎを削っている民間企業には、ヘルスケア分野においても、持てる経営ノウハウを十分活かして、同様の役割を果たすことが期待される。

    1. 良質な商品・サービスの提供
    2. 民間企業は、利用者のニーズ、市場の特性に応じた製品・サービスを提供するために、市場調査や地域、顧客の嗜好など販売に影響を与える要因の分析など、マーケティング・ノウハウを蓄積するとともに、資材調達、生産、提供を効率的に行うノウハウを有している。多様化する利用者のニーズを的確に捉えたサービスの提供が求められているヘルスケア分野においても、民間企業には、機動的かつ柔軟に良質な商品・サービスを提供することが期待されている。
      既に民間企業では、ISOの認定取得、商品・サービスの手順・内容、苦情処理手順のマニュアル化、品質チェックシステムの導入などの動きがあり、品質が維持された商品・サービス、均質な商品・サービスを提供する力をもっている。また、民間企業は、自己研鑚のための仕組みや研修制度を整備し、人材の育成に努めている。
      例えば、民間企業は、祝祭日を問わず、長時間・時間外勤務へも柔軟に対応することができるため、24時間、365日のサービスを提供することができ、いつ何どきの利用者の要望にも対応が可能である。また、企業で言えば零細企業にあたる開業医が在宅医療を手掛る場合に、医療機器・器具の手配・調達などについて、コーディネータの役を担うことも出来る。職員に、ケアマネジャーの資格を取得することを指導したり、独自に設けた公的介護保険制度に関する講座を受講させることや、定期的にサービスの満足度を利用者からアンケートを取り、その結果をフィードバックすることなど、民間企業は様々な取組みを行なっている。

    3. 高効率なサービスの提供
    4. 民間企業には、限られた財源の中で、量的な面でより十分なサービスを提供することが求められており、コスト管理などのマネジメント・ノウハウを蓄積している。例えば、原価管理を原価計算の主たる目的の一つとして明記している「原価計算基準」を尊重した経営や管理会計の実践といった実績がある。また、サプライチェーン・マネジメントやデマンドチェーン・マネジメントなど、経営効率を追求する手法を新たに開発しており、コスト低減に向けた創意工夫に努め、効率のよいサービスを提供することが期待されている。
      ちなみに、地方自治経営学会が97年3月にまとめた「高齢者福祉における公と民間とのコスト比較」によれば、市町村の常勤職員と民間企業の職員がそれぞれ提供するサービスのコストを比較すると、市町村の常勤職員のコストを100とした場合の民間企業のコストは、例えば、ホームヘルプサービスでは49.3、入浴サービスでは43.0、老人ホームでは72.9という結果が出ている。

  5. 民間企業の姿勢
  6. ヘルスケア分野において、民間企業は、利用者の視点に立ち責任をもって事業に取組んでいるが、ヘルスケアビジネスを展開するにあたっては、今後も常に心がけていく必要がある。

    1. 自己管理の徹底
    2. 安易に参入し、採算が取れないからといって安易に撤退することは、利用者保護の観点から、あるいは企業の社会的責任の観点から問題であるのみならず、企業イメージ自体を損ない、本業の屋台骨を揺るがすことになりかねない。民間企業が医療福祉事業に乗り出す場合には、この点を十分自覚し、利用者が永続的・継続的にサービスを受けられるように自己管理を徹底する必要がある。コスト面も含めて利用者に受け容れられる商品、サービスを開発・提供し、その結果得られる対価で事業を立ち行かせ、事業の永続性・継続性の確保に努め、責任を果たすことが肝要である。
      例えば、社内規定・基準、苦情処理基準、マニュアル等を整備し、これらから逸脱しないように厳しく指導・監督することにより、自己管理を徹底することが重要である。これにより、様々な苦情、訴訟の回避や利用者からの問い合わせ、クレーム等に迅速かつ適切に処理することが可能となる。また、利用者からの苦情は、真剣に受け止め、再発防止を図ることが、より一層優れたサービスへの改善の契機となりうる。
      また、利用者に対する良質なサービスの提供を確保する観点から、監視・監督するための組織を民間が自主的に設置することも望まれる。

