[経団連] [意見書] [ 目次 ]

IT革命推進に向けた
情報通信法制の再構築に関する第一次提言

−「事業規制法」から「競争促進法」の体系へ−

2000年3月28日
(社)経済団体連合会

○ はじめに

  1. インターネットの急速な普及、情報通信技術の革新などを背景として、「IT革命」とも呼びうる変革が進行している。ITは個人の個性や創造性の発揮、ハンディキャップの克服を可能とするとともに、企業や政府、地方公共団体における業務の効率化・高度化を促す。今後の世界的大競争の進展、少子高齢化などの構造変化に対応して、産業競争力の強化、新産業・新事業の拡大、雇用機会の増大、国民生活の質的向上、地域の活性化を図るためには、ITを積極的に活用していく必要がある。

  2. わが国は、これまでのところ、情報ネットワークやインターネットの広範かつ高度な利用という面で、米国に大きく水をあけられている。とくに、民間企業における情報ネットワーク活用の立ち遅れは、産業の国際競争力に致命的な影響を与えるおそれがある。また、ネットワーク利用の遅れた行政は、国民生活や産業活動の足枷となっている。

  3. 政府では、総理のリーダーシップによるバーチャル・エージェンシー(自動車保有関係手続のワンストップ・サービス、政府調達手続の電子化、行政事務のペーパレス化、教育の情報化)の活用やミレニアム・プロジェクトへの取り組み(電子政府、教育の情報化、情報通信技術21世紀計画の推進)、ならびに情報化に対応した制度の見直し、電子商取引の環境整備などを推進している。さらには、国家的な情報通信産業技術戦略が策定されるとともに、情報科学技術開発の戦略的な推進が図られている。今後は、こうした利用面の環境整備や技術開発の推進と同時に、国民生活や企業活動の基本的インフラである情報通信サービスの供給構造についても、公正な競争を通じて利用者ニーズが敏感に反映され、技術革新に迅速に対応できる仕組みへ改革することが重要である。
    経団連では、このような状況を踏まえ、情報通信サービスの利用者の立場から、情報通信市場における自由で公正な競争の確保、透明な行政運営のあり方を中心に産業界の関心事項を整理し、今後の情報通信行政のあり方につき提言をとりまとめた。

  1. 情報通信市場の現状と改革の必要性
  2. ITを活用した情報ネットワークの潜在的可能性を十分に発揮させるためには、わが国情報通信市場の更なる活性化が必要である。わが国が目指すべき情報通信市場は、

    1. 多数の事業者が、サービスの料金、質、利便性の面で創意工夫を発揮できる公正で自由な競争環境が整備され、
    2. 安価で良質なサービスの提供によって利用者の満足度が高められ、
    3. 事業者も内外の市場において競争力を維持し、
    4. 行政は、制度・執行方針・判断基準・諸手続を明確にするとともに意思決定過程の透明性を確保し、国民に対する説明責任を十分に果たしている、
    というものである。
    そうした結果、利用者が技術革新の成果を享受でき、情報通信市場が拡大し、それがさらなる事業者間の競争を促進するという好循環が形成されることが望ましい。こうした市場を実現するためには、事業者と行政とが、インターネットを中心とする技術革新や市場における需要構造の変化、通信と放送の融合、通信市場の競争促進などの課題に的確に対応していかなければならない。

    1. インターネット時代への対応
    2. IP(インターネット・プロトコル)ネットワーク上で多様なアプリケーションが稼動することが可能になり、情報通信ネットワークの社会インフラとしての役割はますます重要になっている。ところが、情報通信サービスを利用する企業からは、料金の低廉化やサービスの多様化を含め様々な課題が提起されている。インターネットをはじめ情報通信への潜在的なニーズは大きく、利便性の向上が実現すれば、新産業などの爆発的発展が期待でき、今や需要拡大の臨界点にあると言える。

      1. インターネットは、気軽にグローバルな情報の受発信、多数の相手との情報交換や情報の加工が容易に可能な、利用者主体の情報ネットワークである。インターネットの発展は目を見張るものがあり、今後、デジタル技術をはじめとする技術革新、電子商取引の拡大に伴い、IP(インターネット・プロトコル)による情報伝送・データ通信の需要は大幅に拡大していくものと予想される。また、IPネットワークの上で、あらゆるアプリケーションが稼動し、映像・画像・データ・音声などのコンテンツが流れていくことになろう。
        インターネットの普及により通信ネットワークの社会インフラとしての役割はますます重要になっている。情報通信に係る法制度も、インターネット利用の観点から再構築する必要がある。

      2. わが国企業は、事業の効率化・再編成、雇用構造の改革、経営の迅速化、新事業創出などに挑戦しており、情報通信ネットワークの活用はそのための重要な手段となっている。しかし、経団連のアンケートによると、通信料金が高くスピードが遅い、あるいはサービスの選択肢が少ないことにより、情報通信ネットワークが十分有効活用されているとは言えない状況にある。例えば、電子商取引におけるサービスの種類が限定される、オンライン・コンテンツ提供事業の事業性が期待できない、納入先機器のオンライン・リアルタイム監視サービスができない、専用回線の高速・大容量化ができない、地方拠点を含めたイントラネットの高速化が図れない、通信量を如何に減らすかに精力が割かれ前向きな情報化が進められないなど、企業の事業展開や業務の効率化が制約されているケースがある。
        また、情報通信を利用する企業においては、高速・大容量回線の整備とともに、各種通信料金のより一層の低廉化、割引サービスの拡充・多様化、通信サービスの品質向上、工事等の迅速化、保守・サポートサービスの強化、ノウハウ面の適切な助言などを求めている。単なる通信手段の提供ではなく、課題に関する解決策の提案を期待する声も強まっている。この他、インターネット接続プロバイダーにとっても、広帯域の通信インフラを安く調達できる競争市場がないのが実情である。事態を放置すれば、主要企業の情報通信処理センターの海外シフトに拍車がかかりかねない。

