[経団連] [意見書]

特殊法人等の改革に関する第一次提言

2000年3月28日
(社)経済団体連合会

  1. 改革の必要性
    1. 特殊法人については、土光臨調以降、行政の減量化と官民の事業分野の調整等の観点から改革の必要性が指摘され、数次に渡り整理合理化、組織・経営の改善・効率化等の取組みがなされた結果、ピークの113法人から78法人にまで削減された。しかし、近年の特殊法人の統合等にも見られるように、法人数が削減されていても、単なる組織統合に止まり、機能等の抜本的な見直しが行われたとは言い難いものが多く含まれている。設立の趣旨に照らして存在意義が無くなった、もしくは存在意義が薄れたもの、あるいは政策目的自体の必要性があっても実施体制の見直しが必要なものがかなりあると思われる。したがって、行政改革の本旨に照らし、存続の必要性を更に見直すとともに、効率的・効果的な実施体制への移行等を検討し続けていく必要がある。

    2. 平成12年度の財政投融資計画では、特殊法人33機関および認可法人5機関に財投資金が投入されることになっている。また、これまでの財政投融資計画残高を見れば、40機関以上の特殊法人等に約250兆円にものぼる財投資金が投じられている。これらの特殊法人等についての継続的な改革努力を怠るなら、その一部について将来的に回収が困難となり、税金で補填せざるを得ない事態が生じることも懸念される。中央省庁等改革の中で財投改革が実施されるが、出口部分にあたる特殊法人等の改革については、資金調達面を通じた間接的な取組みに止まるなど、ほとんどの問題が先送りの扱いとなっている。財投改革を実効あらしめるためにも、改めて特殊法人等の全般的な見直し、改革を行なう必要がある。

    3. 中央省庁等改革の一環として2001年4月から、公共性、透明性、自主性を兼ね備えた新たな行政サービスの実施機関として、独立行政法人制度が創設される。独立行政法人については、効率性の向上、質の向上、透明性の確保等の実現のため、業績評価システムや原則として企業会計原則が導入され、業務・実績に関するディスクロージャーを徹底するなど、これまで特殊法人等の固有の問題として指摘されてきた事項のかなりの部分が克服可能な制度として設計されている。現在の特殊法人等が実施している事業についても、独立行政法人の枠組み、あるいは同様の制度の下で運営すべき事業や運営可能なものがかなりあると思われる。

    4. なお、認可法人については設立形態こそ異なるものの特殊法人と同様に公共的・公益的色彩の強い事業を実施していることから、臨調答申等では、特殊法人と認可法人を一括して「特殊法人等」とされるなど、行政改革との関連では特殊法人と同様に取り扱われている。従って、今回の改革に当たっても、同様の取組みが求められるものであると考える。また、特殊法人、認可法人についてスクラップ・アンド・ビルドを義務づけたところ、隠れ特殊法人・認可法人的な行政代行型の公益法人が数多く設立された経緯があることから、民間法人として設立された法人であっても、行政の外延部とみなされるものについては、引き続き、その改革を検討していく必要がある。

  2. 改革の基本的考え方
    1. 特殊法人は、戦後復興期から高度経済成長期に、行政需要の増大に応え、遅れた社会資本の整備や地域の振興、産業の育成・中小企業振興等の政策の実施機関として特別の法律によって設立された。認可法人についても、特に高度成長期において実質的に特殊法人と異ならないものが、特別の法律に基づき主務大臣の認可によって、多く設立されている。これら特殊法人等については、その後の社会経済情勢等の変化や官民の役割分担のあり方についての考え方等を踏まえ、

      1. 設立の根拠とされた政策目的が、現在においても妥当かどうか、
      2. 政策目的自体が現在においても必要であるとしても、特殊法人等の形態をとる必要があるか、他の手段で代替可能ではないか、
      などの視点で見直し、廃止・統合・事業の縮小の他、民営化ないしは民間法人化等の自立化、あるいは非公務員型の独立行政法人化や利子補給等の代替手段への移行等を進めることが基本である。

    2. 上記見直しの結果等を通じ、何らかの理由で特殊法人等として今後も存続が必要な事業については、組織・経営の効率化・活性化を図るとともに、事業の透明性を通じて常に国民・国会の監視の下に置く必要がある。そのため、第三者による客観的な評価に基づく見直しが継続的に実施されることを保証する制度の導入、ディスクロージャーの徹底等、独立行政法人制度に準じた共通制度を整備する必要がある。特に財投機関については、財投機関債を発行するための条件整備の視点からも、情報開示等を徹底させることが重要である。

