[経団連] [意見書] [ 目次 ]

新産業・新事業委員会企画部会報告書

「大企業の活性化と企業内起業家の活用に向けて」

【各　論】企業の取組み事例

＜コーポレート・ベンチャー企業＞

（株）アドマテックス［トヨタ自動車-信越グループ］
（株）アニモ［富士通］
（株）アルファプライム・ジャパン［東京電力］
（株）エクスウェイ［日本電信電話］
（株）オーセンティック［日本電気］
ソニーコミュニケーションネットワーク（株）［ソニー］
横河マルチメディア（株）［横河電機］

＊［　］内は、コーポレート・ベンチャーを推進する母体企業

＜コーポレート・ベンチャー推進企業＞

富士ゼロックス（株）
富士通（株）

（50音順）

（株）アドマテックス［トヨタ自動車-信越グループ］

設立の経緯

21世紀を目指した新しい事業に取組むために、89年にトヨタ自動車の中に事業開発部が設置された。ここを窓口にして、社内公募の第１号の会社として90年２月にトヨタ自動車と信越グループの出資（３億円）による㈱アドマテックスが設立された。すなわちトヨタ自動車で生まれた生産技術と信越化学工業の応用技術をベースにした、研究開発・製造・販売に取組むジョイントベンチャー型のコーポレート・ベンチャーである。

設立時の課題

当初描いていたバラ色のシナリオは実際に実行してみると問題だらけであり、母体企業から派遣された出向者の間や母体企業間の理解活動や調整に手間取ったことである。

コーポレート・ベンチャーの特徴

起業する場合、一般に資金面や人材面で大変苦労するが、母体企業が出資するコーポレート・ベンチャーの場合は、母体企業の保有する「ひと・もの・かね・情報」などを活用出来るし、また如何に活用するかというところに、コーポレート・ベンチャーを成功させる鍵がある。

コーポレート・ベンチャーへの対応に付いて

母体企業の取組み姿勢
大企業から独立してベンチャー企業（分社化でなく）を成功させることは大変難しいと言われている。安定性があり、給与・福利厚生面でも恵まれ、社会的信頼性もある大企業がある日突然新規事業だと叫んでも、そう簡単に実現するものではない。やはり企業のトップが先頭に立って、用意周到に新規事業の意義・体勢・インセンティブなどをシステム化して初めて動き出すものである。特に設立当初のベンチャーと母体企業との柔軟な連携が重要である。
流動性のある「ひと」
ベンチャー企業にとって人材は非常に重要である。必要な人材を、必要な期間、必要に応じて母体企業から派遣してもらうことにより、流動性をもたせた「ひと」の手当てが出来る。
例えば、設備計画の段階では生産技術の経験者を派遣してもらうなど、目的を明確にしたプロジェクトへの投入によりスピーディ且つ最低人員で対処できた。
生かされた「もの、技術」
現在の工場はトヨタ自動車にたまたま空きスペースが存在していたこともあり、利用させていただいており、資金面で大変助かった。またトヨタ自動車では生かされ難い生産技術が異分野の信越化学工業と手を結ぶことにより、見事に半導体の世界でお役に立つことができた。
無形の「かね」
起業家の多くの方々は、立ち上げから軌道に乗るまで資金の手当てで大変苦労されているが、コーポレート・ベンチャーの場合は母体企業の無形の支援が期待できる。例えばアドマテックスの場合設備資金の際、債務保証はしてもらえなかったがトヨタ自動車の子会社であることが、銀行からの資金調達に大いに役立った。また信越化学からの生きた情報も金に換算できない無形の「かね」であると考えている。
経営者の資質
コーポレート・ベンチャーの経営者は多くの場合、母体企業から派遣されるため、必ずしも経営全般を経験した人材ばかりではない。それが故に明確なビジョンを持ち、目標を達成するための強烈なリーダシップも必要であるが、同時に母体企業と上手く対応できるコーディネータ的技量・資質をも持ち合わせた経営者が望ましい様に思える。
環境整備
国中をあげてベンチャーの掘り起こしに躍起になっているが画一的人材育成を進めてきた教育体系や企業教育できたえられた「ひと」が明日から直ちに独創性をもった人材に早や変わりするわけでもない。当面は大企業で埋もれている技術、サービスなどを世に公開して、異業種との連携によるジョイントベンチャー型のコーポレート・ベンチャーが世に出やすい環境整備が望まれる。
アドマテックスは、大企業からのベンチャー企業であるにもかかわらず経団連の新規事業掘り起こしの施策により、96年８月に通商産業省より特定新規事業の認定（ストックオプション）を受けることが出来た。

