平成13年度税制改正提言

－活力ある経済・社会を築くために－

２０００年９月１２日
(社)経済団体連合会

はじめに: 21世紀を直前にした今、わが国経済は、長期に及んだ低迷を抜け出し、新たな安定成長への軌道を模索しつつある。一方でわが国は、大幅な政府債務残高を抱えており、今後の急速な高齢化の進行の中で財政や社会保障制度の破綻を回避していくためには、国民にさらなる負担を求めざるを得ないことは明らかである。しかし、財政の健全化や社会保障制度の維持は、一定の経済成長があって初めて可能となることを忘れてはならない。
今後の国民負担のあり方を考えるには、経済活力の維持という視点に立って、税制改革、財政構造改革、社会保障制度改革をセットで推進することが非常に重要である。これによって、国民の可処分所得や企業の手許資金が増加し、消費、設備投資の拡大や技術進歩の促進を通じて経済成長が押し上げられ、中期的に税負担と社会保険料負担を合わせた国民負担率を50％以下に抑制しながら、安定的な経済成長を確保することがはじめて可能となる。その道筋を描くことが、税制の将来像を示す上で不可欠な視点であると考える。
政府税制調査会は、さる７月14日「わが国税制の現状と課題－21世紀に向けた国民の参加と選択」と題する中期答申を公表した。この答申では、21世紀のわが国税制を構築するにあたって、政府の規模、社会保障給付の負担の在り方、国と地方の関係、所得・消費・資産等への負担の在り方など、広範な視点からの問題提起を行なっているが、特に、消費税を「基幹税」の一つとして位置づけるなど、国民に新たな負担の増加に対する自覚を促していることが注目される。
しかし、答申に欠けているのは、税制を経済政策の最も重要かつ有効な手段として、いかに位置づけていくべきかとの視点である。答申は、税制の原則として「公平・中立・簡素」を挙げているが、これらに加えて「活力」という原則が、21世紀の税制を考えるために必要である。
そこで、われわれは、将来にわたって、わが国経済・社会が活力を保持していくために、今、何をなすべきかを主軸に置き、平成13年度税制改正に対する具体的提言を行なうものである。

構造改革のグランドデザインと税体系の抜本的改革

少子・高齢化が諸外国に例を見ない規模とスピードで進みつつある中で、中長期的な労働力人口の減少に伴う経済成長の鈍化、社会保障支出の増加等を通じ、税負担と社会保険料負担を合わせた国民負担率が上昇し、わが国の経済活力が急速に失われることが懸念される。安定した経済成長がなければ、財政の健全化や社会保障制度の維持も困難であり、少子・高齢化社会のもとで、いかに経済の活力を維持・向上させるかは、21世紀におけるわが国の非常に重要な課題である。
その際、給付や歳出をできる限り抑制して負担増を最小限のものにするのか、あるいは、給付や歳出を今のままとして負担を大幅に増やすのか、という「給付と負担の組み合わせの選択」や、直接税、間接税、社会保険料をどのように組み合わせるべきかという「負担方法の選択」について、適切な判断と方向づけを早急に行なう必要がある。
われわれは、日本経済の潜在成長力を十全に発現させるためのあらゆる方策を実践するとともに、財政構造改革、社会保障制度改革、そして税制の抜本改革を一体のものとして推進することにより、国民負担率を50％以下に抑制しながら、安定的な経済成長を確保すべきであると考える。

給付と負担の組み合わせの選択―歳出構造改革・社会保障制度改革

小さな政府の実現
バブル崩壊後の景気低迷による税収の大幅な減少に加え、累次の景気対策が講じられてきたこともあり、わが国の財政赤字は未曾有の規模に拡大している。
一連の財政出動は、厳しい経済情勢を踏まえた適切な措置であるが、このまま財政構造改革を行なわずに、現在の給付・歳出と負担・歳入の構造を長期的に維持し続けることには無理がある。
国のみならず地方公共団体においても財政収支の悪化は著しく、しかも、地方交付税制度を通じて国の財政に深刻な影響を及ぼしている。特に問題とすべきは、地方交付税が、地方公共団体における受益と負担の対応関係を不明確にし、地方の歳出の構造的な膨張を助長していることである。加えて、地方公共団体が細分化されているため、歳出について規模の経済性が図れず、効率化・合理化が進まないだけでなく、歳入も不安定となっていることも忘れてはならない。
こうした状況を改善し、国・地方の財政基盤を健全なものとするには、まずもって、国・地方を通じた徹底した歳出削減、規制撤廃・緩和等による行政事務総量の削減等を通じて、効率的で小さな政府を実現することが大切である。
年金改革を中心とする社会保障制度改革
世界に例を見ない急速な少子・高齢化の進行に対応するため、現行の社会保障制度を、現役世代に過重な負担とならない持続可能なものに改革することが急務となっている。国民負担率の抑制に加えて、制度の目的に照らした財源方式の適正化や民間活力の最大限の活用といった観点から、制度を総合的に見直す必要がある。
特に、公的年金については、真に必要な年金給付を明確にし、それを安定的に運営するとともに、世代間の負担のバランスを適正化することが重要である。そのためには、既存の基礎年金部分と報酬比例部分の位置付けを明確にして所要の見直しを行なうべきである。基礎年金部分については「高齢者の必要最低限の生活保障」を目的とし、財源を現状の社会保険料中心から税中心に移行することが望ましい。報酬比例部分については、給付水準を適正化した上で、現行の事実上の賦課方式から積立の要素を高めていき、最終的には自助努力に委ねていく必要がある。
一方、企業年金を含む私的年金は、社会保障制度とは一線を画すものであり、制度の選択肢や自由度を拡充する中で、自己責任による老後への備えを促すべきである。

