「需要と供給の新しい好循環の実現に向けた提言」
−21世紀型リーディング産業・分野の創出−
国民には、快適で潤いのある生活を実現したいという欲求がある。また、今日、循環型経済社会を形成するという環境面での国民の期待も高い。こうした潜在的な需要を顕在化することを通じ、持続的で活力溢れる経済活動を形作っていくことが何よりも求められており、都市・住宅整備、交通、環境、ヘルスケアに対する国民の欲求はその具体的な例であると考えられる。
都市整備により住居、職場、道路、都市施設それぞれにおいて、ゆとりある空間を創り出すことは、豊かな国民生活の実現に向け経済活動を高めるものであり、また、都市への諸機能の集積は、コミュニケーション・コストの低下により効率的な経済活動を生み出していく 30。
ヘルスケアにおいても同様のことがいえる。例えば健康な高齢者による経済活動が、労働力人口減少により懸念されている種々の問題の深刻化を防ぐことともなろう。
以下に取り上げる都市整備(交通、住宅)、ヘルスケアといった財・サービスは、租税あるいは社会保険料を供さなくては需要を満たし得ないという性格を有する。
公共財や社会保険制度を通じた財・サービスの供給というかたちがとられるために、価格シグナルを通じた合理的な消費行動はなされず、公共財では供給が過小となり、社会保険ではモラル・ハザードにより消費が過大となるおそれがある。こうした傾向について十分留意しつつ、それらの財・サービスの提供を円滑に行なう新しい社会システムを構築していく必要があるが、この際これらの財・サービスの供給の場となる都市あるいは地域においては、経営という視点を持つことが重要である。
これらの財・サービスの供給を通じて魅力的になった都市・地域においては、人や産業が集まり、新しい付加価値創造の機能が高まる。このため、地方公共団体には、より良い行政サービスを行なうための原資が生まれる。また、都市・地域の魅力が高まれば、賃料が上昇することになり、貸地、貸家用の土地を所有する既存市民の満足度も高まり、土地資産を最大限有効に活用しようとする誘因となる。そのことを通じて、新しい住民を惹き付けることができれば、地方公共団体は、さらなる都市・地域づくりの財源を得ることになる。このようにして、需要と供給の新しい好循環が創り出され、新たな雇用も生み出されよう。
また、ヘルスケア分野については、社会保障政策の枠組みのなかで、これまで、官の役割と考えられ、関連するサービスを官が提供することが基本となっていた。社会保障に関しても、「民間でできるものは民間に委ねる」という基本原則に基づき、公の責任をシビルミニマムに限定する一方、自己選択・自己責任に基づいて、民間企業の知恵と活力を最大限に活用し、利用者本意の多様なサービスの供給体制を確立することが重要であり、需要と供給の新しい好循環を創り出すことは十分可能である。
本章において取り上げる分野では、官民が広い連携領域をもつことになるが、官と民との役割分担を抜本的に見直すことが求められる。政府・地方公共団体は、建設・運営面において民間企業によって効率的に行われる見込みがある公共サービスについては、PFIを積極的に活用すべきである。前章にあげた環境やエネルギーなど分野においても、PFIの活用により革新的な技術を引き出すことが可能となろう。
このため政府は、PFI事業の障害となる諸制度等について積極的かつ速やかに改善・改革を図っていくなど、その環境整備に積極的に取り組むべきである。
このようにして都市・地域は、民間の活力を最大限活用しながら、官民連携によって他都市・地域との競争に臨んでいく姿勢が求められる。そうした形で競争が促進されることになれば、住民の多様な欲求に応え、住民に選択される、利便性、快適性、審美性、安全性、安心性等に優れ、かつ個性豊かな都市・地域が作り出される。
