[経団連] [意見書] [目次]

「需要と供給の新しい好循環の実現に向けた提言」
−21世紀型リーディング産業・分野の創出−

【 総 論 】


第1章 経済成長の意義と日本経済の発展可能性

  1. 経済成長の意義
  2. 平均1%台というバブル崩壊以降の極端な低成長は、戦後、飛躍的な経済成長を直走り、3年と続く不況を経験したことのなかった日本に大きな衝撃と不安をもたらした。こうしたなかで、今日の日本では、「経済成長だけが政策目標ではない」「これ以上の成長は望めない」というように経済成長の意義に対するやや後ろ向きの意見や経済の先行きについて悲観的な見方が台頭するようになっている。
    しかし、今後も経済成長を続けることの意義を過小評価するべきではない 1。国民が求めている財・サービスを、産業・企業が創造的な技術革新を通じて提供し、その結果、雇用と所得が生まれ、GDPがスパイラル的に増えていくというメカニズムは、とりわけ雇用の創出・確保を図る上で優れたシステムであり、これを機能させていかなければ国民生活は豊かなものにならない。
    したがって、今後も、GDPの成長は、経済の進歩や国民の豊かさの水準を量的に示す有効な尺度となる。因みに、90年代の平均1%という低成長が今後も続くことを前提とすると、GDPを2倍にするには70年かかることになる 2。これに対し、90年代の米国のように、年平均3%の成長を実現できれば、GDPを2倍にするには24年しかかからない 3。この試算が現実のものとなれば、21世紀において日本の国民は、物質的な豊かさが満たされないことは勿論のこと、多様な価値観を認め合うような社会の構築も困難になる。当然、年金、医療などの所得再分配問題も深刻化する。またマーケットとしての魅力が失われ、海外からの投資も低迷するため、雇用機会はさらに縮小する。国際社会における日本の地位が低下していくことはいうまでもない。
    すなわち、21世紀初頭における経済成長の意義としては、(1)物質的な豊かさのみならず、精神的な豊かさの実現、(2)年金、医療など所得再分配問題の円滑な処理 4、(3)国際社会における適切な義務の遂行 5、の3点が挙げられよう。
    勿論、21世紀において経済成長を求めていく上で、環境問題などを深刻化させないよう、循環型経済社会の形成を強く意識することは当然である。

  3. 日本経済の発展可能性
  4. 経済成長の意義が今後も認められるにもかかわらず、日本経済の発展可能性は乏しいとみられている。日本経済の不安要素として取り上げられるものは、以下の2点に集約されるが、これらは、日本経済の発展可能性を否定する要因としては決定的なものではない。
    第一は、少子・高齢化の影響である。確かに少子・高齢化の進展は、日本の将来についてわれわれが予測し得る最も可能性の高い事象であろう。これらを成長会計にあてはめ、日本経済の潜在成長力が労働面から低下するという考え方はわかりやすい 6。しかし、歴史を振り返ると、これまでの日本経済の成長を説明する要因として、人口変動、すなわち労働投入量の変化が説明できる部分は極めて小さく、資本蓄積や技術進歩が経済成長のトレンドを決める傾向が強かったといえる。他方、少子・高齢化はそれ自体、一人当たりでみたGDPを引き上げる効果を持つ。したがって、少子・高齢化により労働力人口が減少していくという理由だけで日本の将来の悲観的にみることは、適切ではない 7 8
    第二は、欧米へのキャッチアップ過程の終焉である。豊かな国の成長率が、未だ豊かでない国の成長率よりも低くなる傾向にあるという「所得収斂仮説」は、一部において成立している。事実、戦後の日本、ドイツなどが高度成長を実現し、米国にキャッチアップを果たすなかで、成長率は徐々に低下してきた。しかし、このようなことから、世界第2位の経済規模を誇る日本がもはや成長できないと考えることは、早計である。実際、先進諸国の中には、3%成長を達成している国もいくつかみられる。その代表である米国は、戦後、一貫して世界のフロントランナーでありながら、今日まで10年近い長期にわたる経済成長を実現している 9
    それでは、21世紀初頭の日本経済はどのように成長できるのか。われわれは、需要の顕在化こそ、経済成長を実現する最も重要な鍵であると考える。なぜなら、経済成長のパターンは、国民が日本の社会や将来の生活をどのように変えたいのかという欲求の大きさと、それを需要として顕在化できる産業・企業の対応能力によって決まるからである 10