      3. わが国情報通信市場は、活況を呈している米国と比べると、見劣りがするのが実情である。しかし、インターネットをはじめ、情報通信に対する企業・国民の潜在的なニーズは大きいものがあり、通信料金の低下、サービスの多様化、利便性の向上が実現すれば、情報通信を利用した事業や新産業の爆発的な発展が期待できるという意味で、今や、需要拡大の臨界点にあると言える。

    3. 通信・放送の融合への対応
    4. デジタル技術等の技術革新を背景に、情報伝送路や端末などが一体化し、通信と放送とが融合したサービスが既に出現しており、今後この動きは一層加速されよう。しかし、通信と放送の区分が不分明で、通信・放送毎に別々の行政手続が必要になるなど、制度面での対応が遅れている。

      1. デジタル技術、情報処理技術、情報伝送技術などの技術革新や、インターネットの発展等を背景に、通信・放送の情報伝送路や端末などの共用化・一体化が進むとともに、サービスの統合・融合やコンテンツの相互利用が図られている。

      2. 通信はかねてよりデジタル化が進んでいるが、放送においてもCS放送に加えて、BSテレビ放送、ケーブルテレビ、地上波放送もデジタル化に向けて動きつつあり、通信・放送の融合が急速に進展することが予想される。行政による適切な環境整備の中で、通信・放送を通じたトータル・デジタル・ネットワークが整備されると、事業者のビジネスチャンスの拡大のみならず、利用者にとっても、チャンネルの多様化や利用者参加型番組、さらには利用者制作型番組の視聴が可能となるなどのメリットがある。

      3. 事業者は、利用者の多様なニーズへの対応や、経営資源の有効活用、各種事業の相乗効果発揮などの観点から、通信・放送の垣根を越えた事業に積極的に取り組んでいる。例えば、既に、次のような通信と放送とが融合したサービスが登場しており、今後、新しい融合型サービスが相次いで生まれると予想される。

        1. ストリーミング技術によるリアルタイムでのインターネット上のコンテンツの再生(いわゆるインターネット放送)
        2. 通信衛星等を利用したIPマルチキャストサービス
        3. ケーブルテレビ用の同軸ケーブルを利用した電話やインターネット接続サービス
        4. 通信用光ファイバーを利用したケーブルテレビ事業
        5. BSデジタルデータ放送で考えられている利用者参加型番組など特定の利用者個人への情報提供
        6. 情報の提供者と利用者とが一体となった番組や利用者が制作に参加して情報を発信する番組の提供
        7. インターネットコンテンツのデータ放送での利用
        8. CSデジタル放送等で受信した番組の特定者への光ファイバーを通じた提供
        9. 通信衛星を利用した特定者向けの情報伝送 など

      4. 現在、電気通信のうち、不特定多数の公衆によって直接受信されることを目的とする無線、有線の送信が放送とされている。通信と放送の区分は、送信者と受信者との間の紐帯関係の強さの程度、受信者における属性の強さの程度、通信事項が送信者と受信者の紐帯関係や受信者の属性を前提としているか否かなどを判断基準としている。しかしながら、判断基準自体が民間からみると不透明であり、新しい融合型の情報伝送サービスを行なうためには、予め行政に対し、サービス内容を詳細に説明した上で、通信か放送かの判断を仰がなければならないのが実情である。「通信衛星を利用した通信・放送の中間領域的な新たなサービスに係わる通信と放送の区分に関するガイドライン」についても、行政は、通信扱いのサービスの類型追加に消極的である。また、通信扱いとなる「特定の者」の範囲が狭すぎるとの批判もある。

      5. 通信・放送両事業者の相互参入のあり方に関しては、参入規制と公正競争条件の確保との関わりが問われている。例えば、通信市場に対する影響力が大きいNTTグループ企業の放送分野への進出について、厳格な規制が存在する。また、既存放送事業者も、マスメディア集中排除原則などの規制を受けており、柔軟な事業展開が妨げられている。

      6. さらに、情報伝送路のデジタル化や広帯域化などに伴い、いずれの情報伝送路を経由しても、映像・画像・音声・データなどの情報伝送が可能となり、情報伝送設備の共用化・一体化が進みつつある。しかし、現在、通信、放送は別個の法律により許認可・届出などの規制がかけられている。

      7. このまま、制度面での対応が遅れれば、事業者の創造的な事業展開が阻害され、利用者が技術革新の成果を迅速に享受できなくなるおそれがある。

    5. 通信市場における競争の促進
    6. 利用者ニーズに対応するため、事業者がサービス面で創意工夫を図り、国民・企業が低廉・多彩な情報通信サービスを享受できるよう、今後本格化が予想される市場競争下でのルールを整備するとともに、利用者利益を重視した透明な行政を確立することが重要である。また、行政は、事業者の海外展開が可能となるよう、諸外国に外資規制の撤廃などを働きかける必要がある。