    3. 利用者ニーズへの積極的対応
    4. 利用者の満足度を高め、生き甲斐を創造していくため、利用者のニーズへ総合的に対応していくことが重要である。例えば、各種のサービスを組み合わせて提供する、あるいは必要なサービスをコーディネートする、また、公的介護保険制度の導入に際しては、民間らしい上乗せ・横出しサービスの商品開発を積極的に進めることも必要である。自社で取り組める部分と取り組めない部分とを明確にして、取り組めない部分については、そのノウハウをもった事業者と連携する必要がある。その際、病院・診療所や社会福祉法人等と協力していくことが必要な場合も多いであろう。

    5. 人材の確保・育成
    6. 医療福祉の問題について最終的に対応するのは人である。優良な医療・福祉サービスを提供できる人材をいかに確保し、育成するのかということが重要である。例えば、介護においては、社会福祉士、介護支援専門員、ホームヘルパーなどの有資格者を会社としていかに確保し、利用者のニーズに対応できるような人材に育成していくことが重要な課題である。

  7. 環境整備のあり方
    1. 社会福祉基礎構造改革のあり方
    2. 社会福祉事業法の改正等、社会福祉の基礎構造改革が政府において進められているが、これからの社会福祉事業の運営にあたっては、利用者の選択肢の拡大に向けて、以下に留意することが肝要である。

      1. 多様な事業主体の参入促進
        1. 利用者にとって、サービスが多ければ多いほど選択の幅が広がるとともに、競争が活発化することによってコスト効率のよいサービスとなり、利用者の利益をより一層高める。したがって、特別養護老人ホーム等の施設介護も含め、民間企業などの多様な事業主体が参入できるようにすべきである。

        2. 社会福祉事業は高い公共性を持つことは論を待たず、社会福祉事業に参入する主体には、強い社会的責任感と厳しい行動規範が求められる。「公共性」とは、一部の人のためだけでなく、利用者にとって普遍性をもつかどうかにある。電力、通信、ガス、金融機関など公共性の高い分野においても、民間企業が事業主体となっており、民間企業の存在が公共性の高さと矛盾するものではない。現在のように、ごく一部の主体に独占的な権益を与えること、また、サービスの質や効率性の問題を抱えた主体が多いことは、むしろ公共性を欠いているといえよう。

        3. 多様な主体の参入を促進するためには、一定の施設整備や人員の要件を満たし、意欲・能力があれば原則参入可能とするなど、事前規制型から事後チェック型へ転換する必要がある。一定の実績がなければ参入できないとすることは、新規事業者の参入を困難にするため問題である。また、地域において、最低限保障すべき量を示すことはあっても、サービスの需給状況を勘案するなど、サービスの上限に対する規制は設けるべきではない。

        4. 事業の継続性、安定性は、施設サービスのように利用者が生活の拠点を移して行なうものもあり、重要である。しかしながら、行政が補助金を拠出することなどにより、非効率な事業主体を維持することは厳に慎むべきである。事業主体を保護することで、行政により継続性・安定性が保証された中では優れたサービスは実現できない。例えば、米国のナーシングホームでは、事業撤退する際には入居者の受入れ先をあらかじめ確保することを契約の条件としており、利用者保護の仕組みが整っている。日本においても、サービス提供者ではなく、利用者を保護するという発想へ転換し、サービス提供者が撤退する場合には利用者が他の事業主体に移られるような策を講ずるなど、利用者の被害を最小限に抑えるためのセーフティネットを構築することが大切である。