他方、国全体としては、都市・地域間競争の基盤としての情報、交通等のネットワークの整備が求められる。むろん、国や地方公共団体は、インフラ整備に当たり、事前事後の評価を着実に行ないつつ、事業の重点化を図るべきである。また、事業費の増大をもたらす事業実施の遅れを費用化して公表するなどの時間管理も重要である 31。
バブルの崩壊から10年が経過した。都市の外延的拡張が止まり、地価の下落が進む一方で、都市居住者の環境・アメニティへの関心が高まり、都市政策への住民参加も定着しつつある。
都市を巡る課題は多岐にわたるが、ここでは、首都圏を中心として、大都市圏における以下の問題を踏まえ、魅力ある都市・地域づくりのため具体的な施策を提言する。
遠距離通勤
東京都心3区(千代田、中央、港区)に通勤・通学する人々のうち約4分の1(1995年)が1時間半以上を要している 32。
居住費負担の重さ
東京都の「若い世代の東京の居住に関する意識調査」 33によると、8割を超える人が「住居費負担が高く、子供を育てる経済的余裕がない」ことを挙げており、7割弱の人が「子供の成長に応じた広さや部屋が確保できない」としている 34。
居住水準の低さ、とりわけ賃貸住宅の質の低さ
最低居住水準未満の世帯の割合は、東京が15.5%(1993年、全国7.8%)で、特に借家世帯では、東京が24.5%(全国16.6%)となっており、誘導居住水準を満たした世帯の割合も共同住宅の都市居住型基準で東京23.0%、戸建て住宅の一般型で東京35.2%(全国40.5%)と低い水準となっている 35。
高齢化対応の遅れ
大都市圏においては、高齢者が絶対数において著しく増加するかたちで高齢化が進む 36。
防災対策の遅れ
建築物の耐震性能向上や木造密集地域の解消が遅れているため、南関東で関東大震災クラスの地震が起きれば約260万棟が焼失すると想定されている 37。
環境対策の遅れ
都市居住者のアメニティの向上のため都市公園の整備、グリーンベルトと一体となった環状道路の整備、渋滞解消によるCO2削減等、環境改善が不可欠である。
産業の孵化器機能の維持・促進
人口の集積によって都市は産業の孵化器(インキュベーター)としての機能を持つ。 Bit Valleyと呼ばれる渋谷区中心の情報技術産業の集積に伴う情報が、日本全国、アジア諸国などに発信されるような例も見られるが、東京都大田区など、既存産業ネットワークの綻びも問題となりつつある。
都心居住の推進
東京都区部の平均容積率は129.1%(指定容積率の充足率は50.9%) 38であり、建築物の高度化によって、これ以上の外延的な周辺開発を抑止し、都心に人口を吸収することは十分可能である。都市内の交通体系の整備を図りながら、都心居住の推進策をとる必要があるが、そのためには、まず街路・街区の整備により実容積率を引き上げる必要がある。街路・街区の整備は、沿道の高度利用を促進するとともに、交通渋滞の解消、都市の防災機能の向上、電線類の共同溝の設置などによる都市美観の向上に資することになる。
また、街区の一体性を確保しつつ高度利用を促進するために、敷地の統合を進める必要があるが、SPCや不動産投資信託の活用が期待される。
街区の形成、活気ある街づくりのためには、地域住民自らが土地利用の計画を定めることができる地区計画の積極的な活用が期待される。
地域・地区の設定においては低層、中層及び高層住宅の合理的な組み合わせにより、人々の多様な欲求を満たすことが必要である。また、その際、特定街区制度にある建築物の高さの斜線制限、日影による高さの制限を外す手法も、都市中心部において積極的に活用されるべきである。都市美観の面からも使い勝手の面からも、建築物の形状を規定してしまう北側斜線規制、日影規制の撤廃も検討されて然るべきである。
また、再開発の促進のため、都市計画の変更手続きの弾力化、手続きを迅速化すべきである。さらに、提案型の都市計画の策定を積極的に導入すべきである。併せて、共同住宅の中には耐用年限に近づいたもの、旧建築基準法に則っていて強度に不安があるものがあるため、今後、建て替えにおいて、権利調整、実際の事業施行が円滑にできるよう、都市再開発法の手続きを採用するか、区分所有法に手続を定めるかを行なうべきである。