      1. わが国通信市場は、昨年7月1日のNTT再編成、移動体通信の急成長、事業者間の合併・提携、外資系企業の相次ぐ参入など大きな変化がみられ、全てのサービスをそろえた複数の総合的事業者が競争する体制へと移行しつつある。
        長距離通信、国際通信、移動体通信等の分野では競争が着実に進展し、通信料金は劇的に低下している。一方、地域通信市場においても、地域系NCCやケーブルテレビ事業者による電話・インターネットサービスの開始、GC(市内交換局)接続の進展などにより、ようやく競争が始まっている。因みに、郵政省の「トラヒックからみた電話等の利用状況(1998年度)」によれば、加入電話の県内通話の量に占めるNCCの割合は6.3%(県内市外通話については16%)で増加傾向にある。
        一方、最も重視しなければならない利用者サイドをみると、企業ユーザーをはじめとする利用者の通信料金低下への期待が依然として強い。手軽にインターネットを利用できる料金での常時接続や高速アクセスサービスを求める声も高まっている。こうした利用者のニーズが行政主導ではなく、自由で公正な競争を通じて充足されるよう、情報通信市場のあらゆる分野において競争が可能となる環境を整備することが重要である。
        既に、電気通信事業法に関して、需給調整条項の撤廃、料金規制の緩和、外資規制の撤廃等の各種規制緩和の推進や接続ルールの制定、パブリックコメント方式の活用など、市場における競争の確保や行政の透明性の向上に向けた取り組みがなされたことは高く評価できる。今後は、事業者が設備調達・サービス提供面で自己責任原則に基づいて創意工夫を図り、国民・企業が自らの選択で低廉で多彩な情報通信サービスを享受できるよう、今後本格化が予想される市場競争下でのルールを整備する必要がある。また、競争のボトルネックとなっている線路敷設の物理的困難性および高コスト性を緩和するため、行政組織の壁を超えて、線路設置に関する規制の見直し・整備、無線伝送路の建設を促進する施策の実施などが期待される。
        行政手続面でも、経団連のアンケートによると、規定にない資料提出や事前説明が求められたり、部局・職員によって判断基準が異なる、人事異動後に方針が変わるなど、民間からみると行政の対応が不透明である、との指摘が多い。今後、裁量行政の批判を受けることがないよう、制度・ルールに関する規定・基準などを明確にしておくべきである。

      2. 国際通信市場では、経済活動のグローバル化を背景に、国境を意識せずに全世界をシームレスに通信できるサービスへのニーズが高まっている。わが国情報通信産業が有する技術・ノウハウ・人材・資金等を活用して、グローバルな通信ニーズや、海外の利用者のニーズに対応していくことは、世界の中の日本としての重要な役割であり、それはまた、わが国産業の基盤強化にもつながる。一方、事業者間のグローバルな競争がより一層激化すると同時に、国境を越えた大型M&Aや提携が、わが国事業者を巻き込みながら進展している。欧米やアジア諸国では、情報通信分野を戦略的部門として位置づけ、自由かつ公正な競争が可能となるような制度基盤を整備し、情報通信産業や情報通信を活用する産業の国際競争力の強化を図っている。こうした中で、わが国事業者の国際展開は立ち遅れているとの指摘がなされている。
        わが国事業者がグローバルな利用者にとって最も使い易いサービスを提供できる国際競争力を強化するためには、国内における自由かつ公正な競争を可能とする環境を整備し、徹底した競争を通じて合理化や環境変化への対応能力の強化、ならびに事業ノウハウの高度化を図ることが基本である。また、海外有力企業との主体的な提携、内外の有望企業のM&Aなどを迅速かつ柔軟にできるよう、国際的整合性を考慮にいれて、抜本的に規制を見直す必要がある。
        さらに、各国の参入規制、外資規制や米国等の州による制度の相違、手続などの違いが大きな問題となる場合がある。行政は、二国間、多国間の外交交渉の強化・拡充により、諸外国に対して、市場アクセスの障害となる外資規制や不透明な規制の撤廃等を求め、事業者の内外無差別な条件での国際展開が可能となるよう働きかける必要がある。

  3. 改革の方向性〜新情報通信法の制定
    1. 公正競争促進のための新たな法制度
    2. インターネット時代、通信と放送の融合時代に対応し、利用者利益の増大を図るため、現行の各種情報通信関連法を公正競争ルールに基づいた総合的な「新情報通信法」に、吸収、整理することが望まれる。「新情報通信法」の整備に向けた国民的コンセンサスを得るため、広く検討の場を設けるべきである。

      インターネット時代、通信と放送の融合時代に対応し、利用者利益の増大を図るためには、従来の発想にとらわれず、通信と放送の区分のあり方を見直すとともに、自由かつ公正な競争を実現するための新たな法制度を構築することが重要である。現在、わが国の情報通信の法制度は、(1)電波法、有線電気通信法という資源に着目した法体系の上に、(2)電気通信事業法、放送法、有線テレビジョン放送法、有線ラジオ放送法、有線放送電話法という事業に関する法律群、(3)日本電信電話株式会社等に関する法律(NTT法)という特定の事業体を規律する法制など、数多くの法律により構成されている。
      各法律はそれぞれ成立過程、立法趣旨が異なるものの、利用者や事業者が本格的融合時代の激しい環境変化に迅速に対応するためには、これらの現行法律群について、自由かつ公正な競争の確保を可能とする、総合的、統一的な新しい情報通信法の体系として整理・統合することが望まれる。NTT法についても、公正な競争の実現・維持に必要な事項等を新情報通信法に吸収、統合することにより、NTT法自体は不要となる。
      今後、総合的な新しい情報通信法の整備に向けた国民的コンセンサスを得るため、広く検討の場を設け、パブリックコメント方式を活用しながら議論を行なう必要がある。その際、問題のある個別規制の撤廃・見直しは同時並行的に進めていくことが望ましい。

    3. 競争環境を通じた利用者利益の増大〜「事業規制法」から「競争促進法」の体系へ
    4. 今後は、事業者に事前規制を課す「事業規制法」の体系ではなく、競争を通じて利用者利益の増大を図る「競争促進法」の体系を整備する必要がある。とくに新法においては、目的として、利用者利益の確保とそのための自由かつ公正な競争の確保とを明確に掲げるとともに、有効競争の維持・促進を行政の責務とする必要がある。また、技術革新や市場の変化などに柔軟に対応できるよう、定期的見直し条項を盛り込むべきである。