第2章 好循環の実現とリーディング産業・分野が果たす役割

  1. 好循環と高度成長−リーディング産業・分野が果たす役割−
  2. いうまでもなく、現在経済低迷に悩む日本も、戦後50年という長期間で捉えれば、諸外国の中でも突出した経済的パフォーマンスを示し、日本経済の成功は歴史的にも奇跡と見られている。
    戦後、日本の景気拡大のなかで、最長・最大のものは、1950年代半ばに始まり、池田内閣が掲げた「所得倍増計画」の実施を経て、70年代初頭まで平均二桁の成長を続けた高度成長期である 11 12
    日本が高度成長を実現したメカニズムを明らかにすれば、次の3つに整理できるが、ここに現下の日本経済を立ち直らせる重要な鍵がある。

    1. 需要と技術革新が形成した好循環
    2. 第一の好循環は、需要と技術革新が形成した好循環である。テレビ、電気洗濯機、電気冷蔵庫、自動車といった耐久消費財には、旺盛な需要があった。それは、日本人が米国のような生活スタイルを実現するのに不可欠な財であったからである。企業は、海外から技術を導入し、技術革新等により、日本に適したものに作り変え、それを市場に供給した。供給した財の普及(脚注12の表参照)に伴い企業には、大きな内部留保が生まれ、企業はこれを生産増強投資と研究開発投資に充てた。このため、量産のメリットを確保しながら、品質はさらに改善していった。鉄鋼、化学といった素材産業についても、設備投資の拡大を通じ生産性が大幅に向上したため、最終財である耐久消費財の価格引き下げ・品質改善を支えた 13。品質が改善された製品は、さらに多くの消費者を惹きつけ、諸外国への輸出も好循環を実現する上で大きな役割を果たした。

    3. 所得と需要が形成した好循環
    4. 第二の好循環は、所得と需要が形成した好循環である。第一の好循環を形成した企業では、耐久消費財の普及率が高まるにつれ、企業業績が向上したため、より多くの賃金を従業員に支払うとともに、より多くの従業員を雇うようになった(電気機械器具製造業では1955年から70年までの間に常用雇用者が約5倍になった) 14 15。多くの所得を得た従業員は、企業にとっては働き手である一方、消費者という側面も持ち併せていた。このため、従業員に支払われた賃金は、耐久消費財の購入に回る形で再び企業に戻り、これがさらに、設備投資や技術革新を行なう際の原資となった。

    5. 世帯数の増加と需要が形成した好循環
    6. 第三の好循環は、世帯数の増加 16と需要が形成した好循環である。工業部門で生産性が向上し、賃金が上昇すると、若年層を中心に多くの働き手が地方・農村から工業都市に流入し 17、その結果、単独世帯化・核家族化が進んだ。1955年から70年までの間に、日本の総世帯数は、1,387万世帯増加したが、そのうちの95.5%は単独世帯化・核家族化によるものであった。総世帯数の増加は、耐久消費財に対する需要を、さらに高めた。

    以上のメカニズムにより日本経済は、1950年代中頃から、20年の長きにわたり持続的な経済成長を実現した。
    この時期において、奇跡的な高度成長の原動力となった要因は、テレビ、電気冷蔵庫といった電化製品や自動車に対して国民の旺盛なニーズがあったということである。こうした財に対する需要は、マクロレベルでみても極めて大きなものであった。
    そして、そうした国民の需要を顕在化させたのは、電機機械、自動車産業などのイノベーション、供給能力であったといえよう。こうした産業・企業は、

    1. 第一段階として、国民、企業、社会の潜在的な需要を的確に把握する、
    2. 第二段階として、研究開発投資・設備投資を行ない、需要に対応した魅力的な財・サービスを供給する、
    3. 第三段階として、財・サービスの供給で得た資金を、需要創出のための投資にあて、さらなる需要を創造するという需要創造型イノベーションを繰り返す、
    ことを通じてマクロレベルの需要を拡大し、経済における需要と供給の好循環を実現したのである。
    われわれは、このような役割を果たす産業・分野を、経済成長を牽引するという意味で、「リーディング産業・分野」と呼ぶこととするが、高度成長期のリーディング産業・分野は、これ以外にも、資本、労働など経営資源を重点投入することによって、産業構造の高度化をもたらし、また、新しい財・サービスを提供することで、その時々の経済社会の重要課題を解決に導くなど、経済社会の発展に重要な役割を果たした。