（株）アニモ［富士通］

富士通のベンチャー制度

富士通では、全社員と関係会社の社員からの応募を対象にしたベンチャー制度を、94年に導入し、これまでに10社が設立された。
ベンチャー設立の条件
1. 設立するベンチャーの事業範囲は、本業に関連した、コンピュータ関連のソフトウェアやハードウェア事業、情報サービス関連事業でなければならない。本業と関係がないレストラン経営といったものは認められない。
2. 起業家は、出向の形をとらず、富士通を退社しなければならない。私の場合は、常務会で設立が決定された約1週間後に富士通を退社した。
3. 起業家が責任をもってハイリスク・ハイリターンに挑戦する、というベンチャー制度の趣旨に沿って、資本金の51％以上を出資しなければならない。アニモの場合は、株式会社設立のために最低限必要な資本金1,000万円で設立することにした。27年間勤めていたため、退職金でどうにか資本金の51％を賄うことができた。
  資金調達に関しては、事業計画書の範囲内で富士通からの貸付がある。富士通が市中の銀行から借入れる金利に0.1％の金利を上乗せして貸付けてもらえるが、富士通による債務保証は特にない。
4. ３年目に単年度黒字、７年目に累積黒字化していることが、設立したベンチャーを存続させる条件である。

コーポレート・ベンチャーのメリット

コーポレート・ベンチャーは、信用を得やすい。アニモという社名の名刺を持っていっても面会してもらえない大企業であっても、富士通のベンチャーのアニモというと、面会してもらえる。大企業と付き合えるという長所がある。
母体企業の人脈を使うことができる。富士通の誰々を知っている、富士通の人が誰々を知っている、ということが、事業をスムーズに展開する上でプラスになる。
母体企業で仕事の基本が訓練されており、外部への提出資料一つにしても出来のいいものを作成できる能力がすでに備わっている。
母体企業には眠っている特許があり、それらを含め３年間無償で利用できることは、事業活動に有用である。
母体企業の人事管理ノウハウを活用することが可能である。例えば就業規則は、富士通のものをアニモと名前を変えて整備した。

コーポレート・ベンチャーを成功させる鍵

母体企業においてコーポレート・ベンチャーを推進している担当部門が、ベンチャー的マインドを持っていることが重要である。そもそも、母体企業がベンチャー的な風土を本質的に持っていることが大切である。会社の調子が悪いからコーポレート・ベンチャーに取組む、といった安易な姿勢では成功しない。
経理、人事、販売、製造、マーケティング等の面から支援する体制が必要である。支援チームをしっかりつくったコーポレート・ベンチャーがうまくいく。
コーポレート・ベンチャーが仕事を小さくまとめてしまわないように、母体企業からの経営管理面において、新規性のある製品開発をしろ、キャッシュフローもよくしろと、といった大企業と同様の管理指標を押し付け過ぎないことが重要である。
コーポレート・ベンチャーに挑戦する人は、30才位の人が適していると考えているが、それ位の起業家が資本金の51％にあたる資金を調達することは非常に困難であり、退職金だけでは賄いきれない。若年の起業家をより多く輩出することを期待するのであれば、彼らに対する支援策を講じることが大切である。

日本にベンチャーを定着させるための課題

大企業が再度ベンチャー精神を持つこと
社会構造の変化に対応して、ベンチャーが次々に出てくることが大切である。ベンチャーを育成し、伸ばしていくためには、大企業自身がもう一度ベンチャー精神を持って、ベンチャーとの共存共栄の道を探ることが重要である。
実務に合せた公的支援制度の運用
ソフトウェア関連事業の場合、補助金が交付される前に、外注費用の支払いが生じる。しかし、その費用に充てる資金を借り入れることは、非常に困難なのが現状である。そこで、公的機関からの補助金の交付にあたっては、交付時期を柔軟にすべきである。
継続すること
第３次ベンチャーブームは去ったなどと言われるが、ベンチャー創出のための風土づくり、環境づくりを、経団連を始めとする産業界は、今後とも継続することが大切である。

（株）アルファプライム・ジャパン［東京電力］

会社設立の経緯

アルファプライム・ジャパンを98年10月9日に資本金3,000万円で設立した。出資者の構成は、提案した本人が30％、母体の東京電力が33.5％、その他は個人数名、６企業となっている。