      利用者があってこその情報通信市場である。情報通信が利用者利益の向上に貢献し、国民生活の質的向上、産業全体の国際競争力の強化、新産業・新事業の創出を先導していくことが期待される。
      現行の情報通信関連法制は、事業者の事業運営を適正かつ合理的なものとするために事前規制を課す「事業規制法」的な体系となっている。そのため、事業者の機動的でダイナミックな活動が阻害され、利用者ニーズが十分に満たされているとは言えない状況にある。今後は、競争を通じて利用者利益の増大を図る「競争促進法」の体系を整備する必要がある。
      とくに、新法においては、目的として、利用者利益の確保とそのための自由かつ公正な競争の確保を明確に掲げるべきである。また、公正競争条件の確立、競争促進的な制度の整備、迅速な紛争解決手段の構築、行政の透明性確保、反競争的行為の防止を規定することが重要である。諸外国では、有効競争の維持・促進を行政の責務または義務としているケースもあることから、わが国においても、同様の規定を設けることが妥当である。
      情報通信分野は、とくに技術革新のスピードが速いため、今後利用者に受け入れられる技術や将来の市場構造を完全に予測して対応することは困難である。したがって、規制は技術革新や市場動向などの変化に柔軟に対応して見直しを行なうことが望ましい。米国の96年通信法第11条では、FCC(Federal Communications Commission)に対して隔年毎に全ての規制を見直す義務が課されている。新たな法体系の構築にあたっては、一度構築した枠組みにとらわれることなく、技術革新や市場の変化などに柔軟に対応できるよう、新法の中に定期的見直し条項(例えば2年毎)を盛り込む必要がある。

    5. 通信、放送への総合的対応
    6. 通信・放送の融合の進展に対応して、情報伝送路、コンテンツを自由に組み合わせたサービス提供を可能とする、通信・放送を総合的にとらえた法制度の整備が必要である。情報伝送路は通信・放送共通の制度的枠組みとし、コンテンツは原則自由で民間の自己規律に委ねるべきである。ただし、基幹的放送については、当面現行の仕組みを維持することが望ましい。また、地上波放送については、多様な事業展開が可能となるよう、マスメディア集中排除原則の見直し等を検討する必要がある。 さらに、安定的、効率的なソフト流通や既存ソフトの有効活用を通じて利用者の利便性向上と市場の拡大が実現するよう、ネットワーク社会に相応しい著作権処理ルール等を確立することが望ましい。

      1. 基本的考え方
        今後、通信と放送との一体的サービスや、通信・放送のいずれかに区分することが困難なサービスの拡大が予想される中で、自由闊達な事業展開を可能とするためには、事業者が基本的に、反競争的行為の防止を前提として、情報伝送設備、コンテンツを自由に組み合わせてサービス提供できるようにする必要がある。
        昨年11月にEU委員会が発表した「1999年通信レビュー」では、通信・放送を総合的に捉えて、情報伝送路やプラットフォームに関しては通信・放送を区分せず、すべて通信として包含する制度的枠組みを導入し、コンテンツについて分野毎に対応する方針が打ち出されている。わが国においても、現行の個別の情報通信関連法を見直し、行政組織の壁を超えて、通信・放送を総合的にとらえた、わかりやすい法制度を整備する必要がある。とくに、ネットワークインフラとしての情報伝送路に関しては、放送が通信の一形態であり、また放送に関する規制の根幹がコンテンツの表現の自由を担保する仕組みづくりであることを踏まえつつ、EU委員会提案同様、通信・放送共通の制度的枠組みとし、いずれの用途にも利用できるようにすべきである。
        また、通信と放送とのシームレスなデジタルネットワークを実現するため、政府において、周波数問題等の困難な問題を抱えている地上波を含めて、デジタル化を円滑に促すような環境整備を積極的に推進することも望まれる。

      2. 通信、放送の区分
        放送に関する規制の中心はコンテンツをめぐるものであるが、コンテンツは、刑法等の一般法の規制に抵触しない場合、国民の表現の自由を最大限に尊重する観点から、原則自由とし、民間のガイドラインの策定や、受信者がコンテンツを主体的に取捨選択できるような仕組みづくりを含め、民間の自己規律に委ねることを基本とすべきである。それは多様な利用者ニーズに対応したサービスの機動的な提供や新ビジネスの創造にもつながる。
        地上波放送は、電波を利用して少数のチャンネルで自らの編集責任により直接一般大衆向けに、報道、文化、教養・教育、娯楽の全てに係る基本的情報を送信している。しかも現にほぼ100%の国民に普及し誰もが手軽に享受している。こうした地上波放送をはじめとする基幹的メディアについては、当面、現行放送法にあるような番組の適正性の確保を促す仕組みを続ける必要がある。
        一方、情報提供側が基本的情報を直接広く一般大衆に提供しているものではなく、特定の受信者が自らの選択により情報を受ける場合は、異なる扱いをするのが妥当である。例えば、有料受信契約が存在し、伝送されるコンテンツの内容が暗号技術等によって秘匿されている場合、あるいは送受信が実質的に一体となっている双方向型のサービス提供を行なう場合などは、自主的規制を基本とすべきである。
        「通信衛星を利用した通信・放送の中間領域的な新たなサービスに係わる通信と放送の区分に関するガイドライン」については、当面、特定の者の自宅を対象とする同報サービスすべてを通信扱いとするなど、通信扱いの類型を増やすか、通信扱いとはしないサービスをネガティブリストとして明記すべきである。
        なお、地上波放送については、将来的に、報道機関としての役割を保ちつつ、自己責任原則に則って多様な事業展開が可能となるよう、放送対象地域の拡大・地域免許制度の見直し、マスメディア集中排除原則の見直し等を検討する必要がある。また、NHKのあり方についても、市場の健全な発展に果たす役割、公共放送に求められる機能、民間事業者との公正競争条件なども含めて、オープンな議論が行なわれることが望まれる。