        5. 同種・同等レベルのサービスであれば、誰が行なっても同等な報酬が得られるのが、公正な競争である。同一サービス、同一評価という考え方の下で、サービス基準を満たすことを最重視すべきであり、例えば福祉専門職の確保といった外形的な基準のみで参入を規制すべきではない。

        6. 利用者による自主的・主体的なサービスの選択を可能とし、多様なサービス提供主体を呼び込み、サービス提供者が互いに競い合ってより優れたサービスをより効率的に提供し合うようにするための切り札として、利用者に原資を渡しきるバウチャー方式を導入すべきである。

        7. 社会的インフラ整備にあたっては、現在社会福祉法人に対して行なわれているような、施設整備費に対する補助金を直接法人に与えることにより供給主体の資産形成を公的資金で援助するのではなく、供給主体が持つフローの資本をうまく活用することに目を向けるべきである。例えば、行政が遊休の学校・教室を含めて施設のハード面での整備を行ない、民間企業等がこれを借り受け、創意工夫を凝らして責任を持って自主独立的に運営を行なう公設民営方式の必要に応じた導入が期待される。資産を公に留保しつつ、民間企業等の創意と活力、フローを十分活かすことが可能であるとともに、事業の透明性も高く、問題が生じた場合のサービス提供主体の入れ替えも容易であるため、不正防止にも有効である。また、官が民から「公共サービスを購入する」という発想に転換し、VFM(Value for Money:国民の税金を国民のために最大限有効に活用するという考え方)に基づいて、社会資本整備をできるだけ民間ビジネスに委ねていくPFI(Private Finance Initiative)の活用も望まれる。公共施設の建設のみならず、その後の運営等も合わせて民間事業者がPFI事業として行うことは、民間事業者の資金と経営ノウハウ、技術力等がセットで活用されることとなり、民間の創意工夫・効率化努力による効果をより多く引き出す可能性が広がる。
          公設民営方式を積極的に活用するにあたっては、公の施設(遊休の学校・教室を含む)の管理委託先を地方公共団体、公共的団体、または、地方公共団体による一定の出資先に限定している地方自治法の規定について、公の施設を利用して、株式会社等が単独で事業運営をできるよう、規制を緩和する必要がある。

      2. 情報の開示と監視機能の充実
        情報の公開が、サービスの公正性確保の決め手となる。利用者がサービスを適切に選択できるように、事業者のサービスや経営等に関する情報を提供する制度の確立が重要である。それが事業者の自主規制を促すことにもなる。社会福祉法人について従来から批判のある閉鎖的、管理志向的運営は改善が必要であり、サービスの質と効率の向上、利用者保護の視点から、情報の一般への開示、広告制限の緩和等を進めなければならない。
        また、民間の自主的な監視機関の設置を中心に外部機関による公平な基準に基づく評価ならびに公平な監視も必要である。この際、プレイヤーがアンパイアを兼ねるといったプレイング・アンパイアでは公平な監視は期待できないことに留意する必要がある。

    3. 公的介護保険制度の導入にあたっての環境整備
    4. 2000年度から公的介護保険制度が実施されることになっている。政府では、95年度より5年間で総額9兆円を上回る事業費を投じ、17万人規模のホームヘルパーの確保などを図ることを「新ゴールドプラン」で推進しているが、その目標を達成したとしても、特に在宅介護サービスのための基盤を担う人材は大幅に不足する見込みである。高齢者介護、障害者介護に必要となる人材等の確保と、その受け皿の多様化等に向けて、次のような施策を講じる必要がある。

      1. ホームヘルパー養成研修事業の一部簡素化
        ホームヘルプサービスの入門課程として位置付けられている「3級課程」に限って、研修時間(現行50時間)を大幅に短縮化し、資格を取りやすくして、ホームヘルパー数を増加させる。