加えて、都市の中心部においては特に、土地に関する固定資産税の合理化も検討する必要があろう。他者への賃貸による土地・建物の有効活用は、借地借家法改正以前には、借地権、借家権を発生させることから、資産減額のリスクを高め、考え難いことであった。しかし、定期借地権・定期借家権制度の導入により、土地、家屋を他者に賃貸する心理的抵抗感はかなり薄まってきたものと考えられる。定期借地権・定期借家権制度の導入を契機に、地方公共団体は土地に関する固定資産税の合理化を図りながら、貴重な都市空間を分かち合う 39との発想のもと、潜在的住民に対する貸地、貸家というかたちでの都心居住を促進するべきである。この場合、SOHOの進展、都市内産業の活性化も考慮し、住宅用地、非住宅用地の別なく課税標準、税率を設定すべきである。
また土地値上がり利益への期待が、再開発事業の遅れをもたらすケースがあるが、SPCや不動産投資信託、不動産特定共同事業などのスキームの活用により、これらからの収益を配分することにより、地権者の再開発事業への賛同は得られやすくなろう。
住宅の質的向上 ―床面積の拡大と性能の向上―
住宅に対する国民の欲求を、可処分所得の中での住宅費(家賃・地代・修繕費、住宅ローン返済額)の比率によって確認すると、1989年〜95年の7年間では、その比率が9.1%から11.0%へ上昇している 40。この間の土地・住宅関連の価格下落を勘案すると、明らかに所得弾力性は高く、住宅のリーディング産業・分野としての要件は満たされているものと考えられる。
住宅品質確保促進法の施行により耐久性、遮音性、省エネ性、採光・換気性などの面で、住宅ストックの質を高めていくことの重要性が明確にされた。高い耐久性が確保され、様々な性能が明確に規定され、これに対する時価評価が可能となれば、中古住宅の流通を促進し、持ち家での住み替えが促進されることとなる。政策的には、高耐久性住宅への融資返済期間の延長が有効である。
質の高い住宅へのニーズを実現させるためには、税制上の措置も不可欠である。個人の住宅投資に係るローン利子の所得控除制度の導入や住宅に係る消費税負担の軽減、登記制度の運営費をはるかに上回る課税となっている登録免許税の軽課、不動産取得税負担の軽減などを検討すべきである。
とりわけ、住宅に係る消費税の負担は重く、また、消費税率の引き上げの都度、大きな駆け込み需要を生みだし、業界の供給体制を歪めるなどの問題がある。
今後の直間比率の見直しの中で、現行の住宅に係る消費税を軽課する観点から、複数税率の導入等を検討すべきである。また、住宅の長寿命化に対するインセンティブを消費者に与えるため、以下の通り、耐用年数別に消費税還付制度を導入するという考え方もあろう。
[還付率の計算]各年度の帰属家賃への消費税課税を前提とすると、住宅取得時の消費税納付は税の一括前払いと考えることができる。そこで、前払い金とその運用益を取得後の各年度の消費税に充当する、と考えれば、当初の5%税額の納付は過大となり、建物の耐用年数に応じた還付を行なう必要が生じる。還付税率の計算の方法は以下の通りとなるが、5.5%の利子率の場合の還付率は耐用年数19年の建築物で39%、47年の建築物では64%となる。
(手順1)現状の消費税額1を、耐用年数で均等に支払う場合の額を求める。
(手順2)前項で求めた値を一定の利子率に対応する年金現価係数で現在値に割り戻す。利子率としては、年金運用利率として長らく使用されてきた5.5%を使用する。ちなみに低利子率を使用した場合還付額は減少することとなる。
(手順3)手順2で求められた値と1との差を還付すべき税額として算出する。
