[経団連] [意見書]

「企業年金法(仮称)の概要(素案)」に関する要望

2000年11月1日
(社)経済団体連合会

 経団連は、かねてより、企業年金を私的年金として明確に位置付け、労使合意のもとで自由な制度設計と運用とを可能にするため、必要最低限の共通のルールを整備するとともに、自助努力を促進する上で税制上の支援措置を講じることを要望してきた。その意味で、企業年金法の骨格が示されたことは評価できる。
 具体的な法案策定にあたっては、以下の点に配慮いただきたい。
 なお、制度の詳細が明らかになっていない現時点では、具体的にどのような影響が生じるか判断できない事項も数多く残されている。今後、政省令レベルも含めた制度の原案を早期に公表し、パブリック・コメントの実施などと併せて、具体的な内容について意見交換を行なう機会を与えていただきたい。

(制度の枠組みについて)

  1. 自己責任原則のもと、労使合意を最大限尊重し、多様な制度設計・運用を認める
  2. 税制上の支援が不可欠であり、受給時課税の原則を徹底する
  3. 制度運用に要するコストを可能な限り抑制する

(具体的要望事項)

  1. 厚生年金基金の代行部分返上に関する具体的ルールの明確化
    返還金額は解散時と同様、最低責任準備金とする。返還方法については、市場への影響を回避するために、企業年金契約の分割、あるいは現物による返還を認めていただきたい。

  2. 適格退職年金の取扱い
    適格退職年金の強制移行については、十分な経過期間と必要な経過措置を設けていただきたい。例えば、既実施の制度内容を認めること等とともに、財政再計算等について、一定の期間簡易な基準を適用すること等が考えられる。

  3. 行政の関与の透明性、手続負担の緩和

    1. 年金規約に関する主務大臣の承認、基金の設立認可の基準を明確化し、基準を満たせば承認・認可が得られるようにしていただきたい。また、現行適格退職年金制度で行なわれている自主審査方式を活用されたい。
    2. 主務大臣への報告については、受託機関による代理を認める等、簡素化を図られたい。

  4. 制度設計・運用に関わる事項

    1. 支給事由、支給開始年齢の弾力化
      従業員のライフスタイルの多様化に対応するため、60歳以下の年齢で退職した従業員に対しても、退職を支給事由として支給開始を前倒しできる仕組みを設けることができるようにしていただきたい。
    2. 受給資格期間の内容の明確化
      受給資格の内容については、「合理的な基礎に基づいて算定される年金給付を受けることができる資格」と考えることとする。現行適格退職年金からの円滑な移行に配慮し、受給資格期間については、労使合意に委ねていただきたい。
    3. 給付の基準
      年金給付及び一時金の額の算定方法については、給与比例制度、定額制度、ポイント制度によるほか、一定の指標利率に応じて給付金額が決定する制度など、労使合意に基づく自由な設計を可能としていただきたい。
    4. 掛金
      予定利率、給付利率や掛金の計算方法などは、労使合意に基づき自由に行なえるようにしていただきたい。また、年金財政の健全化を促す観点から、「特例掛金」を認め、損金算入可能とされたい。併せて、一定の範囲内での超過積立(損金算入)と、米国にある「コントリビューションホリデー」を認めていただきたい。
      既に従業員拠出が行なわれている企業年金制度から新たな企業年金制度に移行する場合には、本人の同意を簡易な方法で取得できるようにしていただきたい(通知後一定期間内に異議が無ければ本人が同意したとみなす等)。
    5. 加入者資格、給付の基準の弾力化
      雇用形態の多様化が進む中で、加入者資格、給付の基準に関して、事業所ごと、あるいは職種ごとに異なる制度設計を行なうことが可能となるよう弾力的な取扱いを認めていただきたい。不当な差別的取扱いに当たる事例を限定列挙する等、労使の選択の幅を必要以上に狭めることのないよう配慮されたい。

  5. 資産運用
    米国の「マスタートラスト」の仕組みを導入可能とし、基金または事業主がマスタートラスティと直接契約を締結できるようにしていただきたい。

  6. 制度の終了
    一定の手続に基づく労使合意があり、予め定められた要件を満たしていれば、主務大臣の承認が得られるようにしていただきたい。

  7. 受給権保護

    1. 財政検証
      財政検証の具体的な手法について明示していただきたい。特に強制移行となる適格退職年金については、その財政負担が過大となれば、年金制度そのものを廃止してしまうおそれがある。
      積立基準については、過大な義務を課さないものとし、かつ簡便で判り易く、納得性のあるものとしていただきたい。
    2. 財政再計算
      財政再計算については、適格退職年金の実態に鑑み、コンピュータ等による機械的な計算と確認を大幅に採り入れ、問題がありそうなケースについては年金数理の専門家による対策検討を行なうこととしていただきたい。
    3. 積立不足の解消等
      年金財政の健全化を図る観点から、単年度償却を含め、柔軟な償却方法を認めていただきたい。
    4. 受託者責任
      資産運用機関の受託者責任のあり方について明らかにしていただきたい。
    5. 情報開示
      事業主から従業員への情報開示については、電子媒体の活用等、簡易な情報提供方法を認めていただきたい。

  8. 制度間の移行
    制度間の移行に当たっては、現行の適年から基金への移行の場合と同様、既受給者の年金資産や、積立不足を含めて移換できるよう、具体的なルールを示していただきたい。

  9. 特別法人税の撤廃
    受給時課税の原則を徹底する観点から、公的年金等控除の見直しと特別法人税の廃止を併せて行なっていただきたい。

  10. 支払保証制度は不要
    受給権保護については、継続基準・非継続基準に基づく財政検証の実施等によって担保すべきであり、モラルハザードを惹起する支払保証制度については、絶対反対である。

  11. ポータビリティの確保
    雇用の流動化に対応して、離職した従業員が年金資産を転職先の企業年金、または確定拠出年金に移換できるよう、ポータビリティ確保のための仕組みを整備していただきたい。

以 上

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