      2. 介護福祉士、理学療法士・作業療法士の修業年限の見直し
        高卒者向け介護福祉士養成施設における修業年限(2年)、理学・作業療法士の養成機関における修業年限(3年)について、研修内容の質を確保しつつ、カリキュラムの合理化等の工夫による短期化または短期コースの設置を含め、見直しを行なう。また、現在、1年1回となっているこれらの国家試験を、1年に2回実施する。

      3. 介護支援専門員(ケアマネージャー)の資格要件の緩和
        既に民間介護保険を販売している実績をもち、対人医療査定業務にも精通している企業もあり、対人医療査定業務の経験を、介護支援専門員の資格要件である「一定の職務経験」に含めるべきである。

      4. 福祉用具貸与事業者となるための条件の緩和
        福祉用具貸与事業者が当該事業所ごとに置くべき専門相談員の員数の要件(事業所ごとに2人以上)を緩和し、小規模事業者の場合は、1名でも可能とすべきである。小規模事業者において、2名以上の専門相談員を各事業所に置くことは、事業展開を進める上で障害となる。

      5. ホームヘルパー養成研修における実習対象施設の拡大
        ホームヘルパー養成研修における実習対象施設として有料老人ホームを追加すべきである。主な身体介護の担い手であるホームヘルパー2級の場合、特に実習先の確保が困難であることが大きな障害となっており、これを民間の有料老人ホームにまで広げることで、人材の育成・供給の促進が期待される。また、99年7月に政府産業構造転換・雇用対策本部でまとめられた『雇用創出・産業競争力強化のための規制改革』でも、「ホームヘルパー養成研修における実習対象可能施設を拡大し、痴呆性老人グループホームや現に介護サービスを提供している有料老人ホームを追加する」措置を99年度早期に講ずるとされており、速やかな実施を期待する。

      6. 公的介護保険の給付対象となる福祉用具の指定制度の弾力化
        公的介護保険の給付対象となる「福祉用具貸与」および「居宅介護福祉用具購入費等の支給」の対象となる「福祉用具の種目」については、現行の「用具名」による指定方法を弾力化し、例えば、用途・便益・機能等による指定とするなど、新たな用具が開発された場合に、給付対象に加えやすい制度にすべきである。公的介護保険の支出抑制のために、品目の指定を実施することの一定の合理性は理解できるが、高齢者支援を目的とした機器の技術革新を求められ、企業努力が期待されている中で、制度的な枠組みに固定化された市場への投資を嫌い、企業努力を減退させる懸念がある。福祉分野における福祉用具の開発、流通、利用を促進することが、国民全体の利益により一層つながるものであると考えられる。その観点から、公的介護保険に適用される品目は「厚生大臣による指定」という固定的な制度ではなく、より緩やかで新分野の機器の採用が可能なフレキシビリティーの高い制度に変更してもらいたい。

      7. 公的介護保険の給付対象の追加
        ホームヘルプサービスでは調理、デイサービスでは給食サービスが、在宅介護サービスとして含まれており、これらと同様に、自宅への配食サービスについても、在宅介護サービスとして公的介護保険の給付対象に追加すべきである。
        また、テレビ電話等を活用した介護支援情報システムを用いるサービス・機器(テレケア)を公的介護保険の給付対象とすべきである。政府の補助等により行なわれた実験では、要介護者のADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)指標の改善、通院・訪問等に要する時間・距離・コストの負担軽減、要介護者・家族・サービス提供機関のスタッフ間のコミュニケーションの円滑化にともなう信頼関係向上などを通じてテレケアが介護面で効果があることは実証されており、不足するマンパワーを代替することにもなる。

      8. 有料老人ホームにおける介護サービスの施設サービスとしての認定
        介護保険法では、有料老人ホームにおける介護サービスは、在宅介護サービスとみなされている。これを施設介護サービスとして認定することで、有料老人ホームにおける介護サービスを拡大する。

