[経団連] [意見書]

21世紀を拓くナノテクノロジー

―ナノテクノロジーに関する経団連の考え方―

2000年7月18日
(社)経済団体連合会

わが国は、この10年来、ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリ)という原子・分子レベルの微細な世界の技術を扱うナノテクノロジーの基礎的研究開発を進めており、その水準は世界のトップレベルにある。一方、米国では、日欧に唯一遅れている分野との認識をもとに、本年2月にクリントン大統領がナノテクノロジーを戦略技術分野に掲げ、「次の産業革命」を目指して予算の集中的投入を決定し、国をあげてその強化を開始した。
こうした状況の下、経団連は、ナノテクノロジー研究の推進が、IT分野をはじめとしてわが国の産業競争力の強化に不可欠であるとの認識に立ち、産業競争力会議や科学技術会議の場において、その重要性を訴えてきた。また、本年5月に公表した経団連提言「需要と供給の新しい好循環の実現に向けた提言―21世紀型リーディング産業・分野の創出」においても、強化すべきニューフロンティア技術の一つとして、ナノテクノロジーを掲げたところである。
経団連では、これらの取り組みに加えて、今般、産業技術委員会の下にナノテクノロジー専門部会を設け、ナノテクノロジー強化に向けて経団連の基本的考え方をとりまとめることとした。今後、さらに検討を行ない、具体的な提言をとりまとめていくこととしたい。


  1. ナノテクノロジーは、IT革命の進展を左右する基盤技術であり、情報化社会の継続的発展に不可欠である。
  2. IT革命を支えてきた半導体技術や記録技術、光技術などは、いずれも従来アプローチの延長では5〜10年後に集積度や性能の限界を迎えると予想されており、新しいブレークスルー技術の先行開発が焦眉の課題である。半導体分野、たとえば、IT技術の中心デバイスであるシステムLSIで見ると、最小寸法がディープサブミクロンからサブ100ナノメートルに入りつつある。このような領域では、新デバイス、新材料、新プロセス、極限計測などの技術開発、特に原子、分子レベルでの制御に基づくナノテクノロジーにより、はじめて道が拓けるものと期待される。
    高度情報化社会の継続的発展を可能にし、ITおよびエレクトロニクス産業の優位性を確保するための基盤技術として、ナノテクノロジーの研究開発を強化する必要がある。

  3. ナノテクノロジーは、広範な分野で、次世代の産業や社会に大きな影響を与える基盤技術である。
  4. ナノレベルで原子・分子を制御し、その物質の特性を活かすナノ材料・プロセスにより、高機能材料や高強度の構造材料などの新しい材料の開発が可能となり、その応用は、情報通信のみならず、医療、化学、環境・エネルギー、機械など幅広い分野に及ぶことが期待されている。
    例えば、物質をナノサイズ、特に10nm以下の大きさにすることにより生まれる特有の効果を用いることで、エネルギーの高効率生成、高強度の材料、高寿命の電池、低公害車など環境負荷が小さく循環可能で、省エネルギー、低コストな材料により、高機能を達成することができる。また、高感度のバイオセンサーなどのナノバイオにより、高度医療・健康社会への直接的貢献も期待されている。さらに、微細な加工、制御、応用技術は、製造・加工技術の分野に大きな変革をもたらすものと予測されている。
    幅広い社会ニーズを先取りしたナノテクノロジーの研究を推進することにより、未来の産業や社会の発展に貢献していくことが出来る。

  5. ナノテクノロジーは、基礎・基盤研究への戦略的な取り組みとその成果のタイムリーな実用化が重要である。
  6. ナノテクノロジーは、様々な分野への応用が期待されているが、大学、国立研究所を中心とした基礎的・基盤的研究開発ヘの長期間にわたる重点的な取り組みが不可欠である。研究開発の推進にあたっては、物理、化学、物質工学、電子工学、生物学など様々な分野の融合が重要であるとともに、計算科学、計測科学といった基盤的・学際的技術の開発も必須であり、狭い専門分野に閉じこもらない研究文化の醸成が不可欠である。こうした環境のもとで、ナノテクノロジー分野の優秀な人材が育ち、独創的・先駆的な研究成果が生み出されることによって、優位性を維持することが可能となる。
    同時に、産・官・学の連携と役割分担のもとに、21世紀の経済社会のニーズを先取りした戦略分野に研究課題を設定し、重点的に取り組むことが重要である。このために、研究開発の初期の段階から、社会や産業界の意見が反映される仕組みが必要である。優れた特許が生まれたかどうかを研究成果の主要な評価指標にあげるなどにより、有効な知的財産権の獲得に注力すべきである。
    さらには、ナノテクノロジーのタイムリーな実用化に向けた努力も重要である。産業界と国立研究所、大学とのシームレスな連携のもとに、いち早く実用化するためのシステム作りが望まれる。

  7. ナノテクノロジーは、国家戦略のもとに、関係省庁や産・官・学が一体となって取り組むことが不可欠である。
  8. 21世紀におけるナノテクノロジーの戦略的重要性に鑑み、日本新生プランの一助として、ナノテクノロジーを総理のリーダーシップのもとで国家戦略の一重要分野として位置付け、国としてのグランドプランをビジョンや戦略の形で国民に分かりやく明示する必要がある。経団連としても、ナノテクノロジー専門部会を中心に産業界の総意を取りまとめ、産官学の議論の場を提供することにより、ビジョンや戦略の策定に積極的に協力していきたい。
    ナノテクノロジー分野で、わが国の優位性を確保していくために、上述のグランドプランのもと、関係省庁の壁を超え、総合科学技術会議のもとで、国として一元的に取り組むことが不可欠である。特に、競争的研究資金も活用しつつ、戦略的かつ独創性の高い研究に予算を大幅に投入し、わが国のコアコンピタンスを育成していく必要がある。また、学際的研究文化を醸成し、産官学の連携を強め、さらにはベンチャー企業などの創出を図るために、ナノテクノロジー研究インフラを拡充し、わが国が世界のセンター・オブ・エクセレンスとしての地位を築くための方策を検討すべきである。
    国民レベルの支持のもとに積極的な施策を展開することにより、21世紀において、わが国がナノテクノロジーを梃子に産業競争力を高め、世界をリードすることは、夢ではない。

以 上

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