      3. コンテンツの利用促進
        わが国の場合、コンテンツの流通・多元的利用に関する著作権処理のルールが確立していない。例えば地上放送用コンテンツは利用価値が高く、多面的な利用が期待されているが、地上波放送での利用を中心とした著作権処理がなされているため、衛星放送、インターネットなど他のメディアでの利用は困難である。また、インターネットなどのネットワークで流通可能なデジタルコンテンツについても、違法複製問題が流通阻害要因になっている。
        安定的、効率的なソフト流通や既存ソフトの有効活用を通じて利用者の利便性向上と市場の拡大が実現するよう、簡便かつ権利所有者の権利が適切に保護される、ネットワーク社会に相応しい著作権処理ルール等を確立することが望ましい。著作権法が権利者保護を中心としていることや、権利の所有者、利用者双方の関係者がそれぞれ多岐にわたることなどから、民間の協議に委ねるだけでは実質的にルールをまとめられないのが実情である。したがって、行政においては、競争的、効率的な権利処理機構の整備、著作権法による保護のあり方の抜本的見直しも含め、円滑な流通システムの構築を論議し、合意を形成する場を早急に設ける必要がある。民間においても、コンテンツ制作時に再利用に向けた配慮を行なうことが重要である。
        新たな法的枠組みにおいては、新たな利用形態が生まれる毎に、新たな権利を設けるというよりも、報酬請求権あるいは行為規制による対応を図ることが望ましいと考える。また、ネットワークやその端末機器に対して過度な義務を課すことがあってはならない。
        なお、NHKが保有するコンテンツは、国民の貴重な財産であることから、その有効かつ公平な利用と流通を図る必要がある。

  4. 自由かつ公正な競争のための制度整備
    1. 競争の進展状況に着目した規制体系への転換
    2. 自由かつ公正な競争環境を実現するため、情報通信インフラに関する制度的枠組みは、競争の状況に着目して規制を切り分ける体系とし、反競争的行為の防止等に必要な仕組みを整備すべきである。機動的な事業展開が可能となるよう、現行の接続協定認可制度、契約約款認可制度、役務種類変更許可制度などは廃止し、事後チェック型の仕組みを設けるべきである。 一方、競争が長期にわたって進展しない市場について、基本的に小売料金の上限価格規制や接続ルールを維持する必要がある。通信市場に対して大きな影響力を持つ事業者への規制は、競争の進展に応じて緩和すべきである。 なお、NTTが自己責任原則に則って経営できるようにするため、NTT法についても、公正な競争の実現・維持に必要な事項等を新情報通信法に吸収することにより、廃止する必要がある。

      1. 競争の状況に対応した規制
        自由で公正な競争を確保する観点から、新法では競争の状況に着目して規制を切り分ける体系とすることが重要である。通信の秘密の保護、個人情報保護、迅速な苦情処理といった利用者保護の措置は当然のこととして、技術革新のスピードが速く、技術や市場の動向を完全に予測することは困難であることから、事業者が自主的判断により、機動的にサービス提供や設備調達を行なえるようにしなければならない。競争が長期にわたって進展しない場合、通信市場に対して大きな影響力を持つ事業者に対して、現行法制と同様の接続ルールや、小売料金の上限価格規制を基本的に維持するのが妥当である。また、他社からの回線リースを活用した市場の拡大を図るため、事業者間の機動的、弾力的な回線調達を認めるべきである。但し、規制が市場の発展を歪めることがないよう、通信市場に対して大きな影響力を持つ事業者への規制は、競争の進展に応じて緩和していくことも重要である。
        諸外国の状況を見ると、例えば英国では、25%以上の市場シェアを持つ事業者を、顕著な市場支配力(significant market power)を持つ事業者として位置づけ、合理的な条件での相互接続、接続協定の公開などを義務づけるとともに、さらに地域通信市場の80%のシェアを持つBT(British Telecom)に対しては、略奪的料金設定、内部相互補助、支配的な地位の濫用による反競争的行為などを禁止している。また、米国では、一定の場合、FCCは市場支配力のない事業者などへの規制の差し控えが可能であるほか、地域通信市場をほぼ独占しているRBOC(Regional Bell Operating Company)の長距離・国際通信市場への進出について、地域通信市場の開放に関する14項目の要件を満たし、かつ当初は一定要件を満たした分離子会社の形をとる場合に認めるという、インセンティブ規制が用いられている。わが国においても、諸外国の制度的枠組みを参考にしつつ、競争の進展に応じた規制体系へと転換することが望まれる。

      2. 相互接続の円滑化
        あらゆる通信を物理的に可能とするため、設置された設備に関して相互接続の義務を課す必要がある。しかし、専門家同士の交渉によって締結されている接続協定については、弾力的な接続の確保、事務負担の軽減等の観点から認可制度を廃止し、事業者間での紛争や問題が発生した場合に行政が透明な手続の下で裁定していくことが望ましい。
        但し、地域通信市場において、他の事業者が通信サービスを提供するために使用せざるをえない設備が存在する間は、現行の接続ルールをベースに、接続の円滑化と諸課題の透明な処理を図る必要がある。その接続料算定は長期増分費用方式をベースとすることが望ましい。また、2000年における接続ルール見直しに際しては、オープンかつ透明な議論を行なう必要がある。
        なお、今後の技術革新により新サービスが創出された場合においても、利用者利益の向上と通信市場の拡大・需要喚起の観点から、技術的・経済的に可能なあらゆる方式の相互接続を実現することが望ましい。

      3. ユニバーサル・サービスと重要通信の確保
        現在、国民生活に不可欠な電話(ユニバーサル・サービス)の提供義務は、NTT法によりNTTおよびNTT地域会社のみの責務とされている。新法の整備に当たっては、地域通信市場における競争の進展、移動体電話の急速な発展、接続料金に係る制度の動向など、ユニバーサル・サービスをめぐる環境変化を踏まえつつ、ユニバーサル・サービスの範囲、対策の必要性の有無、ユニバーサル・サービス確保のための合理的な費用水準、ユニバーサル・サービスが必要な場合の確保のあり方を含め、現行方式の見直しについて、透明な形で検討していく必要がある。その際、市場における競争を歪めることのないように留意するとともに、ユニバーサル・サービスの負担をすべて事業者の負担とする方式ではなく、社会政策的に別の形で負担する方法についても検討すべきである。
        また、天災・事変等の非常事態においても重要通信を優先的に確保することは、社会の混乱を防ぐ上で非常に大切であり、新法には現行法制と同様、重要通信の確保に関する規定を置く必要がある。