負担方法の選択―直間比率の是正

わが国は、高齢化が同じ程度であるヨーロッパ諸国と比べて、所得課税・社会保険料など直接的な負担のウェイトが大きい。そして、直接的な負担に偏っている結果、働く世代と高齢者の間で、負担のアンバランスが発生している。
わが国の財政を将来にわたって健全なものとし、増加する社会保障費を賄うためとはいえ、今の仕組みをそのままにして、こうした直接的な負担を引上げれば、経済がボーダーレス化し、企業や個人が国を選ぶ時代の中では、設備投資・研究開発投資の減少や企業の海外移転が進み、個人貯蓄の減少や勤労意欲の低下、ひいては優秀な人材の国外流出や少子化を加速する。その結果、経済成長は鈍化し、企業や個人の収入が伸び悩む中で、負担感はますます高まるとともに、雇用にまで悪影響を与える、といった悪循環を招くおそれがある。また、世代間の負担のアンバランスに伴う不公平感は、一層拡大する。
したがって、負担の形態としては、経済や社会の活力の維持・向上という観点から、個人についても企業についても、所得課税や社会保険料などの直接的な負担の増加を回避するとともに、できるだけ国民が薄く広く負担する消費税で賄っていくことが望ましい。そのためには、まず、消費税に対する国民の信頼を高めていくことが不可欠であり、インボイス方式の導入や簡易課税制度の見直しによる「益税」の解消が必要である。さらに、高齢化に伴うナショナル・ミニマムの観点からの社会保障支出の増加等は、消費税における複数税率化、内税化などの制度整備、さらには個別間接税の整理を図りつつ、直間比率の是正によって賄うのが基本方向と考える。

企業組織再編税制の整備と連結納税制度の早期導入

わが国に立地する企業が、経営の効率性を追求し、国際競争力を維持・強化していくためには、経済環境や構造変化に迅速に対応し、企業組織や企業グループを柔軟に改編することが必要である。それが、結果として、雇用の創出・確保や、わが国経済の再生・活性化につながる。
わが国の会社法制においては、こうした状況を踏まえ、平成9年の独占禁止法改正による純粋持株会社の解禁を嚆矢として、同年の合併法制の改正、平成11年の株式交換・株式移転制度の創設、そして、本年の会社分割法制の創設によって企業組織再編法制の整備が大きく進展した。
目下、法制面での整備と一体をなすべき税制の検討が進められているが、柔軟で迅速な企業組織・グループ再編が可能となる税制の構築が必要である。

組織再編に伴う資産や株式の移転に関する課税繰延べ等

現行制度のもとでは、企業組織再編に係る税制として、合併、特定現物出資（変態現物出資も含む）、産業活力再生特別措置法に係る共同現物出資についての資産譲渡益の課税繰延べ、あるいは、株式交換・株式移転における株式譲渡益課税の繰延べの特別措置が存在するものの、企業組織再編に対する税制の取扱いは非常に限定的と言わざるをえない。新たに創設された会社分割を中心に、合理的な企業組織再編の足枷となることのない、経済実態に即した簡素な税制を早急に整備することが不可欠である。
会社分割について、先進諸外国においては、一定の要件の下に、税務上の簿価引継ぎによる資産譲渡益課税の繰延措置などが整備されており、わが国でも企業経営活性化の観点を踏まえた制度創設が必要である。
また、合併については、現行税制では、消滅会社の繰越欠損金や税務否認金の引継ぎができない、清算所得課税やみなし配当課税がなされる等の問題が存在する一方、合併に係る現行の時価以下での資産移転が恣意的に利用される可能性があるとの指摘もある。このようなことから、会社分割税制の創設と併せて現行の合併税制の見直しを行う必要がある。
具体的には、分割や合併などの企業組織の再編に伴う資産の移転については、実質的に資産売買に該当するような事例を除き、基本的には税務上の簿価移転により資産譲渡損益を繰延べることとすべきである。損益を繰り延べるための要件を策定するにあたっては、グループ経営の実態に即したものとすべきであり、加えて、グループを越えた企業間のアライアンスを阻害することのないよう留意する必要がある。また、従来の合併税制では認められていなかった繰越欠損金や税務否認金の引継ぎについても、租税回避行為の防止策を講じつつ、認めるべきである。
加えて、株主に組織再編に係る新株が交付される合併や分割型分割において、みなし配当課税を非課税とする必要がある。
その他、分割に関しては、例えば以下のような点についても制度の整備が不可欠である。

引当金、準備金等は、分割される資産・負債に応じて引き継ぐこと。
圧縮特別勘定は、対象資産の帰属に応じて引き継ぐこと。
分割対象資産の減価償却は、分割前からの耐用年数に従い行なうこと
各種税制措置に関する取得時期の引き継ぎ（利子配当等の所得税額控除に関する公社債等の取得時期、受取配当の益金不算入に関する特定株式等の取得時期、土地等の交換・収用・特定資産の買換に関する土地の取得時期、等）を認めること。

企業組織再編に係るその他の税制措置(登録免許税、不動産取得税、等)

企業の組織再編に伴う不動産の移転に関しては、登録免許税、不動産取得税が課税されている。組織再編により、新たな会社が生まれた場合や、増資が行われた場合にも登録免許税が課税される。これらの税負担は相当な額に上っており、組織再編の円滑な実施の阻害要因となっている。
企業組織再編については、産業活力再生特別措置法により登録免許税や不動産取得税の軽減措置が講じられているが、組織再編税制の整備に伴い、これらの措置を一般的な制度として位置づけるべきである。その際、企業組織再編に対する税制の中立性の観点から、すべての組織再編について、合併と同様とすべきである。
まず、企業組織再編に際しての不動産移転に関する登録免許税については、合併なみとする（1000分の50→1000分の3）。設立登記・資本増加登記の登録免許税も同様（1000分の7→1000分の1）である。
不動産取得税については、現行制度では、合併または一定の要件を充たす会社分割・分社化による不動産の取得の場合は非課税とされているが、今回の組織再編税制の抜本的な整備と併せて、資産移転について簿価引き継ぎとなる要件を満たすケースについては、不動産取得税も非課税とすべきである。自動車取得税・特別土地保有税も同様である。
なお、税務上の簿価引継ぎによる企業組織再編は、現行の合併の取扱いに準じて、消費税法上の資産の譲渡には当たらないこととすべきである。

