[経団連] [意見書]

WTOサービス貿易自由化交渉に対する考え

2000年11月
サービス貿易自由化協議会
訪ジュネーブ・ミッション

  1. 総 論
    1. サービス交渉の重要性
    2. サービス産業は、企業や消費者が行う経済活動の基本的インフラとして、先進国のみならず途上国においても、ますます重要なものとなっている。効率的で生産性の高いサービス産業は、鉱工業や農業の競争力強化にも寄与し、国民生活の向上に貢献する。
      各国が効率的で生産性の高いサービス産業を発展させていくうえで、サービス貿易は重要な役割を果たしてきた。特に1995年に発効したGATSは、サービス貿易を促進するうえでの土台を提供した。しかし、GATSの歴史は浅く、多くの国において、残念ながら依然としてサービス事業活動上の様々な障害が残されているのが現状である。
      こうしたことから我々は、WTOにおけるサービス貿易自由化交渉を強く支持する。同交渉を通じ、加盟国のサービス貿易の一層の自由化や、ルール面での強化が図られることを強く期待している。
      しかしサービス交渉のみでは、交渉への十分な利益を見出せない国が出てくることから、交渉に対する強いモメンタムが得られないことも懸念される。そこで、包括的アジェンダを含むWTOの新ラウン交渉ドを早期に立上げ、サービス交渉をこの中に統合化していくことが急務である。特に、新ラウンド交渉においては、先進国は途上国産品に対する市場アクセスの改善を図るとともに、アンチ・ダンピング措置等の貿易制限的な措置が恣意的に発動されないよう規律を強化していく必要がある。

    3. 交渉の推進に向けて
      1. 現実的な交渉のガイドラインの必要性
        サービス交渉を推進していく上で、本年5月に採択された「交渉のロードマップ」に基き、各国が年末までにサービス貿易の一層の自由化を促すような提案を積極的に行うことが期待される。
        また、こうした作業と並行して行われている、交渉ガイドラインの作成作業も重要である。今後の交渉の基礎となるガイドラインは全てのWTO加盟国の立場や利益に配慮した、現実的なものでなければならない。特に、交渉の出発点は、現在の約束表をベースとすべきであるし、これまでの自主的自由化努力が約束表に記載される場合には、十分なクレジットが与えられるべきと考える。
        なお、新ラウンド交渉の立上げに向けた努力が続けられているなか、現時点でガイドラインがサービス交渉の最終的な期限に言及することは時期尚早と考える。

      2. 途上国への配慮
        途上国の交渉への積極的参加が、交渉を成功に導く上で不可欠である。そこで、交渉にあたっては、途上国のニーズを良く把握し、可能な限りその実現に協力していくことが重要である。
        併せて、途上国のキャパシティ・ビルディングに向けた、先進国からの技術支援の強化も求められるところである。

  2. サービス交渉全体に対する考え
  3. サービス交渉においては、外国企業の事業活動に対する差別的規制の撤廃・緩和及びサービスに関連する諸制度の透明性の向上が特に重要と考える。また、電子商取引の健全な発展を支えるための制度的枠組みの構築や、人の自由移動の確保も我々の関心事項である。現在WTOで議論が行われている主要事項に対する我々の考えは次の通りである。

    1. 最恵国待遇(MFN)例外の取り扱い
    2. MFNはWTOの基本原則であるにも係わらず、残念ながら欧米を含む多くの国がMFNの免除登録を行っている。こうしたなか先般行われた、「MFNレビュー会合」は、その撤廃に向けた第一歩として評価される。今後各国がWTOの基本的精神に反するような、MFN例外の早期撤廃に継続して努力するよう要請する。

    3. 国内規制の透明性等
      1. 基本的考え
        国内規制はサービス貿易に大きな影響を及ぼす。我々は、国内規制に関する作業部会において、規制の透明性及び必要性の議論が行われていることを歓迎する。なお、同作業部会では、GATS第6条4項が規定する「資格要件、資格の審査にかかわる手続、技術上の基準及び、免許要件に関連する措置」に限定されることなく、サービスに関連する全ての規制について検討がなされることを期待する。特に、業種横断的な国内規制の透明性に関するルール作りが重要と考える。なお、ルール作りに際しては、規制当局との意見交換が必要である。