社内ベンチャー制度への応募の動機
以前からあたためていた事業イメージを、社内でやるか社外でやるかの問題はあるが、実現する場を探していた。通常の業務の中で提案しても、組織が大きいことが足かせとなり、なかなか実現にこぎ着けられない悔しさを感じていたため、社内ベンチャー制度によって克服できるかもしれないという期待を持った。また、個人として何か目標を達成したいという気持ちもあった。職位が上がっていくと、自分の専門性を活かす仕事よりもマネジメントが中心になり、ストレスが残る。ある方向に向いてマネジメントをすることと、広く一般についてマネジメントすることでは、気持ちの入り方が違う。このような理由から、社内ベンチャー制度ができた時に、第1回目に応募した。会社を起こしてからマネジメントの仕事は多いが、自分がやりたいことに関するマネジメントなので少しも苦痛にならない。
社内ベンチャー設立のプロセス
先進的あるいは創造的要素を含むものという制約があるが、事業分野は基本的に自由である。社内起業家が応募すると、書類による１次選考、本人のプレゼンテーションによる委員会での2次選考を行い、そして、事業採算性を検証するＦＳ（フィージビリティ・スタディ）の結果を最終選考にかけるという審査のプロセスを経て設立が決定される。設立後、３年以内に単年度の黒字化していること、５年以内に累積の損失が解消されていることを、３年後と５年後に審査された上で、正式に母体企業からの独立が認められる。この過程で母体企業からは、１次選考と２次選考の前段では社内の専門家から助言や協力を得ること、ＦＳ期間中に1,000万円を上限とした調査費用の提供などの支援がある。さらに事業をスタートさせた独立法人に対しては、起業家本人が負担する資本金の30％を除く部分については、出資、あるいは借入金に対する債務保証もしくは貸付そのものを行なってくれる。
応募者（起業家）の人事上の取り扱い
独立法人を設立する場合には、事業継続の審査がある５年後まではその設立した法人へ出向する形を取る。事業が成立した場合には退職してその法人へ転籍し、失敗の場合には所属に復帰することが可能となっている。

コーポレート・ベンチャーの課題

事業の評価
アイデアレベルで良い評価を得たとしても、起業家本人を含め社内に応募内容に関する専門知識が蓄積されていない場合が多いので、実際に世間で通用するものなのかを評価することが難しい。外の業界に出ようとしても、その業界の通念・常識を理解できないという難しさがあり、会社の中で通用したものが社会では通用しないものであった、というおそれもある。
また、ＦＳで事業の可能性を探るといっても、市場調査等データでは説明しきれないことがある。起業家本人なりにその事業の可能性を見い出しており、その可能性を具体的な形で示すことがＦＳの意義である。ＦＳでは、仮にでも実際に事業をスタートさせることが重要である。その際、ＦＳ後から会社設立までの間の費用はすべて創業時の負担になるため、事業化の可否を判断した時は、すぐに事業を開始できる仕組みづくりも必要である。
母体企業による「支援」
「支援」には、金銭面、人材面等があげられるが、詳細に定められたもの以外については精神的な面だけの場合が多く、その部分についてはあまり多くを期待すべきではない。母体企業の本業を支援する意味で分社化したものとコーポレート・ベンチャーとでは、その目的が異なり、支援内容が同等であると解釈するのは適当ではない。妥当な支援がどの程度でよいかは議論のあるところであるが、コーポレート・ベンチャーを設立させてもらえること自体が支援なのかもしれない。
ノウハウの帰属
自ら培ったノウハウ、技術、人脈が起業の時に活かされるが、それらが起業家本人のものなのか、母体企業のものなのかは、線引きが難しい。例えば、通常は、社内で特許を取ると会社の名前で登録され、本人は権利を放棄する場合が多い。そうすると、それが自分のアイデアであっても、コーポレート・ベンチャーで活用できるのか、という問題が出てくる。このように、ノウハウの帰属が曖昧である。
人材の確保・活性化
母体企業から出向社員を受け入れるとともに、新規の人材を外部から採用している。人的リソースが豊富な母体企業の中であれば、流動的な適材適所および人材の活性化が可能であるが、所帯が小さいコーポレート・ベンチャーにはそれが困難である。

コーポレート・ベンチャーのメリット

母体企業がバックにいるということから、営業面で、信用あるいは信頼が得られる。また、資金調達面でも、母体企業から債務保証をしてもらえることは大きい。

（株）エクスウェイ［日本電信電話］

ベンチャー制度の概要・現状

日本電信電話の社内ベンチャー制度は、社員個人が日本電信電話本体に対して起業アイデアを出すというものである。会社の中の一部の仕事を切り出すものであっても、本業とまったく関係のない分野への挑戦であってもよく、取組む事業分野についての制限は特段設けられていない。
起業アイデアを提案した人が、基本的には経営の責任を取る形になっている。日本電信電話と提案者との間で合弁会社をつくる仕組みになっている。提案者のアイデアの実現に向けて、母体企業から資本金等資金面での支援を得て、また、日本電信電話が母体であることを利用させてもらい、ある程度自由な動きを認めるという仕組みである。
事業としては公的な色彩を帯びた日本電信電話が、社内ベンチャーに取組んでいることは、画期的なことである。これまでに公募を２回行ない、190件位の応募があった。その中から３件が合格し、会社が設立されている。
エクスウェイの場合、約５～６年前から起業したいことがあったが、それをやるだけの技術的な裏付けがとれるまでは日本電信電話の中でつくり上げた。ある程度技術開発の目途が立ったので、ベンチャー制度に応募して、会社設立のゴーサインをもらった。設立して９カ月しか経っていないが、99年３月末の決算では、初年度からどうにか黒字を出すことができ、何とか成り立ち始めている。