      9. 柔軟な「基準該当サービス」の認定
        在宅介護サービスの事業者は、法人格を有し、一定の基準を満たす必要があるが、それらを完全に満たしていなくても、サービス内容が一定の基準を満たせば公的介護保険の対象(「基準該当サービス」)となるが(住民参加型の非営利組織等)、その認定を弾力化する、または現物給付の対象とすることで、在宅介護サービスの拡大を図ることができる。

      10. バウチャー方式の導入
        利用者へ原資を直接渡すバウチャー方式の導入が不可欠である。原資を直接利用者に渡し切ることは、利用者の権利性が高まり、サービス提供者の目が、行政ではなく利用者の方に向き、ニーズにマッチしたサービスを提供せざるをえなくなる。また、現物給付と現金給付の中間的な性格を持ち合わせており、その流通性の高さから、サービスの種類・場所・時間・事業者についての選択の柔軟性が増す。さらに、サービスの市場化が促進され、よりよいサービスが選ばれ続けるため、サービスの質や効率性の向上につながる。バウチャー方式の導入に対しては、不正流通、煩雑な事務処理を懸念する声もあるが、ICカード、バーコード利用等電子的な情報技術の活用により、不正の防止、より一層の効率化が可能である。

      11. イコール・フッティングのための工夫
        社会福祉法人の設立要件などの緩和が進められている一方で、社会福祉法人に対する補助金・優遇税制は従来通り維持されようとしている。公的介護保険の対象となるサービスにおいて公正な競争を促進する為には、社会福祉法人とその他の法人とが同等の競争が行なえるような基盤を構築する必要がある。行政が補助金を拠出することなどにより、非効率な事業主体を維持することは厳に慎むべきである。なお、将来的には、社会福祉法人のあり方を抜本的に見直す必要がある。

      12. 起業支援
        新規参入を目指す動きが強まっているが、その中には、保健婦・士、看護婦・士や介護福祉士、ホームヘルパーなど、サービスの提供のノウハウは持つが、資金力や経営力に乏しいケースも多い。介護サービスの拡充と雇用創造に向けて、長期・低利融資などの支援制度を整備するとともに、経営面を支援するために、自治体に、専門家(例えば弁護士、税理士、社会保険労務士、経営コンサルタント等)によって事業者の相談を受けたり、適切な支援を行なうことができるようにする必要がある。

    5. 介護・保健・医療情報通信ネットワークの整備
      1. 介護・保健・医療等に関する情報通信ネットワークの本格的な整備を実施すべきである。介護・保健・医療を一体化して高齢者やその家族等の抱える多様なニーズに適切に応え、質の高い総合的サービスを提供することが不可欠になっているが、情報通信ネットワークは介護・保健・医療が連携を図るのに非常に優れた手段である。サービス提供者、ボランティア等に関する情報を地域で共有すべきである。

      2. 動画テレビ電話、テレビ会議システム等を活用した介護支援情報システムの構築を推進すべきである。在宅ケアにおける情報通信ネットワーク化により、療養面(介護指導、リハビリ指導、健康管理・予防指導、健康相談、診断の支援、緊急時の対応など)ならびに在宅でのコミュニケーションの密接化による心理的サポート、より質を高めるサービスのサポート(スタッフ間の情報交換、専門職からスタッフ・ボランティアへの助言・指導、第三者評価など)、生活自立支援(生活相談、生涯学習、趣味・娯楽の享受、疑似体験等の生き甲斐支援、ハンディキャップの補完など)等を適時適切に行なえるようになる。

      3. 医療機関において、現在手作業で行なっている部分を電子化し、効率化を進めるべきである。また、カルテやレセプトを電子化するなど医療情報システムを早期に構築すべきである。これらに取組むにあたっては、標準化に配慮して、病院間、病院と診療所間等で情報の電子的な交換、伝達等が迅速にできるような仕組みを構築することが望まれる。さらには、ネットワーク等の活用により「3時間待ちの3分治療」から、国、地方公共団体、医師会、民間企業等の有機的連携による「24時間、365日、いつでも、どこでも」診療・ケアを可能とする体制の整備が必要である。

