[経団連] [意見書] [ 目次 ]

電気通信分野における競争促進法の早期実現に向けて

2000年9月14日
(社)経済団体連合会

(はじめに)

経団連では、本年3月に「IT革命推進に向けた情報通信法制の再構築に関する第一次提言」を発表した。この提言は、通信ユーザーとしての産業界の立場をベースにして、NTT、NCC等の通信事業者、メーカー等の関係者のコンセンサスを得て取りまとめた点に特色がある。具体的には、現行の事業規制中心の情報通信法制を見直し、利用者の利益の確保とそのための競争促進とを目標に据え、この2つの目標を実現するための法体系を提示するとともに、欧米の動向を踏まえ、国民が幅広く論議に参加して情報通信法制を早急に再構築することを求めた。
その後、こうした産業界の要望に応える形で、公正取引委員会「政府規制等と競争政策に関する研究会」報告、産業構造審議会情報経済部会第1次提言(案)が相次いで発表され、また、今般、電気通信審議会が「IT革命を推進するための電気通信事業における競争政策の在り方」について検討を開始したことは高く評価される。
経団連としては、政府における電気通信分野での競争政策のあり方に関する検討に当たって、次の点に留意するよう提言をする。

  1. 実効的な競争促進策の早急な検討
  2. ITは、21世紀の繁栄の鍵であり、経済新生の原動力である。諸外国では、ITの活用を最優先の課題と位置付けて戦略的な取り組みを推進している。わが国においても、今や臨界点に達しつつあるIT需要を顕在化させ、それによる電気通信市場の拡大が事業者間の更なる競争と投資を促すという需給両面の好循環を形成する必要がある。とくに、利用者が低廉、高速、高品質、常時接続等の情報通信サービス等により、IT革命の成果を十分に享受できるようにすることが急務となっている。IT分野では、ドッグイヤーとも言われるほどのスピードで市場の変化や技術革新が進展しており、政府において検討に2年もかけるのでは、IT活用の面で国際的に遅れをとることが懸念される。IT有効活用の基盤となる、低廉で多様な情報通信サービスが、行政主導ではなく、事業者間の自由で公正な競争を通じ、利用者ニーズに即応して提供される環境を一刻も早く整備する必要がある。
    これからのインターネット時代、通信と放送との融合時代に対応していくためには、総合的な新しい情報通信法制を整備する必要があるが、総合的な法整備には時間がかかることも予想される。従って、第一ステップとして、緊急度が最も高い課題である電気通信分野における競争の促進に向けた法整備を早急に行なうべきである。競争促進のための重要課題については、一つひとつ個別ではなく、ワンセットの形で検討を行ない、透明かつオープンな議論の下で早急に結論を出し、遅くとも次期通常国会会期中には、必要な立法措置を図ることが期待される。なお、今後の技術革新等に柔軟に対応できるよう、定期的な見直し条項を設ける必要がある。

  3. 競争促進法の整備
    1. 「事業規制法」から「競争促進法」への転換
    2. 今、何よりも優先して取り組むべきことは、IT活用のベースとなる通信サービスの低廉化、利便性の向上である。例えば、インターネットの利用等に際し、広帯域の通信サービスを米国並みの料金で利用できるようにすることが急務である。そのためには、市内通信市場を含め、電気通信市場のあらゆる分野において、利用者が幅広い選択肢を持てるよう、多種多様な事業者が、公正競争条件のもとで、自己責任原則に基づいて自由に創意工夫を発揮できる枠組みを整備する必要がある。
      また、通信産業の国際競争力の強化は、わが国産業の将来の発展を確保する上から重要な課題となっている。通信事業者間のグローバルな競争が激化し、また国際的な合従連衡が活発化しているが、こうした国際環境の中で、わが国通信産業の国際競争力を強化していくためには、政策面での保護ではなく、徹底した競争を通じて、通信事業者における顧客ニーズや環境変化への対応力等がより一層磨かれることが大前提である。国際競争力の1つの要素である研究開発力も、市場での競争にさらされることによって一段と高まっていくと考えられる。
      従って、電気通信分野の競争政策の検討に当たっては、自由かつ公正な競争の促進に向けた法整備に主眼をおくべきである。とくに、電気通信事業法、NTT法など、電気通信関連の法制について、行政が事業者の適正な事業運営を図る「事業規制法」ではなく、利用者の利益と自由かつ公正な競争の確保とを目的とする「競争促進法」の法体系へ転換することが急務と考える。