  3. リーディング産業・分野の成長力が急激に弱まった1990年代
  4. 90年代の経済低迷は、需要と供給の悪循環の典型例といえる。
    90年代、民間企業はイノベーションに取り組んだものの、バブル崩壊によるバランスシート調整、過度の円高 18など種々の悪材料が重なり、また、技術開発の高度化とテーマの巨大化もあって、技術革新に伴うリスクとコストは個別の民間企業では負担できないまでに増大し、魅力ある財・サービスを生み出せなかった。これには、金融機関の倒産や企業のリストラによる将来不安などから、消費水準が低下したことも大いに影響した。こうしたなか、政府の施策に期待が集まったが、90年代、政府が取り組んだ政策 19は、公共事業についていえば、その配分は依然として硬直的なままで、物流の効率化や都市交通の円滑化など民需をクラウド・イン(喚起)するようなプロジェクトへの配分が十分に増えたとはいえなかった。また、規制緩和を主な手段とする構造改革も、情報通信市場の自由化など、経済に明らかにプラス・サムの効果を及ぼすものは、残念ながら多くはなかった。
    高度成長期とは明らかに異なり、90年代の平成不況 20では、国民、企業、社会の潜在的な需要を顕在化させるリーディング産業・分野を見出せず、需要の減少が、企業の生産を縮小させ、さらなる需要の低下を招くという悪循環に陥ったということである。
    したがって、1.(3)で取り上げたような世帯数の増加と需要による好循環が期待できない21世紀初頭の日本においては、マクロレベルの需要と供給の好循環を実現するためには、リーディング産業・分野 21を創出する以外にない。今日国民・企業・社会のニーズを的確に捉え、積極的にその需要の顕在化に努力した産業・企業が、リーディング産業・分野としての役割を担っていけば、内需拡大を実現しつつ、他方で、輸出競争力を持つハイテク資本財、生産財を中心に、持続的な成長に必要な外需を確保することが可能となる。また、好循環を実現した日本は、「安全で快適な生活」「持続的で活力あふれる経済活動」「循環型経済社会の形成」がともに成り立つ、真に豊かな経済社会を目指していくことが可能となる。


第3章 21世紀におけるリーディング産業・分野の創出経路

21世紀初頭におけるリーディング産業・分野は、環境変化の周辺に生まれるものと考えられる。今後日本では経済社会の成熟化がさらに進行し、国民の価値観が多様化していくことが予想されるため、かつての繊維、鉄鋼、電機機械、自動車産業のようにその時代のナンバーワン産業が、リーディング産業・分野としての役割を単独で担っていくとは考えにくい。そこで、複数の産業・分野が、リーディング産業・分野の役割を担っていくという方向で、それらの創出策を検討していく必要がある。
今後、わが国経済社会を巡る変化の要因としては、様々なものが考えられるが、中でも「世界に例を見ないスピードで進む高齢化」「情報革命」「廃棄物問題、地球環境問題の深刻化」「価値観の多様化・付加価値の源泉のパラダイム・シフト」「世界的な大競争・経済のグローバル化」といった環境変化は、消費者、企業などの行動に及ぼすマグニチュードが大きく、これらの周辺には、大きな市場が創出されるものと期待される。
こうした環境変化のなかから伸びる可能性のある需要分野に着目すると、「創造的な技術革新を通じて提供され、国際競争力強化に資する財・サービス」「社会システムの見直しにより顕在化する需要」「ネットワークを高度利用することによって生まれてくる付加価値」の3つの創出経路が浮かび上がってくる。
その際、リーディング産業・分野を創出する主役は、あくまで民間企業であるということを再認識する必要がある。産業・企業としては、

  1. 新しい財の導入、
  2. 新しい生産方式の導入、
  3. 新しい市場の開拓、
  4. 原材料の新たな供給源の開拓、
  5. 新しい組織の創造、
という5種類のイノベーションに取り組まなければならない 22。しかし、国民が将来に対し過度の不安を抱き、生活防衛的になっている現在においては、企業の自主的取り組みのみにより、リーディング産業・分野が創出されるというシナリオを描くことは困難である 23。このため、これら創出経路が効果的に機能できるよう、政府による政策のコンセプトとコンテンツを改め、よりきめ細かな施策を講じていく必要がある。