    6. 規制緩和
      1. 民間企業に病院経営を認めるべきである。わが国の医療サービスを充実させるためには、民間企業を参入させて、民間企業のもつ経営ノウハウを活用すべきである。医療法人の中にも、株式会社化して株式公開をしたいという声がある。
        民間企業が病院を経営しても医療行為を行なうのは厚生大臣から免許を受けた医師自身であり、また、医療保険制度の下で基本的な医療を受けられることが保証されており、患者の経済的負担や患者への対応が病院によって大きく異なることはほとんどない。適切な医療の確保は、民間企業の排除ではなく、第三者評価機能を強化しつつ、情報公開、医師や病院の監視体制の整備などにより担保すべきである。
        民間企業が病院経営を認められると、利用者ならびに医師等医療関係者の選択肢が拡大する。とくに、医師が、本業である、患者やその家族のための優れたサービスの提供に専念できる環境を整える手段が増える。企業の経営ノウハウ等を利用して能力や意欲を発揮してもいいと考える医師等の選択の範囲も広がる。また、企業が病院経営に参入すると、企業のもつ総合的品質管理のノウハウを活かして、利用者ニーズを懸命に探り、顧客に必要な情報をわかりやすく提供しながら、ニーズにあったサービスを行なうとともに、薬や資材の在庫管理(過不足のない適正在庫管理、補充)、購買システム、物流の効率化を通じて、無駄やコストの削減、人材の能力発揮などでの効率化とサービスの質の向上に向けた創意工夫と切磋琢磨が促される。それは顧客満足度の向上や医療保険財源の有効活用につながる。現在、各地に医療法制定前から活動をしている企業病院が多数存在するが、地域社会に不可欠の存在になっており、企業が病院経営を行なうことの妥当性は実証されていると言えよう。

      2. 医療行為と経営とを分離(医師以外でも理事長に)すべきである。98年に、「原則医師」の例外措置(医療法第46条の3第1項但し書)に関する運用の見直しにより理事長要件が緩和され、「過去5年間にわたって、医療機関としての経営が安定的に行われ、かつ、法人としての運営も適切に行われていると都道府県知事が認めた既存の医療法人」「社会福祉法人等の医療機関経営を常任として7年間以上経験した者が就任する、役員構成が公正な医療法人」等は理事長が医者でなくてもよいとされた。しかし、現実においては、過去経営が順調でないが故に理事長に経営の専門家を起用することが考えられており、理事長要件の一層の緩和が求められる。

      3. 在宅療養指導や訪問看護において、利用者の利便性ならびに業務効率化を促進する観点から、運営の実態に則して「在宅療養指導管理料」を「技術料」等技術と「衛生材料」等「物」に分離して評価するとともに、在宅療養に用いる「衛生材料」等の取り扱いについては、訪問看護事業者に対しても医療機関と同様に認めるべきである。
        診療報酬としての「在宅療養指導管理料」は、「医師が処置・指導等を行い、あわせて必要な衛生材料等を支給した場合に算定する」とされている(平6.3.16厚生省保険発25、平8.3.8同21)。このため、「在宅療養指導管理料」のうち、訪問看護事業者が衛生材料等を用いて処置を実施した部分について、訪問看護事業者が医療機関から必ずしも分配を受けるとは限らないが、訪問看護事業者が衛生材料等を自らの負担で提供して在宅療養者を処置する実態がある。訪問看護事業者は、独立した事業体であり、事業体が行った業務の対価を、診療報酬支払基金から直接受け取るべきである。
        また、訪問看護事業者が在宅療養に用いる滅菌物などの衛生材料を取り扱うにあたっては、店舗ごとに都道府県知事から医療品の一般販売業の許可を受け薬剤師を配置しなければならないとされている。医師は処置の必要性について包括的な指示を出し治療に専念しているため、在宅療養者に必要な衛生材料等の調達を、個別のニーズを把握している訪問看護婦に任せているという実態や、訪問看護事業者が衛生材料等の機能的な調達機関を設置する事業モデルでは、調達業務の平均時間が8分の1程度まで効率化できるという調査結果もある。訪問看護事業者に対して、医療品の一般販売業の許可を受けさせ薬剤師を配置させることは、効率的な事業運営を図る上で負担をかけるものとなっている。