連結納税制度の2002年度における確実な導入

企業は、経済環境や需要構造の変化に迅速に対応し、法制度の改正も踏まえ、その組織を柔軟に改編しようとしている。特に、経営資源の集中や新規事業展開を行なうために、戦略的分社化や企業グループ全体を括り直す動きが進みつつあり、さらに持株会社の解禁によって、本格的なグループ経営の時代を迎えつつある。
一方、すでに企業会計制度においては、従来の単体重視から連結重視へと方向転換がなされており、税制面でも、グループ経営の進展に対応するために、企業グループを一体とした中立的な納税の仕組みである連結納税制度を早期に整備する必要がある。
連結納税制度の導入により、グループ経営のメリットを活かした新規事業分野への展開や既存事業の再構築を行うに際しての、キャッシュフロー上のマイナスを取り除き、税制を企業経営に対してより中立的なものに改めることで事業組織形態選択の自由度を拡げることが、結果として企業活力の強化を通じて経済の活性化につながる。国際的にも、先進諸外国の大部分が、何らかの形で企業グループを一体として納税する方法を採用している。
すでに産業界では、連結納税制度導入を前提とした企業グループの再編が数多く計画されているところであり、企業組織再編税制の整備に引き続き、2002年度（平成14年度）には確実に導入すべきである。

有限責任事業組合（仮称）の導入

米国には、複数の企業が共同して、リスクの高い新規事業への進出や事業の再構築の手段として、各州法においてＬＬＣ（リミテッド・ライアビリティ・カンパニー）、ＬＬＰ（リミテッド・ライアビリティ・パートナーシップ）という事業形態が認められている。
これは、全ての出資者の有限責任と、税制上の導管としての仕組み（事業体の段階では所得課税を行なわず、その損益を出資者の損益と通算）を備えていることを特徴としている。
わが国においても、これと同種の事業形態を、有限責任事業組合契約として、速やかに創設することが求められる。
なお、有限責任事業組合に対する出資は金銭その他の財産とし、現物出資の場合においては、他の会社分割・分社化と同様、資産の移転時においては譲渡益課税を繰延べ、後日、当該資産が売却された場合に、現物出資を行った構成員が自分の資産を売却したものとみなして、譲渡益課税を行うことが求められる。

【有限責任事業組合契約法(仮称)創設の提案】

有限責任事業組合は、商号中に「有限責任事業組合」であることを明示しなければならない。

有限責任事業組合の設立には、少なくとも２名以上、50名未満の構成員（出資者）が定款を作成し、その主たる事務所の所在地において登記することを要する。株式会社その他の法人は構成員となることができる。

構成員の責任は、その出資の額を限度とする。

構成員が損益の分配に際して定めを置かない場合には、損益の分配は各構成員の出資の額に応じて行なうものとする。

構成員は定款の定めまたは構成員総会の決議により金銭その他の資産の分配を受けることができる。ただし、貸借対照表上の純資産額を超えて分配することはできない。

構成員総会は、本法および定款に従い、有限責任事業組合の全ての事項に関し決議をすることができる。議決権は、各構成員の出資の額による。

有限責任事業組合は、業務執行のために１人以上の理事（仮称）および代表理事（仮称）を置くことができる。理事の選任は構成員総会において行なう。

構成員の地位は、定款に別段の定めがある場合、または、構成員総会において３分の２以上の同意を得た場合を除き、譲渡できないものとする。

構成員の脱退は、定款に別段の定めがないときは、構成員総会において３分の２以上の同意を得て行なう。

有限責任事業組合は、各事業年度毎の計算書類を官報または定款に定める一般日刊紙において公告する。

その他、有限責任事業組合の組織・業務等について必要な事項を定める。

【有限責任事業組合契約法(仮称)創設に係る税制措置の提案】

有限責任事業組合については、所得課税を行なうことなく、全ての損益を各出資者の持ち分に応じて当該年度の出資者の所得と通算することとする。ただし、それぞれの出資額を超える損失は、それぞれの組合員の損金とはならない。
有限責任事業組合の創設に際して、現物出資を行なう場合に課税の繰延べを認める。
また、資産の移転に係る登録免許税・不動産取得税の課税の特例に係る措置を講ずる。

産業新生、ＩＴ革命と税制のあり方

国の豊かさの基礎である産業の新生は、わが国にとって最も重要な課題のひとつであり、産業の新生なくしては日本の将来を切り開くことはできない。世界規模のＩＴ革命、地球環境問題、高齢化等々の環境変化を踏まえつつ、民間企業が選択と集中に基づく事業の再編・合理化や、ＩＴの高度利用、科学技術の強化などを通じて創造的なイノベーションに取り組むことができるよう、税制面からの支援措置が必要である。

産業新生に向けた税制の活用

ベンチャー・起業支援
わが国経済の活力を将来に渡り維持・強化していくためには、次世紀を担う新産業・新事業の活発な立ち上げが不可欠であり、これを税制面からも積極的に支援していく必要がある。
新規創業後5年間に生じた欠損金の無期限の繰越控除制度や、創設後一定期間内の企業に対する出資の一定割合について所得控除を認めるベンチャー・キャピタル税制等の導入を図るべきである。
ストック・オプション税制の拡充
将来の成功へのインセンティブであるストック・オプション制度は、ベンチャー企業の人材確保の観点のみならず、既存企業が市場重視の効率的経営を進める上での重要なツールの一つである。現行の非課税限度枠1000万円を大幅に拡充するとともに、産業活力再生特別措置法で認められた、子会社の取締役・従業員に対する付与に関しても、これを一般的な制度とした上で、税制上の措置を講ずる必要がある。
産業活力再生特別措置法関連税制の延長
産業活力再生特別措置法の活用により、既に多くの企業が事業再構築を進めている。同法に係る税制上の措置(共同現物出資に係る課税繰延、欠損金の繰延・繰戻措置の特例、新規設備投資の特別償却、買換資産の圧縮の特例、登録免許税の軽減等)は、本年度末をもって期限を迎えるため、その確実な延長が不可欠である。
増加試験研究費税額控除
２１世紀の日本の立国を考えるにあたって、製造業の役割は大きく、それを支えるのが科学技術である。研究開発に係わる税制上の優遇措置は、民間企業の研究開発コストを軽減し、活性化させる上で有効な政策手段である。
その中核である増加試験研究費税額控除制度は、行政の裁量を最小限に限定しつつ、研究開発に積極的に取り組む企業を支援するものであり、広汎に活用されるよう制度を充実すべきである。