コーポレート・ベンチャーのメリット、成功の鍵

母体企業にネームバリューがあることは、大きなメリットである。ＮＴＴという名前を伝えるだけで、アポイントメントなしに会社を訪問しても面会してもらえる。
ベンチャーとして生きていくからには、技術力が必要である。ベンチャーのやり方としては、
1. インフラをきちっと持ってそれをベースに商売をしていくやり方、
2. アイデアどんどん出して、それを誰かに買ってもらうというやり方、
3. アイデアを具体的な技術に落とし込み、ある程度の確固たる技術の柱をいくつかつくって、それでやっていくやり方、
の３通りがあると考えるが、今後、確実に伸びていくためには技術をどれだけきちっと持っているのか、ということが必要になる。エクスウェイの場合、暗号をきちっとつくり上げるのに５～６年、アンテナ技術の確立にも２～３年かけ、柱をつくった。
資金に関しては、母体企業から「カネは出すけどあまり口は出さない」ということで出資してもらった。
運任せでベンチャーはやれないと反論があるかもしれないが、運は成功の一つの要素である。例えば、ビル・ゲイツがマイクロソフトをあれだけ大きく出来たのは、ちょうどうまい時期に、うまいタイミングで、うまい仲間に支えられて、あるいはうまくメディアがバックアップしてくれたという面もある。
公認会計士、経理を担当する人、あるいはビジネスプランをつくる人、実際に営業に行く人、それから異業種の人といった「仲間」が重要である。エクスウェイの場合、アンテナ技術を確立するにあたって、テレビや携帯電話用のアンテナを専門につくっている会社や、主に海外の技術をサーチして、いい技術を日本に取り込もうとしているような会社といった異業種の会社とともに知恵を出した結果、特徴あるアンテナの開発に繋がっている。
後輩・後進の育成が大切である。「じゃあ俺がやってやろう」、「最初のスタートは俺がある程度みてやろう」と、カネなり知恵を出して、後に続く起業家が、うまくスタートできるように支援をすることで、彼らはスムーズな船出ができる。
失敗も大事である。成功事例の他に、失敗した後にどうやってその人なり、そのビジネスを復活させるかという点にも注目する必要がある。失敗した場合に、どうやってそれをリカバリーさせ、またもう一度息を吹き返えさせるか、ということが大切である。

環境整備

母体となっている大企業が50％以上出資をし、また、ネームバリューがあるからといっても、ベンチャーとして独立独歩で事業に取組んでいる企業に対しては、公的な支援制度を適用すべきである。コーポレート・ベンチャーの当事者としては、自己責任において、エクスウェイという会社で事業に取組んでおり、自らはベンチャーであるという感覚であるが、公的機関ではベンチャーとして認めていないのが現状である。

（株）オーセンティック［日本電気］

事業の現状

93年に、日本電気のコーポレート・ベンチャーとして設立された。資本金1,000万円のうちコーポレート・ベンチャー起業家が30％を出資し、社員も当初2名で始め、今現在42名となっている。「生活空間」と「音楽」というビジョンを持って事業活動を行なっている。

コーポレート・ベンチャーのメリット

オーセンティックがもつ多くのオーディオ技術と、親会社の持っている多様な技術を結び付けることにより、親会社とのシナジー効果を発揮することが可能である。
ベンチャーは、単独で事業はできない。まわりにどれだけのブレーン、支援者がいるかによって、ビジネスを大きく育てることができる。
1. 技術支援
  大企業からのベンチャーだからこそ、親会社が持つ技術を安く提供を受けることが可能であり、新しい商品の開発に繋げることができる。
2. ビジネス支援
  親会社に、法律面、営業面等の相談をすることが可能である。日本電気の場合、通常の子会社は関連会社を管理する部門が窓口であるが、コーポレート・ベンチャーの場合は、企画部門が窓口となっており、親会社内の情報提供、直面する問題の相談、仕事の紹介などの面で協力を受けることができる。