建物種類 *1 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) 耐用年数 *2 47年 38年 34年 27年 19年 22年 20年 年当たり負担率 *3 0.021 0.026 0.029 0.037 0.053 0.045 0.050 年金現価係数 16.714 15.805 15.237 13.898 11.608 12.583 11.950 負担額現価 *4 0.356 0.416 0.448 0.514 0.611 0.572 0.598 還付税率 0.644 0.584 0.552 0.485 0.389 0.428 0.402 *1 耐用年数表の区分による建物種類(下記) *2 耐用年数表による
*3 1/耐用年数 *4 年当たり負担率×年金現価係数
(1)鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造:47年、(2)れんが造、石造、ブロック造:38年、
(3)金属造 骨格材の肉厚4mm超:34年、(4)同骨格材の肉厚3mm超4mm以下:27年、
(5)同骨格材の肉厚3mm以下:19年、(6)木造又は合成樹脂造:22年、(7)木造モルタル造:20年
ネットワーク社会を支える交通インフラについては、様々な課題があるが、何よりも解決を急ぐべきは、交通渋滞の緩和である。都市内における渋滞が国民経済に及ぼす損失は、年間56億時間(一人当たり50時間)、費用換算で12兆円(GDP比6%、一人当たり10万円)と算出される 41。エネルギー消費は、燃料消費量が約2倍となり 42、排気ガスはNOxが約3倍、CO2は約2倍排出されている 43。
環状道路等の整備による首都圏の渋滞解消は、全国的課題であるとの認識が必要である。
交通問題の解決には、基本的に交通容量の拡大と既存インフラを前提とした交通需要マネジメントの二つの政策体系が考えられる。
今日、東京都が交通需要マネジメントの一つであるロード・プライシング制度の導入を提案しているが、急がれるのは、都市整備による道路幅員の確保、ボトルネック解消のための環状系道路の整備であろう。現在、都市計画道路の完成率は、区部で55.2%、多摩部で43.1% 44(97年3月)でしかなく、早急な整備が求められる。とりわけ、首都高速道路の外環道、ならびに中央環状線の完成が急がれる。
加えて新技術実用化による既存道路の有効活用策として、ITS(Intelligent Transport Systems)の推進が求められる。
ITSは、エレクトロニクスや情報通信技術を活用したより高度な道路交通システムで、現在、ナビゲーションシステムの高度化、自動料金収受システム、安全運転の支援、交通管理の最適化、道路管理の効率化、公共交通の支援、商用車の効率化、歩行者の支援、緊急車両の運行支援等の開発分野において取り組みが進められている。
これによる効果は、VERTIS(道路・交通・車両インテリジェント化推進協議会)の試算によれば、「交通死亡事故を30年後には現在の半分に減らす」「交通渋滞を20年後には現在の5分の1に減らす」「30年後にはクルマの燃料消費量とCO2を約15%減らし、都市部のNOxを約30%削減する」などとされている一方、「市場規模は2015年までの累計で60兆円となる」ことが想定されている 45。
現在、警察庁、通商産業省、運輸省、郵政省、建設省の5省庁が関わっているこの構想については、それらの連携の強化が不可欠であり、関連する情報開示と規制緩和を推進しつつ、早急に国際標準化を進めていく必要があるが、わが国がその主導権を取ることを期待したい。また技術開発面では、産学官のより一層の連携が求められよう。
物流については、あらゆる産業活動と国民生活の基盤となる分野であり、環境問題にも配慮しながら、物流の円滑化・効率化に役立つハード面とソフト面の整備が必要である。
ワンストップサービスの実現
行政手続上の理由で輸出入貨物が港湾等に滞留しないよう、輸出入、検疫、通関等の各種行政手続の連携一体化を図り、ペーパーレス化、ワンストップサービスを早期に実現すべきである。
