[経団連] [意見書] [ 目次 ]

21世紀を展望した税制改革に向けて

2000年6月20日
(社)経済団体連合会

はじめに

わが国経済は、数次にわたる需要刺激策に支えられ、長く続いた低迷期をようやく脱して、民需主導の自律回復軌道に復帰しつつある。しかし、世界的な企業競争の激化、急速な少子・高齢化の進行など経済環境・社会構造が大きく変化する中で、税・社会保障など将来的な国民負担の増大圧力を中心に、国民・企業の将来に対する不安や不透明感は払拭されておらず、景気回復の動きを中長期の安定成長軌道に乗せていくための経済・社会の活力に乏しい。
21世紀に入ろうとする今こそ、全ての国民・企業が未来に希望を持ち、豊かさを実現できる社会を創造するために、経済・社会の活性化に向けた長期ビジョンを描き、その実現に向けて行動を起こすべき時にある。特に、国家運営の要である財政の中核をなす税制、社会保障制度は、国民の負担と活力を大きく左右する重要な制度であり、これらを一体的に捉え、国・地方を通じて抜本的に改革を行なうことが、極めて重要な課題となっている。
われわれは、かねてより長期展望に立って、税制改革、社会保障制度改革、行財政改革のあり方を提言してきたが、来るべき今世紀最後の総選挙に向けた政策論議の動きに鑑み、改めて、税制改革を中心に、それらのあるべき姿と課題について一つのパッケージとして考え方を明らかにする。
これらの抜本的改革が、政治の決断と主導によって強力に推進されることを強く期待する。

  1. 改革の中長期展望
    1. 国民負担率の抑制
    2. わが国は、現在、すでに、大幅な政府債務残高を抱えており、今後の急速な高齢化の進行の中で財政や社会保障制度の破綻を回避していくためには、給付・歳出や負担・歳入の構造と水準の見直しを避けて通ることはできない。
      その際、給付や歳出をできる限り抑制して負担増を最小限のものにするのか、あるいは、給付や歳出を今のままとして負担を大幅に増やすのか、という「給付と負担の組み合わせの選択」や、直接税、間接税、社会保険料をどのように組み合わせるべきかという「負担方法の選択」について、適切な判断と方向づけを早急に行なう必要がある。
      財政の健全化や社会保障制度の維持は、一定の経済成長があって初めて可能となる。給付や歳出を維持しても、負担が増大すれば、経済活力が低下し、経済成長が鈍化して、国民一人当たりの所得水準はかえって低くなる。今後の国民負担のあり方を考える上で、この経済活力の維持という点を最も重要な視点として位置づける必要がある。
      この視点から、以下に述べる財政構造改革、直間比率の是正を柱とする歳入構造改革、社会保障制度改革を推進することが非常に重要である。これらによって、国民の可処分所得や企業の手許資金が増加し、消費、設備投資の拡大や技術進歩の促進を通じて、経済成長が押し上げられ、中期的には、税負担と社会保険料負担を合わせた国民負担率を50%以下に抑制しながら、安定的な経済成長を確保することが可能となる、と考察している。

    3. 財政構造改革
    4. バブル崩壊後の景気低迷による税収の大幅な減少に加え、累次の景気対策が講じられてきたこともあり、わが国の財政赤字は未曾有の規模に拡大している。地方公共団体においても、財政収支の悪化は著しく、地方交付税制度を通じて国の財政にも深刻な影響を及ぼしており、国と地方の長期債務残高合計は、2000年度末で645兆円、対GDP比129.3%となっており、国ならびに地方の財政は危機的状況にあるといえる。
      一連の財政出動は、厳しい経済情勢を踏まえた適切な措置であるが、このまま財政構造改革を行なわずに、今の給付・歳出と負担・歳入の構造を長期的に維持し続けることには無理がある。
      こうした状況を改善し、国・地方の財政基盤を健全なものとするには、まずもって、国・地方を通じた徹底した歳出削減、規制撤廃・緩和等による国・地方の行政事務総量の削減等を通じて、効率的で小さな政府を実現することが大切である。一方では、安定的な歳入の確保を可能とする財政的枠組みの構築が必要である。
      特に、国と地方公共団体の歳出の比率は2対3であるのに対し、税収は3対2であり、国から地方へ、地方交付税交付金等として財政配分が行なわれており、これが、地方公共団体における受益と負担の対応関係を不明確にし、地方の歳出の構造的な膨張を招いている。また、地方公共団体が細分化されているため、歳出について規模の経済性が図れず、効率化・合理化が進まないだけでなく、歳入も不安定となっている。今後は、国と地方との事務区分に対応した国と地方との経費負担の区分を確立し、自治体を大括化して適正規模に再編した上で、地方の行なうべき自治事務の税源は、個人住民税、居住用資産に係る固定資産税を基本とし、個人住民税については、国と地方を通じた財政構造改革の中で、充実を検討する必要がある。