コーポレート・ベンチャーに対する誤解

コーポレート・ベンチャーの選定の仕組み
「大企業ベンチャーの場合は、社内の素人が審査するからロクなものをベンチャーとして取り上げず成功しない、選定方法が間違っている」との誤解がある。むしろ、専門家がたくさん揃っている方が、ベンチャーのやる気、芽を摘んでしまおそれがある。オーセンティックの場合、親会社がオーディオ事業から撤退した時期であったため、設立に反対する声もあったが、コーポレート・ベンチャー起業家の熱意を親会社の数名の役員が理解してくれたために、設立が許可された。事業内容もさることながら、事業を提案している本人のやる気にウェイトを置いた判断が下された結果である。もし、専門家集団がいて、その時の親会社の状況に照らして、オーディオ事業はダメだと判断されていたならば、オーセンティックはおそらく設立されていなかった。
人材
「大企業には、ベンチャー精神を持っている人材もいなければ、インキュベーター（成長させる人材）もいない」との誤解もある。ベンチャー精神を持っている人材がいないのではなく、環境がそうさせている。社内にいればサラリーマンであっても、いったん社外に出てしまうと、生きるためには死にもの狂いでやるしかない。環境が整えば、ベンチャー精神は生まれてくるものである。この意味で、大企業にはベンチャー精神を持った人材が潜在的に大勢いる。それをインキュベートすることさえできれば、素晴らしいベンチャーが輩出されよう。
出向形態の雇われ社長
「親会社からの出向形態は、いんちきベンチャー」との誤解もある。出向だろうが、何だろうが、コーポレート・ベンチャーでやっている本人は命懸けでやっており、会社が失敗したら戻れるとは夢にも思っていない。
親会社のお節介
「親会社がお節介をする」という誤解もある。親会社から人事面、業務面での協力要請がなされると言われるが、高いところは使わない、必要ない人材は引き受けない、を基本にしている。

コーポレート・ベンチャーの課題～独自の人事制度の確立

コーポレート・ベンチャーが生きていくためには、親会社と同じことをしていてはいけない。親会社がしないことを行なって、やっと「飯」を食うことができる。とくに長い間親会社に勤めていると、親会社のやり方はすべて正しいと考えてしまいがちだが、親会社のやり方を断ち切らなければ、親会社の風土から脱することはできない。
そこで、親会社と協力しながら、人事制度の改革を進める必要がある。例えば、オーセンティックへの親会社からの出向者を返しますと言っても、出向元から置いておいてくれと頼まれれば、辞めさせる訳にはいかず、置いておかざるをえない状況になる。この意味で、ここにコーポレート・ベンチャーの問題点がある。
独自の人事制度を早く確立することと、独自で外部から優秀な人間を採用する環境を整えることが必要であり、これらができなければ、事業は頭打ちになり、新しいことへも挑戦できない。

ソニーコミュニケーションネットワーク（株）［ソニー］

会社概要・事業概要

ソニーコミュニケーションネットワークは、ソニー、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニーファイナンスインターナショナルの合弁会社という形で、「インターネットをもっとみんなのものに」というコンセプトの下に、95年11月に設立された。96年1月15日から営業を開始し、So-netという名称でサービスを提供している。
96年1月からインターネットの接続サービスを開始し、次にコンテンツサービス、いわゆる情報サービスをスタートさせた。その後、オンライン・ショッピングのサービスやｗｅｂ上での広告ビジネスにも取組んでいる。
インターネット・プロバイダ事業に参入することを決定した段階では、当時まだまだ少ないインターネット人口であったにもかかわらず、インターネットは必ず新しいメディアになることを信じ、このメディアをどう育てていくかを考えるとともに、最終的には、放送局や出版社といったメディアのキー局になるという目標を掲げて、取組むことにした。
事業をスタートした時点では、情報サービスや広告収入、あるいはオンライン・ショッピングの収入だけではビジネスが成り立たないことは明らかであり、また、インターネットに繋ぐということ自体が結構難しかったことから、まずは利用者を増やすことを主眼に、もっと簡単に接続して頂けるサービスを提供することにした。インターネット接続サービスの上に、情報サービス、オンライン・ショッピングが立ち上がっていくことを予定し、接続サービスから参入した。

ニュービジネスの立ち上げの鍵

ビジネス参入のタイミング
参入のタイミングが鍵である。事業を始めた当時は、まだ企業向けのインターネットサービスに取組む企業が多く、個人向けのサービスに大手の企業はまだ着手していなかった。ここを一番の狙い目として、個人向けにターゲットを絞って参入した。
別会社として運営
別会社を設立して社内ベンチャー的に事業を立ち上げることも重要である。インターネットサービスのビジネスは、ソニー本体の製造業とは直接的に関連の少ないビジネスであり、このようなビジネスを立ち上げようとすると、大企業の組織の中では無理がある。
別会社として運営することにより、素早い意思決定が可能となる。また、インターネットサービスの業界と製造業との間の人の扱い（労務管理）は大きく異なっており、最初から時間管理をしない形での運営が可能となり、社員がより活性化するという効果もある。
柔軟な人材登用
新しいビジネスを立ち上げる上で、ソニーグループの社内募集制度は効果的である。ソニーコミュニケーションネットワークを立ち上げる際には４、５人でスタートし、会社設立時にも10人程度の規模であった。その後、社内募集を行い、一挙に30人の人材を集めた。ソニーの社内募集制度は、同じ職場に3年以上いる人に応募資格があるため、入社3年目以降の働き盛りの人で、新しいビジネスをやりたいと思っている意欲的な人材を確保することを可能にしている。
社内風土
ソニーには、親会社と子会社とを区別する意識があまりない。ソニーの役員クラスは、CBSソニー、ソニー生命、ソニーファイナンスなどを経験している。従業員の中にも子会社に出るという意識ではなく、むしろ新しいビジネスチャンスがあればそれにチャレンジする、いわゆるソニーの中で新しいビジネスに取組んでいるという意識が強い。ソニー本体の中でやっているのと同じような感覚で取組んでいる。このような風土は、社内から人材を集めることにプラスに働いている。
フラットな組織
フラットな組織であることも重要である。小さな別会社として運営しているため、完全にフラットな組織となっており、意志の疎通を良くしている。ソニーコミュニケーションネットワークは、スタッフ総数で350～400人規模に大きくなっており、今後の運営を考える節目にきている。