      4. 訪問看護ステーションの設置基準を緩和すべきである。例えば、健康保険法施行規則により、訪問看護ステーション毎に置く看護婦等の従業者について2.5以上の員数を確保するよう義務づけられているが、サービス供給量の増大ならびに開業促進の観点から、看護婦等が1人でも設置できるようにすべきである。
        新ゴールドプランでは、老人訪問看護ステーションだけでも99年度末までに5,000箇所を整備する目標を掲げているが、99年10月末現在3,837箇所に留まっており、サービス供給量が不足している。その一方で、一度リタイアした看護婦等の有資格者のみならず、病院等で働いている看護職の中にも、自立的にあるいは集団でなく「個」を相手に訪問看護婦・士として働きたいという意欲をもった人もいる。なお、設置基準を緩和するにあたっては、看護婦等の有資格者が個人事業としても行えるよう、法人格の有無を問わないなどの配慮が必要である。

      5. 医療機関や介護施設、医薬品(特に医療用)に関する広告規制を緩和すべきである。例えば、医療機関について、広告の範囲が一部(入院設備の有無、療養型病床群の有無等)に制限されていては、利用者が医療機関を選択するに当たっての判断材料としては不十分であり、患者は口コミ情報や病院を紹介する書籍等に頼らざるを得ない。現在の広告規制は、医療機関が利用者にサービス内容を伝える道を閉ざしており、患者のニーズに対応できないものとなっている。また、インターネットの普及により、医療機関に関する情報に直接アクセスできる状況となっており、規制が既に形骸化している。

      6. cure(治療)からcare(予防)へと医療パラダイムをシフトさせることが求められている中で、生活習慣病の在宅ケアを促進するためには、血糖センサ等の体外診断薬の早期OTC化(Over The Counter:薬局・薬店での市販)が望まれる。例えば血糖センサのように簡単に健康計測できる対外診断薬は、米国では医師の処方箋がなくても購入できるが、日本では処方箋が必要とされている。

      7. 医療用具の認可に要する審査期間の一層の短縮化が望まれる。新しい医療用具は、薬事法に基づき、臨床試験(治験)治験を行なって厚生省の承認を得なければならない。通常、治験準備から終了まで半年、その後の審査に1年半を要するため、開発意欲、投資意欲が減退しかねないとの声もある。

    7. 健康保険の保険者機能の強化
    8. 健康保険組合等の保険者が、適切かつ効率的な医療サービス確保の観点から、利用者の立場に立って、被保険者への決め細かな情報提供、適切な保険医の紹介、レセプトの点検、予防医療の実施など、本来の機能を発揮できるようにする必要がある。このことは、医療費の適正化にもつながる。

      1. 現在、健康保険法第43条の9第4項では、保険医療機関または保険薬局から療養の給付に関する費用請求があった際には、健康保険組合がレセプト審査をした上で支払うことが定められているが、実際には、厚生省の行政指導(昭和23年通牒)によって、レセプトの一次審査は、基本的には、健康保険組合連合会と社会保険診療報酬支払基金との契約を通じて支払基金に委託せざるをえなくなっている。健康保険組合はレセプトの2次チェックのみを行ない、支払基金に再審査請求を行なっている。
        今後は、最終的なレセプト審査は支払基金が行なうことを前提に、レセプトの一次審査を個々の健康保険組合が自主管理できるようにする必要がある。また、医療機関、診療所においてコンピュータ化が相当進んでおり、レセプトに関する事務量の効率化のため、レセプトに関するコンピュータ事務処理・システム化を加速すべきである。個々の健康保険組合のレセプトチェックに係る自主管理の余地が拡大することは、レセプト審査の充実、保険者機能の強化の重要な手段の一つである。

