[経団連] [意見書]

当面の税制をめぐる課題についての提言

2001年7月11日
(社)経済団体連合会

はじめに−今回の提言の位置付け
(1) 経団連は、小泉内閣の掲げる「聖域なき構造改革」路線を支援し、経済財政諮問会議の「基本方針」に従って、国・地方を通じた財政構造改革、社会保障制度改革および税制改革を一体的に推進することを求める。
(2) 経済構造の改革は、直ちに着手されなければならない。そのために必要な税制措置については、年次改正作業を待つことなく早急に具体策を検討し、実行に移すべきである。
(3)
当面、参議院選挙後に行われる政策論議、とりわけ、
  1. 8月末に召集が予定されている臨時国会における証券税制等の審議、
  2. 平成14年度からの導入に向けて、目下、政府税制調査会で検討が進められている連結納税制度、および、
  3. 地方分権改革推進会議において検討が開始される地方税制の改革、
の3点に焦点を当て、以下の通り、現下の経済界の考え方を明らかにする。
I.「聖域なき構造改革」と税制改正

(1) 経済財政諮問会議「基本方針」への評価

 経済財政諮問会議「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」は、国民が強く求めている構造改革の青写真を明らかにしたものであり、高く評価している。
 聖域を設けない構造改革は当然に痛みを伴うものであり、2〜3年の低成長は避けがたいとしても、経済界はこれを覚悟し、中長期的視点に立って改革に協力する。
 ただし、この「基本方針」は、未だ定性的な方策にとどまっており、中長期にわたる構造改革を着実に実現していくには、定量的な見通しとこれに基づいた具体的な施策、スケジュールが必要となる。経済財政諮問会議がさらに検討を深め、速やかに経済財政の中期的計画を策定することを期待する。

(2) 租税特別措置

 租税特別措置(政策税制)については、政策目的・効果を不断に検証しつつ、必要な整理を進めていくべきである。

(3) 道路特定財源

 道路特定財源に限らず、ある税目から得られる税収を特定の事業・公的サービスに要する費用に充てることは、その事業・公的サービスの受益と負担の間に密接な対応関係が認められる場合には、一定の合理性をもつものであるとしても、それが資源の適正な配分を歪め、財政の硬直化を招く傾向があることも事実であり、特定財源の妥当性については常に吟味していく必要がある。
 ただし、特定財源制度は受益と負担の関係から成り立っていることに鑑み、使途の見直しと併せて負担水準の見直しが検討されるべきである。特に、特定財源税目とされている自動車関係諸税は複雑、かつ諸外国に比べて過重な負担となっており、公平、中立、簡素という税の基本理念を踏まえて見直す必要がある。

II.連結納税制度の確実な導入

(1) 連結納税制度導入の必要性

 純粋持株会社の解禁をはじめとする一連の経済法制の整備、連結主体の企業会計制度の定着、平成13年度税制改正における企業組織再編成税制の抜本改革などにより、わが国においても、企業グループを一体とした経営が大いに進んでいる。
 わが国企業の活力、競争力を維持し、経済全体の活性化、経済構造の改革を進めていくためにも、連結納税制度を平成14年度において確実に導入することが不可欠である。

(2) 日本型連結納税制度の具体的提案

 企業グループの経済的一体性と、単体法人を前提とした現行制度の間で調和のとれた簡明な連結納税制度を構築すべきであり、経団連として、別紙の通り具体的提案を明らかにする。

<別紙 「連結納税制度導入に係る主要論点に対する意見」

III.証券市場活性化に向けた税制改正

(1) 個人所得課税改革と当面の証券税制改正

 個人所得課税は、本来、すべての所得を一体として捉える総合課税として構築すべきであり、そのためには、納税者番号制度の導入による所得捕捉、各種控除等の整理をはじめとする課税最低限の見直し、累進税率構造の緩和等の改革を進めるべきである。
 一方、当面は、経済構造改革の円滑な推進のためにも、間接金融に偏した税制を直接金融重視の税制に改めていく必要がある。資本市場の健全な育成を図り、個人投資家を株式市場に誘導するためには、先の少額譲渡益控除制度の創設に止まらず、税制面からも年次税制改正を待つことなく思い切った措置を講じるべきである。

(2) 有価証券譲渡益課税

 個人の有価証券譲渡益課税については、平成15年3月末まで申告分離課税と源泉分離課税が並存するが、現下の株式市場を取り巻く環境に鑑みれば、申告分離課税に焦点を絞り、その見直しを先行して実施すべきである。具体的には、申告分離課税の税率を引き下げるとともに、譲渡損失について一定期間の繰越しを容認すべきである。

(3) 配当課税

 個人が受取る配当については、利子と同様に全て20%の源泉分離課税選択を認めるとともに、二重課税の排除のあり方について検討を進める。

(4) 土地の流動化促進と税制

 土地の流動化を促進するために不動産の証券化等に係わる税制について、株式への課税と同様な措置を講ずべきである。

IV.地方法人課税の改革

(1) 地方行財政改革と地方税改革

 「自立した国・地方関係の確立」のためには、地方自治体の自主的な行財政改革を促していかなければならず、そのためには、まず、地方自治体の徹底した歳出削減が必要である。具体的には、国と地方との事務区分に対応した経費負担の区分を確立し、ディスクロージャーの徹底を図り、自治体を大括り化して適正規模に再編、効率化を進めることが不可欠である。
 当面、平成14年度地方財政計画策定において、地方交付税に係る基準財政需要の徹底的な見直し、段階補正の縮減等により歳出の削減を図り、地方交付税を縮減すべきである。
 さらに、将来的には、地方交付税・補助金など国から地方への財政移転を縮小・廃止しつつ、国から地方への税源移譲も含め地方財源の充実を進め、財源調整を必要最小限にとどめることで地方財政の自立を図り、地方行政サービスにおける受益と負担の対応関係を明確化していく必要がある。

(2) 地方税の抜本改革

 高齢化社会に対応していくためには、地方税においても、法人・個人の所得に対する直接的な課税によることは限界があり、税源の偏在性も小さく、広く薄く負担を求める地方消費税を、将来の地方税の基幹税目としていくべきである。
 地方法人課税については、地方行政サービスの受益に応じた適正な負担が必要であるとしても、既に法人企業は、法人住民税均等割、固定資産税、都市計画税、事業所税等の所得によらない外形的な地方課税を負担しており、これらに加えて税収確保を最優先として新たに外形標準課税を導入することは、地方税体系を一層複雑なものとするものである。
 とりわけ、自治省(現総務省)から示された法人事業税の外形標準課税案は実質的な賃金課税として企業の雇用・投資活動に悪影響を及ぼし、経済の活性化を阻害するものとして容認できない。

以 上

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