[経団連] [意見書] [ 目次 ]
「e-Japan戦略」実現に向けた提言
―別添資料―

I. 事前規制の抜本的見直し(2001年度早期に実現すべきもの)


  1. 一種・二種事業区分の廃止、卸電気通信役務(キャリアズ・キャリア)制度の導入方針の撤回
  2. 規制の現状

    電気通信事業は、電気通信回線設備を設置して電気通信役務を提供する第一種電気通信事業と、それ以外の第二種電気通信事業とに区分され、回線調達方法が制約されている。
    IRU(indefeasible right of user:破棄しえない使用権)による回線調達の場合、光ファイバーなどの「10年以上の芯線貸し」の形態は設備設置、「10年未満の芯線貸し」、「帯域貸し」は電気通信役務と解釈され、第一種電気通信事業者には電気通信事業者以外からの「10年未満の芯線貸し」、「帯域貸し」は認められていない。第二種電気通信事業者(第一種電気通信事業者以外の事業者)は、電気通信事業者から役務提供を受ける事業者という運用がなされているため、「芯線貸し」、ならびに電気通信事業者以外からの「芯線貸し」、「帯域貸し」を利用できない。
    また、総務省は、自治体や電力会社等が自ら所有する光ファイバーを「10年未満の芯線貸し」「帯域貸し」の形態で、専ら電気通信事業者へ提供する電気通信役務を「卸電気通信役務」として位置付け、電力会社等が第一種電気通信事業者の許可を得れば、卸電気通信役務を提供できる制度を導入する予定である。

    要望理由
    1. 事業者は、一種・二種事業に区分され、回線調達方法が制約されているため、効率的なネットワーク構築が困難となっている。回線設備の設置、再販売、アンバンドル、「芯線貸し」、「帯域貸し」など、サービス提供のための手段をどのように組み合わせるかは、事業者の経営戦略に係わるものであり、経営判断に委ねるべきである。利用者からみても、一種事業者と二種事業者のサービス内容や事業特性に大差はなく、一種事業者にも二種事業者同様、自由かつ機動的に多彩なサービス展開することが期待されており、設備設置に着目して事業者を区分して回線調達方法を制約する必要性は見当たらない。

    2. 光ファイバーの利用形態が多様化していく中で、「芯線貸し」と「帯域貸し」、「10年以上の芯線貸し」と「10年未満の芯線貸し」とを区分するのは時代にそぐわない。また、設備を貸すだけの芯線貸しについて、貸し出し期間の長短により、設備設置と電気通信役務とに区分する合理的な理由はない。米国では、キャリアズ・キャリアは存在するが、対価をとって直接一般国民に通信サービスを提供する事業者を電気通信事業者とし、線路、芯線、帯域を電気通信事業者に提供する者は通信法の対象外となっている。

    3. 一種・二種事業区分により生じた問題を解決するため、現行制度の見直しではなく、新たに卸電気通信役務を導入し、一般利用者でなく専ら電気通信事業者へ芯線や帯域を提供する電力会社等を一種事業者として規制対象とするのは、望ましい制度改革とは言いがたく、国民から見てもわかりにくい。事業者が自由に創意工夫を凝らしたサービスを展開でき、利用者による多様なサービス選択が可能となるよう、一種・二種事業区分を撤廃するとともに、法運用を見直し、事業者の回線調達方法を自由化すべきである。事業者の回線調達方法に自由化すれば、卸電気通信役務の導入は不要である。

  3. 一種事業者の設備変更許可、業務区域変更許可、役務区分・役務種類変更許可の廃止
  4. 規制の現状

    現行の電気通信事業法においては、第一種電気通信事業者は、事業許可を受けなければならず、その際、役務種類、業務区域、電気通信設備の概要等を記載した申請書や事業計画書、事業開始から5年内の事業収支見積書等を提出し、経理的基礎・技術的要件の有無、事業計画の合理性などがチェックされる。また、事業参入後、新サービス提供等のため、設備、業務区域、役務種類を変更する場合には、軽微な場合を除き変更許可が必要であり、許可申請には事業開始から5年内の事業収支見積書等を提出しなければならない。