      2. 規制の透明性の向上
        企業は、諸外国においてサービス関連の事業を行なう際に、法制度の不備、不透明性、突然の変更、恣意的な運用、免許要件・手続の不透明性、不合理性(免許基準、免許料金等を含む)などの様々な問題に直面している。
        本来、(1)規制の制定プロセス、(2)規制そのもの、(3)実際の運用といった、国内規制のあらゆる局面で、透明性が確保されていくことが望ましい。
        しかし、各国の行政上の負担を考えた場合、最初のステップとして、法制度の透明性の向上(全ての法律・政省令が入手可能であること、許認可等の審査基準の設定・公表、口頭指導の文書化等)の実現が重要である。なお、途上国の中には、破産法等のビジネス上重要な法制度が確立されていないケースも見られることから、先進国からの法整備に向けた技術的支援が望まれる。
        第2のステップとしては、許認可等における規制当局の大幅な裁量を是正するためのルール作りが必要である。具体的には、行政手続法的規則の整備(審査開始義務、標準処理期間の設定・公表、許認可等を拒否する際の理由の開示等)が重要である。
        更に可能であれば、 国内法及び政省令等による規制の制定・改廃に係わる事前申立手続(いわゆる「パブリック・コメント制度」)の導入も検討すべきである。

      3. 規制の必要性
        国内規制に関する作業部会における国内規制の「必要性」に関する議論を通じ、「必要以上に負担とならない」や「必要以上に貿易制限的とならない」といった概念が明確化され、各国における今後の制度整備に反映されることを期待する。

    4. 電子商取引について
      1. 基本的考え
        国際的な電子商取引の健全な発展のためには、政府による規制を必要最小限にとどめ、民間産業界の自主的な取り組みによる枠組み作りを進めていく必要がある。特に、

        1. 電子商取引であることを理由に不必要な規制、障壁は設けない、
        2. 規制が必要な場合は無差別かつ可能な限り貿易非制限的なものとする、
        3. 関連する規制の透明性を十分確保する、
        4. 電子認証、決済、消費者保護、プライバシー、知的所有権、税制、競争政策など多岐に渡る制度面の整備にあたっては国際的な調和を確保する、
        ことが重要である。
        残念ながら、シアトル閣僚会議以降、WTOにおける電子商取引に関する作業が滞り、実質的な成果が生み出されてこなかった。こうした意味から、「電子商取引に関する作業計画」の再開を歓迎する。加盟国は、電子商取引に関する作業を加速化していく必要がある。

      2. 電子商取引の交渉にあたって
        電子商取引は、その幅広い分野横断的な側面と、急速な進歩が国際社会に大きな影響を与えるといった特性がある。そこで、電子商取引に係わる交渉をサービス交渉の中でのみとらえることは適切でない。GATT、TRIPsを含めたWTO全体に共通するテーマとして、何らかの横断的な観点からの交渉が必要である。
        また、多岐にわたる制度面の国際的調和を進めるにあたっては、WTOの果たすべき役割と、既存の各専門国際機関の果たすべき役割を整理し、WTOに過度の役割を負わせることのないようにすべきである。

      3. WTOにおける交渉

        (i) 市場アクセスの改善
        電子商取引にかかわる、市場アクセスの改善にあたっては、電子商取引のインフラ分野の自由化と、コンテンツの取引の自由化の双方が必要である。
        1. 「クラスター方式」について
          電子商取引のインフラ分野の自由化交渉の進め方について、いくつかの産業分野をまとめたクラスター方式の採用も一部で議論されている。例えば、クラスターを構成する産業分野として、通信、金融等があげられるが、これらはそれ自体が一つの重要なサービス産業を構成し、現にサービス交渉の対象分野となっている。
          クラスター方式といった一括交渉方式の採用の是非は、交渉の進め方の容易さと、多くの国々が積極的に参加しうる環境整備の両面から検討する必要がある。こうした意味から、クラスター方式といった考え方自体は、分野横断的な側面からの、交渉のチェックリストとしては有効と思われる。
        2. 「モード」について
          コンテンツ分野については、電子商取引の急速な進展によって、従来のモード3(拠点設置)やモード4(自然人の移動)を通じてしか提供できなかったサービスの多くが、次第に電子的手段により提供しうるようになっている。こうしたサービスはこれまで約束表に「技術的に可能でないために約束しない」と書かれているケースも多いが、今後各国が電子商取引の促進を目指して積極的に自由化約束を行っていく必要がある。なお、この関係では、電子商取引とモード(特に、モード1、モード2)の関係を十分整理することが重要である。
        3. 「分類」について
          従来CDなどのメディアによって取引されてきた音楽ソフトなどのデジタル・コンテンツが、電子的媒体を通じて取引きされる場合は、従来通りGATTの規律の対象としていく必要がある。また、すでにGATSの規律の対象となっているサービスが電子的な手段によって提供される場合には、提供手段を問わず等しくGATSの対象とすべきである。
          さらに、例えば、ASP(Application Services Provider)のような新しいサービスについては、いたずらに新たな分類を設けるのではなく既存のGATSの分類への適用を含め、実態に即した分類を検討していくべきである。