      2. 健康保険組合の適用・給付業務の外部委託を可能とすべきである。医療費及び拠出金の急増により、健康保険組合の財政は危機的な状況にあるが、今後保険料収入の増加が見込めないため、健康保険組合側は、組織の再編成による軽量化や保健事業の抜本的な見直しを行ない、支出の削減を計画しているところもある。健康保険組合の業務についても、決裁や企画・立案以外の事務的なものについては外部業者へ委託し、競合させることにより事務費の軽減を図りたいと考えているところも出てきている。しかし、適用・給付業務については、行政指導により、外部委託が認められていない。単純な定型的な業務については、外部業者への業務委託を認め、健康保険組合の支出削減への取り組みを促すようにすべきである。

      3. 健康保険組合の議員定数(人数)に関する行政指導を廃止すべきである。健康保険組合の議員定数は、各健保組合が民主的かつ効率的な運営ができるよう自主的に定めるべきものである。しかしながら、現状では法の定めがないにもかかわらず、前例に基づく行政指導(保険者2500人当り1人の議員)がなされ、健康保険組合の自主的運営に規制が加えられている。健保組合の財政のひっ迫と機械化による事務効率の向上により、各健保組合は組織及び議員定数の見直しを迫られている例が多くなっている。議員定数は効率的かつ実質的な運営がなされるよう各健保組合の裁量に委ねるべきである。

      4. 健康保険に関する事業主からの各種届出書についても電子媒体による届出を認めるべきである。厚生年金の場合、一括適用事業所では、資格取得・喪失届等は電子媒体による届出が認められているが、健康保険でも同様に電子媒体による届出を認め、事務の効率化を図るべきである。99年3月に閣議決定された「規制緩和3か年計画(改定)」では、『事業報告に関する報告については、報告事項見直し及び電子媒体の利用による報告方法を早急に検討し、その効率化を図る』とされ、『1999年度以降できるものから順次実施』とされている。

      5. 健康保険の届出事務について、本社での一括適用を認めるべきである。健康保険同様資格の得喪業務を含む厚生年金については条件を満たせば、本社における届出業務の一括適用が認められるが、健康保険では認められていない。健康保険についても厚生年金に足並みを揃えるべきである。とりわけ大企業では、発生する人事異動も数多く、管理部門のスリム化が叫ばれている昨今の状況を踏まえ、本社における一括適用を早急に認めるべきである。

  8. おわりに
  9. 医療、福祉は、その専門性から特別なものという認識が強いが、利用者の視点に立てば、医療も福祉もサービスであり、医療・福祉はサービス産業という捉え方へ国民意識を転換させる必要がある。

    1. 高齢者本人の人としての尊厳を保護するとともに、介護者の自己実現(生活欲求満足)欲求の実現が重要である。高齢者には、衰えていく肉体的・精神的機能を自ら認めたくない、あるいは他人に指摘されたくない、というプライドがある。例えば、自ら排泄努力を行なうことは、排泄介助で受ける屈辱から心を開放させ、生きる意欲を持続させる。一方、介護者には、自らの生活の充実と満足いく高齢者ケアの実現とを両立させたいという欲求がある。介護時間の短縮、肉体的・経済的負担の軽減を望むとともに、高齢者・介護者双方にとって快適なケア(トラブル発生率の低いものなど)を選択できることが望まれる。

    2. 現在の誤った介護観が、寝たきり高齢者を生み出している。寝かせておくことが優しさであるといった誤った常識やバリアーのある家屋の構造などを改めて、寝たきりを防止する必要がある。


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