2000年11月 サービス貿易自由化協議会 訪ジュネーブ・ミッション |
現実的な交渉のガイドラインの必要性
サービス交渉を推進していく上で、本年5月に採択された「交渉のロードマップ」に基き、各国が年末までにサービス貿易の一層の自由化を促すような提案を積極的に行うことが期待される。
また、こうした作業と並行して行われている、交渉ガイドラインの作成作業も重要である。今後の交渉の基礎となるガイドラインは全てのWTO加盟国の立場や利益に配慮した、現実的なものでなければならない。特に、交渉の出発点は、現在の約束表をベースとすべきであるし、これまでの自主的自由化努力が約束表に記載される場合には、十分なクレジットが与えられるべきと考える。
なお、新ラウンド交渉の立上げに向けた努力が続けられているなか、現時点でガイドラインがサービス交渉の最終的な期限に言及することは時期尚早と考える。
途上国への配慮
途上国の交渉への積極的参加が、交渉を成功に導く上で不可欠である。そこで、交渉にあたっては、途上国のニーズを良く把握し、可能な限りその実現に協力していくことが重要である。
併せて、途上国のキャパシティ・ビルディングに向けた、先進国からの技術支援の強化も求められるところである。
サービス交渉においては、外国企業の事業活動に対する差別的規制の撤廃・緩和及びサービスに関連する諸制度の透明性の向上が特に重要と考える。また、電子商取引の健全な発展を支えるための制度的枠組みの構築や、人の自由移動の確保も我々の関心事項である。現在WTOで議論が行われている主要事項に対する我々の考えは次の通りである。
基本的考え
国内規制はサービス貿易に大きな影響を及ぼす。我々は、国内規制に関する作業部会において、規制の透明性及び必要性の議論が行われていることを歓迎する。なお、同作業部会では、GATS第6条4項が規定する「資格要件、資格の審査にかかわる手続、技術上の基準及び、免許要件に関連する措置」に限定されることなく、サービスに関連する全ての規制について検討がなされることを期待する。特に、業種横断的な国内規制の透明性に関するルール作りが重要と考える。なお、ルール作りに際しては、規制当局との意見交換が必要である。
規制の透明性の向上
企業は、諸外国においてサービス関連の事業を行なう際に、法制度の不備、不透明性、突然の変更、恣意的な運用、免許要件・手続の不透明性、不合理性(免許基準、免許料金等を含む)などの様々な問題に直面している。
本来、(1)規制の制定プロセス、(2)規制そのもの、(3)実際の運用といった、国内規制のあらゆる局面で、透明性が確保されていくことが望ましい。
しかし、各国の行政上の負担を考えた場合、最初のステップとして、法制度の透明性の向上(全ての法律・政省令が入手可能であること、許認可等の審査基準の設定・公表、口頭指導の文書化等)の実現が重要である。なお、途上国の中には、破産法等のビジネス上重要な法制度が確立されていないケースも見られることから、先進国からの法整備に向けた技術的支援が望まれる。
第2のステップとしては、許認可等における規制当局の大幅な裁量を是正するためのルール作りが必要である。具体的には、行政手続法的規則の整備(審査開始義務、標準処理期間の設定・公表、許認可等を拒否する際の理由の開示等)が重要である。
更に可能であれば、 国内法及び政省令等による規制の制定・改廃に係わる事前申立手続(いわゆる「パブリック・コメント制度」)の導入も検討すべきである。
規制の必要性
国内規制に関する作業部会における国内規制の「必要性」に関する議論を通じ、「必要以上に負担とならない」や「必要以上に貿易制限的とならない」といった概念が明確化され、各国における今後の制度整備に反映されることを期待する。
基本的考え
国際的な電子商取引の健全な発展のためには、政府による規制を必要最小限にとどめ、民間産業界の自主的な取り組みによる枠組み作りを進めていく必要がある。特に、
電子商取引の交渉にあたって
電子商取引は、その幅広い分野横断的な側面と、急速な進歩が国際社会に大きな影響を与えるといった特性がある。そこで、電子商取引に係わる交渉をサービス交渉の中でのみとらえることは適切でない。GATT、TRIPsを含めたWTO全体に共通するテーマとして、何らかの横断的な観点からの交渉が必要である。
また、多岐にわたる制度面の国際的調和を進めるにあたっては、WTOの果たすべき役割と、既存の各専門国際機関の果たすべき役割を整理し、WTOに過度の役割を負わせることのないようにすべきである。
WTOにおける交渉
途上国に対する支援
電子商取引の国際的なひろがりと、ITやインターネットの発展を考えれば、WTO交渉を早期に成功させて、途上国における制度や利用環境の整備を進めることが急務である。
また、この分野における、先進国からの支援のあり方についても検討を進める必要があろう。
企業がサービス貿易(特に第三モード)を行う上で、企業関係者(管理者、技術者等)の海外への派遣が円滑に行われる必要がある。しかし、多くの国で、企業は、(1)査証や労働許可の取得上の問題、(2)役員・従業員の国籍要件、(3)現地人雇用義務といった問題に直面している。
各国は、約束表の改善を通じて、企業関係者の自由な移動の確保を実現すべきである。また、査証や労働許可の発給手続き、要件の明確化・簡素化を図るとともに、発給期間の早期化に向けた議論が行われることが望まれる。
基本的考え
日本の産業界として、セーフガード措置の発動に対するニーズは特に感じてない。