      4. 機動的な事業展開
        第一種事業者は、電気通信事業法第31条の4により、電気通信役務の提供条件について契約約款を定め、郵政大臣の認可を受けなければならない。また同法第14条により、電気通信役務の種類を変更する場合、郵政大臣の許可を受けなければならない。しかし、新しい通信サービスの提供に際して、約款の認可や役務の種類の変更許可が必要とされるのでは、利用者ニーズに対応した機動的、迅速なサービスの開発・提供の足枷となる。主要国にほとんど例のない契約約款の認可制度は廃止し、利用者保護の観点から、消費者向けの料金・約款を公開するとともに、利用者に不利益が生じた場合の迅速な苦情処理、業務改善命令など、事後チェック型の仕組みを設けるべきである。
        また、デジタル技術の進展などにより、音声伝送、データ伝送、専用という役務区分が意味をなさなくなっていくことから、役務区分は廃止すべきである。したがって、役務の種類の変更許可制度についても、利用者ニーズに適切に対応したサービスの迅速な提供を可能とするために、この際廃止すべきである。さらに、移動体通信事業者間の国際ローミングの契約についても、迅速かつ円滑な締結を図る観点から、国際的な業界の常識に則って自由化すべきである。
        事業者は、グローバルな競争の激化や技術革新などに対応して、意思決定の迅速化、効率化の徹底、機動的な事業再編や各種の提携、株式交換方式等によるM&Aなどを推進していく必要がある。内外の株式市場に上場しているNTTも例外ではなく、今後、NTTが自己責任原則に則った経営をできるようにすべきである。競争が進展するまでの当分の間、NTT再編成に際して策定された「NTT再編成に関する実施計画」の進捗状況を透明な形で注視するとともに、個別の事業体の規律法であるNTT法については、公正な競争を実現・維持するために必要な事項等を新情報通信法に吸収、統合することにより、廃止する必要がある。
        とくに、取締役・監査役認可制、事業計画認可制、定款変更等の認可制、新株発行認可制、外資規制、政府保有株式に関する規定など、市場における公正競争条件とは直接の関係がなく、かつ国が事業・経営に直接介入する規制については、経営の自己責任原則を歪め、また、グローバルな展開の妨げとなることから、早急に撤廃するとともに、政府保有株式の完全放出を急ぐべきである。また、NTT地域会社の業務範囲等を見直す際には、公正有効競争条件を前提としつつ、国民に適切な情報を提供しながら行なう必要がある。

    3. 競争促進的な制度の整備
    4. 事業者が自らの経営戦略に基づいて設備設置・リセール・アンバンドルの組み合わせを自由に選択できるようにするとともに、設備を設置する場合には、柔軟にネットワーク構築できる権利を取得する一方、相互接続義務などを負うものとすべきである。さらに、設備設置の促進などに向けて、道路占用規制の緩和や、管路・とう道などの空き情報の開示に関する自主的ルールづくり、電波行政の改革などを行なう必要がある。

      1. 設備保有に着目した規制体系の見直し
        電気通信事業法第6条において、電気通信事業は、電気通信回線設備を設置して電気通信役務を提供する第一種電気通信事業と、それ以外の第二種電気通信事業とに区分されており、第一種事業者は回線設備を原則として他の事業者から借りることができず、一方、第二種事業者は足回り回線設備以外の回線設備を設置できないだけでなく、設備の調達先が第一種事業者に制限されている。そのため、回線設備の設置・リセール・アンバンドルを柔軟に組み合わせて効率的なネットワークを構築することが困難となっている。
        新規参入者が採算性を高めるためには、当初はリースを活用し、利用者の増大に応じて回線設備を拡大していく手法が普通である。現に、第一種事業者は、回線設備のリセールや一元的なネットワークサービスの提供、長期にわたって回線設備あるいは帯域を使用する権利(IRU:Indefeasible Right of Use)など、弾力的な回線調達を強く求めている。また、第二種事業者が、IRU設定や回線設備保有などによる回線調達が認められれば事業展開の自由度が高まり、競争が促進される。リセール、IRUは、既存回線設備の有効活用等につながるという利点もある。
        そもそも、設備を保有するか否かは企業の基本戦略にかかわる問題であり、経営判断に委ねられるべきである。新法では、現行の一種・二種区分のように事業者の回線設備保有の有無に着目して規制を切り分けるのではなく、事業参入は届出制とするとともに、事業者が自らの経営判断に基づき、回線設備の設置・リセール・アンバンドルを自由に組み合わせられるようにすべきである。

      2. 回線設備の構築
        回線設備を設置する事業者について、設備構築の手続の簡素化や費用の低減に寄与する環境を整備することは、情報通信市場における競争の促進につながる。