        (ii) 国内規制
        国内規制が電子商取引に重要な影響を及ぼすことから、WTOでの検討を通じ、偽装された貿易制限措置とならないよう、関連する規制の透明性を確保していく必要がある。

        (iii) 関税不賦課の継続
        早急に、電子送信に対する関税不賦課措置の継続に関する決定を行なうことが重要である。それまでの間は、現状を維持すべきである。

      4. 途上国に対する支援
        電子商取引の国際的なひろがりと、ITやインターネットの発展を考えれば、WTO交渉を早期に成功させて、途上国における制度や利用環境の整備を進めることが急務である。
        また、この分野における、先進国からの支援のあり方についても検討を進める必要があろう。

    5. 人の自由移動の確保
    6. 企業がサービス貿易(特に第三モード)を行う上で、企業関係者(管理者、技術者等)の海外への派遣が円滑に行われる必要がある。しかし、多くの国で、企業は、(1)査証や労働許可の取得上の問題、(2)役員・従業員の国籍要件、(3)現地人雇用義務といった問題に直面している。
      各国は、約束表の改善を通じて、企業関係者の自由な移動の確保を実現すべきである。また、査証や労働許可の発給手続き、要件の明確化・簡素化を図るとともに、発給期間の早期化に向けた議論が行われることが望まれる。

    7. セーフガード
      1. 基本的考え
        日本の産業界として、セーフガード措置の発動に対するニーズは特に感じてない。
        他方、途上国が自由化を進める上で国内産業への急激な影響を緩和するためにセーフガードの発動が必要となるケースも想定される。しかし、サービス貿易は、統計も十分に整備されていないことから、GATSにおいて、セーフガードに関するルールを整備するのであれば、恣意的な発動がなされないような、明確で客観的なルールを構築していく必要がある。

      2. 客観的なルールの必要性
        そこで、先ず、明確で客観的なルール・基準が何かについて、詳細な議論が必要である。
        また、セーフガード措置は、国内産業の保護が目的であることから、既に拠点を設置しサービスを提供している企業(第3モード)の活動の停止・制限や、新規の支店開設や増資の制限は、原則として認めるべきでない。仮に何らかの制限が行われる場合は、他の国内企業と無差別の条件の下でのみ行われるべきである。
        なお、GATT第19条と同様、「事情の予見されなかった発展の結果」、国内生産者に重大な損害を与えたこと(あるいは与えるおそれがあること)を、セーフガード措置の発動条件として盛り込む必要がある。

      3. 措置の早期撤回
        セーフガードはあくまでも緊急避難措置であり、重大な損害を防止・除去するに必要な期間に限って認められるべきである。措置の長期化を避けるべく、セーフガード協定第7条4項のようなセーフガード措置の見直しに関する規定を盛り込み、経済、社会状況の変化を反映し、措置の早期撤回ないし緩和を図る余地を残す必要がある。

  4. セクター別自由化交渉に対する考え
    1. 交渉方式
    2. 自由化交渉では、日本の産業界は、各国の約束表の改善を通じて、(1)外資出資比率の制限、(2)役員・従業員の国籍・居住要件の撤廃、(3)内外差別的な国内規制・業務規制の撤廃等の実現を期待している。
      現在、様々な交渉方式が議論されているが、各交渉方式には、一長一短がある。今後の交渉は、リクエスト・オファー方式を基本としつつ、各セクターの特性に照らして、補完的にモデル・スケジュール、クラスター等の適用の可否を個別、具体的に検討していく必要があろう。

    3. 金融サービス
      1. 基本的考え
        97年金融サービス合意は、各国金融政策の安定性と投資家の予見可能性を高め、金融市場の安定的発展に大きく寄与するものである。自由化の進展は進出企業・現地企業の双方にメリットをもたらすものであり、各国が97年金融サービス合意における約束表を着実に履行することが重要である。