  3. 具体的な改革方策
    1. 特殊法人等の整理・縮小と定期的見直し
      1. 特殊法人については、中央省庁等改革基本法第42条において、その整理・合理化がうたわれ、「中央省庁等改革の推進に関する方針」(1999年4月27日中央省庁等改革推進本部決定)において、「累次の閣議決定等を踏まえつつ、徹底して見直し、民営化、事業の整理縮小・廃止等を進めるとともに、存続が必要なものについては、独立行政法人化等の可否を含めふさわしい組織形態及び業務内容となるよう検討する。」とされたところである。また、中央省庁等改革関連法の成立に際しての衆参両院における付帯決議(衆院1999年6月9日、参院7月8日)においても、特殊法人の整理合理化について「第三者機関に提言を行わせる」こととされている。従来より特殊法人と同様に取り扱われてきた認可法人も含め、先ず2001年1月の新体制への移行に合せて、政府は中央省庁等改革基本法等に基づく特殊法人の整理・合理化の実現のため、権威ある第三者的な機関を設置すべきである。政府は、当該機関による閣議決定等の実現状況の点検や下記基準による見直し等に基づく提言等を踏まえ、自らも徹底的な事業の見直しにより期限を切って具体案を策定し、政治の決断による特殊法人等の整理・縮小を図るべきである。

        1. 事業目的を概ね達成した法人や事業の意義が薄れた法人、民間事業者と類似の業務を実施し国の関与の必要性が低下している法人は、廃止又は縮小する。民間に対する誘導等他の政策手段が効果的なものについては代替手段へ移行する。
        2. 採算性があり国の事業として行う必要が無くなった法人や、企業的経営により効率化を図ることができる法人は、民営化する。完全民営化の途上にある法人は、その早期実現を図る。
        3. 民法上の法人等により、同じ事業の実施が可能な法人は民間法人化する。完全な「民間法人化」が難しい場合においても、国又はこれに準ずるものからの出資や補助金等に依存しない体質への転換を図るなど、可能な限り自立化を進める。
        4. 類似的事業を実施する法人が複数存在し、非効率となっているものについては統合・合理化する。
        5. 特定の地域を対象とし、設立当初の目的が薄弱になっている法人については、全国を対象とする法人に統合したり、地域的な事業主体に移管する。
        6. 上記見直しにも係わらず、独立した法人としての存続が必要なものについては、存続する法人として相応しい業務内容とすべく、官民の事業分野の調整等の観点に立った事業の見直しを徹底する。組織形態として、独立行政法人の枠組みに馴染むものについては、非公務員型の独立行政法人に移行する。

      2. 社会経済情勢の変化等を踏まえた行政運営の実現のため、特殊法人等の実施する政策自体の是非から実施体制等に至るまでの総合的な見直しを定期的に行うことを制度化すべきである。この定期的見直しに際しては、費用・便益分析等新たな政策評価の仕組みを整備すると共に、第三者による客観的な評価に基づき事業・組織の改廃も含めて検討することとし、その見直しの結果、存続する事業・法人については、その理由や根拠等を公表するなど透明性を確保し、国民と国会の選択が可能なものとすべきである。

    2. 共通制度の整備
      1. 中期目標・中期計画の義務付けと客観的評価機関の設置
      2. 独立行政法人については、中期目標および中期計画の策定が義務づけられ、所管省庁に置かれる評価委員会が各事業年度に係わる業務の実績に関する評価を行うことに加えて、中期目標の期間の終了時においては、総務省に設置される学識経験者からなる政策評価・独立行政法人評価委員会が当該法人の主要な事務及び事業の改廃に関し、主務大臣に勧告することができる、とされている。
        引き続き特殊法人等の形態を維持する法人についても、同様の制度を確立すべきであり、評価結果については、毎年度の予算編成前に国会に報告させることとし、法人の存続の是非を含めて常に見直しが促進されるようにすべきである。同時に、組織・要員のスリム化・効率化や、管理費・業務運営経費等の削減に関する中期目標および中期計画を策定し、その計画達成を自律的に促進させる仕組みを整備すべきである。

      3. 会計処理の適正化、財務情報のディスクロージャーの徹底
        1. 会計基準
          特殊法人等の会計処理基準については、国の出資又は補助金等の交付がなされている特殊法人等の財務諸表の承認の審査等に当たり、主務大臣が依拠すべき基準として活用することを目的として、1987年10月に「特殊法人等会計処理基準」(以下「基準」)が定められている。「基準」は、基本的に企業会計原則に沿って会計処理の標準化を図るものとされているが、実際には民間企業の関連制度とは異なる面が多い。例えば、引当金について、現在の「基準」においては、「相当と認められる額」について計上を行っているため、過少もしくは過大計上の可能性が存在する。また、補助金等を用いて固定資産を取得した場合の償却方法については、補助金等に相当する額を負債の部に計上し、減価償却費に相当する額を年度毎に取り崩して収益計上するなどの処理方法がとられている。殆どの固定資産の取得を補助金等の原資で取得している特殊法人も存在するため、企業会計と同様の圧縮記帳を行う場合には、かえって補助金の使用実態が不明確となる惧れがあることなどから、こうした手法が採用されているものと考えられるが、ディスクロージャー促進の観点からも、処理方法を注記として示す等の十分な工夫が図られるべきである。
          従って、特殊法人等の会計基準については、独立行政法人の会計基準をも参考にしながら、改めて、その適正化を図る必要がある。その際には、特殊法人等と子会社・関連会社・関連公益法人との連結会計のあり方を検討すべきである。