        1. 線路敷設
          事業者が公共空間を利用して回線を敷設する際、道路・河川等の管理者から占用許可を受けなければならないが、諸手続が非常に煩雑、共同溝の埋設場所・管路の空き状況などの情報が入手困難、技術基準が統一されていないなど、規制や手続等の面の問題が存在するため、柔軟なネットワーク構築が妨げられているのが実情である。
          利便性の高い設備の円滑な形成を図るため、ケーブルテレビも含め、事業者が設備を設置する場合には、行政の必要最小限の関与の下に、柔軟にネットワークを構築できるようにするための権利を取得する一方、役務提供義務、相互接続義務、技術基準適合義務、退出規制などを負うものとすべきである。
          事業者が自主的に申請した線路敷設計画について、規制当局が関係省庁との協議を経て認可した場合には、計画期間内の道路・河川等の占有、工事実施ができる支援をするとともに、短期間の工事、短い距離の工事等に関する基準の緩和が望まれる。
          さらに、設備設置の促進とインフラ面での競争促進に向けて、道路や河川、橋梁等の利用を推進する観点から、共同溝、電線共同溝、情報BOX等の一層の整備を図るとともに、道路、河川等の占用規制を緩和すべきである。また、道路の掘削工事の区間や期間、時間などを調整する道路調整会議に関しても、会議の結果や工事スケジュールなど、新規参入者が事業展開する上で最低限必要とされる情報については、参加メンバー以外が入手できるようにするとともに、新旧事業者間の同一な取扱いを確保する必要がある。
          当面、管路・とう道・電柱などの空き情報の開示に関する自主的ルール作りを急ぐとともに、行政は、公共空間に埋設済みの管路設備等に関する共通のデータベースの整備、事業者の円滑な回線敷設のための一元化されたマニュアル(道路工事に係わる法律・手続集など)の作成、各事業者に共通する技術基準の策定を行なう必要がある。
          線路敷設権(電気通信事業者やケーブルテレビ事業者が線路及び空中線ならびに付属設備を敷設・保守するために、自ら所有していない土地、水底等を使用できる権利)については、諸外国の動向を参考にしつつ、線路敷設権設定の是非・問題点・必要性などについて、オープンな形で検討を深めていく必要がある。

        2. 電波
          国民が広く電波利用の便益を享受できるよう、現在、無線局の開設は電波法第4条により免許制となっている。しかし、例えば携帯電話のように需要が急速に拡大して周波数が逼迫しているものが出ている一方、周波数に余裕を持って利用しているサービスがあるなど、利用効率に疎密がみられる。今後、周波数の有効活用を図るため、国民経済に対する貢献度が総合的に反映されるような周波数の利用状況の評価手法を確立し、公正競争に配慮しながら、周波数の割当やその見直しを行なうとともに、周波数の利用目的は通信・放送両用を原則とする必要がある。電波監理審議会についても、その機能を強化するとともに、透明な周波数割当手続を確保すべきである。
          また、周波数の主たる用途により、無線設備に課される技術基準や、条件の細目(接続方式、変調方式、送信速度、通話時間)などの規制は、利用者の利便性向上につながる技術革新を活かせるよう、機動的に見直すべきである。さらに、行政の関与を最小限とし、事業者が設備の機能を自主的に維持することを促す観点から、周波数免許申請に関して記載すべき内容のうち、通信・放送事項、通信の相手方の記載、無線設備の工事費及び無線の運用費の支弁方法、事業計画及び事業収支見積もりなどを削除するとともに、無線設備に関する検査も自主点検を原則とすることが望ましい。

    5. 反競争的行為の防止
    6. 公正競争促進の観点から、反競争的行為を防止するため、関係省庁と公正取引委員会とが連携して指針を作成するなど、省庁の垣根を越えた取り組みが望まれる。

      利用者利益の確保と情報通信ビジネスの健全な発展を図るためには、柔軟なネットワーク構築を可能とするなどの競争促進的な制度の整備だけでなく、反競争的行為を防止する仕組みの構築が非常に重要である。とくに、事業者が、情報通信市場において、あるいは情報通信市場と関連を持つ隣接市場において、事業者単独で、あるいはグループ企業と連携して、不当な取引制限、私的独占、不公正な取引方法(差別的取り扱い、不当廉売、差別的対価、抱き合わせ販売、不当な顧客誘引、拘束条件付取引、優越的地位の濫用等)などの独禁法違反行為、内部相互補助などの競争阻害的な行為を行なうことがないよう措置する必要がある。例えば、関係省庁と公正取引委員会とが連携して指針を作成するなど、省庁の垣根を越えた取り組みが望まれる。

    7. 行政による競争監視・裁定機能の強化
    8. 行政は、中立的な立場から情報通信市場での公正な競争を監視すると同時に、事業者間の紛争などに関する公正・適切な裁定等が期待される。今後、料金・サービスをめぐる問題や政策の見直しを行政に求める場合が増加することが予想されることから、国民・企業・事業者が、行政に対して既存の制度・政策の改革なども直接要望できる「ペティション(請願)」制度を創設するとともに、迅速な紛争解決の仕組みを整備すべきである。

      1. 公正競争を監視する機関の役割
        情報通信に関する行政機関は、現在、

        1. 事業者の事業活動を監督、規制する機能、
        2. 情報通信の振興を目的とした情報通信政策を立案、遂行する機能、
        3. 情報通信市場に対して大きな影響力を持っているNTTを監督、規制する機能、
        4. NTTの大株主としての機能、
        という四つの機能を果たしている。公正競争を監視する機関としての行政の機能としては、事業者の利害から独立して、中立的な立場から情報通信市場での公正な競争環境を実現し、最終的に利用者の利益につながる形での活動が期待されている。しかしながら、行政機関としてのこれら四つの機能は時として相互に利害が対立する事態もあり得ることから、公正競争を監視する機能を担う行政部門には、可能な限り振興に携わる担当部局や事業者から独立した立場で中立的に業務を遂行することが強く期待されている。そうした取り組みの一環としても、可及的速やかにNTTの政府保有株式を完全放出すべきである。
        欧米先進国では、英国のOFTEL(Office of Telecommunication)、米国のFCCに代表されるように、政治や事業者の利害から独立した規制機関による競争の確保、紛争の迅速な裁定などが行なわれており、結果的に利用者利益の向上や通信市場の活性化に寄与している。わが国においても、将来的には、行政組織の肥大化を招かないよう配慮しつつ、事業者や振興部門から独立した、競争ルール策定・監視・裁定機能を持つ機関の設置について検討する必要がある。
        なお、世界的に、IT革命が進行している中で、情報通信は、わが国産業の国際競争力や国家社会の安全を確保する上で重要な戦略分野となっており、内閣府を中心に情報通信施策を総合的に遂行する体制の整備についても、併せて検討する必要がある。