  1. 創造的な技術革新
  2. 経済のグローバル化に伴い世界的な競争が激化し、また、付加価値の源泉がより創造的なものにシフトするなかで、わが国経済が持続的に発展していくためには、戦後の発展を支えてきた「ものづくり」の技術・人材・基盤を活用しつつ、以下の3つの財・サービスを、創造的な技術革新によって生み出すリーディング産業・分野の創出が不可欠である。

    1. ニューフロンティア技術の世界に先駆けた開発による需要の創出を伴う新たな財・サービスの供給
    2. 生産性の大幅な向上による国際競争力のあるコストでの高品質な財・サービスの供給
    3. 環境問題やエネルギー問題などのボトルネックの解消に資する財・サービスの供給
    創造的な技術革新の主役は民間企業であるが、前述の通り、最近、経済が低迷するなかで、技術開発が高度化し、テーマが巨大化しているため、技術革新に伴うリスクとコストは個別の民間企業では負担できないまでに増大している。したがって、企業の自助努力を基本とした上で、創造的な技術革新を促進する観点から政策を推進していく必要がある。

  3. 社会システムの見直し
  4. 世界に例をみないスピードで進む高齢化、あるいは2004年以降進行する人口減少は、確実に国民の生活を変えていく 24
    こうしたなかで、生活大国の実現が、国民から強く求められている。
    生活を豊かで潤いのあるものにする財・サービスに関し、需要と供給の好循環を構築していくことができれば、これら財・サービスを提供する産業群はリーディング産業・分野として日本の経済を牽引する役割を果たしていくものと期待される。
    しかし、都市整備(交通・住宅)、ヘルスケアといった財・サービスは、企業の自助努力のみにより提供できるサービスではなく、租税あるいは社会保険料を供さなくては需要を満たし得ないという性格を有する。
    公共財や社会保険料を通じた財・サービスというかたちがとられるために、価格シグナルを通じた合理的な消費行動はなされず、公共財では供給が過小となり、社会保険ではモラル・ハザードにより消費が過大となるおそれがある。
    こうした傾向について十分留意しつつ、それらの財・サービスの提供を円滑に行なう新しい社会システムを構築していくことが求められる。

  5. ネットワークの高度利用
  6. 米国において始まったIT革命は、日本を含む諸国を巻き込み、今や世界的な経済社会の変革をもたらしつつある。また、経済社会が成熟化し、消費者の価値観が多様化していくなかで、「もの」の価値が相対的に縮小し、「サービスコンテンツ」の価値が相対的に拡大する「経済のサービス化」が進展している。
    こうしたなかで、わが国が需要創出を通じた持続的経済成長を実現していくためには、情報通信産業(IT産業)だけでなく情報通信ネットワークを活用する全ての産業(IT活用産業)が、「ものづくり」等の従来からのわが国の「強み」を基盤として、企業活動や国民生活のインフラとしての情報通信ネットワーク(ITネットワーク)の高度利用による付加価値の創造を進めて、産業競争力を強化していかなければならない。
    ITネットワークは、全ての企業にとってサプライチェーンの効率化の手段となるだけでなく、新たな付加価値創造の手段となることが期待されるが、その活用は、基本的には各企業が自己責任において取り組むべき課題である。しかし一方で、政府は企業間の公正な競争を促進するための施策を講じるとともに、企業のイニシャティブを最大限に発揮させるべく、高度情報通信社会の物的・人的基盤の整備を急ぐ必要がある。加えて、政府など行政機関自身のIT活用による行政の効率化と行政サービスの向上も重要な課題である。