ＩＴ革命と税制

ＩＴ支援のための税制
世界規模で進展するＩＴ革命の流れの中で、ＩＴ戦略会議では国家的な取り組みが進められており、税制面においてもＩＴ活用を積極的に支援する措置を拡充する必要がある。いわゆるパソコン税制の延長・拡充、ソフトウエアの償却期間の短縮、ＩＴ関連設備投資の加速度償却や電子機器の使用実態に即した法定耐用年数の見直し等が必要である。
電子商取引課税
国際的な電子商取引の発展に伴ない、消費税の徴収等に関し新たな問題が発生するため、ＯＥＣＤでは1998年10月のオタワ閣僚会議で報告書「電子商取引・課税の基本的枠組み」を公表し、現在、官民が協力して専門的・技術的な検討が行われている。情報技術産業の発展の阻害要因とならない国際的整合性のある課税のあり方の構築に向け、引き続き、国際的な議論を積極的にリードしていく必要がある。その際、公平・中立・簡素という原則に加え、納税者の負担やコスト増につながらない徴収メカニズムの検討が重要である。

法人課税のさらなる課題

企業がし烈な国際競争の中で積極的な事業活動を展開し、国の経済活性化の礎となるためには、ビジネス・インフラとしての法人税制を国際的に通用する形に整備していく必要がある。
平成10年度、平成11年度の引き続く税制改正において、政治のリーダーシップが発揮され法人税率ならびに法人事業税率が大幅に引き下げられ、わが国の法人税実効税率は、米国並みの水準(40.87％)が達成されたことは、近年の企業経営の改善に大きく貢献している。
これをもって、先の税制調査会答申（12年７月「わが国税制の現状と課題」）では、「わが国の厳しい財政状況などを考えると、法人税率の更なる引き下げの余地はない」と断定している。しかし、今後、ますます日本企業との競争関係が高まるであろうアジアＮⅠＥｓ諸国の法人税率は20％台が中心である。
先進諸国においても、イギリスにおける法人実効税率は30％であり、ドイツにおいても法人税率の大幅な引き下げが決定されるに至り、加えて両国では法人の有価証券譲渡益が非課税とされるなど、各国とも経済環境に応じた法人課税の見直しが行われている。わが国においても、国際的潮流に合致した整備を進める必要がある。
また、税率以外でも、わが国の企業が経営の効率性を追求し、国際競争力を維持・強化していくためには、今なお諸外国と比べて不利となっている欠損金の繰越し・繰戻し制度や減価償却制度のあり方を抜本的に見直していくことは、国際水準の確保の観点からも不可欠である。

国際的整合性確保のための課税ベースの見直し

欠損金の扱い
ゴーイング・コンサーンとしての企業にとって、課税上の期間損益の通算は、中長期的な観点から将来を見据えた経営を行なう上で非常に重要である。しかし、現行法人税における欠損金の扱いは、繰越し控除については５年間に止まり、繰戻し還付についても１年間に限られている。
一方、諸外国においては、例えば、アメリカでは２年間の繰戻しと20年間の繰越し、イギリスでは３年間の繰戻しと無期限の繰越しが認められているなど、わが国の現行制度は明らかに不利な扱いとなっている。欧米諸国とのイコール・フッティングの視点から、法人税の一般的な制度として過去２年分の繰戻し還付および10年間の繰越しの実現を求める。
減価償却制度の抜本的見直し
企業が生産効率を高め、新たな事業分野への進出を進めていくためには、減価償却制度が大きな鍵となる。かつて、アメリカと比べて優位にあったわが国全体としての設備ヴィンテージ（平均年齢）は、1996年を境に逆転し、その後、その差は拡がりつつある（日本開発銀行調査）。アメリカの設備ヴィンテージの改善には、税制における加速度償却制度の導入が大きな役割を果たしており、わが国においても、次のような減価償却制度の抜本的な見直しが必要である。
1. 現行「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」別表一及び別表二を大幅に簡素化した上で、耐用年数を短縮すること。
2. 現行法人税法施行令第61条第１項一号に規定する償却可能限度額を現行の取得価額の100分の95から、備忘価額を残すまでに改めること。
その他課税ベースの適正化
平成10年度税制改正における各種引当金の圧縮・廃止などの課税ベースの大幅な見直しは、国際的な潮流を踏まえた適正化の観点から容認できるものであったが、さらなる課税ベースの拡大については、単に税収確保を目的としたものとならないよう、慎重な検討が必要である。

国際租税

外国税額控除
企業活動のグローバル化が一層進展し、全世界レベルでの法人税の二重課税排除の仕組みが極めて重要となっている。既に、現行の外国税額控除制度では二重課税を完全に排除することが困難となりつつあり、わが国企業のグローバルな活動を支えるために、制度の拡充が必要である。
移転価格税制
企業が移転価格税制上の懸念を抱えることなく円滑な国際取引きを遂行するためには、税制の国際的整合性を確保するとともに、課税当局間の国際的な協力体制が必要である。そのための国際的ガイドラインとしてＯＥＣＤモデルが確立されているが、わが国の制度、執行面において充分な整合性が図られていないことから、企業に予期せぬ移転価格税制上の問題が生じたり、二重課税が発生しているケースがある。
課税当局間の関係を一層密にし、制度と運用の国際的調和を徹底するとともに、移転価格問題の有効な解決手段である事前確認制度の改善とその促進を図っていく必要がある。