      2. 国内規制

        1. 規制の客観性・透明性を確保すべきである。例えば、根拠法令の不在・口頭による新規規制の説明等を改め文書による規制を提示すること、急激な規制の変更を抑制すること等が重要である。また、免許の発給要件・手続の客観性・透明性の確保及び免許発給の数量制限の撤廃も不可欠である。
        2. 外資出資比率の制限、支店・子会社の設立制限、役員・従業員の国籍・居住要件、国営再保険会社への出再義務、対外送金規制、特定保険種目の国内企業または政府系企業による独占、外国企業に対する税務上の差別的扱い等の、制度上の障害を漸次撤廃すべきである。

      3. MFN免除
        個々の最恵国待遇免除の事例に関し、第2条の免除に関する付属書の規定に沿って適切に削減・撤廃交渉が行われることを期待する。

      4. 祖父条項
        祖父条項については、公平な競争条件の確保の観点から、一件ずつ内容の精査が必要である。祖父条項で認められた権利はMFNベースで加盟国全体が享受できることが望ましい。

      5. 信用秩序維持
        GATS金融サービスに関する附属書第2パラグラフに基く信用秩序維持のための措置については、WTO交渉よりも必要な専門性を備えている監督官が直接参加する国際機関の場で調和を図っていく方が、より効果的と考える。

    4. 海運サービス
      1. 基本的考え
        海運サービスは極めて重要な分野であるにもかかわらず、ウルグアイラウンド交渉及びその後の交渉で各国間の合意が得られず、未だGATSの規律が及んでいない。サービス貿易自由化交渉の開始に伴い、海運継続交渉の再開を要望する。

      2. 交渉分野
        競争的な海運サービスが国際貿易の発展に資するという認識の下、特に現地法人の設立とその業務範囲に関する制限や自国海運産業保護政策を撤廃すると共に、国際海上運送サービス(外航海運)の自由化に向けた議論を推進する必要がある。併せて、海上運送の補助的サービス(代理店、フレート・フォーワーダー等)、港湾サービス(水先案内、タグボート、給水、給油等)についても積極的に自由化を進めるべきである。

    5. 航空運送サービス
      1. 「ソフト・ライト」3分野
        GATSルールの枠内にある(1)価格設定を除く販売活動、(2)コンピュータ予約サービス(CRS)、(3)航空機整備のいわゆる「ソフト・ライト」の3分野について、一部しか自由化を約束していない国が多い。現在行われている、航空運送サービス附属書のレビューを基に、各国に「ソフト・ライト」3分野の自由化を促すべきである。

      2. GATSの対象拡大
        グランド・ハンドリング、空港マネージメント等、現在はGATSの対象でないサービスの自由化についてもケース・バイ・ケースで検討する意義がある。

      3. 「ハード・ライト」を伴う問題
        運輸権(ハードライト)に直接関係するサービスの自由化については、各国がそれぞれの事情を踏まえつつ、二国間協定で進めていくべきである。

    6. エネルギー・サービス
      1. 基本的考え
        エネルギー分野の自由化交渉は、公益的課題(セキュリティの確保、環境との両立、ユニバーサル・サービスの提供、供給信頼度の確保)と効率化との両立を図りながら進めることが不可欠である。

      2. 分類問題について
        エネルギー・サービス交渉では、まず交渉の対象項目を明確にした上で分類について検討する必要がある。

        1. 対象項目:エネルギーの生産はGATTの適用範囲である「モノ」の生産であり、エネルギー・サービスには含まれないと考える。また、エネルギーに付随するサービスで約束表上の他の分類でカバーされているものについても、エネルギー・サービスの対象外とすべきである。
        2. 分類方法:各国のエネルギー産業の実態を踏まえた分類が必要である。特に、効率性追求の観点から、エネルギー事業は国内事業者による一貫体制をとっている国も多く、あまりに細分化した分類は適切でない。

    7. その他の主要セクター
      1. 電気通信
        新規事業会社による円滑な参入を確保するため、基本電気通信交渉における各国の約束の実施状況をレビューするとともに、約束表提出国の実質的拡大及び内容の拡充を図る必要がある。特に、外資出資比率制限の撤廃・緩和、免許付与条件及び手続きの透明化・明確化が重要である。

      2. 建設
        建設サービスの提供形態は拠点設置によるものが多く、(1)外資出資比率制限、(2)事業形態の制限、(3)内外差別的な国内規制・業務規制、(4)公共事業における地元企業優先や資格制限等の改善が求められる。

      3. 流通
        輸入業・小売業・アフターセールスサービス業への外資参入制限、一部先進国における商業調整的な出店規制及び商業関連施設に関する用途規制等についても緩和が求められる。

以 上

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