第4章 国民・企業のコンセンサスを作り上げる魅力的なビジョンづくりを

  1. 魅力ある将来ビジョンの策定
  2. 好循環を形成する上で、政府が果たすべき役割は大きい。高度成長期を例にとれば、エネルギーの安定供給、道路など交通インフラの整備など民需をクラウド・イン(喚起)するような社会資本の整備は、奇跡的な成長に必要不可欠な要因であり、それらがリーディング産業・分野を創出するきっかけになったことも間違いない。しかし、政府のより大きな役割は、国民の誰もが魅力を感じ、夢の持てる国民生活に関する将来ビジョンを提示し、国民ニーズのコンセンサスをつくりあげたということである。その代表的なビジョンとしては、1960年に池田内閣が掲げた「国民所得倍増計画(期間1961年度−70年度)」 25が挙げられよう。
    21世紀を目前に控え、経済低迷が続くわが国では、国民生活が確実に悪化し、国民は将来に対して大きな不安を抱いている。こうした閉塞状況の中で、政府がまずなすべきことは、国民に明るい将来を約束し、将来に対する国民の不安を解消することであるといえよう。
    将来の不安要素としてまず挙げられるのは、少子・高齢化による国民生活への影響であろう。その際、政府の役割は、労働力人口の減少が国民負担率の上昇を招くというような暗い試算結果を提示することだけではない。労働力人口が減少するといっても、高齢者や女性は十分に活用されていない現状を踏まえれば、「エイジフリー社会」の構築を急ぐとともに、「男は外で、女は内で」という働き方に関する固定観念を排し、共働き世帯が安心して働けるようよう、保育施設の整備や都市居住の推進に取り組むことが必要である。人材育成などによって、労働力の質的向上を図るというアプローチも極めて重要である。
    一方、長寿化により、老後生活のリスクが高まっている。豊かになればなおのこと、健康・長生きに対する欲求は増す。IT等の活用により質の高い医療・福祉体制を整備することが急務である。
    日本の都市づくりも、心もとない。阪神大震災は、日本の都市の地震への対応力のなさを露呈したが、これを教訓として活かす観点から、将来、大地震が起きたときの被害を最小限に食い止めるための都市再生のプロジェクトを推進する必要がある。その際、街の美観向上に意を注ぐことが求められる。
    自然環境と経済活動との共生も重要な課題である。政府は、循環型経済社会への道筋を明確に示す必要がある。
    また、今後も科学技術の発展は、国民の生活や働き方に大きな影響を及ぼすものと考えられる。とりわけ、情報技術は急速に発展・普及していくものと考えられるが、民間活力の一層の活用などを通じ、わが国雇用・労働市場をより柔軟なものに変えていかなければ、産業構造の高度化に伴い雇用機会が増大するにもかかわらず、失業が残るということになりかねない。
    日本は、成熟化社会を迎えたといわれるが、欧米先進諸国には及ばない面も少なからず残されており、国民生活に改善すべき余地は多い。現在満たされていない国民の欲求を需要として顕在化していくことができれば、経済は成長することになるが、それを実現する上で科学技術は大きな役割を果たす。
    政府には、将来の国民生活に関する明確かつ魅力的なビジョンを早急に提示することが求められる。国家の未来像に関し、国民・企業のコンセンサスが形成されていけば、生産資源も国民生活を豊かなものにする財・サービスに集中投入されていくものと期待される。

  3. リーディング産業・分野の創出は、より良き社会の出発点
  4. 政府からビジョンが提示され、必要な施策が講じられれば、リーディング産業・分野は創出される。そして、リーディング産業・分野の成長と景気回復が因ともなり果ともなり、さらに経済は成長し、リーディング産業・分野は発展する。また、経済成長に伴い国民所得が高まれば、市場(家事労働のアウトソーシング、高齢者等の社会参加を支援するサービスなど)が創出・拡充され、その需要に応える産業・分野の発展が経済を牽引する原動力となる。
    勿論、経済成長、それ自体、最終的な政策目標ではなく、われわれの住む社会をより良きものに導き、国民福祉の極大化を図ることこそ究極の目標となるべきである。
    しかし、その目標を実現する上でも、リーディング産業・分野は重要な役割を果たす。それは好循環を形成した経済では、社会資本(国民生活、高度交通、防水・防災等)の整備や社会福祉(年金、福祉、医療等)の充実のための原資 26が生まれてくるため、社会をさらに新しい局面に導いていくきっかけとなり得るからである。快適で潤い溢れ、安心して暮らせるより良き社会を日本が実現できれば、そこに生き生きとしたより良き市民が育まれ、集まる。経済の好循環は、社会をも好循環に導くことができるのである。


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