      2. 公正競争の監視・裁定機能の強化
        今後、利用者や事業者が料金・サービスをめぐる問題や事業者間の紛争の解決、制度や運用の見直しを行政に求めるケースが増えていくことが予想される。行政においては、市場における競争状況を監視するとともに、公正・中立の立場から適切に裁定、調停、仲裁等を行なうことが極めて重要となる。とくに、技術革新のテンポが速く、利用者の動きが迅速であることから、行政は、迅速な裁定等が求められる。
        既に、電気通信事業法では、料金などに関する意見申出の制度や、接続に関する裁定制度は設けられてはいるものの、必ずしも十分に機能しているとは言えないのが実情である。また、利用者・事業者が制度改革・政策見直しに関する意見・要望を提出できる機会が限られている。民間の意見をとりあげるかどうかも、行政の裁量に委ねられている。
        今後は、行政が、公正かつ透明な手続で事業者間の紛争などの裁定・調停・仲裁等や、制度・政策の見直し要請への対応を迅速に行なえるよう行政の機能を充実するとともに、裁定の実績の積み重ねにより公正競争ルールを整備していくことが期待される。その際、行政判断を下すまでの期間(例えば申し立てを受けてから3ヶ月以内等)を限定することが望ましい。
        例えば、国民・一般企業・事業者が、行政に対して既存の制度・政策の改革や反競争的行為の是正、サービス・料金をめぐる問題などに関しても直接要望できる「ペティション(申し立て、請願)」制度を創設する必要がある。ペティションを受けた場合、行政がパブリックコメント・立ち入り検査の実施を含め、公正・中立的かつ迅速・透明な手続により対応すべきである。
        また、事業者間の紛争を迅速に解決するため、司法制度やペティション制度よりも早期に紛争解決を図る代替的紛争解決(ADR:Alternative Dispute Resolution)の仕組みを整備することも望まれる。例えば、米国ニューヨーク州の公益事業委員会が採用しているEDR(Expedited Dispute Resolution: 迅速な代替的紛争解決)においては、紛争が生じている事業者間の話し合いで解決を図るものの、両当事者の間に法執行の強制権限を持った規制機関が介在することによって、問題解決の迅速化を図っている。こうした制度は、わが国でも参考になろう。
        広く国民、企業、事業者の直面する問題等を的確に解決して、市場の円滑な発展を図るためには、定期的に制度・政策などへの苦情や意見などをパブリックコメントの形で聴取し、それに対して行政としての考え方・対処方針を示すことも必要となろう。

    9. 行政の透明性確保
    10. 行政は国民・事業者に対する説明責任を確実に果たす必要がある。行政の意思決定にあたっては、原則として事前の原案公表、パブリックコメントを義務づける必要がある。また、審議会などの会合の公開・詳細な議事録、資料の電子公開など、行政の意思決定過程を透明にすべきである。

      情報通信の国民生活や企業活動等に与える影響は極めて大きいことから、行政は国民・事業者に対する説明責任を確実に果たす必要がある。しかしながら、行政の意思決定に際して重要な役割を果たしている審議会や各種研究会については、詳細な議事録や資料が公開されていない場合が多い。郵政省がパブリックコメント方式をいち早く導入してきたことは高く評価できるが、意見聴取する案件が限られる、意見募集期間が短い、政策決定への反映状況が不透明、などの批判もある。行政の決定プロセスや判断基準が不透明であると、事業者がビジネスチャンスを逃すことになりかねない。
      今後、審議会や各種研究会などの公開・詳細な議事録、資料の電子公開をはじめ、情報通信行政に関する意思決定過程を透明にすべきである。とくに、行政の意思決定にあたっては、原則として事前に原案を公表し、国民の意見提出に必要な検討期間を十分確保したパブリックコメントを義務づける必要がある。また、行政は、提出された意見に対する考え方を明らかにすべきである。許認可・届出等に関する手続・判断基準などを明確にすることも極めて重要である。

○ おわりに

  1. 情報化は、行政にとってもビジネスにとっても、構造改革に効果的な手段である。民間の情報化のための環境整備や行政部門の情報化、情報リテラシーの向上を図り、民間ならびに行政分野双方で組織改革、業務改革、意識改革を図りながら情報通信を活用することが、今後のわが国の発展にとって重要である。
    とくに、情報通信ビジネスの発展にとり最も重要な方策は、高度情報通信ネットワーク社会のベースとなる情報通信インフラについて、事業者の自由で公正な競争を可能とする環境整備を行なうことであり、そのための必要な行政機能の整備・充実を図ることである。事業者や行政当局は、従来の発想にとらわれず、利用者利益の観点から、21世紀の日本を先導するに相応しく、各国の模範となる取り組みを行なう必要がある。また、本提言で示した改革の方向や残された課題などを検討する場を設け、広く国民的な議論が行なわれることを期待したい。

  2. 本提言では、IT革命推進に資する情報通信法制の再構築に関する基本的考え方を指摘したが、具体案については、更に詰めるべき点も少なくない。引き続き情報通信技術に関する国際競争力の確保のための方策を含め、情報通信市場の活性化に向けて検討を進めていく。
    また、IT革命がわが国経済、社会に与えるプラスの効果は非常に大きいものの、一方でITを悪用した犯罪や、いわゆる「デジタル・ディバイド(情報格差)」の問題も生じており、官民の連携した取り組みが求められている。これらの問題は国際的な広がりを見せているだけに、世界の安定的発展に向け、本年7月の沖縄サミットで議論される予定であるが、経団連としても、IT革命のメリットを最大限に活用していく観点から、更に論議を深めていく。

以 上

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