地方課税の抜本改革

真の地方分権の確立のためには、国から地方への行政事務・権限の移譲のみならず、地方自治体の自主的な財政基盤が確立されなければならない。しかし、現実には、地方の行財政改革の遅れは長期にわたる不況とあいまって、地方財政収支を著しく悪化させており、地方交付税制度を通じて国の財政にも深刻な影響を与えている。国・地方を通じた財政基盤の健全化に向けて、地方財政が自立しうるための抜本的な改革と、住民の受益と負担の選択に基づく地方税制の改革を実現しなければならない。

地方財政の自立と税源の再配分

地方財政改革にあたっては、地方自治体の徹底した歳出削減が必要であり、歳出面での改革がなされないまま、歳入確保を狙いとする税制措置のみを先行させることは、根本的な問題の解決を先送りさせることになりかねない。
国と地方公共団体の歳出の比率は2対3であるのに対し、税収は3対２となっているため、地方交付税交付金等による調整が行なわれており、このことが、各自治体における財政力と公共サービス提供量の関係を不明確にしているだけでなく、歳出削減のインセンティブを失わせ、地方の歳出を構造的に膨張させる要因となっている。また、自治体再編の遅れは、非効率な行政運営だけでなく、税源の細分化による歳入の不安定を招くことにもなっている。
今後は、国と地方との事務区分に対応した国と地方との経費負担の区分を確立し、公会計へ企業会計的手法を導入しディスクロージャーの徹底を図り、また道州制の検討も念頭に置きつつ自治体を大括化して適正規模に再編した上で、地方の行なうべき自治事務の税源は、選挙権による発言の機会を持つ個人が行政への監視を強化するよう、個人が負担する個人住民税、居住用資産に係る固定資産税を基本とすべきである。その中で地方交付税制度の縮小・廃止を視野に入れ、所得税から個人住民税への税源委譲等による充実を検討することなどにより、財源調整を必要最小限にとどめることで地方財政の自立を図り、受益と負担の対応関係を明確化していく必要がある。

地方税体系の抜本改革

地方分権の推進にあたっては、地方財政の自立とともに、地方財源の充実、税収の安定化についての検討も必要であるが、高齢化社会の到来に対応していくためには、地方税においても、法人・個人の所得に対する直接的な課税によることは限界がある。地域経済や社会の活力の維持・向上に資する税負担のあり方として、税源の偏在性も小さく、広く薄く負担を求める地方消費税を、国・地方を通じた直間比率の見直しによる税体系全体の抜本改革の中で、地方税の基幹的税目としていくことが検討されるべきである。
なお、法定外普通税・目的税による課税自主権の行使により、自治体自ら税源を充実させる努力を否定するものではないが、課税の必要性や税収の使途について合理的な説明をもって、納税者の十分な理解を得ることが大前提である。
この観点から、東京都および大阪府における大規模金融機関に対する課税は、歳出構造の徹底的見直しが不十分な中で、選挙権がない特定の法人企業に対し、納税側の理解なく増税を行なうものであるとともに、金融システムの安定化に向けた政府の取り組みとも矛盾するものであり、自治体の課税自主権の範囲を逸脱する不適切な課税である。

地方法人課税の改革

先の税制調査会答申では、地方における法人課税の課題として、法人事業税に外形標準課税を早期導入すべきとし、その場合の課税ベースとして事業活動価値（利潤、給与総額、支払利子、賃借料の合計）が理論的に最も優れているとするが、事業活動価値はその７割を給与総額が占め、実質上賃金課税となり、わが国企業の雇用・投資活動に悪影響を及ぼし、経済の活性化を阻害するものである。
そもそも外形標準課税が先進諸外国において縮小・廃止傾向にある中で、あえて外形標準課税を導入することは、わが国企業の国際競争力を低下させる要因となる。しかも外形標準課税の導入は、企業の規模や業種により税負担の大きな変動をもたらすことが予想されるため、様々な配慮から特例措置が設けられ、結果として不公平な税制となることが懸念される。
このように事業活動価値をはじめとする外形基準による課税には問題が多く、法人事業税への外形標準課税の導入は容認できない。
そもそも、企業は地方において、法人住民税均等割、固定資産税、都市計画税、事業所税等の所得によらない外形的な税を負担しており、こうした負担に加えて税収確保を最優先として新たに外形標準課税を導入することは、地方税体系を一層複雑なものとし、簡素化の流れに逆行するものである。
本来、地方における法人の税負担のあり方は、財政構造や税体系全体についての検討の中で議論されるべきであり、都道府県の自主財源として住民に「広く、薄く、例外なく」負担を求めるとの理念からすれば、地方消費税を拡充することが適当である。併せて、簡素化の観点から法人事業税を廃止し、法人住民税に一本化することが望ましく、その中で、均等割を、各自治体における事業規模に応じて課税される「企業市民税」として、税収中立の範囲において一定程度拡充し、広く薄く負担を求めることは、検討の余地があると考える。