他方、途上国が自由化を進める上で国内産業への急激な影響を緩和するためにセーフガードの発動が必要となるケースも想定される。しかし、サービス貿易は、統計も十分に整備されていないことから、GATSにおいて、セーフガードに関するルールを整備するのであれば、恣意的な発動がなされないような、明確で客観的なルールを構築していく必要がある。
客観的なルールの必要性
そこで、先ず、明確で客観的なルール・基準が何かについて、詳細な議論が必要である。
また、セーフガード措置は、国内産業の保護が目的であることから、既に拠点を設置しサービスを提供している企業(第3モード)の活動の停止・制限や、新規の支店開設や増資の制限は、原則として認めるべきでない。仮に何らかの制限が行われる場合は、他の国内企業と無差別の条件の下でのみ行われるべきである。
なお、GATT第19条と同様、「事情の予見されなかった発展の結果」、国内生産者に重大な損害を与えたこと(あるいは与えるおそれがあること)を、セーフガード措置の発動条件として盛り込む必要がある。
措置の早期撤回
セーフガードはあくまでも緊急避難措置であり、重大な損害を防止・除去するに必要な期間に限って認められるべきである。措置の長期化を避けるべく、セーフガード協定第7条4項のようなセーフガード措置の見直しに関する規定を盛り込み、経済、社会状況の変化を反映し、措置の早期撤回ないし緩和を図る余地を残す必要がある。
自由化交渉では、日本の産業界は、各国の約束表の改善を通じて、(1)外資出資比率の制限、(2)役員・従業員の国籍・居住要件の撤廃、(3)内外差別的な国内規制・業務規制の撤廃等の実現を期待している。
現在、様々な交渉方式が議論されているが、各交渉方式には、一長一短がある。今後の交渉は、リクエスト・オファー方式を基本としつつ、各セクターの特性に照らして、補完的にモデル・スケジュール、クラスター等の適用の可否を個別、具体的に検討していく必要があろう。
基本的考え
97年金融サービス合意は、各国金融政策の安定性と投資家の予見可能性を高め、金融市場の安定的発展に大きく寄与するものである。自由化の進展は進出企業・現地企業の双方にメリットをもたらすものであり、各国が97年金融サービス合意における約束表を着実に履行することが重要である。
国内規制
MFN免除
個々の最恵国待遇免除の事例に関し、第2条の免除に関する付属書の規定に沿って適切に削減・撤廃交渉が行われることを期待する。
祖父条項
祖父条項については、公平な競争条件の確保の観点から、一件ずつ内容の精査が必要である。祖父条項で認められた権利はMFNベースで加盟国全体が享受できることが望ましい。
信用秩序維持
GATS金融サービスに関する附属書第2パラグラフに基く信用秩序維持のための措置については、WTO交渉よりも必要な専門性を備えている監督官が直接参加する国際機関の場で調和を図っていく方が、より効果的と考える。
基本的考え
海運サービスは極めて重要な分野であるにもかかわらず、ウルグアイラウンド交渉及びその後の交渉で各国間の合意が得られず、未だGATSの規律が及んでいない。サービス貿易自由化交渉の開始に伴い、海運継続交渉の再開を要望する。
交渉分野
競争的な海運サービスが国際貿易の発展に資するという認識の下、特に現地法人の設立とその業務範囲に関する制限や自国海運産業保護政策を撤廃すると共に、国際海上運送サービス(外航海運)の自由化に向けた議論を推進する必要がある。併せて、海上運送の補助的サービス(代理店、フレート・フォーワーダー等)、港湾サービス(水先案内、タグボート、給水、給油等)についても積極的に自由化を進めるべきである。
「ソフト・ライト」3分野
GATSルールの枠内にある(1)価格設定を除く販売活動、(2)コンピュータ予約サービス(CRS)、(3)航空機整備のいわゆる「ソフト・ライト」の3分野について、一部しか自由化を約束していない国が多い。現在行われている、航空運送サービス附属書のレビューを基に、各国に「ソフト・ライト」3分野の自由化を促すべきである。
GATSの対象拡大
グランド・ハンドリング、空港マネージメント等、現在はGATSの対象でないサービスの自由化についてもケース・バイ・ケースで検討する意義がある。
「ハード・ライト」を伴う問題
運輸権(ハードライト)に直接関係するサービスの自由化については、各国がそれぞれの事情を踏まえつつ、二国間協定で進めていくべきである。
基本的考え
エネルギー分野の自由化交渉は、公益的課題(セキュリティの確保、環境との両立、ユニバーサル・サービスの提供、供給信頼度の確保)と効率化との両立を図りながら進めることが不可欠である。
分類問題について
エネルギー・サービス交渉では、まず交渉の対象項目を明確にした上で分類について検討する必要がある。
電気通信
新規事業会社による円滑な参入を確保するため、基本電気通信交渉における各国の約束の実施状況をレビューするとともに、約束表提出国の実質的拡大及び内容の拡充を図る必要がある。特に、外資出資比率制限の撤廃・緩和、免許付与条件及び手続きの透明化・明確化が重要である。
建設
建設サービスの提供形態は拠点設置によるものが多く、(1)外資出資比率制限、(2)事業形態の制限、(3)内外差別的な国内規制・業務規制、(4)公共事業における地元企業優先や資格制限等の改善が求められる。
流通
輸入業・小売業・アフターセールスサービス業への外資参入制限、一部先進国における商業調整的な出店規制及び商業関連施設に関する用途規制等についても緩和が求められる。