        2. 外部監査
          独立行政法人については、会計監査人の監査が法定化されているが、特殊法人等については、特殊会社等を除き、外部監査を義務付けている例は殆ど見られない。政策金融機関の一部には導入に向けた検討が進められているとのことであるが、会計処理の公正性確保のため、民間企業と同様に、公認会計士による外部監査を義務付けるべきであり、特に財投機関については、財投機関債を発行するための条件整備の視点からも導入を急ぐべきである。

        3. 財務内容等の開示
          特殊法人については、1997年に「特殊法人の財務諸表等の作成及び公開の促進に関する法律」(特殊法人ディスクロージャー法)が制定され、(1)貸借対照表、損益計算書、附属明細書、事業報告書及び監事の意見書の作成及び事務所備え付けの法定化、(2)貸借対照表、損益計算書の公告の法定化等が行われ、財務内容等に関する書類の作成・公開に係る制度の統一的整備が図られた。しかし、特殊法人と同様の性格を持つ認可法人については何らの法的手当てもなされておらず、実際の財務諸表等の作成・公開は限定的なものに止まっている。
          また、特殊法人等については、多数の子会社等の関係法人が存在し、割高な発注や調達によるコスト高、天下り等の問題が指摘されており、「特殊法人のディスクロージャーについて」(1995年12月19日閣議決定)では、関係会社(子会社及び関連会社)の一覧の公表(会社名、出資額及び出資比率)が義務付けられているところである。
          特殊法人等の更なる透明性を確保するため、認可法人を含めた財務内容等の開示とともに、上記の徹底に加え、全ての子会社・関連会社・関連公益法人の財務諸表等や、会計制度の整備を踏まえた連結財務諸表等の作成・公表を義務付けるべきである。併せて、国際会計基準に合わせて、2000年度以降、企業会計に導入が予定されているキャッシュ・フロー計算書は、独立行政法人会計基準に於いても作成の義務付けがなされており、特殊法人等においても、作成・公表を義務付けるべきである。なお、これらの情報は特殊法人等の業務実態を把握する上でも重要であり、国民にわかり易い形で統一的・一覧的に公開される必要がある。

        4. 情報公開
        5. 昨年成立した行政情報公開法において、政府は特殊法人の情報公開についても、法律の公布(平成11年5月14日)後2年を目途として法制上の措置を講ずるものとされ、現在、政府の行政改革推進本部の下に設置されている特殊法人情報公開検討委員会において、認可法人等も含めた情報の開示と提供の制度の在り方について鋭意検討が進められている。
          新たに国の組織から独立して行政サービスを実施する組織として設立される独立行政法人はもとより、出資金・補助金等の国の関与度や事業内容等から行政の代行機関、外延部と位置付けられる特殊法人等についても、情報の開示と提供に関する法制度を早急に整備すべきである。

        6. 天下り受入れの原則禁止と内部登用の促進と民間人の活用
        7. 特殊法人等においては、専門知識が必要である等の主張により、官僚OBがその長に就任することが慣例となって、天下りの指定ポストと化している法人が少なくない。特殊法人等相互間におけるたらい回し的異動(いわゆる「渡り」)の原則禁止や選任の透明性確保・基準の明確化はもとより、組織の活性化や効率的な事業運営等のため、今後は天下りの受入れを原則として禁止し、法人の行う事業に高度な知識・経験を有する者として内部者の登用を図るべきである。同時に、経営手腕に優れ、事業を適正かつ効率的に運営することのできる民間人の活用を進めるべきであり、そのためにも、評価システムや早期退職制度の見直し等の公務員制度改革を併せて進めていく必要がある。

        8. 共通法制の整備
        9. 特殊法人等については、必要の都度、個別の法律をもって設立された経緯からその法規制は様々であり、独立行政法人にみられるような通則法は整備されていない。政策の実施機関としての公共性や規律を確立し、独立行政法人と同様に効率性の向上、質の向上、透明性の確保等の実現を図るためにも、特殊法人等については、その定義や範囲を定めたうえで、上記の評価や財務・会計等の制度のほか、調達及び業務委託方法の透明化、役員の権限及び責任、政府の関与・規制、破綻及びその処理の仕組み等の基本的制度を内容とする共通法制の整備を検討すべきである。

    以 上

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