マルチモーダルの推進
道路ネットワークの整備とともに、環境負荷が少なく長距離大量輸送の面では効率の高い鉄道や海運の利便性を向上させて活用を促進するなど、マルチモーダル施策の推進が重要である。
海上輸送の高度化
TSL(Techno Super Liner)については実験船が就航しているが、海上輸送の高度化に有効であり、TSL対応港湾、並びに高速荷役システムの整備が重要となろう。
わが国では、21世紀に向けて資源面での制約がますます顕著になるおそれがあることに加え、廃棄物の最終処分場が逼迫していることから、資源投入量を可能な限り抑制するとともに資源の再利用を促進する循環型経済社会の推進が重要な課題となっている。
また、地球温暖化対策として、先進各国の温室効果ガスの削減目標が、1997年12月に京都で開催されたCOP3において定められた。この達成に向けて、一層の取り組みが求められているところである。
この他、PCBの処理や汚染土壌の浄化などのような過去に蓄積された汚染の浄化も課題となっている。
このような環境問題に対応すべく、企業は、製造プロセスの省資源・省エネ化、環境調和型製品の供給に努めるとともに、使用済み製品の回収・リサイクル体制の整備、様々な環境修復技術の開発などについて多面的な取り組みを進めている。こうした環境関連の事業活動が永続的に行なわれていくためには、技術開発の推進とともに事業活動として成立するための環境整備も必要である。
ここでは、循環型経済社会を支える環境関連事業を推進するための施策について述べる。
リサイクル推進に向けた消費者の参加
使用済み製品の処理・リサイクルを進めるにあたり、業種・業態の特性を踏まえて製品毎に企業、消費者、行政の役割と責任を明確化する必要がある。その際のコスト負担のあり方として、消費者に循環型経済社会の担い手の一員であるとの自覚を促すとともに、消費者がコストを直接負担することが必要である。また、消費者が使用済み製品の回収システムのなかで、一定の役割を担うことも検討されるべきである。
廃棄物の処理・処分施設の設置に向けた国、地方公共団体の取り組み
行政とりわけ地方公共団体は、廃棄物の処理・処分施設を必要不可欠なインフラと位置付け、自ら施設設置に取り組むとともに、周辺住民をはじめとする利害関係者の調整に積極的に取り組み、民間企業の事業化が進むよう環境整備を行うことが期待される。
住民も自らの生活の裏付けとして動脈系、静脈系双方の産業活動があるとの認識を持ち、実行可能なルールの設定に積極的に関与していく姿勢が求められる。
一体的、効率的処理への転換
一般廃棄物と産業廃棄物とを分けて処理することの非効率に鑑み、廃棄物の区分については、有害性の有無に着目する方向で見直し、廃棄物を一体的・効率的に処理できるようにすべきである。
廃棄物処理業が産業として確立する基盤整備
優良な処理・処分業者が事業活動を進展させられるよう、業許可要件の見直しや不法投棄の取締り強化等の措置を講ずべきである。
土地利用転換に資する土壌修復の推進
地下環境汚染の浄化、拡散防止など土壌修復は、都市再開発の推進、事業用地の流動化における土地取引のリスクを低減するために必要とされる場合がある。こうした土地利用転換に当たっての環境整備のあり方を早急に検討する必要がある 46。
ヘルスケアの分野については、経済の停滞にもかかわらず、90〜95年の医療・保健・社会保障(社会保障部門)の年平均伸び率が、国内生産額ベースで6.3%、粗付加価値額ベースで6.6%と高く(全産業はそれぞれ1.4%、2.5%)、関係分野の国内生産額もこの間、4.1%の伸びを示している 48。保険制度の違いはあるが、米国の医療産業の対GDP比は13.5%(98年)であり、わが国の6.1% 49(99年)とでは二倍以上の開きがあることを考えると、この分野のリーディング産業・分野としての期待は高い。