個人所得課税の改革

税率構造・各種控除（課税最低限）

平成11年度税制改正において、個人所得課税の最高税率を50％まで引下げるとともに、期限を設けない定率方式の減税を組み合わせた大規模な減税が実施されたことは、個人消費の回復を柱とする確実な景気浮揚策として大きな意味をもっている。
一方、先の税制調査会答申は、個人所得課税について、「財源調達に基幹的な役割を担う」とともに、その累進税率構造を前提に、所得再分配機能と経済の自動安定化機能（ビルトインスタビライザー）を果たすものとして、将来とも「税体系において中心的な役割を担うべきである」とする。また、今までの減税を踏まえて、その水準は「先進諸外国中最も低く」、「少なくともこれ以上の減税は行なうべきでない」とし、累進税率構造についても「基本的に維持すべきであり、今以上の累進緩和は適当ではない」としている。
しかし、将来においても個人所得課税が重要な税目であるとしても、少子・高齢化の進展の中で、社会保険料負担も含め個人の所得に対する直接的な負担に偏重した負担構造を続けるならば、社会の活力を削ぐとともに、現役世代と退職者との世代間の公平を損なうことになる。また、所得再分配機能は、社会保障制度を中心とした歳出と併せて考えるべきであり、これを過度に税制に依存することは、わが国経済の活力の維持・向上の観点から大きな問題である。先進諸外国が、引き続き累進税率構造の緩和を進め、先々には均一課税（フラット・タックス・レイト）さえも展望されている中で、所得課税をビルトインスタビライザーとするために累進税率構造を維持すべきとの主張は、世界の潮流と逆行するものである。現在の定率減税との組み合わせによる「恒久的減税」を、早急に、各所得階層の税率引き下げを含めた制度減税に改めるべきである。
一方で、国際的にも高い水準にある課税最低限を引下げ、国民の大多数が、その所得に応じた税負担を行なうようにすることが、21世紀の個人所得課税のあり方として重要であり、給与所得控除や各種人的控除をはじめとする各種控除について、国民生活の安定・向上や資産形成への効果に配慮しつつ、公平・公正・簡素の観点から整理する必要がある。

金融・証券税制

有価証券譲渡益課税のあり方
株式等の譲渡益課税については、既に平成13年度より源泉分離課税を廃止の上、申告分離課税への一本化が決定されている。しかし、株式市場は一時の低迷期を脱しつつあるものの未だ不安定な状況にあり、源泉分離課税の廃止が特に個人投資家の市場離れにつながることが強く懸念されている。わが国経済の本格的な回復のためには、株式市場の活性化が不可欠であり、当面、源泉分離課税の適用を延長し、他の金融所得に対する課税との整合性を踏まえつつ、申告分離課税のあり方について検討を進めるべきである。
配当に対する二重課税の排除
法人段階で課税された利益から支払われる配当については、受取段階で課税すると二重課税が生ずることから、現行制度では個人の受取段階で一定額の配当控除を行なうことにより、その調整を行っている。しかし、現行制度では、未だ二重課税の排除が不完全であり、欧州諸国で見られるような、インピューテーション方式(法人段階における法人税を所得税の前払いとみなして計算する方式)の導入を含めた二重課税完全排除の方策について具体的な検討を進めるべきである。
また、法人の受取配当金に関しても、持株比率25％未満の会社からの受取配当金については二重課税が生じており、全額を益金不算入とする必要がある。
公社債利子に係る税制の見直し
公社債利子に係る源泉徴収制度は、同一の商品に対しても、投資家区分により複数の取り扱いがなされ、流通面での阻害要因となっている。現在進められている有価証券の受渡し決済システムの抜本的な改革と並行して税制面での弊害を改善し、公社債流通市場を活性化させるよう、内国法人が受取る公社債利子については、一定の要件の下に源泉徴収を不適用とすべきである。
また、非居住者保有の一括登録国債の利子非課税制度の適用要件を緩和し、当初の目的である円の国際化のために十分活用される制度とすべきである。

納税者番号制度の導入

21世紀の税制を構築していくにあたっては、経済活力を最大限に引き出すとともに、税制の公平性、公正性の確保を強力に進める必要がある。個人所得課税においても、課税所得などの捕捉の向上を図るために納税者番号制度の導入や脱税の罰則強化に取り組む必要がある。これは課税の公平の確保に不可欠であるのみならず、国民の納税意識を高め、国・地方の行財政の効率化、歳出削減に対する監視の目を厳しくしていくことにもつながるものである。
また、国民の納税意識を喚起するために、多年にわたる納税を通じて、国家・社会に貢献した者に対する顕彰制度を検討すべきである。

住宅・土地税制の見直し

住宅税制の見直し

住宅取得に係る所得税軽減制度の拡充・継続
効果的に住宅建設を促進するとともに質の向上を図る観点から、現行の住宅ローン控除制度に匹敵する、新たな所得税軽減制度を導入すべきである。新たな制度は、各個人のライフステージに対応した、柔軟かつ選択可能な仕組みとし、計画的に住宅を取得できる制度にすべきである。
具体的には、30歳代で持家が取得できるよう、15年間にわたって借入金残高に対する控除率0.75％の所得税軽減措置を用意する必要がある。また、良質な住宅への建替え・買換えを促進する観点から、主に40～50歳代の二次取得者を視野に入れて、3年間は1.5％、その後7年間は１％の控除率といった初期負担が一層軽減される措置を用意し、一定の床面積以上の住宅を取得する場合には、二つの軽減措置のなかから各個人が自らの事情に応じて選択できるようにすることが望ましい。
さらに、こうした制度について、買換特例等との併用を認めるとともに、セカンドハウスを取得する場合や転勤者が事情解消後に再び居住の用に供した場合等にも適用する必要がある。
なお、本来的には、わが国においても良質な住宅ストック形成の観点から、住宅及びその敷地の取得に係る借入金利子を所得控除する制度を創設することが望ましく、今後の所得税制の抜本改革に併せて、その導入を図ることが必要である。
住宅取得資金に係る贈与税特例の拡充・継続
住宅取得の自己資金の充実を図り、ローン負担を軽減する観点から、現行の住宅取得資金に係る贈与税の特例について、適用期限を延長するとともに、非課税限度額(現行300万円)の1,000万円への引き上げや特例計算限度額(同1,500万円)の引き上げ、建替え、住替えなど二次取得者への適用や増改築への適用、所得要件(同1,200万円)の3,000万円への緩和など、特例の拡充を図る。
居住用財産の譲渡損失の繰越控除制度の延長
個人のライフステージに応じた住み替えの促進などの観点から、居住用財産の買換えに伴う譲渡損失の繰越控除制度について、本特例の適用期限を延長すべきである。
その他
特定の居住用財産の買換特例の延長・拡充や住宅等に係る流通税(登録免許税、不動産取得税、印紙税)に係る特例の適用期限延長等の措置も必要である。