横河マルチメディア（株）［横河電機］

コーポレート・ベンチャーの設立

横河電機の社長から、７名ほどの若手に対し、マルチメディアビジネスに関して検討するように指示が出され、パソコンのサービスサポートを中心とした事業を社長に提案したが、最初は却下された。しかし、同じ提案を3回、4回と、蹴られても、蹴られても粘り強くしたところ、「そんなにやりたいんだったらやれ、資本金は3億円、累損は10億円まで認めるからやってみろ」と、社長からゴーサインが出された。
７名でプロジェクトをスタートさせたが、いざ会社を設立するとなると、なぜ横河電機に入社したのかに端を発し、「ある程度休暇が取れ、給料がある程度保証されている会社に勤めたのであり、わざわざ横河電機でリスクを冒してまでベンチャーをやりたくない。」という理由で、５名は横河マルチメディアに異動しなかった。

コーポレート・ベンチャーの経営から学んだこと

非常識、困難なことがビジネスチャンス
困難なことを解決すればそこにビジネスチャンスが生まれる、という発想とチャレンジが重要である。社内会議で、私がこういうことをやりたいと言うと、「現状に照らすとこういう問題点があって困難」という声が出るが、誰にでもできて利益が上げられるようなものはビジネスとして成り立っていない。人ができない、難しいと言われるものを解決できるところに、ビジネスチャンスがある。
何よりもスピード
スピードが遅ければ、コストがかかり、会社としての力が弱くなる。とにかくスピードが大事であり、やるのも早ければやめるのも早く、あるいは、様々なことを決めるにしても、社内手続にしても、時間をかけずに決断し、取組むことが重要である。
感性と情報
周囲の物事に対して「面白いな」とどれだけ感じられるかという感性が大切である。また、質の良い情報をいかに早く確実に掴み、ビジネスに結び付けることも大事である。
年齢は無関係
やる気を持っている人であれば、高齢者であるか若者であるかを問わずに、会社にとっては戦力である。横河マルチメディアには、一度定年退職した人を雇っている。前の職場ほど賃金を出せないが、賃金以上の仕事をしてくれている。
「強み」が発揮できる事業への集中
業界毎に真剣に取組んでいるプロフェッショナルがいて、彼らと戦うためには、これだけは絶対に負けないという強みがなければならない。当初、例えば、ジョイントベンチャーで、インターネットを介したソフトウェアの販売、横河電機グループに対する通信販売など、ありとあらゆるアイデアを出して10ほどの事業にトライした。しかし、結果的には、殆どがうまくいかず、現在ではパソコンの販売とサービスサポートに絞って事業を行なっている。

コーポレート・ベンチャーの課題や問題点

出向社員とプロパー社員との温度差
現在、私を含め母体企業からの出向者が15人、プロパーが55名の社員構成である。私の給与は母体企業が握っており、母体企業の経営状態によって私の給与は決まる。私のコーポレート・ベンチャー経営の成果は、給与・賞与には反映されない。ある意味では守られている反面、面白みにも欠けている。また、私自身が出向者の給与を査定するが、最終的な決定はできない。この出向者に良い給与を与えたいと思っても、最後は母体企業による調整が入ることが問題である。
また、同じ会社に勤めながら違う給与制度の下で働いているプロパー社員と出向者とを、どのようにひとつのベクトルに合わせて仕事をさせるか、ということに知恵を絞り、両者の温度差をなくす必要がある。
親に依存せず、視点は業界に
従来は、母体のグループ企業を主たる取引先にして分社化を進めていたため、連結経営の時代の到来とともに、分社化が意味をなさなくなりつつある。母体企業を向いて仕事をするのではなく、事業対象のパソコン業界やマルチメディア業界の基準に沿って仕事をすることが重要である。母体企業から注文をもらうことをあてにすると、安全パイを狙い、そこに安住しかねない。一般のベンチャーと同じ形で戦っていくことが大切である。
事業分野の特性に合った企業体質づくり
事業分野の特性に合った形で労働条件を整備することが大切である。母体企業の労働条件を基に、同様な労働条件を整備してしまっては、小回りのきく機動的な経営が困難になるおそれがある。
社員の確保
社員集めをコーポレート・ベンチャーの起業家に任せるコーポレート・ベンチャー制度の場合、母体企業の人材をいかに確保するかということが課題である。コーポレート・ベンチャーが欲した人材を、母体企業が抱え込んで出さない場合があり、引き抜くために、社内調整に多大な労力を要するといった問題がある。