    3. 市場支配力に着目した規制
    4. 現行の電気通信事業法では、第一種事業者・第二種事業者区分という設備保有に着目して規制を切り分ける仕組みとなっている。今後は、自由で公正な競争を確保するために、市場シェア・ボトルネック設備の保有等の基準を踏まえて、市場支配力がある場合とそうでない場合とで規制を切り分けるべきである。市場支配力があり競争が進展していないと認められる場合には、必要な規制(上限価格規制、適切な接続ルールの適用、一定の情報開示義務、内部相互補助規制等)を受けるが、競争が進展すれば規制が緩和されるという、インセンティブ規制とすることが望ましい。
      他方、競争が進展している場合には、基本的に自由に事業展開をでき、問題が生じた時点で事後的に規制を受けるものとすべきである。
      これに伴い、事業者が自らの経営判断に基づき回線設備の設置、再販売、市内回線のアンバンドル利用を自由に組み合わせることが可能となる。
      また、インフラ面での競争促進に向けて、設備構築手続の簡素化や費用の低減につながる環境を整備する必要がある。共同溝、情報BOX等の一層の整備や、道路占用規制等の一段の緩和を図るとともに、公益事業者が所有する管路・とう道・電柱などの空き情報の開示に関する自主的な取り組みや、公正かつ迅速な提供を促すことが望まれる。

  4. 中立的な立場からの競争状況の監視
  5. 電気通信分野における自由かつ公正な競争を実効あるものとするには、競争促進法の整備と併せて、公正競争を監視する機関が、利用者利益と自由かつ公正な競争の確保という使命を遂行し、事業者や政治から中立的な立場で電気通信市場における競争ルールの策定や競争状況の監視・維持、事業者間の紛争などの公正・透明な形による迅速な処理等を行なう必要がある。そのためには、例えば、国民・企業・事業者が苦情処理や制度・運用の見直しなどを行政に直接要望でき、行政が一定期間内(例えば申し立てを受けてから3ヶ月以内等)に対応することを義務づけた「請願(ペティション)」制度や、裁判よりも迅速な紛争解決を図るADRなどの仕組みを整備する必要がある。将来的には、行政の肥大化を招かないように配慮しつつ、ほとんどの欧米・アジア諸国と同様、独立規制機関において競争確保を図るべきである。

  6. NTT法の見直し
  7. NTTについては、純粋の民間事業体として公正な競争ルールの下で、自己責任原則に則った経営ができるようにすることが最も望ましいと考える。そのため、国が直接、経営に介入する規制(役員認可、事業計画認可、定款変更認可、新株発行認可等)は早急に廃止するとともに、公正競争の確保やユニバーサル・サービス確保に必要な事項等を新しい競争促進法に吸収、統合する必要がある。これにより、NTT法自体は不要となる。また、NTTの完全民営化に向けて、政府保有のNTT株式の完全放出を急ぐべきである。そうした取り組みによって行政はあらゆる通信事業者に対し中立となり、利用者の立場に立って政策を展開することができる。なお、株式交換方式によるM&A等が海外展開を図る上で重要な手段となっており、これを可能とする法整備に併せて取り組む必要がある。
    NTT法の吸収を伴う新しい競争促進法の整備に併せて、ユニバーサル・サービスの定義・確保のあり方、通信技術に関する研究のあり方、国家・社会の非常事態において重要通信を優先的に確保する措置など、社会政策や国策上の課題を検討する必要がある。
    ユニバーサル・サービス確保の具体的方策は、ユニバーサル・サービス提供に要する費用など、適切な情報が開示された上で、ユニバーサル・サービス基金方式、あるいは社会政策としての財政負担の是非などを含めて検討する必要があるが、競争中立的な仕組みを前提とすべきである。また、通信技術に関する今後の研究推進のあり方に関しては、わが国の国際競争力強化の観点から、民間事業体としてのNTTに法律で研究開発を義務づけることの妥当性、国の果たすべき役割等について検討する必要がある。

  8. 議論の透明性の確保
  9. 国民生活、産業活動の基本的インフラである電気通信に係わる制度・政策の検討にあたっては、広く国民が議論に参加できるようにすることが重要である。電気通信審議会はもとより、あらゆる審議会等の議論について、小委員会等を含め、審議の公開や詳細な議事録の迅速な公表を図るとともに、パブリックコメント方式により答申等の原案に対する国民の意見を聴取し、それらに対する行政としての考え方を示した上で最終決定を行なうべきである。

(終わりに)

今回、我々は緊急度の高い電気通信分野での競争促進法の早期整備に的を絞って提言した。政府においては、諸外国の模範となる制度作り、競争ルールの整備に取り組むことを期待したい。NTTの構造問題については、NTT再編成決定後の情勢変化や「NTT再編成に関する実施計画」の進捗状況を透明な形で整理しつつ検討を行なう必要があると考える。経団連としても、今後、IT革命推進の観点から、競争促進法の具体的な枠組みのあり方、通信・放送の融合への制度的対応のあり方についても更に検討を加え、必要に応じて提言を取りまとめていく予定である。

以 上

日本語のホームページへ