土地税制の見直し

土地譲渡益重課の廃止
土地譲渡益重課は、土地を他の資産と比較して不公平に取り扱うものであり、土地神話の崩壊した土地市場の状況を鑑みれば、土地の投機を防止するという観点からの根拠にも乏しい。仮に、現在停止されている重課措置が復活すれば、企業のリストラ、事業再編に重い足枷となる(経団連会員企業で2002年度末までに土地を売却予定のある企業112社のうち、売却を取りやめるまたは売却面積を減らすとした企業50社)。
法人の土地譲渡所得課税の重課措置(一般・短期)については廃止するとともに、個人の土地長期譲渡所得課税についても見直しを図る。
買換特例の延長
事業の再編、新規事業分野への進出などを円滑に進める上で、特定の事業用資産の買換特例(特に22号買換え)は、現在、各企業で有効に活用されている(経団連会員企業で過去3年間に同特例を活用した企業中、生産能力増強目的で買い換えを行なった案件21％、更新維持補修目的18％、合理化省力化目的19％、研究開発目的、省エネルギー目的、環境保全目的各13％)。こうした買換えを促進することにより、産業構造の転換を円滑に進めるため、適用期限を延長する。
資産流動化のための税制措置
土地をはじめとする資産の流動化は、経済再生のための重要な課題であり、税制面からも譲渡益課税の軽減に加え、登記制度の運営費をはるかに上回る課税となっている登録免許税や、税負担が過重となっている不動産取得税など関係諸税について、非課税を含めた負担軽減が必要である。
とりわけ、企業の事業再構築の結果生じた工場跡地などの有効活用、流動化を進めることは喫緊の課題であり、ＰＦＩ手法やプロジェクトファイナンスの活用、不動産や債権の証券化など多様な資金調達手段の活用が必要である。
そのためには、以下のようなＳＰＣ等に係る税制措置が必要である。
1. 登録免許税・不動産取得税の免除
  平成14年3月末までの措置として、ＳＰＣや匿名組合営業者が不動産を取得する場合の流通課税は軽減されているが、収益率の向上のため、ＳＰＣ、匿名組合営業者、投資法人等が不動産を取得する場合の、登録免許税、不動産取得税を免除する。
2. 導管性要件の緩和
  投資法人が、ＳＰＣの発行する優先出資証券または匿名組合出資の100分の50以上を保有する場合であっても配当の損金算入を認める等、導管性要件を緩和する。
なお、原資産保有者のＳＰＣへの資産譲渡に係る課税の繰延べ等についても検討が必要である。
また、土地の流動化を促進するため、個人の不動産所得に係る損失のうち、土地を取得するために要した借入金の利子相当額を損益通算の対象から除外する措置を廃止する。
固定資産税の見直し
土地に係る固定資産税は、平成12年度評価替えにおいて、商業地等の宅地について、税負担の上限が若干見直されたものの、依然として都市部の商業地等では過重な税負担となっている。
固定資産税を市町村税の基幹税と位置づけていく以上、次期評価替えを待たずに、地価公示価格に対する７割評価の是非も含め、収益力に対して過重な負担とならないような評価のあり方とともに、あるべき税負担の水準についての議論を尽くすべきである。
また、事業用の償却資産に対する課税は、特定の設備型産業に偏重しており、業種に対する課税の中立性に問題があることから、その課税のあり方について検討する必要がある。

企業年金税制の整備

雇用の多様化や勤労意識の変化が進む中で、企業年金のあり方を見直す必要が生じている。企業年金は勤労報酬の要素を含んでおり、制度の選択肢や自由度の拡充を通じて、自助努力による老後への備えを促していく必要がある。

確定拠出年金法案の早期成立

確定拠出年金制度は、経済情勢の変化やそれに対応した企業組織の再編、さらには個人のライフスタイル、キャリアプランの多様化や雇用の流動化といった社会環境の変化に柔軟に対応しつつ、従業員の老後の所得の確保を図ることが可能な仕組みであり、企業と従業員双方にとり、重要な選択肢の一つとなることが期待されている。とりわけ中小企業やベンチャー企業にとって導入しやすい制度であり、これを契機に、企業年金の普及が進み、従業員の老後の所得確保が図られるとともに、人材の確保・定着に資することが期待されている。確定拠出年金法案の一日も早い成立を強く求める。

特別法人税の撤廃

国民が自らの努力と責任において老後の所得確保を図るうえでは、年金税制を、拠出時・運用時非課税、受給時課税の原則の観点から整備する必要がある。企業年金積立金にかかる特別法人税は、企業年金の資産の充実を妨げるものであり、また、受給時課税への一本化の観点からも、公的年金等控除の見直しと併せて廃止することとし、少なくともそれまでの間は凍結する必要がある。

確定給付型年金の制度設計の弾力化と財政健全化促進

企業年金は私的年金であり、持続可能かつ健全な年金財政運営のために、労使は一体となって努力している。企業年金を巡る様々な環境の変化に対応して、労使合意に基づき自由な制度設計と柔軟な運営を可能とすることが非常に重要となっている。
こうした視点から、つぎのような、年金制度および関連税制措置を講ずる必要がある。

厚生年金基金から税制適格年金への移行が認められていないことは、企業組織再編の障害となりかねない。そのような移行が可能となるよう、厚生年金基金の代行部分について返上の選択を認めるとともに、現行制度上認められている税制適格年金から厚生年金基金への移行の場合と同様の非課税措置を設ける。代行部分を持たない基金制度についても検討する。
確定給付型年金の枠組みの中で経済実態に沿った制度運営を可能とするため、労使合意のもとで、給付金額が一定の客観的な指標利率に応じて決定する制度（米国におけるキャッシュバランスプランのような制度）が実施できるよう、制度設計に係る一層の弾力化を図る。
過去勤務債務の償却方法を弾力化し、単年度での100％償却を認める。
税制適格年金にある剰余金返還規定を撤廃する。
税制適格年金に、厚生年金基金と同様の特例掛金制度を導入する。
コントリビューション・ホリデー制度（一定の範囲内で積立基準を超過する資産の積み立てが可能となる損金算入枠を認める制度）を導入する。