とりわけ、介護の分野においては、民間企業の有するノウハウ、能力をなどを最大限活用することが重要である。既に民間企業では、ISOの認定取得、商品・サービスの手順・内容、苦情処理手順のマニュアル化、品質チェックシステムの導入などの動きがあり、均質で付加価値の高い商品・サービスを提供する力をもっている。また、民間企業は、自己研鑚のための仕組みや研修制度を整備し、人材の育成にも努めている。さらに民間企業は、祝祭日を問わず、長時間・時間外勤務にも柔軟に対応することができるため、24時間・365日のサービスを提供することが可能である。
今日、年金、医療、介護の問題が国民の将来不安をもたらしていることはいうまでもないが、いずれも現役世代と高齢者の間の所得再分配の問題が絡んでおり、各種制度の抜本的な改革が求められる。その上で、健常者も含めたトータルヘルスケアシステムを確立するとの観点に立ち、民間企業の活力、ノウハウなどを活用しつつ、この分野の産業化を進めていくことが重要であろう。
医療保険財政の改革
被用者保険の被保険者負担の1割から2割への変更、老人医療受給対象者の一部負担額の見直し、外来患者の薬剤費の一部負担の導入等を行なった1997年の健康保険法等の改正にもかかわらず、各医療保険制度の財政状況は極めて厳しい。政府管掌保険では97年まで5年間連続の赤字、組合管掌保険では4年連続の赤字、国民健康保険では慢性的な赤字といった状況にあり、組合管掌保険では55.2%の組合が、国民健康保険では47.5%の市町村が赤字である 50。
いわゆる後期高齢者医療については、保険原理には馴染まず、介護と同様に、定率の自己負担とともに、公費中心の制度に移行すべきである。
健常高齢者の社会参画と需要の顕在化
経団連提言「産業競争力強化に向けた提言−国民の豊かさを実現する雇用・労働分野の改革−」(99年10月19日)において示したように、派遣労働、NPOなどでの就労を含む高年齢者の雇用機会の拡大や年齢によらず制約なく働ける社会の実現が何よりも重要である。
また、高齢者も含めた住民参加型の地域コミュニティーの確立に向け地域の果たすべき役割はますます重くなっていこう。
医療情報提供システムの公的整備 51
ヘルスケア・サービスを受けようとする国民は、どこの医師にかかれば良いのか、特にどの医師が優秀な医師なのか、という情報を得にくい。また医師にかかってからは、自分の症状に対して的確な処方がなされているのかどうかについての不安を伴うことが多い。急がれるべきことは、医療標準の確立、治療の日程管理計画、それを支える情報システムであろう。
医療産業における情報化は、医事会計システム、部門システム、オーダリング・システム、電子カルテシステムと進展し、内部の情報化から外部との間の情報化へと進展しつつある。今後、さらに医療行為の標準化(ケアマップ)、チーム医療の強化、診察の質とコスト管理のレベルアップを図るためのナビゲーション・ケアマップシステムへと進展し、近未来では、地域医療・介護圏情報ネットワークシステム(日本版IHDN:Integrated Healthcare Delivery Network)、すなわち「地域圏内で事業展開している診療所、一般病院、専門病院、精神病院、介護施設、在宅ケア業者、薬局、保険会社等全ての種類のヘルスケア供給者が経営資源と情報を共有することにより効率性を高める仕組み」へと進展していくと想定されている。コスト抑制と患者満足向上を両立させるためには、こうした情報システムの構築が不可欠で、そのための公的支援が必要である。とりあえず国民健康保険(市町村運営)を母体としたIHDN運営会社を立ち上げ、実験を行なうことが期待される。
その他
現状では、医薬品、医療器具産業は入超状況にある。国内に大きな市場があり、さらにその市場の成長が見込まれているにもかかわらず、日本企業の競争力は概して強くない。国を挙げて技術開発に注力すべきである。
また、米国では医療分野への営利法人の参入が認められており、わが国においても、コスト抑制、患者満足度向上の観点からその実現が望まれる。