    5. 直間比率の是正
    6. わが国は、高齢化が同じ程度であるヨーロッパ諸国と比べて、所得課税・社会保険料など直接的な負担のウェイトが大きい。そして、直接的な負担に偏っている結果、働く世代と高齢者の間で、負担のアンバランスが発生している。
      わが国の財政を将来にわたって健全なものとし、増加する社会保障費を賄うためとはいえ、経済がボーダーレス化し、企業や個人が国を選ぶ時代の中では、今の仕組みをそのままにして、こうした直接的な負担を引上げれば、設備投資・研究開発投資の減少や企業の海外移転が進み、個人貯蓄の減少や勤労意欲の低下、ひいては優秀な人材の国外流出や少子化の加速を招くこととなる。また、世代間の負担のアンバランスに伴う不公平感は、一層拡大する。その結果、経済成長は鈍化し、企業や個人の収入が伸び悩む中で、負担感はますます高まるとともに、雇用にまで悪影響を与える、といった悪循環を招くおそれがある。
      したがって、負担の形態としては、経済や社会の活力の維持・向上という観点から、個人についても企業についても、所得課税や社会保険料などの直接的な負担の増加を回避するとともに、できるだけ国民が薄く広く負担する消費課税で賄っていくことが望ましい。高齢化に伴うナショナル・ミニマムの観点からの社会保障支出の増加等は、消費税におけるインボイス方式や複数税率、内税化などの制度整備、さらには個別間接税の整理を図りつつ、直間比率の是正によって賄うのが基本方向と考える。

    7. 年金改革を中心とする社会保障制度改革
    8. 世界に例を見ない急速な少子・高齢化の進行に対応するため、現行の社会保障制度を持続可能なものに改革することが急務となっている。改革に当たっては、国民負担率の抑制に加えて、制度の目的に照らした財源方式の適正化や民間活力の最大限の活用といった観点から、制度を総合的に見直す必要がある。
      公的年金については、基礎年金部分と報酬比例部分の位置付けを明確に分け、それぞれの目的に沿って所要の見直しを行なうべきである。基礎年金部分については「高齢者の必要最低限の生活保障」を目的とし、財源を現状の社会保険料中心から税中心に移行し国民全体で広く支える観点から、消費課税により賄うことが望ましい。報酬比例部分については、「サラリーマンの現役時代の一定割合を確保すること」を目的とし、給付水準を適正化した上で、現行の事実上の賦課方式から積立方式に移行し、最終的には自助努力に委ねていく必要がある。
      また、企業年金については、制度の選択肢や自由度を拡充し、労使協調のもとで、早急に自助努力に委ねていくべきである。そのためには、労使合意の下に自由な制度設計や運用を可能にするとともに、企業や個人の自助努力を支援し、かつ個々の選択に中立的な年金税制の確立が必要である。具体的には、確定拠出年金法案の早期成立、厚生年金基金の代行部分の返上、厚生年金基金から税制適格年金への移行の際の非課税措置、ハイブリッド・プランの導入、受給時課税の徹底、特別法人税の撤廃等が求められる。

  2. 当面する税制改正の課題
    1. 連結納税制度の早期導入と企業組織再編に係る税制措置
    2. (1) 連結納税制度の早期導入

      1. 企業組織再編のための法制整備を生かすには連結納税制度が必須。主要先進国は既にグループが一体で納税する何らかの仕組みを具備している。
      2. 2001年度における会社分割制度導入とパッケージで、本格的な連結納税制度の導入を図る。

      (2) 会社分割法制の導入に伴う関連税制整備

      1. 会社分割に関する商法改正に伴い、関連する法人税制改正が必要。
        • 分割時の資産・株式譲渡益課税の繰り延べ
        • 株主段階での非課税
        • 引当金、準備金等の引継ぎ
        • 償却資産の引継ぎ、所有期間の引継ぎ、等
        • 間接分割(スプリット・オフ、スピン・オフ)に際しての非課税措置
      2. 不動産移転、設立登記・資本増加登記に係る登録免許税の合併並み軽減
      3. 不動産取得税・自動車取得税・特別土地保有税の非課税

    3. 法人課税の残された課題
    4. (1) 国際的整合性をめざした法人税の改正

      1. 欠損金の過去2年分の繰り戻し還付と10年間の繰越し控除の実現
      2. 減価償却資産の法定耐用年数の大幅簡素化・短縮および備忘価格までの償却
      3. 一般寄付金の損金算入限度及び公益的寄附金の範囲の見直し