相続税・贈与税の見直し

相続税の見直し

わが国経済の基盤を支えている個人事業者、中小企業のオーナー経営者が意欲をもって事業に励み、将来にわたってその活力を維持するためには、事業承継円滑化の観点から、相続税について一層の軽減が必要である。
相続税については、平成11年度改正において小規模宅地等の課税価格の計算の特例が拡充され、さらに平成12年度改正においては取引相場のない株式の評価方法の見直しがなされたが、税率等の基本的仕組みについての改正は見送られてきた。現行の最高税率70％は、課税方式の違いを考慮しても欧米諸国と比べ著しく高く、これを50％まで引き下げ、その適用金額（20億円超）を相当程度引き上げることをはじめ、累進税率構造全体を緩和するとともに、併せて基礎控除額の引き上げを図る必要がある。

贈与税の見直し

高齢化が進む中で、高齢者のもつ莫大な資産が退蔵され、消費や投資に活かされないことが大きな問題となっており、生前贈与の活用により、資産を若～中年層に移転し、現実経済の場に引き出すことが経済政策としても重要である。特に若～中年層が住宅取得を進めるには、生前贈与の活用が不可欠となっている。相続税と併せて、その補完税としての役割を持つ贈与税についても税率構造の見直しを行うとともに、昭和50年以来据え置かれている基礎控除額を大幅に引き上げるべきである。

その他

ＮＰＯ支援税制の確立

21世紀に向けて、豊かな活力ある社会を構築するためには、民間の自主性や創意工夫に基づく公益活動の充実が求められており、ＮＰＯ（特定非営利活動法人）は、その具体的担い手として大きな役割を果たしていくことが期待されている。
平成10年12月１日の特定非営利活動促進法（ＮＰＯ法）施行以来、全国で2400を超えるＮＰＯが認証を受け、環境保全、災害救援、介護や障害者支援等様々な分野で社会に欠かせない役割を担っており、税制においても、その活動を積極的に位置づけ、必要な支援措置を講じていくことが求められている。
特に、特定非営利活動促進法成立時の国会附帯決議において、税制については法施行後２年以内に検討し、結論を得るとされていることから、ＮＰＯ法の立法趣旨に適合したＮＰＯ支援税制の確立は来年度税制改正における重要課題の一つであり、既に、超党派によるＮＰＯ議員連盟、ＮＰＯの全国連絡組織等から具体的な税制提言がなされている。経団連としても、これらの動きに賛同し、公益活動に見るべき実績を挙げたと認められるＮＰＯ法人＝認定ＮＰＯ法人（仮称）を対象に以下のような税制措置を講ずることを求めるものである。

認定ＮＰＯ法人への個人の寄付金に係る所得控除制度等の創設
認定ＮＰＯ法人への法人の寄付金に係る損金算入制度等の創設
認定ＮＰＯ法人へ個人が相続・遺贈財産を寄付した場合の寄付相当額の相続税の非課税措置の創設
認定ＮＰＯ法人の収益事業に係る法人税率等の軽減（公益法人等と同様の取扱い）
認定ＮＰＯ法人の収益事業に対する一定収益額のみなし寄付金の認定
認定ＮＰＯ法人が支払いを受ける利子・配当の非課税措置の創設
認定ＮＰＯ法人への不動産寄付等の減免
上記の地方税の計算における同様の措置

環境対策と税制

現在の環境問題はかつての公害問題と異なり、被害者、加害者が区別できず、関係する者も極めて多く、国民一人ひとりの日常生活や経済活動に深く関わる問題であり、国民全体の主体的な参加と協力が不可欠である。産業界は、既に自らの創意工夫が活かせる自主的取り組みを中心に据えて、温暖化対策や廃棄物削減対策に積極的に取組み、成果を挙げている。こうした取組みは、健全な経営基盤の上にこそ成り立つものであることから、規制的措置、環境税の議論に際しては、官民あげての取組みの成果を十分に見極める必要があり、とりわけ企業の競争力低下につながる措置の検討は慎重を要する。
特に、ＣＯ２排出抑制の手段として、環境税を導入すべきとの考え方については多くの問題があり、慎重に検討すべきである。
第一に、環境税のＣＯ２排出抑制効果は疑わしい。欧州の導入国で行われた税によるＣＯ２削減効果に関する分析事例においても、ＣＯ２排出が減少した国はなく、むしろ増加傾向にある国もあり、十分な効果をあげたとは言い難い。
第二に、ＣＯ２の排出抑制につながるような高い税率を設定した場合には、産業の国際競争力の低下を招くとともに、省エネのための技術開発や設備投資の資金原資を流出させるなど、大きな成果をあげている産業界の自主的な取り組みを阻害することとなる。また、エネルギー効率の低い国における生産が増加し、かえって地球規模でのＣＯ２増加を招くという矛盾が生じる。
第三に、環境税導入の目的を環境対策費用の財源確保におく考え方があるが、環境対策に必要な財源は単なる追加的な賦課ではなく、歳出見直しから捻出すべきである。また、環境負荷に抑制的に働く課税と環境改善のための減税措置の組み合わせや、税収中立に立った議論においても、個々の産業に対する影響や既存のエネルギーおよび自動車関連諸税の実態を十分に踏まえた検討が不可欠である。
税の導入ありきでの検討は本末転倒であり、まずは、環境税導入による効果と経済への影響について既存税制との調整等も含め、中長期的な視点に立った幅広い調査・研究が行われる必要があり、それらの結果が産業界や国民が十分納得できるだけの説得力をもって示されるべきである。

以　上

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