    要望理由
    1. 新サービスの提供にあたっては、設備工事や広告の事前準備等が必要となるが、設備変更許可や5年間の収支見積書等の提出が義務付けられると、許可の取得時期が予測しにくいことから、ユーザーニーズに基づく迅速なサービス提供の足かせとなり、利用者ニーズへの機動的な対応ができない。

    2. 電話網とIP網の統合化をはじめ、ネットワークの高度化の進展に伴い、音声もデータの1つとして伝送することが可能となるなど、電気通信役務について音声、データ、専用とに区分する意味は薄れている。

    3. 事業者は、音声とデータの境界領域にあるような新しいサービスを考案したとしても、新しいサービスをいずれの役務として位置付けるかが決定されるまで、新サービスの提供ができない。しかも、新しいサービスの役務区分を決定するのに膨大な時間を要する場合があり、事業者の利用者ニーズに即応したサービス提供を困難としている。

    4. そもそも、情報通信は技術革新や市場の変化が激しく、1年先の状況すら誰も見通すことができない。厳しい市場競争が展開される中で、事業を行なったことがない行政が、事業を適確に遂行するに足る経理的基礎、技術的能力の有無などを審査するのは無理がある。

    5. 上記事前許可、ならびに役務区分が廃止されれば、音声、データを組み合わせたサービスの迅速な提供、マーケットニーズに即応した柔軟かつ機動的なサービス提供が可能となり、利用者利益が向上する。事業者、行政の双方にとって、事務負担の軽減にもつながる。

  5. 特定無線設備・端末機器の技術基準適合に関する自己宣言方式の導入
  6. 規制の現状

    電波法に定める特定無線設備については、一般的に、簡易な免許手続きを受けるためには、技術基準に適合していることの証明を受けることが義務付けられている。また、電気通信事業法に定める端末機器に対しても、技術基準に適合していることの認定を受けることが義務付けられている。
    証明・認定を受けるにあたっては、それぞれ(財)テレコムエンジニアリングセンター、(財)電気通信端末機器審査協会において審査が行なわれている。テレコムエンジニアリングセンターの場合、審査はカレンダー・デーで、一ヶ月以上を要する事例も多々見られる。

    要望理由
    1. 企業が急激な技術革新と市場ニーズの変化などに迅速に対応できるよう、自己適合宣言方式を導入し、技術基準の適合についても事前規制から事後チェック型に転換する必要がある。技術基準が明確であれば、技術基準への適合を民間企業自身が判断することは可能である。仮に、技術基準に適合しない機器が市場に投入された場合、製造者・供給者は市場でマイナス評価を受け、ビジネス展開が困難になる。このため、国指定の機関による基準認証制度でなくとも、技術基準への適合は、事後チェックで十分確保できる。

    2. IMT-2000などは、今後需要の増大が予想されている。企業には、国際競争力確保の観点からも、より早く良質な機器をより低コストで提供することが期待されている。新分野の円滑な発展を図る観点から、技術基準の証明や認定の手続に要する時間・費用等の制約をなくす必要がある。

    3. 平成11年3月には、(1)同一設計の機種ごとに認証する制度、ならびに(2)認定された民間事業者が測定したデータを活用する制度が導入された。しかし、これらは実質的に制度の簡素合理化に貢献していない((1)は、実態的に従来行われていたものを制度的に担保したもの。(2)の認定を受けるためには、新たに設置された認定点検事業者等制度ならびに認定試験事業者等制度に則って、指定資格のある要員の確保および測定器の較正義務等が課せられ、コストが嵩むことから、(2)の活用は極めて限られたものに止まっている)。

    4. 米国、EUでは、技術基準に示された試験項目に基づき、製造者・供給者が、自らまたは第三者試験機関によるテストを行い、そのデータをもとに自身で適合を宣言することが既に可能になっている。国際競争力確保の観点からも、わが国において自己適合宣言方式を導入することは急務である。

  7. NTTの経営に行政が直接介入するNTT法規制の廃止
  8. 規制の現状

    取締役・監査役認可制、事業計画認可制度、定款変更認可制、新株・転換社債等発行認可制、政府株式保有義務、外資規制等、国が事業・経営に直接介入する規制が課されている。