富士ゼロックス（株）

ベンチャー事業への取組みの推移

制度概要
富士ゼロックスでは、ベンチャー事業と新規事業とを明確に区分している。本社の総合企画部門が新たな事業として取組むものは新規事業、これに対して社員自らの提案に基づいて会社を設立するものをベンチャー事業と位置付けている。
ベンチャー事業の制度を、人材の活性化と新規事業による会社経営への貢献を狙って87年に導入した。当初は、富士ゼロックスの全社員が対象であること、提案者自らが事業を実施すること、設立を行う社員は49％まで出資が可能であること、事業開始後３年以内に単年度黒字化が目標であることを条件にした。
ちなみに、88年に実施した第1回目の社内公募では、総数186件の応募があり、最終的には３社を設立した。98年10月までに７社を設立したが、うち２社は、３年以内に単年度黒字化を達成できなかったために、93年に解散した。
育成方式の変更
91年の公募の後５年間公募を一旦中断した。３年以内に単年度黒字化を達成できるベンチャーを育てるために、91年の公募での合格案件については、インキュベーション期間を設ける方式を取り入れた。
例えば、97年に設立した会社は、社内事業として確実に黒字化という実績を上げさせてから設立した。
テーマ提示型公募の追加
インキュベーション期間を設定する方式だけでは、ベンチャーの更なる活性化に不十分であると考え、98年の公募から、富士ゼロックス側から事業テーマを提示して参加を求め、その社員に独立してもらう方式を追加した。

現行ベンチャー制度の問題点と対応策

世の中の動向
ベンチャー・ビジネスへの期待が、社会、企業内、さらには政界において高まっている。かつて米国がそうであったように、日本は産業構造の転換を図ることを促進させるためには、ベンチャー・ビジネスが不可欠である。
現行制度の問題点
このように期待が高まる中、公的機関によるベンチャー支援のための制度は充実してきており、必ずしも会社内ですべてを賄う必要はないのではないか、という認識を持ちつつある。
1. 本業との関連度合いにより、ベンチャーの会社を設立することが困難なケースが出てきた。例えば、98年10月に設立した会社の場合、当初は70％を富士ゼロックスが投資することが認められたが、本業との関連性が乏しい事業領域を志向していたため、その後、親会社のゼロックス・コーポレーションから反対があり、一度会社設立を断念しかけた。富士ゼロックスの経営会議での決定事項でもあったため、再協議の結果、富士ゼロックスの出資を７％に留め、さらに、社長になる人は富士ゼロックスを退社する等々の条件を付けて、その会社を設立した。
2. 富士ゼロックスの出資比率を51％以上確保しているため、社内手続が煩雑になっている。２つの親会社の承認をとる必要もある。手続きに時間がかかり過ぎ、世の中のスピードについていけないのでは、ベンチャーを起す意義が薄れてしまう。
3. ベンチャー会社へはすべて出向の形態をとっており、事業責任者の意識付けが不十分な場合がある。
4. 富士ゼロックスの出資比率が高いと、結局、富士ゼロックスのカルチャーを持っていくことになり、ベンチャー会社の社長は、事業運営が行いにくい。ベンチャー会社からは、自社の出資比率を上げたいという声が高まっている。
5. 公募時期を一定期間に限定しているため、臨機応変にベンチャー会社を設立することができず、機会を逸しているケースがでてきた。富士ゼロックスを退社して、ベンチャー・キャピタルと手を組んで会社を設立する動きもある。
「独立型」ベンチャー制度の検討
そこで、とくに、富士ゼロックスの出資比率を抑えた「独立型」のベンチャー制度をつくる検討を進めている。
ベンチャー制度には、人材を活性化させる効果があり、また、これからの日本にとって、起業という能力の育成は非常に重要となり、社内においてもこれが要求されよう。これらの観点から、ベンチャー制度は継続したいと考えている。