      (2) 国際租税の見直し

      1. 外国税額控除制度の拡充

    5. 地方課税の抜本改革
    6. (1) 国と地方の事務区分見直しに応じた税源の再配分

      1. 地方自治体における徹底した歳出削減を図る。
      2. 企業の国際競争力や地域経済・雇用に与える影響への配慮、税体系の簡素化の観点から、地方税全体の総合的見直しを行う。
      3. 地方財政安定に向けては、地方消費税の拡充、国・地方の税源配分の見直しが必要。

      (2) 地方法人課税の簡素化=法人事業税を廃止し法人住民税へ一本化

      1. 東京都の銀行課税を契機とした法人事業税の外形標準課税論議の安易な拡がりについては問題が多い。
        • 企業は既に、固定資産税、都市計画税、事業所税等の外形的な地方税を負担している。
        • 法人事業税への外形標準課税の導入は、固定的な税負担をさらに増加させ、企業競争力や対内投資環境の悪化を通じて、経済の活性化を妨げる。
        • 給与総額や付加価値を課税標準とする場合には、労務費負担圧力となって雇用に悪影響を与え、個人消費の抑制を通じて景気回復に悪影響を及ぼす。
        • 同様の税を課してきたドイツ、フランスでは縮小・廃止が行われており、国際的にも一般的な税制とは言い難い。
      2. 法人事業税に限定するのではなく、地方税全体の改革が必要。
      3. 応益課税は、地方税全体の総合的見直しの中で、既存の外形的課税と併せて、あり方を検討すべき。
      4. 簡素化の観点から、法人事業税の法人住民税への一本化が必要。
      5. 一本化にあたって、税収中立を前提としつつ、小規模な範囲で所得課税を均等割に振り替えることは検討に値する。

    7. 個人所得課税の改革
    8. (1) 所得税・住民税減税の制度化

      1. 現行の定率減税から、各所得階層の税率引下げを含めた制度減税へ置き換え、恒久的な改革とする。
      2. 各種所得控除について、公平・公正の観点から整理しつつ、課税最低限を適正化する。
      3. 課税所得捕捉の向上のため、納税者番号制度の導入や脱税の罰則強化に取組む必要がある。

      (2) 経済活性化のための所得税改正

      1. 住宅減税の拡充・継続
      2. 子会社の取締役等へのストック・オプションの付与に係る税制措置、権利行使価額(現行:年間1000万円)の引き上げ

    9. 企業年金に係る税制の整備
    10. (1) 確定拠出年金法案の早期成立

      (2) 特別法人税の撤廃

      (3) 企業年金制度の規制改革に伴う税制措置

      1. 厚生年金基金の代行部分の返上の際の非課税
      2. 厚生年金基金から税制適格年金への移行の際の非課税
      3. ハイブリッド・プランの導入
      4. 事業主拠出の損金算入枠の弾力化
        • 過去勤務債務の償却方法の弾力化
        • 特例掛金制度の導入(適格退職年金)
        • 剰余金返還規定の撤廃(適格退職年金)
        • コントリビューション・ホリデー制度の導入

    11. 金融・証券税制の改革
    12. (1) 配当に対する二重課税の排除

      (2) 有価証券譲渡益課税の見直し

      1. 申告分離課税における税率の軽減、みなし取得原価の計算方法の見直し、取得原価計算方法(平均法)の見直し
      2. 長期保有株式に係る譲渡益課税の軽減、譲渡損失の他の所得との通算、翌年以降への譲渡損失の繰越制度の導入

      (3) 非居住者保有債券の源泉徴収免除の拡充

      1. 本人確認の容易化
      2. 国内債全般への適用拡大

    13. 土地税制の見直し
      1. 土地譲渡益重課の廃止(平成10年から適用停止中)
      2. 土地有効利用・土地流動化に資する特定の事業用資産の買換特例の拡充
      3. 土地取得課税(不動産取得税・登録免許税)の軽減
      4. SPCにかかる税制措置(原資産保有者の譲渡益課税繰延べ)、等

    14. 起業・中小企業税制の整備
      1. 新規創業(5年間)企業の欠損金の繰越期間の無期限延長
      2. エンジェル税制の拡充
        • 他所得との通算
        • 株式譲渡益との損益通算期間の延長
      3. ベンチャー・キャピタル税制の導入
        • 出資額の一定割合所得控除
      4. 有限責任事業組合契約法(仮称)創設に係る税制措置
        • 全ての損益を各出資者の持ち分に応じて出資者の所得と通算
        • 現物出資を行なう場合の課税の繰延べ
        • 資産の移転に係る登録免許税・不動産取得税の課税の特例、等

    15. 相続税・贈与税の改革
      1. 税率構造を含めた相続税の見直し
        • 最高税率の50%ヘの引下げ、累進構造の見直し、基礎控除の引上げ
      2. 贈与税の税率の見直しと基礎控除額の引上げ
      3. 住宅取得資金に係る贈与税特例の拡充

以  上

日本語のホームページへ