    要望理由

    NTTについても、純粋の民間事業体として公正な競争ルールの下で、自己責任原則に則った経営を可能とし、株式交換方式等によるM&Aなどにより、グローバルな競争に対応できるようにする必要がある。国が事業・経営に直接介入する規制は、経営の自己責任原則を歪め、事業者の柔軟で機動的な事業展開の妨げとなることから、取締役・監査役認可制、事業計画認可制度、定款変更認可制、新株・転換社債等発行認可制等は早急に撤廃するとともに、政府保有のNTT株式の完全放出を急ぐべきである。

  9. 一種事業者の契約約款認可制、指定電気通信役務を除く料金届出制の廃止
  10. 規制の現状

    第一種・特別第二種電気通信事業者は、指定電気通信役務を除き、電気通信役務に関する料金を定め、総務大臣に届出なければならず、料金を変更する場合も同様の届出が必要である。
    また、第一種電気通信事業者は、電気通信役務に関する提供条件について、総務大臣が定めて公示した標準契約約款と同一の契約約款を定めようとして届け出る場合を除き、契約約款を定め、総務大臣の認可を受けなければならない。変更する場合も同様に認可が必要である。

    要望理由
    1. 料金は市場を通じて決定されるものである。競争が進展し、代替性のあるサービスについて、ユーザーは不利な料金を設定している事業者からは離れるものであり、指定電気通信役務を除いて、届出制としておく意味合いはない。

    2. 新しいサービス提供に際し、約款の認可が必要とされるのでは、利用者ニーズに対応して機動的なサービス提供ができない。諸外国でも、約款認可制はほとんど例がない。完全非規制となれば、新たなサービスを考案した段階で提供することが可能となり、利用者利益の向上につながる。

    3. 重要なことは、利用者利益を確保することである。行政からの許認可を受けたとしても、利用者と事業者との間で、十分な利用者保護が図られるとは言いがたい。利用者がサービス内容や料金変更などの情報に常にアクセス・閲覧できるようにするとともに、利用者に不利益が生じた場合の迅速な苦情処理、業務改善命令など、事後チェックの仕組みを設ければ、契約約款の認可は不要である。

  11. 外国政府との協定締結等の認可制の廃止
  12. 規制の現状

    第一種電気通信事業者及び特別第二種電気通信事業者は、外国政府又は外国法人などとの間に、電話等の役務の提供に関して当事者が取得する金額など、電気通信業務に関する協定又は契約等を締結、変更、廃止する場合、認可が必要である。

    要望理由
    1. 例えば、国内移動体通信事業者と海外との移動体通信事業者と間でローミング契約を結ぶ場合でも、予め認可を受けていなければ、合意に達したとしても契約書に調印できないという不都合が生じている。

    2. グローバルな競争が激化する電気通信分野において、海外企業などと契約締結に事前認可が必要なままでは、主体的な提携・M&Aや利用者のニーズへの迅速かつ柔軟な対応など、事業展開に支障が出る。その結果、わが国事業者の国際競争力の低下へとつながりかねない。

  13. 指定電気通信設備以外の接続に関する協定認可の廃止
  14. 規制の現状

    指定電気通信設備を設置しない第一種電気通信事業者、特別第二種電気通信事業者は、指定電気通信設備を設置する事業者と接続協定を締結する、あるいは認可接続約款により接続協定を締結する場合を除き、他事業者と接続協定を締結する際、総務大臣の認可が必要である。また、変更する際も、同様の認可が必要である。

    要望理由
    1. 指定電気通信設備以外の接続に関する協定は、接続に関わるすべての事業者間でメッシュ状に協定を締結し、認可を受けなければならず、軽微な変更に際しても、認可が必要である。そのため、事業者、行政の事務負担は大きく、利用者ニーズに即応してサービスを円滑に提供することが妨げられている。

    2. 接続協定は、権利義務関係の必要性や、事業者間の責任の明確化などの観点から認可制がとられている。しかしながら、指定電気通信設備以外の電気通信設備は代替性がある。また、事業者間での紛争や問題が発生した場合は、行政が透明な手続きの下で裁定などを行なえばよい。したがって、接続協定の締結は、専門家同士の交渉に委ね、相対での契約を可能としても問題はなく、認可も届出も不要である。

    3. 指定電気通信設備以外の接続に関する協定認可が廃止されれば、市場原理に基づいた技術的、経済的に可能なあらゆる形態での接続が可能となり、事業者間の競争が促進される。

以  上

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