富士通（株）

ベンチャーの育成の柱

富士通には、ベンチャーを育成するための取組みの柱が２つある。一つは、米国のベンチャー・キャピタル（以下、ＶＣ）への参画である。キャピタルゲインを得ることよりも、新しいビジネスに関する情報を入手することに主眼をおき、そこで得られた情報を開発に取り込んでいくことを目的としている。もう一つは、社内の人材を活用したコーポレート・ベンチャー（以下、ＣＶ）制度の導入である。米国では、大学がインキュベーションの機能を発揮しているが、日本の場合は、信用やビジネスプランを持ちながら、技術的優位性を発揮できる大企業が、その機能を有している。日本でも、将来的には大学を中心とした米国型のベンチャーが数多く出てくるだろうが、それまでの繋ぎとして、ＣＶが新事業を担うと考えている。

米国のＶＣへの参画

95年11月から米国のＶＣへ参画し、シリコンバレーのＩＴ関連のベンチャーを対象にして、これまでに約2,000万ドルを投資した。それらのＶＣの一つの、Asia Pacific Ventures Technology Partners, L.P(以下、ＡＰＶ）とは、投資先のベンチャー企業がアジアでビジネス展開し、富士通のアジア地域での新規ビジネス開拓の地歩となることを期待して、参画しており、もう一つの、Media Technology Ventures, L.P（以下、ＭＴＶ）は、ハリウッドとのつながりが深い南カリフォルニア大と連携しており、コンテンツ系に強みがあるので、参画している。
ＭＴＶを介した南カリフォルニア大学との連携により、学内のインキュベータに直接アクセスでき、また、学内へ社員を派遣することができるといった学内の研究成果へのアクセスが可能である。
今までにないほど早期にビジネスを立ち上げることがＶＣへの参画により可能となり、例えば、ＡＰＶとの投資先のWeb TV Networks社と日本で合弁会社を設立した事例などがある。

富士通のＣＶ制度

制度の趣旨・目的は、第一に、市場開拓のスピードアップ、収益ビジネス創出の基盤拡大である。ＩＴ市場はすそ野が広く、マーケットに種を蒔いておくことにより、ビジネスチャンスを掴める可能性が高まる。これを新しい市場攻略のスキームに入れるという目的がある。第二に、投資リターンの追求である。投資リターンをきっちりみることが重要であり、甘さを見せることは厳禁である。こうしているからこそ、ＣＶが３年で単年度黒字化している。このように成功事例が出てくることにより、企業風土が刷新され、また、新しい時間軸が社内に取り込まれるなど新しい経営スタイルが模索されることなど、を期待している。
制度開始から５年が経過し、11社を設立した。98年度決算で９社が単年度黒字を達成し、うち４社が今春配当を行った。99年度中には、２社が設立される予定である。３年以内に黒字になり、また、ＣＶの社長がやり甲斐をもって取組んでいるといった評価が社内に広まり、月当たり２件位の応募がある。また、段々と応募プランの質も高まってきている。
行く行くこの制度を活用することを見越して、社内公募制を利用して社内でのキャリアを積もうとする社員も出てくるなど、ＣＶの土壌は出来てきている。
今後の取組みとしては、まず、ＶＣとの連携を強化する。これまでＶＣと連携してきたことにより、ノウハウは蓄積されてきており、今後は成功の確立を高めたい。そしてＶＣの出資先に、富士通のＣＶを入れたスキームへとしていきたい。新事業の種を外に出すことにより、成長が早まることが期待され、ＭＢＯの手法にＶＣを介在させることを考えている。
また、ＣＶ制度を更に展開させるべく、シリコンバレーで実績のあるＶＣと日本のＶＣとの活用を図りたい。
来年３月までにＶＣをからめた増資を行なう予定である。その際には、ストック・オプション制度を導入する。

その他

ＣＶの審査、管理
ＣＶの審査は、書面審査では約９割の案件を通すが、その後の面談に重きを置いている。応募者（起業家）を様々な局面に置いて、面談でやりとりを繰り返すことにより、応募者（起業家）の人間的な能力をチェックする。わざと怒らせてみて、その反応を見ることもある。当該応募内容に関連した部門の担当者と討論させることもある。
ＣＶの管理としては、半期毎に決算の財務データを提出させ、富士通による監査を行っている。また、ベンチャーは放っておくと、日々の仕事に忙殺されて予算を組まないことが往々にしてあるので、毎年予算を組ませることや設立後２、３年目からは中期計画を策定することを要求している。
ＣＶの起業家のあり方
ステップアップできる能力が必要である。１つのステージで満足してしまうようでは駄目だ。１つのステージをクリアしたら、次のステップに向かおうとする人でなければならない。また、初めから富士通の販売チャネル等をあてにしてはならない。何はともあれ自ら売りに行くという独立心が必要である。

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「大企業の活性化と企業内起業家の活用に向けて」

【 各 論 】企業の取組み事例

設立の経緯

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コーポレート・ベンチャーへの対応に付いて

富士通のベンチャー制度

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